プロローグ 動き始めた歯車は
ここは゛アステリア゛3つの種族が集う創世の女神が作りし世界。その女神によって人間、魔物が創りだされた。そして魔族は破壊の女神に創りだされた。人、魔物と魔族は争い続けた。最初は小さな争いだったがどんどんと大きくなっていった。
人は魔物、精霊と契約する力を得て、魔物魔族は何もない場所から火や雷と言ったものを引き起こす元となるマナというものを得た。そして、争いは現在までに続くものとなったーーーー
あれからどんぐらい時間が経ったのだろう。体全体は術で作られた紐で強く拘束されて身動きができない。
「ッ………………」
寝ることもままならない。研究員が定期的にオレに薬を打ちにこの部屋に入ってくる。
コツコツと靴の音が響く。そしてガチャと扉が開く音がした。
「………気分はどうかな?」
「……………」
研究員………黒い髪でポニーテールしている男だ。オレはふいっとそっぽを向こうとしたら顎くいをし無理やりこちらに向かせる。そして耳元で小さく囁く。
「まさか、まだ逃げられると思ってる?………もし、また逃げ出したらどうなるか分かってるだろう………?」
そう言いながらオレの足を靴で踏みつけグリグリと押し潰す。
「ぐ、あぁあぁあぁあぁ……ッ…!?」
「もし逃げたら………こんなんじゃ済まないよ……わかってるね?」
更に強くグリグリと足を踏みつけながら顎から手を離し、両手でオレの右腕を無理な方へと引っ張る。
「や、やめッ…う、あぁ…!?」
オレの顔を見てふっと微笑んだあと右腕を更に引っ張り折る。すると何かが砕ける音と右腕から耐え難い痛みが走る。
「あ、が、あぁあぁ……ッ…!?」
「もう逃げれないように利き腕折らないとね♪さて、次は薬打たないと…」
そう言い、ポケットに手を突っ込み、注射器を取り出す。それをオレの左手に打った。
「はあッ…………はあッ……あ……」
「幻覚剤。徹底的にしないと。これでもう逃げるなんてことはしないだろう?」
ニッコリと微笑んだあと立ち去った。
「あ、ああ……う、あ………」
幻覚剤が効いてきて、幻覚を見せられる。見たくない光景を何度も何度も。なんでオレばかりこんなことを……何故こんな目に合うことは知っている。だけど…こんなんじゃ逃げれない。一度は逃げようとしたけれど見つかりこのざまだ。体は拘束され、腕は折られ、幻覚剤を打たれる。「う、はぁッ…そん、なに…アイツを………復活させ………あぁあぁッ!!」
ある人物を復活させる為にあいつらはオレを監禁している。それはわかってる。あいつらにとってオレは単なる生贄なんだ。
幻覚剤の効果は一日中続き寝付くことはできなかった。そして次の日声をかけられ目を覚ます。
「おい、起きろよ。おいってば聞いてんのかよ?」
「う…………」
目を細くしてみてみると、黒髪をひとつ結びしている男だった。見た感じ軍人服を着ていた。
「ふーん、術か……」
そう言って男は束縛の術に手を添える。するとバチバチと音がして、束縛術が解けた。
「…………………」
「薬、まだ効いてんの?」
オレはペタンと地面に座り込む。意識が朦朧とはあはあと息切れしているのを見て薬が聴いてるのだと思い込んでるようだ。まぁ、まだ効いてるみたいだけれど。
「…………そんなに怯えなくてもいいのに」
「……別、に………怯えてなんか、ない……」
うまく呂律が回らない。オレのその様子をマジマジと見つめる。
「やっぱりまだ効いてるんじゃないか。薬」
「うるさいッ………お前、には……関係ない……だろ……」
呂律が回らず途切れ途切れに男を睨みつけながら言う。こいつもどうせあいつらの仲間に決まってる…母さんを殺したあいつらの…………。
「……………」
「………ッ…!?」
男は何も言わずヒョイッとオレの体を持ち上げ抱きかかえる。
「やめッ………降ろせ……よ……」
瞳に涙を浮かべながら言う。誰かに体を触られるだけでも恐怖感が襲う。
「安心して。僕はあんたを助けに来ただけだから……何もしない」
「………」
助けに来たってどうゆうことだ?意味がわからない。朦朧としてる中いろいろ考えてみるが思いつかない。
「わかってると思うけど、あんたの体内にあるマナは特別なんだ。だから゛黒き亡霊゛の奴らはあんたを自分の元においている」
「………あれを復活させる為に…………だろ…?」
男の言葉に小さな声でそれに答える。それに男は頷く。
「とにかく今は、ここから抜け出す。いいか?」
分かったとオレが言うと笑顔で良い返事だと言ってオレを抱きかかえたまま部屋を後にして走る。男は片手でオレを抱いて、右手に小型の銃を持っている。
「研究員共が来たら僕が撃ち殺すからあんたは心配しなくてもいい。あんたは僕が守る」
「………」
何と言うか、守るなんて初めて言われたから少しだけ照れ臭い。
「ん?顔赤いけどどーした?」
「べ、別に……」
そんな時奥から声がした。多分研究員の奴らだろう。そして、鉢合わせしてしまう。
「き、貴様………!?そいつをどうするつもりだ!そいつをこっちに渡せ!」
「は?渡すわけ無いだろ?え?」
男は上から目線で研究員達に言ったあと銃を向ける。研究員達も鞘から剣を取り出そうとしたが男から放たれる銃弾は目にも止まらぬ速さだった。
「遅い」
その言葉とともに銃弾は研究員達の足めがけて放たれ貫通する。
「ぐああ!?」
研究員達が怯んだ、その隙にさっさとその場から立ち去り、出口を目指す。
「……出口だ。」
男はそう呟いてその場へと走り、大きめなドアを開けて外に出る。どうやら外は森のようだ。
「まずは………とにかくあんたが休める場所を見つけないと……あそこ…」
ちょうどそこには旅人用の小屋があった。男はそこへ向かい、小屋に入る。小屋の中には使われた後がある毛布があった。男はゆっくりとオレを下ろし、自分も座った。
「………はあッ……う……はあッ……」
すると突然体が苦しくなった。息苦しい。胸が締め付けられる。いつも起こる発作。小さい頃から体が弱くていつも発作を起こしていた。それは今も変わらない。
「おい、あんた大丈夫か?薬まだ切れて……」
「これは違っ………んん、ふぅ………」
男はオレの身体を支えながら心配そうに見ている。ゆっくりと呼吸して落ち着かせる。やっと落ち着いた。
「………単なる発作だよ。…………オレは生まれつき身体が弱いんだ。」
「……発作?」
さらに心配そうに見つめてくる。さっきまで朦朧として視界がぼやけていたが少し薬の効果が切れてきたのかはっきりしてきた。
「だから………これは薬は関係ないって言ってんだろ………」
ふいっと顔をそらす。はっきり言って心配されるのは少しだけ照れてしまう。今まで道具として…実験されてきた。だからこんなに優しくされるのは本心は嬉しいだけど……素直にはなれない。まだ信用できない。人間も魔族もオレを道具として奇異の目で見てきて、扱われていたんだから。
「そういや、名前まだ名乗ってなかったな。僕はローレンス・バレンス。気軽にローって呼んでいいぜ!」
「…………ウィンル」
男…………ローレンスが別に聞いてもないのに名前を名乗ってきた。仕方なくオレも自分の名前を名乗った。
「ウィンルか!宜しく」
そう言ってオレの手をぎゅっと握る。なんだか嬉しそうだし嫌がって手を離すのも流石に可哀想だし。仕方なくそのままにしておいた。するとだんだん意識が遠くなっていく。おかしい。薬はもう切れたはずなのに意識が遠くなって眠気が襲う。フラフラしてローレンスの肩に委ねる。
「……すぅ……すぅ……」
「ぷっ……かわいい…」
なんか不快な言葉が聞こえた気がするが言い返す元気はない。そのままゆっくりとオレは眠りについた。
心地よい日差しに照らされて目を覚ます。体を起こして目がまだはっきりしない。でも久しぶりにちゃんと寝た気がする。あそこに居た頃はあんまり寝れなかったから。
「よく寝れた?」
隣でローレンスがオレに声をかける。うんと言うとそれは良かったと言った。こいつ、どうもオレのこと気にし過ぎな気がする。
「ん?僕の顔になにかついてる?」
「……はぁ、別に何でもない」
あんまり構うなと言っても構ってくるだろうし放っておくのが一番だ。諦めて適当に声をかけておく。
「それで?……これから何処行くんだよ?多分追ってくるぞ?」
あの研究員達………゛黒き亡霊゛の奴らがそんな簡単にオレをみすみす見逃す訳がない。多分泳がされてるか、今まさに探してるかだ。
「まず、この近くにある街に行ってみようと思うんだ。」
「……………街に?」
街に行って何をしようというんだ?考え込んで、少し体を揺らした途端、右腕から痛みが走り、咄嗟にもう片方の腕で抑える。
「痛ッ………」
「ウィンル?どうした?」
…………面倒なことになりそうだ。こいつに腕折れてること言ったらまたなんか言ってきそうだ。
「右腕、僕に見せてご覧。拒否権はないからね」
じっとオレの顔を真っ直ぐ見つめる。なんというかこいつには逆らえない………気がする。
「……………勝手にしろ」
そう言うとローレンスはオレの手をさする。曲がる方向へと折って見たりしている。そしてため息をついたあと呆れた表情で、少し怒りこもった声で「なんでもっと早く言わないんだ!早く言ってくれればすぐに直したのに!」
そう言われても困る。そもそもオレはローレンスのことも信用していないのに。それに本音言うと心配させたくなかったから。
「……………………」
「とりあえず包帯巻いておくから。」
まだ怒ってるみたいだ。それにしてもどうしてそんなにオレの事を構うんだ?
「今度からこうゆうことはちゃんと言ってくれ。いいね?」
「わかった」
と頷くとナデナデとオレの頭をなでる。……………子供扱いされてないか?
「………子供扱い………するなよ」
「さ、そろそろ行こうか。街に」
ローレンスはそう言ってオレの左手を引っ張って街へと歩み始めた。オレはローレンスについていく。
街についた。とても大きな街だ。大きな家に。家とは違った更に大きな建物。水が吹き出して、それがたまっているなにか変なもの。オレは元々森から出たことないから街という場所には初めて来た。だから見るものすべてが新鮮だった。
「なぁ、あれは?」
「噴水だよ。まぁ、後で説明するよ」
「じゃあ、あれは?」
「教会だよそれも後で説明するよ(うぅ………可愛すぎるッ………)」
なんかローレンスの様子が変だが気にしないでおこう。とりあえず街をきょろきょろ見回していると誰かがオレに勢い良くぶつかってきた。
「ご、ごめんなさいっ!先を急いでいるので……本当にすいませんっっ!」
そう言って走り去って行った。黄昏の髪に緑の瞳…全身ピンクのフリフリした服を着た少女だった。
「………………………」
「おーい、ウィンル?聞いてる?」
ただずっと彼女が走り去って行った場所をオレは見つめていた。