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ユウナとネコさんたちの異世界生活  作者: 藍
第1章 ユウナとネコさんの異世界生活
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ユウナとネコさんの異世界生活

「ユウナちゃん~、ネコちゃん~。こっちこっち」


 2階にあるの宿泊スペースから降りて、1階の食堂スペースの扉をくぐるとミラさんが私たちに呼びかけてきました。


「ミラさん、声が大きいです」


 猫のしっぽ亭の食堂は繁盛しているらしく満席に近い状態です。ミラさんの呼びかけにより多くのお客さんの視線が私たちに集まりました。私はネコさんを抱えて足早にミラさんの向かいの席に着きます。


「ごめん、ごめん。じゃー、今日はお姉さんが奢ってあげるから、2人とも遠慮しないで注文してよ」


「そんな、ダメですよ、ミラさん」


「いいの、いいの。せっかく知り合ったんだし、奢らさせてよ。ねっ、お願い」


 ミラさんの笑顔を見ると、ありがとうございます、としか言いようがありません。社会人の人ならもっと上手にやり取りができるのでしょうか?


「よーし、ボクは今日飲んじゃうよー!!2人も飲んじゃう?」


「いえ、私はお酒は飲めないんです」


 私は未成年でお酒はもちろん飲んだことはありません。そしてこの世界での飲酒の年齢制限がわからないので、『飲んだらいけない』ではなく『飲めない』という言葉を伝えます。これなら、相手がいいようにとってくれるはずです。


「にゃふふ。にゃふっと。にゃふ」


 ネコさんがパシパシとメニュー表を叩いています。肉球の下を見るとリンゴと瓶の絵が描いています。


「ネコちゃんはリンゴジュースだね。ユウナちゃんも同じでいいかな」


「はい、お願いします」


「リーネちゃん、注文お願い!!」


 食堂のホールでリーネさんがお客様の注文を受けていました。どうやら宿屋と食堂を兼任しているようです。


「とりあえず、ビール1杯とリンゴジュース2杯。あとは、適当に食べ物を持ってきて」


 ミラさんは常連らしい注文しています。そういえば、ビールだったり、リンゴだったりと知っている単語が出てきます。ネコさんが叩いていたメニュ―の絵は地球と同じ形のリンゴでした。実は地球と同じリンゴなのか、それとも翻訳能力で私の知っている近い物の名前に変換されているのでしょうか?どちらにしても、地球の知識とギャップが少なければ非常に助かります。


 待たされることなくリーネさんがビールとジュースを持ってきてくれました。そういえば、ネコさん相手でも私と同じグラスが渡されています。動物扱いされることが無いみたいで安心しました。


「あれっ、ネコさんってグラスを持てますか?」


 ネコさんの手は、普通の猫と同じ手です。肉球プニプニです。人間みたいな五指は無いので、グラスを掴むことはできないはずです。


「にゃふっと」


 私の問いかけにネコさんが肉球をグラスにくっつけます。そうすると、掴んでもいないのにグラスを持ち上げることができました。


「あっ、ユウナちゃん。ネコちゃんみたいな、体のつくりが動物に近い種族って魔法の力なのかわからないけど、手に物を吸いつける力があるんだよ。ほら」


 ミラさんがフォークをネコさんに渡すと、ネコさんが受け取ります。やはり、フォークは掴んでいないのに肉球にくっついています。


「人間社会で暮らすために器用になったという説が有力だよ」


 思い出すと、ネコさんは自転車のカゴなかで料理の本を器用に読んでいました。


「そうだったんですか」


 私の手を差し出すとネコさんが肉球をくっつけます。あれっ、手と肉球にちょっと隙間が空いています。でも、手と肉球は触っていないのに離れません。魔力の膜みたいなものが間にあるのでしょうか?


「じゃあ、そろそろ乾杯をしようか。グラスを持って。では、ユウナちゃん、ネコちゃん、カーヤの街へようこそ。かんぱーい」


 どうやら、ミラさんは私たちの歓迎会として食事に誘ってくれたみたいです。ミラさんの心遣いが本当に嬉しいです。


 私たちはグラスとジョッキを軽くぶつけます。


「ぷはー。この1杯の為に生きてるんだよ」

 

 ミラさんは綺麗な顔に似合わず、ビールを豪快に飲み干しました。


「ぷにゃー。ふにゃふにゃーふにゃっと」


 ネコさんがジュースを一口飲み、ミラさんのセリフをマネしているみたいです。思わず私たちは笑いました。あと、リンゴジュースは地球のリンゴジュースと同じ味でした。


 運ばれてくる食事を食べながら、ミラさんに質問や雑談をしていきます。


 料理については、味が塩や胡椒などの濃い目の味付けで飲み物のおかわりが必要でした。肉体労働がメインの冒険者に好まれる味付けになっているのと、使われている肉や魚の食材が日保ちのために塩漬けなどの加工品であることが理由だと教えてもらいました。それでもミラさんおすすめのお店だけあってとても美味しかったです。ネコさんも満足しているみたいで、肉や魚、野菜などを器用にフォークとナイフを使いながら万遍なく食べています。流石はネコさんです。


 ちなみに、料理を運んできたリーネさんが教えてくれたのですが、新鮮な肉や魚も市場には並ぶのだけど、保存に高価なマジックバックを利用しているので割高になるとのことです。猫のしっぽ亭も小さめのマジックバッグを購入して、生鮮食材を備蓄しているらしいですが、料理の値段が高くなるので注文は少ないそうです。


「そういえば、ミラさんって他の仕事にも詳しかったですね。やっぱり、門番だとそういった質問をされることが多いのですか?」


 雑談をしていると、ふと就職に関する私の相談にミラさんがスラスラと答えてくれたの思い出したので尋ねてみます。


「公務員だから街のことに詳しくないといけないから勉強したんだ。でも、冒険者ギルドについては私自身が元ギルド職員だったから詳しかったんだ」


「ミラさんは転職されたのですね」


「そうだよ。いろいろあってね…」


 何となく気まずい雰囲気になったので、それ以上の質問はやめて雑談に戻ります。


 その後、お腹もいっぱいになり歓迎会が終わりました。ほろ酔い加減のミラさんを見送り、私とネコさんは部屋に戻りました。


▽▽▽


「ふー。お腹いっぱいです。ネコさんも満足できましたか?」


「にゃふっと」


 ネコさんは頷き、お腹をポンポンと叩きます。ネコさんも満足しているようですね。


 ベッドに横になったネコさんを撫でながら、食事中に得た情報を思い出します。


 まず魔物について。魔物は魔力が自然発生するから魔力スポットから生れ出た生物です。動物ではありません。魔力スポットはこの世界に無数に存在し、その土地の特性により生まれ出る魔物の種類が決まるのです。例えば、火山なら火に、水辺なら水に関わる魔物になります。それ以外にゴブリンなど特性を持っていない無属性の魔物も存在し、無属性の魔物はどのような場所からでも生まれる可能性があります。魔物か動物の判別は簡単で、強さに関わらず淡い黒いオーラに包まれているそうです。ミラさんに魔物について質問していると、低レベルな魔物でも、特別な力が無く戦闘訓練を受けていない女性だと倒すことは難しいので、絶対に魔物が出没する場所には近づかないことと言われました。


 魔物を倒すと、魔石というビー玉くらいの大きさの石になります。魔石は、素となった魔物に応じて属性が宿るそうです。火ネズミの魔石なら火の魔石といった具合です。魔石は魔道具の燃料として活用されます。この部屋にある火を扱うコンロの魔道具なら、火の魔石によって動くのです。また、魔石を冒険者ギルドに持って行くと、素となった魔物の死骸に戻してもらえます。死骸は魔物が死んだときの状態になるので、火魔法で焼きつくして倒した魔物の魔石をもどすと、煤が出てくるといった具合です。魔物素材の採取クエストが成り立つのは、死骸が持ち運びが容易な魔石になるためだそうです。確かに、ダンジョンの奥で大物の魔物を討伐しても、マジックボックスやマジックバッグがなければ数人のパーティーで持ち帰ることは不可能ですね。ちなみに、魔道具の燃料として使用した魔石は魔物の体に戻すことは不可能だそうです。


 余談ですが、魔物は食べれないそうです。魔石から魔物の死骸に戻せるのなら、マジックバッグに頼らずに新鮮な肉が手に入るのではとミラさんに質問したのですが、魔力から生まれ出た魔物は根本的に動物と違うので、食べたら体に異常をきたすそうです。つまり、憧れのドラゴンのステーキは食べれないということです。残念無念。


 続いて食料事情について。食材や調味料は意外と豊富にあるそうです。肉に野菜、米や小麦、オリーブ油に塩や胡椒にお酢など日本のスーパーでおなじみの食材が値段の高い安いはあっても、普通に手に入るそうです。ただ、現代と比べるのは酷ですが調理方法はあまり発展していないみたいですね。調理方法は煮る、焼く、炒めるに調味料を振り掛けるくらいのシンプルな物です。リーネさんに揚げ物について尋ねましたが見たことも聞いたこともないという答えが返ってきました。食用油は高価だから節約するんだそうです。またマヨネーズなど一手間加えた調味料なども無いそうで、これらは将来的に食べ物関係で稼いでいけることを匂わす明るい情報です。現代レシピで食堂チートと言うやつですね。


 あと、生活に重要な『火』と『水』についても質問しました。最初に『火』についてですが、この世界ではガスや火薬類が使われないのでライターやマッチはありません。しかし、火の魔石を使用する似たような魔道具が存在するようです。魔道具のコンロもこの種類ですね。他には火魔法の威力を調整して、生活の火に活用することも可能だそうです。『水』については井戸か川などの水を汲んで使用するか、水魔法で水を生み出すかの2択だそうです。残念ながら、水の魔道具によって水を生み出すことは現在ではできないみたいです。


 最後に『才能』や『加護』について。女神様は私に最低限度の才能や加護を与えてくれると言いました。現状わかっているのはこの世界の言葉がわかる言語理解の能力だけです。自分が持っている能力を調べる方法についてミラさんに聞くと、ギルドで申請すると有料でギルドカードの表示項目の追加をしてくれるそうです。これにより、才能や加護の表示がされます。才能と加護の違いですが、先天的に持っている、または後天的に自分の力で手に入れることができる能力を『才能』と言うそうです。『剣の才能』なら剣を扱い易くなり、剣に関するスキルを使用することができ、『火魔法の才能』なら火属性の魔法を使うことができるといったものです。『加護』は他者により授けられる能力です。一般的に知られている加護は、教会の神官が持っている『回復の加護』で、信仰心が神様に認められると授けられ回復魔法の回復量が増えるそうです。せっかく異世界に来たのだから魔法の才能があると嬉しいのですが。


 今日1日でこの世界のいろいろなことが判明しました。小説ならいわゆる説明回です。…魔物とエンカウントや冒険者ギルドで絡まれるといったお約束はまったくなかったなぁ…あっ、明日のフラグが立ちましたか?それはさておき、真新しい経験はいろいろしていることには違いないので非常に疲れています。お腹もいっぱいになり、眠気が出てきたので眠るとしましょう。


 サービスのお湯をもらい身ぎれいにして、ジャージに着替えます。さっぱりです。ネコさんもお湯を絞ったタオルで拭いてあげると気持ちよさそうにしています。でも、日本人としてはお風呂が恋しいです。その後、ポーチに入れていた歯ブラシを持って共同の洗面所に移動し、歯を磨き洗顔をします。今は他に人がいないので良いのですが、洗面所とトイレが男女共用の場所だと分かったので銅貨40枚の部屋に移ろうか悩みますね。


「ネコさん、もう寝ましょうか」


「にゃふ~」


 部屋に戻り、ネコさんに声をかけます。ネコさんはウトウトしているので、そのまま抱き寄せてベッドに横になります。枕元にある灯りの魔道具―蝋燭などは火事の恐れがあるので使わないそうです―をオフにすると部屋が真っ暗になりました。


 異世界転移から始まった長い1日が終わろうとしています。異世界転移をしてネコさんと出会い、カーヤの街に無事に着き、ミラさんに良くして貰い、こうして安全に眠ることが出来ます。順調なスタートだと思いますが、明日からのことを考えると不安もあります。


「ふにゃっと」


「どうしましたか?」


「にゃふ、にゃふ」


 ネコさんが私のほっぺたをポムポムと優しく叩きます。なんだか、励ましてくれているようです。悪夢でうなされた時に、お母さんが頭を撫でてくれた安心感のようなものを思い出します。


「ネコさん、一緒にいてくれてありがとうございます。これからよろしくお願いしますね」


 そういえば自己紹介はしましたが、一緒に暮らしていくうえでのちゃんとした挨拶と感謝をしていませんでした。


「にゃふふ。にゃふ~」


 女神様のお願いとはいえ、見ず知らずの私と暮らすと決断してくれたネコさんには感謝の言葉しかありません。少しでもネコさんが…いえ、私とネコさんが楽しく喜んでいけるように頑張って行きたいです。


 不安はありますが、せっかくだから楽しんでいきましょう!!私とネコさんの異世界生活を。

これにて第1章は終了です。

第1章がまるまる説明回になってしまうとは思いませんでした。

第2章からはユウナとネコさんがカーヤの街で行動していきます。

『ユウナとネコさんたちの異世界生活』を読んで下さった読者様、ブックマークや評価をして下さった読者様、本当にありがとうございます。私の拙い小説で少しでも楽しんで下されば幸いです。

第1章の忘備録のようなものを挟みまして、第2章になります。

それでは失礼いたします。

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