第二章 銀髪の女軍人
「はぁッ………!」
オレは持てる力で女に向かって切りかかる。が、女はナイフを瞬時に取り出し、オレの剣を受け止める。
「゛あの姿゛ならともかく今の状態で私と殺り合うなんて無謀だと思うけれど?」
「うる、さいッ…………!」
別に倒して逃げるなんて無理だと思ってる。こいつの言ってる通りこの姿で戦っとこなんて無いのだし。それに武器だってさっき初めて使ったばかりだし。ローレンスの上司とやらがここに来るまでの時間稼ぎだ。船が来たらすぐに乗り込めばいい。それまで耐えてみせる。
「オレは………そんな簡単に捕まるつもりは無いッ!」
一度距離をとったあと、地面を踏み込み上空から斬りかかる。
「ふぅん………?」
「……………ッ…!?」
女は不敵な笑みを浮かべたあと、術を発動させた、避ける余裕はなかった。術は発動した。体が動かない。束縛の術か……?
「お前ッ…何を………」
ローレンスは他の魔族と相手するのに手一杯でこちらに手が回らないようだ。自分でどうにかしないと。
「こんなものっ…………」
自力でどうにか抜け出そうとするがびくともしない。監禁されていた時の術よりは束縛が弱いようだが。
「こんな場所で……騒ぎ起こして大丈夫なのか?こんな大きな街だ。すぐに……」
冷や汗を浮かばせながら無理やり笑みを作ってみせる。余裕がないところを悟られないように。
「先ほど街全体に術をかけたわ。時間停止のね……だから心配しないでも大丈夫………このまま暴れられても困るし、貴方にも?術を………」
「ウィンル…………クソっ……」
ローレンスはオレの方を気にしながら他の魔族たちに発砲している。まだ手が空きそうな様子ではない。女はオレの顔近くまでに手を近寄らせ、手を開く。手が小さく発光している。まさか…………洗脳、か………?まずい、束縛ぐらいならまだしも洗脳はオレの意志なんか無視して…それだけは阻止しないと。
「やめっ……」
゛洗脳゛の恐怖で目の焦点が定まらない。
「フフ、怖いの?体、震えてるわよ?フフ………」
「ッ…………」
体さえ動けば………………その時どこからか声が聞こえた。
「あーもう、街の中で暴れないでくれるー?後始末大変なんだけどー?」
船だ。船がこちらに向かってくる。そこから声が聞こえる。機械かなんかでこちらに声を聞かせてるのだろう。そして船は港へとつく。そしてそこからロングヘアーで髪をポニーテールにくくった銀髪の女が出てきた。
「もー、ローレンスぅ?ちゃんとその子を護衛しなさいって言ったはずよ!?………ヒック」
「そう言われても連戦なんですよって………少佐また飲んでません?」
少佐と呼ばれた女は違う!飲んでないわよ!?とか言いながら手から何か手に取り、それを黒き亡霊の奴らに投げつける。
「ローレンス!その子連れて、船に急いで」
「わかってますよ」
地面に落ちた瞬間視界が光に包まれる。一体何が起こったかわからなかった。体が動かないオレをローレンスはひょいと抱きかかえ、船へと走る。
「くっ………閃光弾、かしら………見えない………」
そのまま一気に船に入り込み。船は港から離れた。
「…………………ふぅ」
と溜息をついてローレンスはオレを地面に下ろした。さっきの術は解けたようで、ちゃんと体は動く。術者からかなり離れたからだろう。
「早速襲われてるとは思わなかったわ……ま、無事で何よりねー?」
「遅すぎます…もっと早く来てくださいよ」
ケラケラと笑いながら言う女にローレンスはツッコむ。その後女はあ、そうだとオレの方を見る。
「自己紹介まだだったわね。私はフリメルズ軍所属、ミフェリア・フォン・アースクよ。貴方は?」
「……………ウィンル」
また聞いてもないのに勝手に自己紹介してきた。仕方なく自分も名前を言うと、ま、宜しくねとか言いながら肩をバシバシ叩いてくる。…………馴れ馴れしいな。
「とりあえず…軍本部に向かいたいけど、さっきの連中。もしかしたら別の黒き亡霊にさっきのこと伝えていて港を見張ってるかもだわ。どこか港じゃない場所に船をおいて陸を歩いて行ったほうが安全そうね」
黒き亡霊のことだ。それはありえる。オレのことを執拗に追ってるしそれぐらいはしそうだ。
「…………………陸から行ってもあいつらのことだ。すぐにオレの居場所わかると思うけど」
小さな声でそうつぶやいてみせる。あいつらはオレの事を知り尽くしている。だからそんな簡単にその軍本部とやらに行けるとは到底思えない。
「ウィンル、話変わるけど………腕はどう?」
「………え?……あ、ああ。もう大丈夫だ。もう、動かせる」
オレは治りだけは早いんだ。治りだけは。もうちゃんと動かせるし、やっと利き手治ったんだ。これでやっと武器の使い方教えてもらえる。
「早いな。治り………よし、利き手治ったみたいだし明日の朝、ちゃんと武器の使いかた教えるよ」
「あ…………うん」
と小さく返事をすると嬉しそうにローレンスはニコニコしている。なんか………………企んでないか?いや、そんなことよりも……
「あのさ………寝る場所ってあるか?」
「ん?あるよ。眠たいの?」
ローレンスはオレに問う。頷くとわかったと言って場所を移動した。
船の小部屋に連れて行かれた。そこには小さなベットがあった。「まぁ、船だし寝心地は良くないだろうけど無いよりはマシじゃない?」
「………………寝ていいか?」
そう聞いてみると今日はゆっくり休んでいいよって言われた。ローレンスはそう言ってそのまま小部屋から出て行った。オレはベットに座って、ゆっくりと横になる。今日もいろいろあって疲れた。これならすぐに眠れる気がする、いつもは発作だとかそんなんで眠れないけど今日はそんなのもない。まぁ、昨日も寝れたのだけれど。そう思いながらオレは目を閉じる。そのままゆっくりと眠りに落ちた。