第4話 光の剣とネコさんたちの作戦会議(仮)
「そんな…」
ボクは友人であるノーラを信じたかった。ノーラはどこかで叔父であるゼブ様の強行を抑えようとしている意思があるのだと。今はユウナちゃんを危機に陥れる ようにゼブ様を手伝っているかもしれないけど、ユウナちゃんの命が失われようとするその時にはボクたちの味方になってくれるんじゃないかと…。
「ミラ。お前は未だにノーラさんを信じているのか?」
ゴレットがボクに問いかける。
「もっ、もちろんだよ!!ノーラは恩のあるゼブ様に従っているのは間違いないよ。さっきも言ったけど…それでも…無差別にカーヤの街の住民に被害を出すことを見過ごすような人じゃないよ!!」
ボクはユウナちゃんに救ってもらったように…ノーラにも救ってもらったんだ。
「はっ。だったらお前は、ノーラさんはカーヤの街の住人の命は守るが、ユウナの命はマジックアイテムのように使い捨てる人物だと言っているんだな」
「そっ、そんなことはないよ!!」
あまりなゴレットの言いように反論したけど、これはボクが考えたことと同じ内容だった。同じだったからこそ、ボクはゴレットの目を見ることが出来なくて視線を逸らしてしまう。
「どうだかな」
それでもゴレットの方に顔を向けると、ゴレットがボクの反論に小馬鹿にしたような表情を浮かべていた。
「おい、ゴレット!!」
「ゴレットさん!!」
このゴレットの態度を見たラルフとマリアベルさんが声を荒げる。
「ラルフとマリアベルは黙っていろ!!」
「くっ!?」
「なっ?」
ゴレットの気迫にマリアベルさんですら息をのんで黙ってしまった。
「ミラ…俺たちの目的は何だ?」
「もっ、目的ってユウナちゃんを助け出すことでしょ」
「ふんっ。それくらいは理解しているようだな」
「あっ、当たり前でしょ!!ユウナちゃんはボクの恩人なんだから絶対に助け出すんだっ!!」
ゼブ様に焼き尽くされたボクの両手を、ユウナちゃんは命の危険を顧みず癒してくれたのだから。
「だったら、現時点で裏切っているノーラさんのことは敵と考えろ!!」
「でっ、でも」
「…ミラ。お前はマリアベルの時のことを覚えていないのか?」
「うっ!?」
さっきまで怒鳴りつけてきたゴレットだけど、視線を床に落とし声を絞り出すように問いかけてきた。
「ゴレットさん…今は私のことは関係ありません」
話題に上がったマリアベルさん本人が場を取り成そうとした。ただ無意識だと思うけど、マリアベルさんの左手が自身の右腕を撫でていた。それを見たゴレットが…、いや、ラルフにヨナちゃんに、そしてボクが表情を歪めてしまった。
「…すまない、マリアベル。…無神経だった」
それを見たゴレットが謝罪する。
「ううん、ゴレット。ボクが悪かったよ」
ボクたち【光の剣】全員が抱える暗い記憶。そして、それこそが【光の剣】の解散理由。皆がそれぞれ正しいと思う行動をとったその結果、マリアベルさんが…。
「俺は今でも、自分の選択は間違っていなかったと思っている。だが…それでも、マリアベルが払った代償は…」
誰にでも強気なゴレットだけど、マリアベルさんに対しては一歩引いた態度を取ることがあった。それには2つの理由があったから。その1つがゴレットが思い浮かべているこの出来事だ。
「ゴレットさん、私のことは気にしないでください。確かに、私は失ったモノがあります。ですが、それ以上に手にしたモノもあるのですから。今の生活は私の人生の中で一番心が休まっています。孤児院の院長はやりがいのある仕事…いえ、今の私にとっての生き甲斐なのです」
マリアベルさんが笑顔をゴレットに向けた。あの時、パーティーの中ではゴレットが一番正しい判断をした。だけど、結果的にゴレットが一番苦しむこととなってしまったんだ。
「マリアベル」
そして今もゴレットはユウナちゃんの為に、冷静に判断をしようとしている。それなのにボクは感情に任せて、深く考えずにノーラの擁護をしていたんだ。
「それで、ゴレットさん。ノーラさんが魔物を操ったとする理由は何なのですか?私もミラさんと同じく、ノーラさんもゼブリーズ様も、むやみに被害を広げるような選択肢は取らないと思います」
「マリアベルさん」
マリアベルさんが明るい声色で話を元に戻してくれた。
「確かにな。代表もノーラさんも積極的には被害の拡大を望まないはずだ」
それに合わせるために、ゴレットが話を続ける。
「ということは、その選択を取らざるを得ない理由があるというわけだな」
「そういうことだ、ラルフ。ミラ、お前がノーラさんのことを信じているのなら、ノーラさんが魔物を操ってあえてカーヤの街に侵攻させた理由を考えてみろ」
「あえて魔物を侵攻させた理由?」
今のところゴレットの推理は間違っていないと思う。ボクたちがパーティーを組んでいた時と同じように、手にした情報を整理して進むべき道を示してくれている。それは信用できるものだけど、どうしてもボクがこだわってしまっていることは、ノーラが街の住民も危険にさらしたということだけだ。
「ミラ、さっきヨナがした質問を思い出す。ミラは答えを知っている」
ヨナちゃんの質問?
「質問って、確か魔物が村や町を襲撃する時のことだよね」
ゴブリンたちが女性を攫いに来るとき…これは関係ないよね。戦闘中の魔物が人を追いかけてきた時…も関係ないかな。ボクが最後に答えたのは…。
「…そういうことなんだ。答えはワイバーンの出現だ。ワイバーンが現れたことこそが、ノーラとゼブ様にカーヤの街への魔物の群れの侵攻を決断させたんだ!!」
「それはどういうことですか?」
「ドラゴン種のような強力な魔物には、魔物除けの魔石の効果がないことだよ。たっだら、別荘の結界に阻まれたワイバーンは他の魔物と違って自分の思うがまま移動を開始するはずなんだ。そうならないように、ノーラたちはあえてカーヤの街に誘導したんだ」
「…なるほど、わかりました。5体ものワイバーンを討伐する戦力は一般的な町や村にはありません。ワイバーンがカーヤ以外の町や村の方に飛び立ってしまうと、その場所は壊滅的な被害を受けてしまうのですね」
ワイバーンもシルバーウルフと同じく人里の無い山間部に生息しているから、北にある山間部から南下してきたんだと思う。もといた山間部に戻ってくれればいいけど、魔物の考えることなんかわからないから、気まぐれに南や東の方角に飛び立ってしまうかもしれない。
「ワイバーンの進路に関わらず魔物の群れはカーヤの街のある西へと進んでいる。他の町や村からワイバーンの討伐依頼の知らせがきたとしても、街の防衛のための戦力が必要とされる状況で、カーヤの街に拠点を置く冒険者から人員を割くことは難しいだろうな。冒険者の立場なら、ゆかりの無い町や村より、拠点となるカーヤの街の被害が出ることを防ごうとするはずだ」
「そうだ。だったら、代表ならこう考えるだろう。魔物の群れもワイバーンも全てカーヤの街へと侵攻させて、カーヤの街の冒険者に討伐させよう、とな」
この判断だったら、ゼブ様やノーラの性分にあっていると思う。
「でも、どうやって魔物の群れの侵攻を誘導したんだろう。まさか、ノーラが500体近い魔物全てを魅了した何てことは無いよね?」
ボクにさっき生じた疑問は、カーヤの街に接近した時の魔物の群れの先頭がワイバーンだったということ。ワイバーンが魔物たちを追いかける形じゃないと、魔物の群れは東に引き返してしまうはずだから。
「そのことについてだが、僕にも推測があるんだ」
「ほう、だったらラルフの推測を聞かせてもらおうか」
「あぁ。ノーラさんたちは敵愾心を上昇させるマジックアイテムを利用したんだろう」
▽▽▽
「敵愾心を上昇させるマジックアイテムって、ヨナちゃんたちがワイバーンに使ったヤツだよね」
ボクは直接討伐には参加していないから、お泊り会でユウナちゃんたちに聞いたことを思い出した。
「あぁ、ワイバーンの討伐担当になった冒険者が、それぞれにワイバーンを引き寄せるために使ったアイテムだ。エルフネコさんも使用したな」
「にゃむっと」
ラルフの言葉にエルフネコちゃんが万歳をした。
「それをノーラが魔物たちに使ったっていうの?」
「正確にはワイバーンがだけどね。ワイバーンに魔物たちを追いかけさせて、カーヤの街に接近する前にマジックアイテムを上空から投下させる。このマジックアイテムは粉末だから、下に広がっている魔物の群れに降りかかっていく形だ。このアイテムは粉を振りかけた相手に対して、敵愾心が上昇するから、ワイバーンの進行方向をカーヤの街に調整していけば、魔物の群れも同じ進路で追いかけてくるわけだな。実際、魔物の群れが東の森を抜けてからは街道の近くを走っていたけど、マジックアイテムでワイバーンに対して戦意が高揚していたから魔物除けの効果が発揮していなかったのかもしれないな」
「でも、500匹近くの大群に振りかけるだけ量のアイテムをノーラたちは用意したの?」
「そのことだけど、実は防衛戦が始まる前にユウナから戦闘についてある提案が出されたんだ」
「ユウナちゃんが?」
「ワイバーンに使うマジックアイテムを使って魔物の群れを分断できないのか?ということだった」
「ほう、面白いことを考えるな」
「あぁ、僕たち少数戦闘が主体の冒険者より、集団で戦う傭兵たち戦争屋が用いそうな戦法だ。この防衛戦でも有効だと思ったからマジックアイテムの在庫について調べてもらったけど、ほとんどなかったから断念したんだ」
「妙ですね。回復薬ほど使用頻度は高くないアイテムですから在庫状況は潤沢ではないでしょうが、冒険者の街で何らかの道具が在庫切れに近い状態になっているなんて」
「だから僕は、ゴレットの仮説を聞いてから、ノーラさんたちが敵愾心を上昇させるマジックアイテムを買い集めていて、魔物の群れの誘導に利用したんじゃないかと思ったんだ。もちろん、ノーラさんたちが購入したなんて情報はなかったから、誰かしらに匿名の依頼を出して買い集めさせたのだろうけどね。ゴレット、僕の推測はどうだい?」
「ふんっ、俺もお前と同じ考えだ。いかにノーラさんの魔力量が多かろうと500匹近くの魔物の群れに固有魔法を使うことは不可能だ。だったら、ゼブリーズ代表の資金力を使って購入したマジックアイテムを使用するだろうな。魔力回復薬のような貴重で高額なアイテムと違って、比較的安価なものだから、不可能ではないはずだ」
ボクの疑問はラルフの推測で解消されたようだね。もちろん推測ではあるのだけれど、ゴレットも肯定しているのだから間違いないと思う。
「ゴレット、ノーラたちにこんな思惑があるって考えてるのなら、教えてくれても良かったんじゃないの?ボクが怒鳴ったのは悪かったけど」
でも、ゴレットもその時点で教えてくれたらよかったのに。
「はっ。お前やラルフは決断力は凄い。それは認める。だが、マリアベルやヨナと違って考えることを俺たちに丸投げする癖がついているだろうが」
「うっ」
「くっ」
ゴレットの言葉にボクとラルフの表情がゆがむ。自覚のある痛いところをつかれたからだ。
「だがな、それ以上に生ぬるい考え方を持っているようだったからそう仕向けたんだ」
「え?」
「…ゴレットさんは帝都の時のようなことを懸念したのですね」
マリアベルさんが言った帝都の時とは、さっき話題に出てきたボクたちパーティーが解散する原因になった時のことだ。
「あぁ、あの時の過ちは俺たちが本当の意味で意思の疎通ができていなかったことが原因だ。俺たちより弱い敵を相手しているのなら、個々の実力で力押しをしても問題はなかった。だが今回の件は、帝都の時と同じように…いや、それ以上にゼブリーズ代表たちの実力が上手なのだからな」
「うっ、うん」
「ミラがノーラさんを信じるというのなら、それでも良い。お前にはお前の考えがあるのだからな。ただ、俺もミラやマリアベルほどではないが、ノーラさんという人物を知っている。誠実な人物だと評価している。だからこそ、叔父である、そして恩のあるゼブリーズ代表を裏切ることはできないとも思っている。お前はどうだ?」
「それは…それでも、ノーラはユウナちゃんの命を奪おうとは…しないと思う。…うぅん、思いたい」
「だったら、ノーラさんがお前の目の前でユウナに【サクリファイス】を使わせようとしたらどうするんだ」
「それはもちろん、邪魔をするよ。ユウナちゃんの命は絶対に守るんだから」
「邪魔か…。俺はもしノーラさんが【サクリファイス】を使わせようとしたら…俺はノーラさんを殺すぞ」
「ゴレット!?」
「状況的には間違いなく正当防衛だ。そうだろう、防犯課の職員さん」
「それはそうだけど!!…そうだけど…」
ゴレットの言葉にボクは反論しようとした。…したんだけど、帝都の事件のことが脳裏をかすめて、次の言葉を発することができない。
「ゴレット君、ミラちゃん、とりあえず、そこまでにしようか」
ここで話をとめてくれたのは今まで静観してくれていたルシアさんだった。
「ゴレット君、ノーラちゃんたちへの対応については全ての話し合いが終わってから決めることにしよう。覚悟を決めることは重要だけど、それに囚われてしまうことは臨機応変な選択肢を減らすことにつながるからね」
「…わかりました」
ノーラさんの言葉に、ゴレットは目をつぶり頷いた。
「さて、大筋の話は終わったみたいだけど、最後にヨナちゃんがゼブリーズの別荘に侵入した時のことを話してもらえるかい?」
「わかった。ヨナが別荘に侵入する前後のことを話す」
ヨナちゃんの話が終わって、次にルシアさんの話が終わればユウナちゃんを救うための今後の方針を決めることになる。その時にボクはノーラに対する決断をしなくちゃいけないんだ。ううん、それ以前にボクたちの実力でゼブ様たちを倒すことが可能なのかな。
お読みいただきありがとうございました。




