ドラゴン? 余裕ですよ。俺を倒せたら大したもんですよ。
ゴブリン退治から更に1ヶ月。
俺は父さんやアンナさんを手伝って領内の魔物狩りや村の運営を行ってたり、ララと遊んだりで過ごしていた。
タイファ領は気候が不順で、乾燥している。作物も実りにくいし、水も足らないことが多い。農民達も今を生きるので精一杯だ。
頻繁に領内を見回って領民の状態を確認しなければならなかった。
そして今もその巡回を行っていた。
父さん!アンナさん、あと護衛の兵士が何人か。
「イーノ、お前が手伝ってくれるようになってから領民も大分暮らしやすくなっているぞ。ありがとう」
「いやあ、ははは」
「若様の類い希な魔法の才能は素晴らしいです。もっと誇って良いのですよ?」
「そうかなあ」
正直言って、褒められるのは嬉しい。
「うま、まったくだ。ははは!」
「うふふふ」
父さんは大笑いだ。
アンナさんも笑っている。やっぱりアンナさんは綺麗だなあ。
と、ほっこりしていた時。
ゴアアアアアアアアアッ!!!!
凄まじい轟音が響き渡った。
空気だけじゃなく大地全体が揺れている。
何かの叫びみたいだった。
「な、何だ!?」
「分かりません。あ、だ、旦那様、あれを……!」
アンナさんが山の上を指差した。
そこには赤黒く、巨大な何かが羽ばたいていた。
悠々と空を飛ぶ怪物からごうっと炎が吹き出した。
ゴアアアアアアアアアッ!!!!
再びの轟音。
今度は何か分かる。あの怪物の咆哮だ。
アンナさんも父さんも顔を真っ青にしている。
「ド、ドラゴンだ……何故こんなところに!?」
「ど、どこからか来たのでしょうか」
「いや、幾ら何でもドラゴンがいるのなら情報が伝わってくる筈だ。恐らくは元からここにいたのだろう。それが眠りを覚まし目覚めたのだ……くそう!」
父さんもアンナさんも絶望的な顔をしている。
「父さん、アンナさん……」
それもその筈だ。
さっきの怪物はドラゴン。それも炎の化身と呼ばれる黒炎竜だ。
この土地の天候が不順で乾燥しているのもきっとドラゴンの熱が原因なんだろう。
伝説に詠われる本当の竜。
飛翼獣ワイバーンでも蛟ドレイクリザードでもない、正真正銘のドラゴン。
ドラゴンが一度現れれば王国を滅ぼすとまで言われる化物で、どんな幸運に恵まれても、このタイファ領は焼き付くされるだろう。
「と、とにかく国王陛下にお伝えしなければ」
「旦那様、領民の避難もすぐに行わないと」
「う、うむ。アンナ、頼む」
どんな幸運に恵まれても?
でも、この土地は今は最大級の幸運に恵まれている!
「父さん、アンナさん、大丈夫だよ」
「イーノ?」
「俺がドラゴンを倒す」
そう、俺がこの魔力を使ってドラゴンを倒せば万事解決!
だから―――
「だ、駄目だ!!!」
「駄目です!!!」
想定外に強い二人の否定に俺は驚いた。
「えっ」
「絶対駄目だ!!!おまえが幾ら上級魔法の使い手でもドラゴンには勝てない!」
「いや、そんなことは」
だって神様(この表現凄い不愉快だ)から貰った特典だよ?
「若様、いくら貴女でもドラゴン相手では、はっきり言って犬死にと同義です。お願いですから、お止め下さい」
父さんもアンナさんも泣きそうだ。
でも俺は曲げる気は無かった。
そもそもドラゴンを倒さないと未来は無い。なら倒すしか無い。
それにあれだけの魔力があるんだ。サクッと倒してやるさ。
「大丈夫だって。俺、強いから!」
善は急げだ。ドラゴンが被害をもたらす前に退治してやろう。
「ちょっと待ってて。すぐ戻るから。金剛体力!」
俺は肉体を強化し、ドラゴンのいる山の方へ駆けた。
「待て!イーノ行くな!!」
「若様、ダメです!」
―――
――
―
暫くして、駆け、山肌を登り、ドラゴンの巣穴へと俺は父さん辿り着いた。
ふう、はあ……金剛体力で強化してても結構疲れるな。
戦う前に、ちょっと念入りに準備しておこう。
「超回復!金剛体力!理力防鎧!」
体力を回復し、魔力の鎧を纏い、更に持続時間リセットの為にもう1度身体強化した。
◇◇◇◇◇
イーノ・タイファ 人間族 男 20歳
領主の息子、魔術師
レベル:8
ヒットポイント:30000
力:800
防御:740
素早さ:820
器用さ:370
マジックポイント:36500
上級魔法まで使用可能
魔力鎧により特殊防御:500
◇◇◇◇◇
よし!今のマックスの強さだ!
俺はドラゴンの巣穴へ向かった。
凄い熱だ……強化してなかったら近付くだけで死にかねない高熱だ。
巣穴、というか巨大な洞窟は入り口や近くの地面がキラキラ光っている。
ドラゴンの吐く炎で土が溶け、ガラスになっているんだ。
巣穴を覗き込む。
穴の奥からゴゴゴという鈍い音が聞こえてくる。ドラゴンの唸り声だろうか。奥は真っ暗だ。
しかし、すっと赤い円形の光と網目の光が奥に見えた。ドラゴンの目だ。
うっ
俺は想像以上のプレッシャーを感じていた。
そして―――洞窟の奥から猛烈な熱気と共に炎が吹き付けてきた。
「うわっ!!」
俺は洞窟の下り口からぱっと身を交わした。
巣穴から放たれた炎は巨大な火柱となって空を焼いた。周りの景色が全て真っ赤になるくらいの豪火だった。
すげえ……もしかして、ちょっとヤバイかな……
ドスンドスンと大地を踏み潰す音がして、俺は洞窟を見た。
巣穴から巨大な黒色の怪物、ドラゴンが這い出してきた。
「うっ」
高さ10メートルはありそうだ。羽を広げてないのに体長も30メートルはあろうか。
影だけでも周りが暗くなる。
体は石炭の様な黒色の鱗で覆われていて、鱗の間はマグマのように鈍く赤熱して、焼けた鉄の網目の様になっている。
ゴアアアアアアアアア!!!!
ドラゴンの咆哮は大地を揺るがし、足を踏みしめていないと吹き飛ばされそうだった。
これ、まずいかな……
俺はちょっと不安になった。