第2話 光の剣とネコさんたちの作戦会議(仮)
「それでヨナさん。ノーラさんのどこに不信感を感じたのですか?」
マリアベルさんがヨナさんに話すよう促した。
「ユウナの家に何回か泊まらせてもらった時に、いろいろと話をした。ユウナは賢いからカーヤの街に来てからのことを鮮明に覚えていた。話を聞いていると違和感を覚える話が何回か出くる。その時には必ずノーラさんが登場していた」
「違和感だと?」
「そう。順を追って説明する。まずはユウナが冒険者登録をした時」
「僕がザインを倒したときのことだな。欺かれていたわけだが」
「本当ならノーラさんかシェラスさんがザインと戦っていないとおかしいと思った」
「でも、ヨナちゃん。ザインは冒険者ギルドは冒険者の行いに不介入というルールを建前にしてユウナちゃんに絡んでいたんだよ。言いたくはないけど、仕方ないと思うよ」
「ミラがノーラさんの立場ならどうした?」
「もちろん、ユウナちゃんにちょっかいかけた時点で即瞬殺だよ。まぁ、ボクが負けるけどね」
実際につい先ほど倒されたよね、ボクの方が。
「まぁ、脳筋女のミラならそうするだろうな」
「何よ、頭でっかち男が!!」
「じゃれつくのは後にする」
「二人とも、ルシアさんとルゥちゃんの前だぞ」
「なかなかに仲がいいね。ミラちゃんとゴレット君は」
「うっ」
「ちっ」
ゴレットのせいで恥をかいちゃったよ。
「話を戻す。ネコさんが立ち向かおうとした時点で、やっとノーラさんたちがザインを倒すために動いた」
「うん。確かにユウナちゃんみたいな女の子がザインに絡まれていたのに、ノーラにしたら行動が遅いね」
「ゴレットの説明にあった。ノーラさんがユウナを助けて親しくなる思惑。ユウナが怖がってから助けたほうが効果的なのは間違いない」
「そうだね。だけど、それだけでノーラを疑ったわけじゃないんだよね」
「そう。この話を聞いたときは違和感を感じただけ。次は薬草採取の話」
「そのことだが、俺も話を聞いたときは違和感を感じたぞ」
「その、私も同じです」
ヨナちゃんの言葉にゴレットとマリアベルさんが同意したけど何のことだろう?
「違和感って何かあったかい?」
当事者であるラルフとボクだけがピンと来ていないみたいだ。
「それは、そもそもユウナが採取クエストを引き受けたこと」
「生活が懸かっていたから仕方ないと思うけど」
「ヨナが言いたいことはその事じゃないだろう」
「ヨナさんが違和感を感じたのは、多分ラルフさんとミラさんの二人が居合わせながらクエストを引き受けたことですよ」
「いや、僕たちがいたから引き受けたんだよ」
「まだ、わからないのか。はぁ」
ボクとラルフを見てゴレットが呆れたようなため息をつく。どういうこと?
「ラルフとミラがいたら素人のユウナが採取クエストの受注をとめるべき。ゴブリンキング(・・・・・・・)の出没の可能性があったから」
「えっ!?いや、あくまで可能性だったし。それにボクたちがユウナちゃんを護れば大丈夫でしょ。実際倒したんだし」
「そうだぞ。それにユウナはこれから採取クエストに挑戦するというから戦闘訓練も兼ねていたんだ」
「だから、それがおかしいだろうが。お前たち二人ならゴブリンキングを相手にしても問題ないが、そんな危険な場所に素人の娘を連れて行くなんて正気の沙汰だと言っているんだっ!!」
「うっ」
ボクたちの言葉にゴレットがいら立ったように叫ぶ。
「ミラさん、ラルフさん。あなた達がすべきだったのは、最低でもゴブリンキングの危険性がなくなるまでユウナさんに採取クエストを引き受けないよう説得することだったでしょう。収入の不安があるのならミラさんがユウナさんが受けれる効率の良い雑用クエストを見繕ってあげたらよかったですし、ラルフさんは冒険者ギルドの施設での戦闘訓練を引き受けてあげればよかったのでは?最悪、私を紹介してくれれば食住の心配はなかったはずです。世界樹教団として手を差し伸べることができることはご存知ですよね」
「たっ、確かに」
「うん…そうだね」
あの時、エルフネコさんが助けに来てくれなかったらユウナちゃんたちが怪我を負っていた可能性があるよね。そもそもゴブリンキングが2体現れて、ピンチに陥っていたのだからボクたちはユウナちゃんの訓練依頼を失敗していると言われても言い返せない。
「ようやく理解したようだな。だが、お前たちどうしたんだ?」
ゴレットですらボクたちの狼狽を見て戸惑っている。それ以上にボクたち本人が戸惑っているのだけど。今までは正しい行動を選択していたと思っていたのに、ゴレットたちに指摘された途端に自分の異常性に気づいてしまったのだから。
「2人がユウナの薬草採取同行を引き受けたのは何故?思い出す」
ヨナちゃんの質問に記憶を探ってみる。
「えっと、確か…ノーラに2人がいれば大丈夫なのではと言われたから」
「…そうだな。それにユウナは単に戦闘訓練の依頼をしてきただけなのに、ノーラさんが東の森で薬草採取の練習を兼ねた戦闘訓練をするように勧めていたはずだ。だが、ボクたちは何故引き受けたのだろうか?今更だけど皆の言う通り僕たちの選択はおかしすぎるな」
ボクと同じようにラルフも首を傾げている。何でユウナちゃんたちを危険にさらしたのだろう。
「あの、推測ですがノーラさんが所持していたヴァルゴという指輪を使われたのではないでしょうか?【乙女の祈り】という状態異常を付与する固有魔法です」
「ゾディアックの武具か。魔力消費で任意の状態異常を付与すると言っていたな」
「はい。私とネコさんたちは麻痺状態にされましたよね。ラルフさんたちは魅了か混乱の異常を付与されたのではないのでしょうか?」
「確かに魅了や混乱は思考力の低下につながるな。」
「でも、ボクは魔法を使われた記憶はないよ。流石に記憶を操作する魔法なんてないよね」
「そうですね。ただ、マジックアイテムは通常の魔法と違い使用するにあたって、過度な集中や魔法名の詠唱を必要としません。もちろん、集中や詠唱をしたほうが魔法威力は上昇しますが」
「それで僕たち2人を相手に異常を付与できるのかい?」
「ノーラさんの実力はどれ程のものだ。ミラ、お前なら知っているんじゃないのか?」
「えっと、冒険者としてはCランクだけど魔力量だけは自身があるって言っていたよ。一緒に戦闘なんかはしていないけど、ボクが冒険者ギルドに所属していた時の情報だから嘘はつかれていないはずだよ」
「多分、正しい情報でしょう。【乙女の祈り】を使われた時に私は全力で抵抗しました。もちろん天使ネコさんたちも。ですが、その抵抗を覆いこむような感じで麻痺状態にされましたから」
「マリアベルがそういうのなら間違いないだろうな」
「えぇ。私と天使ネコさんとエルフネコさんは麻痺までの時間がかかりましたが、ネコさんとドワーフネコさんは比較的早くにマヒ状態になりました」
「にゃふっと」
「にゃぷっと」
マリアベルさんの言葉にネコちゃんとドワーフネコちゃんが頷く。
「これは魔法抵抗力の差によるものだと思われます。魔法の才能がある者ほど魔法によるダメージや影響が少なくなりますよね。先ほどのラルフさんの質問についてですが、私たち5人を相手に麻痺を成功させたのですから、戦士系の2人なら成功することは可能だと思います」
「ミラは魔法を使えないし、僕も魔法の才能はあるが不得手だから魔法職には後れを取るな」
ボクは魔法が使えないから何とも言えないけど、ラルフがそう言うのなら間違いはないと思う。
「ノーラさんがラルフたちをどうやって誘導したのか疑問に思っていた。でも、マリアベルの話を聞いて納得できた。状態異常でラルフたち誘導させユウナを戦闘のある場所へと誘いだした。間違いない」
ヨナちゃんの、いや、ゴレットとマリアベルさんも感じた違和感は正しかったんだ。悔しいけどボクとラルフは…ノーラに操られていたんだ。
「ちっ。だがこれで代表の計画がわかったな」
「そうですね」
「ゴレット、まさか」
考え事が苦手なボクでもゴレットの言おうとしていることがわかった。
「あぁ、ノーラの【乙女の祈り】を使って、ユウナに【サクリファイス】を使わせるということだ」
▽▽▽
「状態異常の付与についてはノーラさんが自ら説明していました。あれほどの戦力差を見せつけられたのですから、問題ないと考えての行動でしょう」
ユウナちゃんが連れ去られていることは依然変わらないんだけれど、危機がより明確になったせいで重い空気が漂ってきた。
「やっぱり、話し合いは無駄じゃなかったようだね。今後の指針が決まったじゃないかい」
「ルシアさん?」
「まぁ、その話は後さね。ヨナちゃんの話を続けようか」
「わかった。ヨナが次に不信に思ったのはユウナが家を手に入れた件」
ヨナちゃんがラルフに頷いて話を戻した。
「ユウナさんが家を手に入れたのは、何かの依頼を解決した時のオマケだと言っていましたが」
「ボクもかいつまんでの説明だったけどそう聞いたよ。依頼者の秘密を守るためにどんな依頼かは教えてくれなかったけどね」
「ヨナはその依頼者を知っていた」
「えっ、そうなの!?」
「こんな状況だから教える。依頼者はゼブ様」
「代表だと」
「ゼブリーズさん?」
「そう。ヨナもゼブ様から別の依頼を受けていた。幽霊屋敷に入る冒険者が倒されたら救助するようにと」
「倒されたらっていうことは戦闘があるっていうこと?」
「冒険者が―ユウナが受けた依頼についてはヨナも聞いていない。ただ、幽霊屋敷に入るとガーディアンとして使役されている多数の魔物との戦闘が発生するということは教えてくれた。ノーラさん経由で幽霊屋敷の依頼を受けた冒険者がいると連絡を受けたから屋敷に行ってみた。ちょうど屋敷から出てきたのがユウナとネコさんたち」
ヨナちゃんがユウナちゃんと出会ったと言っていた時の話だね。
「そのことをユウナに教えた。やっぱり、依頼については秘密だと言われた。冒険者として賢い選択。けど、この依頼をノーラさんは本当はミラに依頼しようと考えていたということは教えてくれた」
「ボクに?確かユウナちゃんが屋敷を手に入れた時はカーヤの街を離れていたね」
「信頼できる人に依頼したかったそう」
「まぁ、元同僚のボクになら依頼しやすいと思うけど」
「でも、さっきも言ったように屋敷に入ると戦闘がある。これが問題」
「えっ?戦闘こそボクの得意分野だよ」
「相手が多数のゴーストでも?」
「ゴースト?」
魔物がゴーストとわかり表情をゆがめてしまった。ボクのような魔法の使えない冒険者にとって厄介な魔物だから。
「…いや、ボクでも装備やアイテムを整えたら戦えるけど…ゴーストなの?」
魔力の付与された魔法武器を使えばダメージは与えられるし、マジックアイテムなんかで戦況を良くする方法もある。だけど、多数で向かってこられたり、魔法を連発されるとゴースト相手でもボクは苦戦してしまうんだ。結果的に倒せるかどうかじゃなくて、その戦闘において危険があるのかどうかが重要だからね。もちろん、ゴースト相手に負けることはないし、時間がかかっても倒すことはできるよ。ボクはとにかく物理攻撃特化の戦士だから所持魔力量や魔法威力によってのダメージの増減がされる魔法武器との相性が良くない。ボクの最強武器であるピスケスも魔法武器ではあるけど、ボクでは物理攻撃の側面しか100パーセントの威力を引き出せていないし。
「ミラさんでも多数のゴーストを1人で相手にするのは面倒ですよね。私は得意分野ですけど」
ボクと違って、神聖魔法の使い手であるマリアベルさんだったら余裕な相手だよね。
「そう。ノーラさんが元同僚だからミラに頼るのは心情的にわかる。だけど、ミラが無理なら次に頼るべきはマリアベル。素人のユウナには頼まない」
「そうだよね。ノーラだってマリアベルさんと親しいんだから」
ノーラは優しい性格だから、世界樹教団のボランティア活動にボクと一緒に参加していた。その縁で冒険者ギルドの職員という立場を除いてもマリアベルさんと交流があったんだ。
「それがヨナが考えるノーラさんが不信だと思う3点目なのかい」
「そう。今となってはユウナに戦闘させるためだったとわかった」
「そういうことなんだね」
確かにヨナちゃんの説明が進むにつれて、ノーラの行動に対する不信感が増えていくのを感じた。
「最後の決定打になったのが、街の防衛戦での一幕。そこでヨナはノーラさんが何かしら関与していると思った」
「防衛戦というとユウナたちがワイバーン討伐を果たした時だな」
▽▽▽
「ノーラさんがワイバーン討伐についてユウナたちを指名した」
「あぁ、そうだな。だが、一番に賛同したのはヨナだっただろう?」
「私もヨナさんが太鼓判を押したのを見て、ユウナさんたちの参戦について安心したのですが」
ボクとゴレットは街の中にいたからその状況は知らないけど、ヨナちゃんとラルフとマリアベルさんはその場にいたんだよね。
「ヨナはその時点でノーラさんを疑っていた。だからあえて、ノーラさんの意見に賛同した」
「あえて賛同したのですか、ヨナさん?」
「そう。ノーラさんのセリフの最後が気になった。ワイバーン討伐に貢献したら報酬が貰えると言った」
「にゃぷっと」
ヨナちゃんの言葉にエルフネコちゃんが頷いた。
「その言葉にエルフネコさんが反応した。それを見たヨナはもしかして報酬を餌にノーラさんがユウナたちをワイバーン討伐に参戦させようとしているのかと思った。実際、ユウナはマイホームを手に入れたけど収入の見通しがなかったから」
「でも、ボクはエルフネコちゃんの実力を知っているから、ワイバーン討伐に推薦されても不思議でないと思うよ」
ユウナちゃんの収入に関しての指摘は合っていると思うけど、エルフネコちゃんの実力はワイバーン討伐に適うものだから思わず反論してしまった。
「それも否定はできない。でも、その時点でヨナはノーラさんについて不信感を持っていた。だからあえて、便乗した。『それならヨナが支援するからユウナたちに倒してもらう』と。ヨナがユウナの傍にいれば魔物から守れるから、ユウナたちにピンチは訪れないと」
「ヨナさんの意図はそういうことだったのですか」
「でも、その後のユウナとのやり取りでさらに疑問点が出てきた。ギルドカードの成りすましを防ぐ機能を知らなかったし、ワイバーン討伐を前にしてドワーフネコさんのスキルを教えてもらったりしていた」
「どちらもギルド職員が登録をした初心者にに教えるべき事項のはずだね。ユウナちゃんが忘れるなんてありえないから、ノーラが意図的に教えなかったのかもしれない」
「ユウナが少しでも不利な状況に陥るためなのだろうか?」
「あとユウナは戦闘に関して消極的なはずなのにが、ここぞという時には積極的になる。それでマリアベルの推測を元に考えると、ノーラさんに戦意高揚の状態異常を付与されていた可能性も出てきた」
「好戦的になり恐怖心に打ち勝つ効果や攻撃力が上がるメリットがあるが、思考が短絡的になるから戦闘が雑になったり負け戦でも逃げようとしないなどデメリットが大きな状態異常だな」
戦意高揚の状態はゴレットの説明にあったようにメリットもあるから、味方に援護の為にマジックアイテムや魔法でわざと付与することもあるね。
「ユウナは戦闘になる前には必ずノーラさんと会っている。ザインに街中で襲われた時もそう」
「ゴブリンキングに幽霊屋敷、ワイバーン討伐もだな」
「ワイバーン討伐からヨナはノーラさんを尾行してみた。街中では不審な点は見られなかった。だけど、街を出たノーラさんを度々見失った。どうやら尾行に気づかれたらしい」
「ヨナさんの尾行に気づき逃れたのですか?」
「ノーラがヨナちゃんの尾行に気づくのは難しいと思うよ。見失ったことも合わせて考えるとシェラスだね。シェラスが気づいて空間転移魔法で迎えにいったと考えるべきだよ」
「そうとしか思えない。そして尾行に気づいていながら注意してこないことで怪しさがました。だけど、尾行では情報を得られない。だから別の視点から探りを入れることにした」
「別の視点ですか?」
「そう。ユウナの別のトラブル。魔物の異常行動について」
魔物の異常行動って、ゴブリンキングと街の防衛戦のことだよね。それがどうやってノーラに、いやゼブ様につながるの?
お読みいただきありがとうございました。




