俺と大魔法とアンナさん。
レイピアを構えたままのアンナさんがにじり寄ってくる。
「行きますわよ、若様。ハッ!」
見とれるくらいに滑らかな足さばきで近寄り、切っ先の鋭い一撃。
かなり手加減がない。顔狙いだし、容赦なさすぎっす。
しかし、俺はひょいと避けることが出来た。
実際、非常に速い一撃なんだと思うが、今の俺の状態だとスローモーションみたいにはっきりゆっくり見える。
「!?」
あっさりと避けられたことにアンナさんは驚いている。
「や、やりますわね。でもまだまだ!」
ビッ! ビッ! ビッ!
アンナさんは再びレイピアを突く。今度は連続で。
だがそれもやはりスローモーションだ。すっと避ける。
ステータスで分かってたけど、金剛体力の効果はかなりのものがあるなあ。
「ええええい!」
アンナさんがムキになってきた。
ビッ! ビッ! ビッ!
ビビビビビッ!
突きの速度はどんどん速くなっていってる。何か漫画みたいな攻撃だ。
レイピアの切っ先が頬を掠め、髪を掠める、鼻先を掠める。
アンナさんの突きの速度が速くなっているのもあるが、俺は敢えてギリギリを掠めるように調整していた。
ビビビビビッ!ビッ!……
そして結局、全ての攻撃をかわし切った。
「ハアハアハア……」
アンナさんは息を切らしている。さしものアンナさんも疲れたみたいだ。
垂れる汗と吐息が妙にエッチい……
「ハアハア……若様の金剛体力は尋常ではありませんね……」
「みたいだね。多分当たっても大丈夫だったと思うけど、試しに当ててみる?」
「御冗談が過ぎますわ、若様……ハアハア」
まあ、そりゃあそうか。レイピアで刺して下さいっていっても刺さないか。
アンナさんと暫く休んでからまた魔法を試してみることにした。今度は魔法の主役、攻撃魔法だ!
「よおし! それじゃいくか!」
「若様、では標的にあの岩などは……」
「あ、いや、多分それじゃ収まらないから」
「え?」
「ちょっと離れてた方がいいかも」
俺はもしもの為にアンナさんの壁になるよう彼女の前に立った。
そして数百メートル先の大岩に狙いを定めた。
「ふう……」
意識を集中し、魔力を一点に収束させる。
膨大な量のエネルギーが凝縮していく。そして、解き放つ!
「劫炎爆!」
1度小さな火がぽっと灯ったかと思うと、その火は瞬時に広がり、スパークしながら激しい爆音と共に炎を巻き起こした。辺りが赤く染まる。
炎は爆発の火柱となり、目標の岩を中心に一面を焼き付くした。大分離れているのにここまで熱が伝わってくる。
「うっ……!」
あまりの爆発にさしものアンナさんも怯んでいる。
劫炎爆。
古の伝説の大魔導師が懇親の力で放ったと言われる必殺の魔法だ。
あらゆるものを焼き付くす地獄の業火と書いてあったが、なるほど。確かにその通りだ。
「よし! それじゃ次いくよ次!」
「えっ!?」
どんどん行くぜ!
――――
――
―
「ふう、ま、こんなもんかなあ」
俺は使える上級魔法を全て試してみた。
お陰で辺りはえらいことになってる。まあでももとから、何にもない空き地だったし、大した違いはないけどね。
「………」
アンナさんはへたりこんで、ぽけーっとしている。伝説の大魔法をあんだけ見せられたらそうもなるか。
それで、今日の結果。
俺が使える上級魔法は確認してみたが、こんな感じだった。
金剛体力
身体能力・個体の防御力を著しく強化する。消費500。
束縛鎖
魔法の鎖を生み出し対象を拘束する。消費800。
吹雪嵐
絶対零度の冷気を放つ。消費1000。
超回復
致命的な傷・病でも癒やし体力を完全に回復する。消費1000。
光刺矢
無数の魔力の光矢を射る。消費1200。
理力防鎧
対象者を纏う魔力の防壁を生み出す。消費1500。
腐酸毒
あらゆるものを腐食し溶かす強酸の猛毒を発生させる。消費2500。
稲妻落撃
極大の稲妻を対象に落とす。消費3000。
劫炎爆
半径100メートルの範囲を焼き尽くす威力の爆発を引き起こす。範囲は調節可能で威力に反比例する。消費5000。
探査
特殊な鑑別能力を得る。消費50。
かなり攻撃にかたよってるなあ。戦闘向けじゃない中級魔法も使えるけど、上級魔法はほとんどが戦闘向け。
領地を栄えさせるのに便利な魔法とかはぱっとみ無かった。
「……」
「アンナさん?」
「………はっ」
俺はぽけーとしたままのアンナさんに声をかけた。アンナさんははっとしたみたい。
「わ、若様。あの、なんというか」
「どう? 凄いでしょ」
「は、はい。あの、腰が抜けて動けません……」
アンナさんはちょっとしゅんとしてる。可愛い。
と、その時。
「と、殿様ー!助けてー!」
誰かが叫びながら走りよってきた。