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転生の日。



 ……う、うーんふらふらする。


 俺が気づいたときには、さっきまでの白い世界はなくなっていて、普通の体も頭もある人間の世界に戻っていた。


「旦那様、奥様……残念ながら、もう若様は……」

「う、うおおおおおお! イーノォォォォ! 何故だあ!」


 ん? 誰か回りにいる?


 体の下はふかふかの感触。どうやら俺はベッドに寝かされていて、何人かの人に囲まれているみたいだった。

 まだ自由の効かない体を無理矢理に動かし、何とか目だけ少開けて回りを確認する。


「ああ、私の可愛い坊や……もう一度喋って頂戴……ああ!」

「ううう、お兄様……お兄様ぁ……」


厳ついおじさん、優しそうなおばさん、キリッとしたお姉さん、小柄な女の子。

どうでもいいかもしれないけど、女の子はおっぱいが大きい。凄く。


「病ではどうすることも……わ、若様は……」

「ああ神よ! 息子を、息子を返して下さい!」


たただ、皆泣いていた。おじさんも大泣きしているし、おばさんと女の子はベッドにすがって泣きじゃくっている。お姉さんも平静を保ってている様に見えて、目は真っ赤だし、頬には涙の後がある。


さっきの声と併せて考えると、俺?はどうやら死んだらしい。いや、向こうの世界でも死んだんだけど、こっちの俺?も死んでいるみたいで……ってああ、ややこしい!


そうこうしている内に体に力が入り始めた。手、足、胴、顔、と徐々に動くようになってきた。


「……えっ、これ一体、どうなってるの?!」


 俺はガバッと起き上がり思わず言った。


「わあっ!!!」

「ひゃあっ!!??」


 回りで泣いていたおじさんやらおばさんやら、お姉さんやら女の子やらが驚きの声を上げた。

 まあ、死んだと思った奴が起き上がって喋ったらびっくりだろうなあ。


「わっ、あっ、おっぱ……」


 俺としては女の子が驚いた拍子に跳ねたおっぱいに驚いていた。嬉しいけど、こんな時にまで見てしまうなんて何か悲しい。


「イ、イーノ……」

「お兄様……」

「若様……」


 皆、ぽかんとしている。そして。


「生き返った、生き返ったああ!」

「わーーーん! 良かったよおおお!」


 わっ、また全員泣き出し、俺に抱きついてきた。涙の意味はさっきとは真逆みたい。

 うわわっ、みんな抱きついてくるからおしくらまんじゅうみたいにぎゅーぎゅーだ。


「え、えっと、俺……っ! うぐぐぐっ!」


 頭に強烈な衝撃。様々な光景や情報が頭の中でいったり来たりしている。

 うぐぐ、こ、これは!

 

 生まれた時のこと。

 母に抱かれている時の事。

 父と話し合っている時の事。

 友と遅日に出ている時のこと。

 いたずらをして怒られた時のこと。

 魔法の力を会得した時のこと。

 そして、病に倒れ苦しみ悶えていた時のこと。


 この生まれ変わった世界の俺、つまり”イーノ・タイファ”としてのこれまでの記憶が流れ込んできているんだ!

 十数年分の記憶が頭に流れ込む。

 不思議な感覚だ。日本人の伊野大河でありながら、この世界のイーノ・タイファとして存在していて、それを自分が受け入れられている感覚。


 この世界の事も、知りうる限りは知ることも出来た。どうやら魔法が有り、魔物もいるらしい。いわゆるファンタジー世界みたいだった。

 本当に別の世界なんだと理解させられた。


 記憶の刷り込みが終わったのか、衝撃は落ち着いてきた。


「うぐぐぐ……」

「イ、イーノ! どうした大丈夫か!? や、やっぱり……」「若様!」

「い、いや、大丈……っ、あぐぐぐ」


 また衝撃が強くなった! 今度は何だ!?


 今度は衝撃とともに全身に力がみなぎり、熱くなる。

 頭のなかにはさっきとはまた別の情報が流れ込んできた。


 それはあの自称神がよこした特典の事。

 特典とは、膨大な魔力と無数の呪文の事のようだった。

 この世界の常識で見ても凄まじい力。それを与えられたのだ。


 暫くして二度目の衝撃が落ち着く。落ち着いたあとは、今までになく気分がすっきりしている。


「ふう……もう大丈夫だよ、皆。心配かけたね」


 この世界の記憶を得た今、ここにいる人たちの事はもう分かる。


「イーノォォ、本当に、本当に大丈夫か?」

「ああ、イーノ。坊や……私はもう駄目かと」


 この厳つい髭面のおじさんは俺、つまり”イーノ・タイファ”の父。そして優しそうなおばさんは俺の、こういうと変な感じだけど、お母さんだ。


「若様……良かった、良かったぁ……」


 キリッとしたお姉さんはアンナさん。アンナさんはタイファ家に仕えるメイド長で、俺の事もずっと見てくれていた人だ。

 すごい美人だ。おっぱいは小さいけど。


「お、お兄様……お兄さまああ! ララは、ララは、お兄様が元気におなりになってすごく嬉しいですぅぅ!」


 女の子はララ。まあ政治的な事情でタイファ家が預かっていて、俺の義理の妹。そして今のところ許嫁ということになっている。

 義妹許嫁ロリ巨乳って属性多すぎでしょう!


「あははは、もう大丈夫だよ」


 俺は何とも自然に笑った。

 あのムカつく神とやらが何をしたとしても、もうこうなってしまった以上、この世界のイーノ・タイファとして生きるしかないのだ。


 どうせそれしかないんなら、思う存分やってやるぜ!




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