第3話 光の剣とネコさんたちの作戦会議(仮)
タイトルは後程変更します。現在は仮のタイトルです。
「魔物の異常行動がどうゼブリーズ代表につながるというんだ、ヨナ」
皆も疑問に思ったようだね。ヨナちゃんがボクたちに頷いて話を続ける。
「今はユウナがゼブ様に誘拐された事実がある。だからヨナがノーラさんを疑ったことを皆納得している。だけど、ヨナが疑った時点では憶測の域を出ていない」
「えぇ、そうですね」
「怪しいというだけでは強硬策を取れない。尾行もあくまで屋外にとどめていた。だから、ユウナが巻き込まれているもう1つのトラブルを探ってみることにした」
「それが魔物の異常行動というわけですね」
「確かにゴブリンキングもワイバーン討伐もノーラが関わっているけど…まさか魔物をノーラが操っているって言うの!?下手をすれば街の住民にも被害が発生する行為だよ。いくらなんでも、ノーラがそんなことをするはずがないよ!!」
ノーラがユウナちゃんの命を奪おうとしていることは事実だよ。だけど、無差別に被害者を出すことすら厭わないとは思いたくない。もちろん、被害者がユウナちゃん1人だから良い、多数だから駄目だという話でないことはわかっている。けど、やっぱり今でもノーラのことを元同僚として、友人として信じたいという気持ちがあるみたいなんだ。だって、ユウナちゃんを取り戻せさえすれば、まだ決定的な過ちは犯していないと言える希望があるのだから。私の両腕の事だって、ユウナちゃんのおかげで水に流せるのだから。
「ミラ、落ち着く。順を追って説明する」
「うっ、うん。ごめんよ」
「街の防衛戦の後、ノーラさんの尾行を諦めてから東の森に行ってみた」
「ゴブリンキングが出現したエリアだな。僕とミラもゴブリンキングとの戦闘の後で探索をした。2体のゴブリンキングの出現が強大な敵に遭遇したことが原因の可能性があったからだ。ただ、カーヤの街に進行してきている魔物の群れを発見したから、探索は中断となったが」
「今更だけど、ワイバーンが原因だったんじゃない?」
「どうかな。ワイバーンが相手だとゴブリンキングも逃走するだろう。だけど、ゴブリンキングがいた時点で近辺にワイバーンがいたのか不明だから、直接の原因だとは否定も断定もできないな」
「うーん、やっぱりそうだよね」
もしかしてと思ったけど、やっぱり違うよね。
「ヨナが検索した時も、ユウナたちと同じように東の森に不釣り合いな強い魔物との遭遇があった」
「強い魔物ですか?」
「シルバーウルフが4体とオークが数体」
「えっ?シルバーウルフの発見者ってヨナちゃんだったの?」
オークの出現はまれにあることだから、冒険者の街としては極端に慌てふためくほどのことじゃない。でも、シルバーウルフは危険な魔物だ。本当なら討伐依頼が出されたり、防犯課のボクたちに出動の指示が出される。でも今回は発見者によって討伐されているということで注意喚起に終わったんだ。
「冒険者ギルド―当日受付をしていたノーラさんに直接報告をあげた。ギルド経由で防犯課にちゃんと情報提供された?」
「うん、注意喚起はちゃんとされているよ」
「公務員である俺たち清掃局にも、連絡は来ている」
「私たち一般の住民には危険な魔物が出没しているという連絡が来ました。東の森を含め不必要な街の外への外出は控えるようにとのことでした」
ノーラやシェラスがヨナちゃんの情報を握りつぶしていないということだね。やっぱり、魔物の異常行動とノーラたちは無関係なのかな。
「ところで、オークはともかくシルバーウルフの生息地はカーヤの街から離れているはずですよね」
シルバーウルフは銀色の毛皮の狼で、ボスに従い群れで行動する厄介な魔物だよ。マリアベルさんの言うように山間部が生息地だから、カーヤの街の周辺で出会うことは普通はないはずだけど。
「それに群れとしては4体は少なすぎるな」
「周辺をくまなく調べたけど、それ以上はいなかった」
ヨナちゃんがそう言う以上は間違いないよね。
「なるほど、ゴブリンキングの件と似ているな」
ラルフが言っているのは、以前戦ったゴブリンキングが20匹くらいだったことだよ。普通ゴブリンキングの群れは100匹くらいだからね。
「シルバーウルフとの遭遇も不思議。群れの数が少なかったことも不思議。だから、捜索範囲を東へとさらに伸ばしてみた。そうすると不審な建物にたどり着いた」
「不審な建物?」
「その建物は、後で調べたらゼブ様の別荘だとわかった」
「ゼブ様の別荘ですか。ということは東の森の東端の近くにある湖のほとりの別荘ですね」
「マリアベル、知っている?」
「えぇ、ゼブ様の孫娘のアリスさんが療養している別荘です。往診に何度か訪れたことがあります」
アリスちゃんをマリアベルさんに診てもらったとゼブ様は言っていたね。
「アリスちゃんがそこで療養していることは知らなかった」
「だが、東の森の東端とはだいぶ遠いな。湖だと街道で森の東端まで進んでから北にわかれた小道をさらに進んでいくはずだ」
「えぇ、往診の時はゼブリーズ様が馬車を用意してくれましたが、街道を進んでも半日以上はかかりますね」
「ヨナは森の中を横断する形で探索した。1日はかかった」
ボクとラルフも探索の時は馬で街道を移動して、街道に点在する休憩所から森へ入りある程度進んで引き返す。また次の休憩所に進み森へ入るという作業を繰り返した。それくらい東の森は広いから2人での完全探索なんて不可能だったんだけどね。
「ところでヨナさん、ゼブ様の別荘ですが不審がるような建物ではないと思いますが?」
「建物自体は綺麗で何もおかしな所は無い。不審なのは建物の周りに多種多様な魔物がいたこと。魔物除けの魔石の効力ぎりぎりの場所で取り囲まれていた」
「えっ、それってどういうこと!?」
▽▽▽
「私が以前訪れた時は周囲に魔物なんていませんでした」
「町や村の外にある建築物の周りには魔物除けの魔石の設置が義務付けされている。ゴブリンなどの魔物に奪われて根城にされてしまう可能性があるからだ。辺鄙な場所は例外だけどな。ゼブリーズ代表の別荘なら効果の高い魔石が使われているはずだ。だが、いくら効果ぎりぎりの距離とはいえ、魔物が建物を取り囲むというのは異常だぞ」
「そう、異常な光景だった。それで観察しているとあることに気づいた。魔物除けの範囲を越えて別荘に近づこうとする魔物がたまにいた。けど結界によって阻まれていた」
「結界ですか?」
「マリアベルが使う【サンクチュアリ】の拡大版みたいな感じ」
【サンクチュアリ】と言えば防御系魔法の最高位に位置している。魔王ネコちゃんとザインと二コラさんの戦闘で使われていたよね。
「確かに【サンクチュアリ】は全方位型の防御壁を展開する魔法です。ただ、範囲を広げるに比例して魔力消費量が増えていきます。あの別荘クラスとなると個人での展開は不可能でしょう。【サンクチュアリ】に類似した効果を発揮するマジックアイテムが使われている可能性がありますね」
「ということは、先ほどの尾行の話でシェラスさんが出てきたのと同じように僕たちは答えを知っているな。治療院の二コラさんがユウナの家を取り囲んだのと同じ結界を別荘でも張っていたと考えるのが妥当だな」
「えぇ、そう考えて間違いはないでしょう。二コラさんもアリスさんの治療を頼まれていました。ユウナさん襲撃にも協力していたくらいですから、別荘を護っていたとしてもおかしくはないでしょう」
「ただ、わからないのは魔物が何故ゼブリーズ代表の別荘を取り囲んでいたのかだ。ヨナ、原因はわかったのか?」
ゴレットの質問にヨナちゃんは首を横にふった。
「原因はわからなかった。わかったことは結界で別荘に入れないとわかると、魔物が諦めてその場を離れていくこと。そして別荘からある程度離れると好戦的な魔物が戦いを始めるということ。さっきまで争うこともせず同じ場所にいたにもかかわらず」
「魔物の種類によっては他種の魔物と戦闘を行うは確認されていますね。ただ、別荘から離れると戦闘を開始するとはどういうことでしょうか?」
「わからないな。別荘内に何らかの力があり魔物を集めているのか、逆に魔物が何かを求めて自発的に集まっているのか。別荘から離れることでその影響力から解放されて、魔物として本能的な行動による戦闘が行われているのだろうか?遠くから魔物が集まっている割りに、離れるだけで解放されるというのは不自然だがな。まぁ、考えて答えが出ることではないな」
何だか難しい話で頭がこんがらがってきたよ。
「だが、集まった多種多様な魔物が、別荘から離れると互いに争いあうようになるのか。なるほどな。これが魔物の異常行動の答えだな、ヨナ」
ゴレットが1人納得したように頷く。
「そう。ヨナもその光景を見て真っ先にゴブリンキングの件を思い出した」
「えっと、あっ、そういうことか」
ここで、ボクにもヨナちゃんが言いたいことが理解できた。
「別荘に集まった魔物たちの中にゴブリンキングの2つ群れがいたんだ。別荘への侵入を断念した群れは別荘から離れて、本能に従い戦闘になった。結果、魔法を使うゴブリンキングの群れが大剣のゴブリンキングの群れを倒して配下におさめたんだね」
「ヨナもそう思った」
「だけど、カーヤの街への魔物の進行についてはどうだ?」
ボクもラルフと同じ疑問を持った。
「それも同じ理屈でいいだろう。この周辺にいないはずのシルバーウルフですら引き寄せられた可能性がある。余程多くの魔物が引き寄せられていることだろう。多種多様な魔物が集まっては別荘から離れていくという状況。先ほどまで争うことなく一緒にいた魔物たちが別荘から離れたところで戦闘になるくらいだ。別荘に向かう途中の魔物と、帰っていく魔物同士が出会えば戦闘になる可能性も十分あるだろう」
「それはヨナも実際に確認した」
「そうか。なら、魔物が集まるにつれて別荘の周辺は戦場のように混沌としてきたはずだ。その混沌が、あるタイミングでカーヤの街を目標として進み出したというのが、魔物の侵攻の真相なのだろうな」
「あるタイミングって何なの、ゴレット?」
「お前がさっき自分で言っただろうが、ミラ」
「えっ、それってもしかして」
「おそらくワイバーンの出現だ」
▽▽▽
「ワイバーンは小型とは言えドラゴン種だ。カーヤの街に侵攻してきた魔物の中でワイバーンに太刀打ちできる魔物はいなかっただろう?」
「あぁ。ワイバーンを除いた中で一番強いゴブリンキングですら、飛行するワイバーンを地面に落とすことはできない」
「ですが、ゴレットさん。ワイバーンは防衛戦の当日にその存在が報告されました。魔物の侵攻自体は前日にラルフさんたちが確認しているはずですよ」
「そうだよ。ボクとラルフがワイバーンを見落とすなんてことはないよ」
「さっき俺が言ったあるタイミングとは、カーヤの街を目標として進み出した時のことだろうが。ミラたちが魔物の群れを発見した時のことじゃない。…お前たちは魔物はどこから移動してきていると思うんだ?」
ゴレットは答えをすぐに教えてくれない傾向にある。理屈っぽい性格のせいもあると思うけど、努力せず結果だけを得ようとする人を嫌っているからだ。こんな時だから早く話を進めてほしいけど、無意味なことをさせるはずもないから大人しく質問に答えたほうが良いと思う。それに今回の相手は格上のゼブ様たちだ。ボクも自分で考えて状況をちゃんと把握していないと危険な気がするんだ。
「それは別荘の周辺でしょ。あっ、さっきゴレットが話題に挙げたシルバーウルフもいるくらいだから、東の森を越えた北の山間部からも来ているんじゃないかな。だったら範囲はかなり広いかも」
「ミラにしては良い目の付け所だ。では、別荘の南からは集まるのか?」
褒められているのか、馬鹿にされているのかわからないけど、ボクの考えは合っていたみたいだね。
「南からですか?南からは…いえ、集まらないと思います」
「えっ、どういうこと?」
次の質問にはマリアベルさんが答えたけど、何で南から来ないの?
「ミラ、別荘の南には何がある?」
「それはさっきラルフも言ったけど別荘に続く小道があるでしょ」
「当たり前だろうが。それより南には何があるんだ?」
「だったら小道が繋がっている街道が…あっ!!」
ここでボクも気づいた。
「そうだ。魔物除けの魔石が設置されている街道だ。街道を越えて魔物は別荘まで集まらないだろう」
ゴレットの言う通りに街道には旅人が安全に移動できるように魔物除けの魔石が一定の間隔で置かれている。
「でも、東の森に行く時にユウナちゃんに説明したけど、街道にだって魔物が出ることはあるよ」
「そうだな」
意外にもゴレットがボクの意見に同意したよ。
「ミラ、魔物が町や村を襲撃することがある。それはどういう時?」
ゴレットに代わって、次はヨナちゃんが質問をしてきた。
「え?それはゴブリンやオークが女性を略奪に来る時や、魔物と戦ったり襲われている人が町に逃げ込んだ時。それとドラゴンのような魔物除けの魔石が効果がないような危険種族が気まぐれに襲撃してきた時だよ」
「そう。ドラゴンならいざ知らず、ゴブリンですら魔物除けの魔石を無視して襲撃してくる時がある。これはどうして?」
「えっと、魔物の戦意が高揚している時に魔石が効いていないのだと言われているけど」
「そういうことだ。状況によっては魔物に魔石の効果がなくなることがある。例外があるということだ。だが現に多くの魔物が街道を横断しているという一報がカーヤの街に入ったか?」
「えっと、無いよ」
そのような報告があれば、ボクが出動させられているはずだからね。何だか釈然としないけど、事実だから頷くしかなかった。
「魔物が街道を横断しているという一報が入っていない以上、別荘から離れる魔物も南下するために街道を横断していないということだな」
「えぇ、そうですね」
「では、別荘から離れようとする魔物は扇形に北方面か東か西に移動するはずだ。そうするとどうなる?」
「ヨナが見たように集まってきた魔物と戦闘になるんじゃないのか」
「なら、戦闘はどちらが有利だ?ラルフ」
「それは魔物の種族によるだろう。だけどゴレットが言いたいのはそういうことじゃないな。単純に考えると、後から後から押し寄せて集まってくる側の魔物が有利だと思う」
「ふんっ、ミラよりは利口だな。あぁ、そうなるはずだ。魔物同士が戦闘している中に、後から別の魔物が現れて参戦してくる形だ。北側と東側からの圧力が大きくなっていくだろう」
「西側からの圧力はどうなの?」
「さっきと同じ質問になるが別荘の西側には何があるんだ?」
えっと、もちろん東の森だよね。でも、ラルフの答えを例にするとそんなことわざわざゴレットが質問しないよね。ということは…。
「あっ、カーヤの街だ」
「ミラでもわかったようだな。別荘の西には強固なカーヤの街がある。カーヤの街から北に延びる街道もあるな。それらを越えて東の森へ侵攻している魔物はいなかっただろう」
ゴレットの言うとおりだ。カーヤの街は、街の中心から東西南北の門に向けてメインストリートが四方に伸びている。門を出るとそれぞれのメインストリートが街道につながっている形なんだ。カーヤの街の城壁も、東西南北の街道も魔物除けの魔石が設置されているのだから、魔物が通過していくことはないはず。もちろん、通過する魔物がいれば、見張りが見つけて、ボクたち防犯課の職員や冒険者によって討伐されているのは間違いないね。
「元々、カーヤの街につながる東西南北の街道は魔物の進行を妨げるために敷設されそうだからな」
カーヤの街は最大級のダンジョンの近くに作られた街だから、そのような機能があってもおかしくないはずだ。
「不利な魔物たちは水と同じように圧の少ない方に逃げていこうとするだろう。本当なら南に逃げたいが、魔物除けの魔石がある街道が邪魔をする。逃げる魔物は戦意が低下しているから、魔石の力はより効果的になるだろう。だったら、魔物は何処へ向かう」
「圧力の少ない西側―カーヤの街だよね」
「そうだ。実際に魔物の侵攻を発見したのはラルフとミラだろう。何か感じなかったのか?」
ゴレットに促されて、あの時のことを思い出す。
「僕たちはカーヤの街から東へ東へと探索していった。確かに道中は静かなものだったから、東の森の魔物が別荘へと向かっていった後だったのか」
「あと気になっていたことは、多種多様な魔物が群れになっていたこともそうだけど、一丸となってっていう感じではなかったね」
「あぁ、その時は魔物が群れとなってカーヤの街に侵攻してきたと思っていた。だが、人間のように統率が取れていたようには感じなかった」
「だから、ラルフたちが魔物の群れを発見した時点では、混沌のままにカーヤの街の方向に流れてきたにすぎない。カーヤの街は目標となっていなかったはずだ。実際、ワイバーンが発見されてから魔物の進行速度が上がっただろう」
「えぇ、魔物の到達予定が数時間早まりましたね」
話を聞いているとワイバーンがキーポイントだということは間違いなさそうだね。…うん?あれっ、ゴレットの推測っておかしくない?
「ちょっと、待ってよ、ゴレット。ワイバーンの出現から魔物の進行速度が速くなったのは間違いないよ。でも、カーヤの街に接近してきた時にはワイバーンは魔物の群れを飛び越して先行していたよね。魔物たちは、ワイバーンを恐れてカーヤの街の方へ速度を上げていたんでしょ。だったら、ワイバーンが自分たちを無視して上空を通過していったら、東の方へ逃げるんじゃないの?ワイバーンが現れたことによって、魔物たちの目標がカーヤの街になったっていう推測は無理があるよ!?」
「確かにそうですよね」
「あぁ、魔物のカーヤの街への進行の前提が圧力だというのなら、ワイバーン以上の圧力はないはずだ」
魔物が西に移動する流れは、後から集まってくる魔物たちに追い立てられていったからだとゴレットは推測した。でも、その魔物の中で最強のワイバーンが自分たちが逃げている方向に先に進んだら、危険を感じて東へ転進するはずだよ。
「はっ、ミラが真っ先に意見するとはな。もちろん、俺も気づいているさ。だから、このワイバーンの行動が重要なんだ。だいたい、ワイバーンの存在と同じように、ミラが先に言い当てていたんだろ」
「えっ、どういうこと?」
「お前は魔物の異常行動に話題が移った時に、ヨナに怒って詰め寄っただろう。それが正解だったんだ」
「まさか…ノーラがワイバーンを…魔物を操ったっていうこと!?」
「あぁ、そういうことだろうな」
ボクの問いかけに、ゴレットはいつも通り冷静に頷くだけだった。
お読みいただきありがとうございました。




