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ユウナとネコさんたちの異世界生活  作者: 藍
第6章 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀
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第5話 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀(4)

「えっと、ここは?」


 先ほどまで庭でゼブ様と対峙していたはずですが、今は家の中に立っていました。周囲を見渡すと壁などが丸太で構成させているのでログハウスの中にいるのだと思います。


「ここはネコさんたちの家だ、ユウナ」


「え?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには薄緑色のロングヘアの女性が立っていました。顔立ちはミラさんと同じ西欧風で、古代ギリシアの女性が着ているイメージの純白の衣服を身に纏っています。そしてあり得ないくらいの美人ですね。


「えっと、リューネ様ですか?」


「あぁ、そうだ。実際に顔を合わせるのは初めてだな」


「はい、初めて会った時は何も見えませんでした」


「本当ならこうして顔を合わせたことを喜びたいのだが状況が状況だから残念だ。今は世界樹の森にあるネコさんたちの家にユウナを転送してもらったところだ」


「世界樹の森のネコさんたちの家?」


「ネコさんたちは私が管理している世界樹の周りにある森に住んでいる。このログハウスはドワーフネコさんが建てた家だ」


 そういえば、孤児院のクーちゃんたちに本棚を作る時にドワーフネコさんがログハウスを建てたことがあると教えてくれましたね。しかし、凄いクオリティーです。しかも、ネコさんたちのサイズに合わせた家ではなく、私たち人間が使う家と同じサイズですね。


「だから、ネコさんたちとリューネ様は友達だったのですね。あっ、あのこうして久しぶりにお会いしたのに不躾ですみませんがミラさんを助けるために『世界樹魔法の才能』を授けて下さい!!」


「状況はわかっている。落ち着くんだ、ユウナ」


「ですが、ミラさんは両腕を切断されているのです。早く治療しないと命が!!」


「今回の件は私に責任がある。だから女神長に頼んで世界の時間を止めてもらった。ユウナにはその力が及ばないよう私の管轄下にある世界樹の森に転送してもらったんだ」


「えっと、女神長様が時間を止めている間はミラさん大丈夫ということですか?」


「あぁ、そういうことだ。ユウナ、今回の出来事については本当にすまないと思っている。申し訳ない」


「えっと、何故リューネ様が謝るのですか?」


「今回の出来事は私が引き起こしたと言ってもいい出来事だからだ」


「リューネ様が?アリスちゃんが病気になったのはリューネ様が原因ということですか?」


「いや、アリスが病気になったことの原因は私ではない。『世界の歪み』が発生した時か、管轄する世界が滅亡の危機に陥った時にしか、私はこの世界に干渉できないんだ」


「そうだったのですか。すみません、アリスちゃんについてリューネ様を疑うようなことを言って」


「いや、気にしないでくれ。実際、ユウナに迷惑をかけているのだからな」


「あれっ、でも私はこの世界に来た後でリューネ様から『消費体力減少の加護(小)』を授かりましたよ。あと、女神長様が対応して下さって『女神の魔眼の加護(小)』を授かりもしましたし、干渉されているのではないのですか?」


「ユウナ、私はこの世界を管理はしている。だが、この世界が滅びる可能性がある事態が発生しなければ、この世界の住民には全く干渉できないんだ。どんなに敬虔な世界樹教団の信徒が死の危機に陥ろうとも、どんなに悪逆非道な犯罪が行われようとも、世界の危機に達しなければ私は何も干渉できない。だが、何事にも例外はある。ユウナは何が例外だと思う?」


「えっと、世界が存亡の危機に陥った時には干渉するのですから、世界を救う勇者のような存在には干渉するのですよね?」


「あぁ、過去に数回世界の危機が発生して私が干渉したことがある。だから、例外とはそれ以外の事だな」


「だったら…現に関与されている私みたいな存在…異世界転移者…に対してですか?」


「そう、異世界転移者が例外中の例外だ。ユウナたち、私の世界で産まれていない人物はこの世界において客人なんだ。だから、客人に危害が及ぶのであれば、私は管理者としてその人物を救うために干渉することができる。そして異世界転移者には客人たる証として、この世界に訪れた時に渡すものがある。それが今回の出来事にユウナを巻き込んでしまった」


「あっ!?『女神の加護』ですか?」


「そうだ。『女神の加護』とは私が例外的に干渉できる人物の証なんだ。世界を救ってもらうために選んだ勇者にも授けるが、それらの人物を除くと異世界転移者のみが持っている非常にレアな加護だと思ってくれればいい」


「『女神の加護』を持っていたから私がピンチの時に有益な加護を授かることができたのですか。ということは桜さんもこの世界に来てから才能か加護を授かったことがあったのですね」


「あぁ、そのことをゼブリーズ・バートンにサクラが話したことがこの出来事が起こった要因の1つだ」


「あの不思議に思っていたのですが、桜さんは何故ゼブ様に全てを話したのでしょうか?」


 時間があった時に桜さんがこの世界での出来事を書き残した『二宮桜の異世界生活』に目を通しました。日記や小説のような形式ではなく、ビジネス文書が得意というだけあって時系列順に起こった出来事を端的に書いていました。ゼブ様の協力を得たとは書いていましたが全てを打ち明けたなどといった詳細までは書いていなかったのです。多分、必要最低限のことしか書き記さなかったのでしょう。


「そのことについても謝らなければならない。サクラに相談されて私が話しても問題ないとアドバイスをしてしまったからだ」


「リューネ様が?」


「サクラの目的は日本に帰還することだ。この世界で穏やかに暮らすだけならこの世界の住人に教えるべきではないが、どうしても事情を知っている協力者が必要だったんだ。ゼブリーズは今でこそ孫のためになら手段を択ばない鬼になっているが、当時孫は発病していなかったから人格的にも権力的にもサクラのパートナーとして相応しい人物だった。現にサクラがカーヤの街にいた間は良きパートナーとして働きを見せていた。それがこのようなことになるとは、私のミスだ」


 すまないとリューネ様が頭を下げます。


「そしてもう1つの要因はユウナが…いや、ゼブリーズが欲しがっている『世界樹魔法の才能』だ。『世界樹魔法の才能』を持っていた人物はこの世界にただ1人しかいない。ユウナも先ほど聞いたと思うが聖女のことだ」


「聖女様しか持っていなかった才能?」


「世界樹魔法は私が聖女の願いを聞き入れ、世界樹の力を元に作り授けたオリジナルの固有魔法なんだ」


「そのような特別な魔法だったのですか!?」


「あぁ、ユウナの世界のファンタジー作品なら欠損した部位を元の状態に戻す再生魔法に、死者を蘇らせる蘇生魔法や蘇生アイテムなどは頻繁に登場して珍しいものではないかもしれない。だが、私の管理するこの世界では神の御業とも言える奇跡中の奇跡だ。だから、【サクリファイス】は自己の命を差し出すことを条件として課すことで、使用可能になっているんだ」


「そうだったのですか。そのような魔法が作られるなんて、聖女様が生きた時代は世界の危機に瀕していたのですね」


「…聖女に『世界樹魔法の才能』を授けた理由はそうではない。いや、この話はよしておこう。とにかく、私が過去に作ってしまった魔法で聖女は命を落とし…いや、これは初めからわかっていたことだな…。現在に至ってはユウナの命を奪おうとしている。本当にすまない」


「リューネ様の責任ではありません」


「…ユウナ。このまま君はここに残り、ゼブリーズから逃げてくれ。ネコさんたちもすぐにこの家に転送してもらう」


「リューネ様!?」


「先ほども言ったがユウナは地球から来た客人だ。客人の危機を、それも私の行いが原因である危機を見過ごすことはできない。ユウナがいなくなってもゼブリーズたちはミラたちを殺すことはない。治療院の二コラが傷口をふさぐだろう」


「ですが、私が『世界樹魔法の才能』を授かって戻らないと、ミラさんだけでなくラルフさんたちの両手が…いえ、それよりもミラさんの両手を再生することができません。私はミラさんを助けたいのです!!」


「だがユウナが『世界樹魔法の才能』を得て戻れば、確実に【サクリファイス】を使わされて死ぬことになる」


「私は絶対に使いません」


「いや、ゼブリーズは頭の良い男だ。強硬策に打って出たからには【サクリファイス】を使わせる方法を確実に用意しているはずだ」


「うっ。あっ!!ではミラさんたちもここに転送してもらえませんか。それならゼブ様たちから逃げれて怪我を癒すこともできますし」


「すまないが、それは無理だ。始めに言ったが私はこの世界の住人に干渉できない」


「でも、ネコさんたちも転送してもらうと言ったじゃありませんか?」


「忘れたのか、ユウナ。ネコさんたちも『女神の加護』を持っている。だから、この世界の最果てにある世界樹の森からユウナのいる場所に順次転送することが可能だったんだ」


「あっ」


 そうでした。ネコさんたちも持っていましたね。だったら、他に何かいい方法は…。


「あっ!!」


「どうした、ユウナ?顔色が悪くなったぞ」


「いえ……消極的で…非道な考えを思いついたのです。ほとぼりが冷めるまでここにいて…ミラさんたちを癒しに戻るというのは…どうでしょうか?アリスちゃんが死ぬのを待つ…ということですが…」


 自分のあまりな思いつきに自己嫌悪に陥りそうです。


「それは…難しいだろう。すまない、先ほどはミラたちは殺されることはないと言った。だが、無事に解放されることもないだろう。多分、一生監禁されるだろう。そしてゼブたちはユウナの捜索を続ける可能性が高い」


「えっ、アリスちゃんが亡くなってもですか?」


「ユウナはアイテムボックスという魔法を知っているな」


「はい、宿屋の店員さんにアイテムボックスと同じ効果のあるマジックバッグが開発されたと聞いて、その時に教えてもらいまし…えっ、まさか」


「そうだ。アイテムボックスは実力次第で収納できるスペースや重量制限が拡大される。アイテムボックスには生き物・・・は保管できないという短所はあるのだが…」


「つまりアリスちゃんが亡くなった後に亡骸を…」


「そいうことだ。ゼブリーズは出来ることならアリスを生きている間に癒したいのだろう。孫が死ぬところなんて見たくないから、今回強硬策に打って出た。だが、それが叶わなくても蘇生させることができるのだったら諦めることはないはずだ」


「では、私はずっと追いかけられると…。いえ、それよりも私のせいでミラさんたちが監禁されるなんて。何か、何か良い方法はありませんか?例えば、ゼブ様たちを倒せたり、ミラさんたちと一緒に逃げたりできる才能や加護はありませんか?」


「才能や加護によって強力なスキルや魔法を手に入れることは可能だ。だが、それを使いこなすには基礎能力が必要となる。ゼブリーズたちほどの実力者をユウナやラルフたちが倒すことは不可能だろうし、転移魔法は今のユウナの魔力量では使いこなすことはできない。何より人が持てる才能や加護の数はあまり多くない。ユウナは今でさえ多くの才能と加護を所持している。これにミラを癒すために『世界樹魔法の才能』を手に入れるつもりなら、他の才能や加護を所持するには容量オーバーになると考えてほしい」


「そう…ですか…、そうですよね。そのような才能や加護があるのでしたら、リューネ様が真っ先に提案していますよね」


「ユウナ、私は転移者をできるだけ助けたいと思っている。それは私が管理者であるとか転移者が客人であるといった理由からではない。私が過去に犯した過ちからくる贖罪なんだ。だから、サクラにもできるだけのことをしたし、ユウナの命を助けたいと思っている。それでもユウナは『世界樹魔法の才能』を望むのか?」


「…私は会ったことのないアリスちゃんについては自分の命を優先させて切り捨てることを選びました。…でも、私は助けてもらって、一緒にご飯を食べて、他愛のない話をして笑いあったミラさんたちを見捨てることはできそうにないのです。ミラさんたちを助けたいのです。わがままを言っていることは理解しています」


「その結果、両親との約束を破り死ぬことになってもか?」


「…長生きする約束は守りたいです。ですが、お父さんとお母さんは人に迷惑を掛けない生き方をしなさいと言って私を育ててきました。人として守るべき生き方があると思うのです。私が原因で苦しむ人や悲しむ人を作りたくはないのです。…おかしいですよね、アリスちゃんのことは見捨てようとしているのに…」


「いや、それが普通の考え方だ。そうか…そうだな、心優しいユウナだからこそ、ネコさんたちもユウナのことを好きになったのだろう。わかった。ユウナに『世界樹魔法の才能』を授けよう」


「リューネ様っ」


「だが、ユウナ。この才能を受け取るということは【サクリファイス】を使わされるということだ。つまり、死ぬということだ。覚悟だけはしてくれ」


「私は最後まで抗ってみます」


「何もできない自分が情けないな。…それでは今からユウナ・イチノセに『世界樹魔法の才能』を授けます。目を閉じ心を落ち着かせてください」


「はっ、はい」


 雰囲気の変わったリューネ様から清らかな暖かい風が発生し、私の身体を包み込んでくれているようです。


「ユウナ、目を開けるのだ。ギルドカードを確認するといい」


「はい」


 リューネ様に促されてギルドカードを取り出し確認します。


 『世界樹魔法の才能』

  世界樹の力を元に女神リューネが産み出した世界樹魔法が使えるようになる。

  使用可能魔法:リジェネ―ション

         サクリファイス


 続いてサクリファイスをタップします。

 

 【サクリファイス】

  使用者の命と引き換えに対象者の怪我、病、死すらも癒すことができる究極の治癒魔法。


「ありがとうございます、リューネ様」


「気にしないでくれ。だが、これで後戻りはできなくなった。せめてもの抵抗として容量に余裕があったから『状態異常耐性の加護(小)』も授けておいた」


「何から何までありがとうございます」


「礼はよしてくれ。結局はユウナが死ぬことを黙って見守るしかない情けない女神だ」


「あの、今更ですが私に【リジェネ―ション】と【サクリファイス】を扱えるだけの魔法の素質があるのですか?ゼブ様はそのことを懸念してザインやノーラさんを使い能力の底上げを図ったと言っていたのですが」


「ユウナの魔法制御力はAランクの冒険者並みだ。あと、魔法威力こそ低いが魔力量はBランクの冒険者に近いものがある。良いのか悪いのか【リジェネ―ション】と【サクリファイス】は、気絶覚悟で唱えればユウナでも発動することができるはずだ。もちろん、【サクリファイス】の方が命を懸けるとはいえ必要とする消費魔力量も魔法制御力も【リジェネ―ション】より上なのだがな」


「そうですか。私が2つの魔法を使える前提でゼブ様たちが行動しているので疑問に思わなかったのですが、もし私の能力が足りなかったらゼブ様たちはどうしたのかと思ったのです。実際に戦闘経験自体は数えるほどでしたし」


「そうだな。確かにそれはおかしいな。私が考えていた強制的に【サクリファイス】を使わせる方法はユウナの実力が伴っていることが前提だ。私はユウナが異世界転移を果たした時点でも世界樹魔法を扱える実力があるのを知っていたから、その前提で話をすすめていたのだが…。聖女しか使ったことがない【サクリファイス】を、ユウナの実力で使えるということをゼブリーズたちが知るはずはない」


「えっと、リューネ様?」


 リューネ様は私の呼びかけに気づかず自分の考えに没頭しているようです。


「ゼブリーズは『世界樹魔法の才能』を授ける時に、能力の底上げも私が行うと期待していた?いや、それならザインを雇った理由がなくなる。そもそも、ゼブリーズはそのような甘い考えをする人物ではない。私がサクラのパートナーとして相応しい人物だと判断したのだからな。うん?サクラ…そうか、サクラだ!!ゼブリーズの懸念事項、サクラの残した封筒、ゾディアックの迷宮。ユウナ!!時間を少しだが稼ぐことができるぞ!!」


「えっ!?急にどうしたのですか、リューネ様」


「私はユウナと同じようにサクラを見守っていた。だから、ユウナに対してゼブリーズが過去に嘘を言っていたことに気付いたのだ」


「嘘ですか?リューネ様は何に気づいたのですか?」


「今からユウナが【サクリファイス】をすぐに使わされない状況を作る」


すぐに(・・・)使わされないようにですか?」


「そうだ。ゼブリーズは何をもって『世界樹魔法の才能』を授かったと判断すると思う?」


「私がミラさんの両腕を癒すか、ギルドカードの提示を求めてくると思います」


「ユウナの言う通りだろう。では、ユウナが実力的に【サクリファイス】を扱えるのかどう判断すると思う?」


「えっと、それは実際に使うしかわからないのでは?」


「そうだ。まず、アリスのいる場所にユウナを連れていき【サクリファイス】を使わせるはずだ。現時点ではユウナの実力では【サクリファイス】を使うことができるのでアリスは癒され、ユウナは死ぬだろう」


「あの私が抵抗することは無理なのでしょうか?」


「残念だが無理だろう。だから、今から私がユウナに【サクリファイス】を使えなくする」


「えっ!!ですがそれだとまたリューネ様に願うように、ゼブ様がミラさんたちを傷つけるのではないのですか!?」


「大丈夫だ。ユウナの実力不足・・・・で【サクリファイス】を使えなくするのだ」


「実力不足で?」


「ユウナ、もう一度目を閉じてくれ」


「えっと、はい。わかりました」


「今からユウナ・イチノセに『最大魔力量低下の呪い(小)』を付与する」


「呪い!?リューネ様!!」


 先ほどの『世界樹魔法の才能』を授かった時とは反対にリューネ様から冷たく重苦しい風のようなものが流れ込んできました。


「これでユウナは【リジェネ―ション】は使えるが、【サクリファイス】は発動できないギリギリの魔力量になった」


 リューネ様の言葉に、慌ててギルドカードを見てみます。


「あれっ?あのリューネ様、何も変化はありませんよ」


「あぁ、今私が付与した呪いはユウナの世界のゲームでいうところのステータス異常だからな。この世界にはステータスを表示する技術はないからギルドカードには表示されないんだ。毒などの状態異常も表示されない。つまり、ゼブリーズたちはただユウナの実力不足で【サクリファイス】が発動しなかったと思うはずだ」


 そういえば、ノーラさんにギルドカードを作ってもらう時にステータス表示は無いと教えてもらいました。


「なるほど。でも、実力不足とわかるとゼブ様たちは私をどうするのでしょうか?まさか、魔物との戦闘を強制されるのですか?」


「いや、十中八九ゼブリーズはゾディアックの迷宮にユウナを連れていくだろう。ユウナが実力不足だった時の為に、戦闘経験を積ます・・・ついでにサクラの屋敷から封筒を取ってこさせたのだろうからな」


「桜さんの封筒?それは街を救うための桜さんのアドバイスが書かれた書類のことですよね」


「いや、サクラはそのようなものを書いてはいない。実際には、ちっ、もう時間のようだ。女神長から間もなく世界の時間が動き出すとメッセージが入った」


「えっ、だったら、早く庭に戻らなくては!!私がいないと、私をおびき寄せる為にラルフさんやネコさんたちの両腕を切られる可能性が!!」


「落ち着くんだ、ユウナ。今すぐ時間が動き出すわけではない。とにかく先ほどの呪いですぐに【サクリファイス】を使わされることは無くなった。数日は時間を稼げたはずだ。ユウナが助かるにはその間に解決策を考え実行する必要がある」


「数日で…」


「状況はユウナにとって余りにも不利だ。諦めても、誰もユウナを責めることはない。やはり、ここでネコさんたちと暮らしていかないか」


「…あの、リューネ様。私はまだ諦めていません」


「ユウナ…」


「考え方を切り替えます。アリスちゃんの病気が治れば、ゼブ様には私に【サクリファイス】を使わせる理由がなくなります」


「何かいい手があるのか?」


「いえ、残念ながら今は何も。アリスちゃんの病気が何なのかも知りませんから。リューネ様はわかりますか」


「すまないがわからない。『女神の加護』を持っている人物以外については、世界に影響を与えるような人物くらいしか注視して観察することができないんだ」


「そうですか。リューネ様は今回の騒動の原因は自分にあるとおっしゃっていましたが、本当の原因はアリスちゃんの病気です。病気を完治することができれば、私は死ぬことなくゼブ様たちもこれ以上犯罪に手を染める必要がなくなります。先ほどまでは庭に戻ってから行動する時間が無かったので私が逃げるかゼブ様たちを倒すかの選択で考えていました。ですが、リューネ様に作ってもらった数日間が今はあります。私はその数日間でアリスちゃんを助ける方法を模索してみます!!」


「そうか…そうだな。ユウナがやる気なら私も最後の悪あがきを行おう。まだ合流していないネコさんの最後の姉をユウナの家の近くまで転送する。本当なら庭に直接転送させたいが、結界が邪魔をして無理そうだ」


「ネコさんのお姉さんですか」


「あぁ、彼女は姉妹の中で一番戦闘に特化している。ただ、彼女でもゼブリーズたち実力者を複数相手にするのでは勝つことはかなわないだろう。この状況に対しては、正直焼け石に水にしかならないと思うのだが」


「それでも焼け石の温度は少しでも下がるはずです」


「そうだな。ただ、無意味に彼女を転送するわけではない。戦闘に特化しているとはいえ敵のザインみたいな戦闘狂ではないからな。文武両道のゼブリーズのようなネコさんだ。この戦闘に敗退しようともユウナを救う糸口を見つけようとするはずだからな。あと、ラルフたちへの伝言のメモも持って行ってもらうとしよう」


「ありがとうございます、リューネ様」


「ちっ、いよいよ時間が来たようだ。それでは元の場所に送り帰そう。…ユウナ、本当にすまない」


「大丈夫です。最後まで抗ってみますから」


 私はまだこの世界でネコさんたちと楽しく暮らしたいの…だか…ら…。


▽▽▽


「はっ!!」


「ユウナさん、女神には語り掛けたのか?」


「っ、ゼブ様」


 気が付くと庭に戻っていました。もしかしたら、私は悪夢にうなされていただけという夢オチを期待していたのですが、世の中はそのように甘くは出来ていないようです。


「くっ、ユウナちゃん…逃げ…て」


「ミラさん!?今、癒します」


 傍に倒れていたミラさんに近づき、意識を集中させます。


「うっ」


 【リジェネ―ション】を使おうと意識を集中しただけで貧血の時のような眩暈に襲われます。リューネ様は気絶覚悟で全魔力を投入しないと私には扱えないと言っていました。しかも、今は『最大魔力量低下の呪い(小)』をかけてもらっているのですから。


「私はミラさんの両手を癒す。絶対に癒す。私は癒すことができるのです!!」


 自分に言い聞かせて眩暈に耐えます。


「ミラさんを癒すのです!!」


 自分に言い聞かせることによって眩暈が治まってきた気がします。ただ反比例してなのか虚脱感のようなものが出てきました。


「くっ、大丈夫…。絶対に大丈夫!!【リジェネ―ション】!!」


 魔法名を唱えると猛烈な虚脱感が襲ってきました。ですが、ここで意識を失うわけにはいきません。ミラさんの両手が再生されるところを確認しないと!!ミラさんに差し出した私の両手から淡い緑色の光がミラさんに降り注ぎます。


「えっ?」


「これが…世界樹魔法の力なのか」


「ミラッ」


「嬢ちゃん、やるじゃねぇか」


「すっ、素晴らしい!!これぞ、女神リューネの、世界樹の奇跡です!!私は新たな聖女の誕生に立ち会えたのです!!聖女ユウナの誕生に!!」


「っ、ミ…ミラさん」


「ユウナ…ちゃん。治ったよ!!両腕が!!」


「よっ、よかった」


 ドサッ。


 え?気づくと私は倒れていました。くっ、今は指一本を動かすこともできないようです。ただ、意識だけは何とかつなぎとめているようです。


「ノーラ、ユウナさんに魔力回復薬を」


「はい、叔父様」


 ノーラさんが近寄ってきて液体の入ったビンを取り出します。ミラさんが私の前に移動しようとしますが、私と同じように倒れてしまいました。


「ユウナさん、魔力回復薬です。眩暈が多少軽減されるはずです。ミラ、安心して。変なものは入っていないから」


 ノーラさんが私を抱き起し、ビンを口元に近づけてきます。この状況で変なことはしないと思い、私は素直に回復薬を飲むことにしました。


「うっ」


 口に苦みが広がりましたが、しばらくするとノーラさんの説明したように眩暈が軽減され、自分で座ることができる程度になりました。


「ユウナさん、ギルドカードを見せてくれるかな」


「…どうぞ」


 ここで抵抗しても無駄なだけですから、近寄ってきたゼブ様に情報を提示する意思をもって渡します。


「見せてもらうよ。…確かに【サクリファイス】の魔法も授かったようだね。それではアリスがいる場所まで来てもらうよ。ザイン、ユウナさんを丁重に運んでくれ」


「やれやれ、ミラの次は嬢ちゃんか。俺様は馬車馬じゃねぇんだぜ」


 ザインが文句を言いながら私を軽々と抱き上げます。


「くっ…待て…」


「くそがっ。待て、代表」


「2人とも気が付いたか。気絶したままいればよかったのだが」


 振り向くとラルフさんとゴレットさんが立ち上がろうとしていました。


「君たちと私たちでは実力が違い過ぎる。大人しく寝ていたまえ」


「ふんっ。ユウナの命が…懸かっている時に大人しく寝ていられるか」


「ユウ…ナを返してもらおう」


「ラルフさん!!ゴレットさん!!」


 息も絶え絶えな2人ですが武器を構えて一歩一歩と近づいてきます。


「仕方ない。もう一撃だけ入れるとしよう。骨折くらいは覚悟してくれ」


「ゼブ様、やめてください!!」


 ゼブ様が刀身の無い柄を構え、離れた位置から振るうとラルフさんたちが吹き飛ばされました。


「もう邪魔は出来ないだろう」


 ギーーーーン!!


 ギーーーーン!!


「なんだこの音は?」


「これは…結界に対して攻撃を仕掛けている者がいます。正面入り口のところですね」


「二コラさん、この結界には擬装効果もあったのだろう?」


「えぇ、擬装効果により外から結界は見えません。魔力に長けている者が結界に気づき攻撃を仕掛けてきているのでしょう」


「結界は破られるのか?」


「私がアクエリアスを使って張った結界は並大抵の実力者には破ることはできません。結界を攻撃しているうちに、塀の端の方から出ていくほうがよろしいかと。ブラックミストをかけるので私たちに気づくことも無いでしょう」


「そうだな。結界で見えないがヨナさんが駆けつけてきた可能性が高い。彼女の斥候能力を考えるとアリスがいる場所まで追跡されては面倒だ。やり過ごすのが良いだろう」


 バキッーー!!


「なっ、私の結界が破られた!!」


 轟音がした方に視線を向けると、正面扉付近の黒い霧が霧散しているところでその奥に人がげがうっすらと見て取れます。


「誰だ、てめぇは」


「やれやれ、落ちぶれたもんだねゼブリーズ」


 少しずつ薄くなっている黒い霧に包まれている人物から発せられたこの声は確か―。


「くっ、ルシアか」


 そうです。ルゥちゃんの祖母であるルシアさんのものです。


▽▽▽


 破られた結界の名残である黒い霧が消え去り、ルシアさんの姿があらわになりました。


「ルシア、君は数日はダンジョンに潜っている予定だったのではないのか?」


「必要な素材が手に入ったから早めに引き上げたのさ。そうしたらヨナちゃんが助けを求めてきたから、ここに駆けつけたというわけさね」


「ル、ルシアさん、ヨナさんは大丈夫なのですか?」


「安心しなよ、ユウナちゃん。多少の怪我はしているけど今はルゥが傷の手当てをして看病しているところさね」


「面倒なことになったな。ルシア、昔馴染みのよしみで引いてはくれないか。アリスを助けたいのだ」


「だいたいの事情はヨナちゃんから聞いているよ。アリスちゃんを助けるためにユウナちゃんを犠牲にしようとしているのだろう。そんな事を私が見逃すと思っていてかい?」


「そうか、ヨナさんはそこまで調べ上げていたのか。結局は時間の問題だったか…。ルシア、君にも孫娘のルゥさんがいるだろう。同じ立場なら君も同じことを考えるはずだ」


「はっ、見くびらないでほしいもんさね。ルゥを助けるためには私もどんなこともする。だが、他人の命を奪ってまで助けようとしないさ」


「そうだな、君はそういう性格だ。やはり当事者にならないと理解はしてもらえない…か」


「とにかく、ルゥの友人のユウナちゃんに手を出すというのなら私が相手だ。かかって来な」


「いくら君といえども私たち4人を相手に勝負ができると思っているのか?」


「はっ、性根が腐ってしまったゼブリーズと魔力切れのノーラちゃん、同じく魔力を多く消費しているであろう治療院の男と身体がでかいだけの小僧くらい簡単なもんさね」


「ばあさんよぉ。見たところ実力者のようだが、俺様を小僧呼ばわりするたぁ、なめてんじゃねーぞ!!」


「よせ、ザイン!!」


 ゼブ様の指示に従わずザインがルシアさんに突撃しました。魔眼の動体視力でも残像を捉えるのがやっとなほどのスピードです。 


「【スラッシュ】」


「はっ、単純な力技で私を倒せると思ってかい?【フルスイング】。吹っ飛びな!!」


「ぐはっ!!」


「え?」


「馬鹿が」


 大男のザインが振るった手斧が華奢なルシアさんにぶつかろうとしたのですが、反対にザインが吹き飛ばされる結果になりました。しかも、ルシアさんの両手にはいつの間にか身の丈ほどの戦斧が握られています。


「どっ、どうなってやがるんだ」


「身の程をわきまえな、小僧」


 ルシアさんは戦斧を地面に放り捨て、吹き飛んだザインへと歩いていきます。


「さて、まずは1人無力化しようか」


「ザイン、構えろ!!」


「くそがっ!!」


「大口叩いて防御一辺倒とは情けないねぇ。【ピアッシング】」


「ぐっ」


「ほぅ、頑丈さだけは一流だね」


「くっ、なんだ、このばあさんは!?斧の次は槍のスキルだとっ。しかもいつの間に槍を取り出したんだ!?」


 ルシアさんの右手には先ほどの戦斧と同じように気が付くと槍が握られています。私はルシアさんに注目していたのですがいつ槍を取り出したのか分かりませんでした。装備品を収める指輪は、動きながらだと装備を取り出すことができないと言っていたので違うはずですが。


「ザイン、彼女は『ウェポンマスター』だ」


「なっ、このばあさんが生産職にしてSランク冒険者になった『ウェポンマスター』だと!!」


「はっ、そんなダサい異名で呼ばないでくれるかい。私はあくまで生産職の魔装技師さね。それよりも小僧程度じゃ準備運動にもならないようだ。ゼブリーズ、今から目を覚まさせてやるから覚悟しな」


「ルシア」


 ルシアさん、凄いです!!あのザインを簡単にあしらっています。もしかしてこのままルシアさんがゼブリーズ様たちを倒してくれるのでしょうか?


「なっ、俺様はまだやられていないぜ!!」


「小僧の相手はちゃんと別にいるよ。そんなに粋がるのなら、やられないように気合をいれな。ゼブリーズ、行くよ!!」


 ザインを無視したルシアさんはゼブ様の方へ駆けて行きます。気づくとルシアさんの両手にはそれぞれ細身の片手剣が握られていました。


「くっ、ザインはユウナさんを例の場所へ運ぶんだ。ノーラも行け。二コラさんは残っていて結界の維持を!!」


 ルシアさんとゼブ様の攻防が開始されました。2人の攻撃はあまりにも早く剣の軌道が全くわかりません。ただ、甲高い金属音が聞こえてくるので互角に切り結んでいるようです。お互い押し押されつしながら徐々に私たちがいる位置から離れていきました。


「別の相手だと?どこにもいねぇじゃねぇか。訳の分からないことを言って、煙に巻く気かぁ。ちっ、仕方ねぇ。取り合えず嬢ちゃんを…くっ、そこかっ!!」


 私をまた持ち上げようとしたザインが突如振り返り、手斧を前方に構えました。


 ガキンッ!!


「えっ?」


 ザインが構えた先の空中に突如真っ黒な円が浮かんでいます。そこからカーブを描いた漆黒の刃が飛び出してきたのです。刃は手斧に防がれザインに傷を負わすことはできなかったようで引っ込み、黒い円はかき消えました。


「くっ、なんだぁ、こいつはぁ?魔法なのか、二コラ」


「これは…空間魔法です。ですが、このような魔法は―ザインさん、二撃目が来ますよ!!」


「【にゃぎゅー】!!」


 先ほどと同じように真っ黒な円が空中に浮かび上がりました。しかし、今度はその円の中からサジタリウスの攻撃のような光が放たれたのです。ただ、白ではなく黒い光でありますが。


「くっ、なんだ、なんだぁ。刃物の次は魔弓の矢か。ウェポンマスターといい器用に武器を使い分けるのが流行りなのか。どうなってやがる!!」


 今度の一撃は横っ飛びに移動することでザインは何とか回避しました。ただ、急な事態に流石のザインも演技ではなく本当に困惑しているように思えます。


「違います、ザインさん。これは物理魔法攻撃です。…しかも、魔法武器ではなく魔法によるものです」


「何だと?寝ぼけてんじゃねぇのか。魔法で放たれる物理魔法攻撃を使う種族は滅んだんだろうが」


 ワイバーン討伐の時にヨナさんから、物理魔法攻撃とは攻撃属性として物理でも魔法でもない不思議な攻撃と教えてもらいました。ただ、魔法として放つことができる種族はザインが言うようにもう滅んだと言っていたのです。


「魔力の残滓が感じられます。【ブラックハウリング】という物理魔法攻撃の魔法なのは間違いありません。つまり、聖女をさらい世界に戦争を仕掛けてきた…薄汚い魔族の生き残りがいたということなのでしょう」


 なっ、ヨナさんが滅んだと言っていた種族とは魔族だったのですか!?


「だったら、何でその魔族の生き残りがここにいて攻撃を仕掛けてくるんだ」


「それはわかりません。ただ魔族の生き残りがいるのであれば私は世界樹教団の信徒として殲滅させるだけです」


「どうやって攻撃するってんだ。相手は見えねぇんだぞ」


「今のは空間転移魔法ではなく、隠れるのが目的の空間作成魔法のはずです。魔族は空間魔法で作られた通常では感知できない部屋に隠れています。ただ、その部屋は別の離れた場所にあるのではなく、近距離の…遠くてもこの庭の何処かに浮かんでいるはずです。攻撃の時に部屋の扉に該当する先ほどの黒い円を出現させているので間違いないでしょう」


「だったらその部屋に攻撃を仕掛けりゃいいってことだな。俺様の斧をぶん回そうかぁ?」


「残念ながら空間魔法で作られた部屋には私たちは触ることはできません。物理攻撃もすり抜けます」


「ほぅ、わざわざ物理攻撃って言うくらいだから魔法攻撃は効くってこったな」


「そうです。空間作成魔法を使う敵との戦い方は、空間を維持するために多くの魔力を消費するので魔力切れを狙うか、魔法攻撃を放ち空間自体を壊すかの二択です」


「魔力切れなんて性に合わねぇ。二コラの坊ちゃんよぉ、手っ取り早く空間を壊してくれ。頼むぜぇ」


「えぇ、魔族は生きていてはいけない種族です。今すぐ滅ぼしてしまいましょう。【マジックサーチ】」


 二コラさんが魔法かスキルを唱えると、二コラさんを中心として淡い光の円が広がっていきます。するとザインの右前方の方で何かにぶつかった様に光が途切れたのです。


「…そこですか…くらいなさい【セイントアロー】!!」


 パリンッ。


 ガラスが割れるような甲高い音が響き渡り、何もない空間にひびが生じました。


「おい、二コラよぉ。これが魔族なのかぁ?」


「これは…天使ネコさん…の亜種ですか?」


 空間から現れた魔族とは、コウモリの様な羽を羽ばたかせて浮いている黒色のネコさんだったのです。


▽▽▽


「にゃぎゅ」


 魔法空間を破られたネコさんは素早く私の傍まで飛んできました。


「えっと、貴方はネコさんのお姉さんですよね」


「にゃぎゅっと」


 最後に合流したネコさんのお姉さんは、ネコさんと同じような体系で全身の毛並みが黒色です。大きな違いは背に生えているコウモリの様な羽と、頭の左右から羊のような角が生えています。羽は天使ネコさんの羽と違いリアルで大きいですね。私の問いかけに上品に頷き、返事をしてくれました。


「この薄汚い魔族め!!ユウナさん…聖女様から離れなさい!!」


「このはネコさんのお姉さんです。魔族ではありません!!」


「聖女様はご存知ないのかもしれませんが、【ブラックハウリング】の魔法を使えるのは魔族のみです」


「にゃぎゅぎゅ」


 ネコさんのお姉さんは少し困ったような苦笑いをしています。えっと、もしかしてという考えが浮かんできました。


「仮に魔族と関係していようが薄汚くなんかはありません!!」


 このような状況に関わらず、ネコさんのお姉さんのことを悪く言われて私はいらだっています。


「おい、二コラよぉ。こいつが魔族だろうがなかろうが関係ねぇだろうが。とっととぶちのめして嬢ちゃんを運ぶぞ」


「ザインさん、貴方にはわからないでしょうが、聖女様のそばに魔族がいるということは生粋の世界樹教団の信徒なら耐えられないことなのです」


「魔族の中にも聖女を助けた人物がいたのでしょう」


「大魔王の娘の魔王のことですか」


「このお姉さんも私を助けに来てくれたのです。もしネコさんのお姉さんが魔族だとしても、聖女を助けてくれた魔王と同じ心優しい魔王ネコさんです!!」


「にゃぎゅっと!!」


 お姉さん―魔王ネコさんは嬉しそうに万歳をすると、ザインたちに向きなおりました。


「へぇ、やる気だなぁ」


「聖女様がどう考えようとも魔族には滅びを」


「にゃぎゅっと」


 魔王ネコさんが一鳴きすると右手に漆黒の鎌が現れました。それも柄の部分と刃の部分が魔王ネコさんと同じくらいの大鎌です。


「【にゃぎゅー】!!」


 続いて魔王ネコさんは咆哮を上げます。すると、口の前方に漆黒の玉が出現し、そこから先ほど見た黒いレザーがザインたちに向けて照射されました。


「【マジックバリア】」


 二コラさんたちの前方に光の盾が出現して、【ブラックハウリング】を阻みます。


「くっ、なんて威力ですか」


「二コラ、抑えていろ。俺様が横から回り込、なっ」


「にゃぎゅ!!」


 ザインが動きを見せた瞬間【ブラックハウリング】が消え去り、ザインの横に魔王ネコさんが空間魔法の扉から出現したのです。魔王ネコさんはすかさず大鎌を振るいます。


「くっ、なんて力だ、この猫。ラルフの小僧レベルの斬撃を放ちやがった」


「くらいなさい。【セイント】」


「にゃぎゅー」


 ザインとつばぜり合いしている隙を見逃さず、二コラさんが魔法攻撃を放ちますが魔王ネコさんはこれを飛翔し回避します。


「【にゃぎゅぎゅ】」


「くそがっ。【ツインスラッシュ】」


 飛翔した魔王ネコさんは上空に留まり7個もの【クレイ】を待機させ、8つ目の【クレイ】と合わせて二コラさんに打ち込みます。直撃するかと思われた【クレイ】ですが、ザインが割り込みスキル攻撃でかき消しました。


「【にゃぎゅぎゅにゃぎゅぎゅ】」


 ザインが割り込んだことで2人の立ち位置が近くなっています。そこへ魔王ネコさんが火の魔法を放ちました。確かこれはゴレットさんが使ったのと同じ火の上級魔法の【ファイアブレス】です。立て続けに魔法を放ち、近接攻撃もできるとはリューネ様が言うように魔王ネコさんは戦闘に特化していますね。


「この魔族が!!【サンクチュアリ】」


「ちっ、最強装備に換える。そのまま防いでいろ」


 先に使った【マジックバリア】と違い今度の防御魔法は全方位に展開していて、広範囲の攻撃を完全に防ぎました。ただ、今は魔王ネコさんが優勢に戦いを進めていましたが、ザインが不穏なことを口にしました。高性能なゾディアックの武器を使われたら、今の状況が逆転するかもしれません。


「まったくネコさんのお姉さんはあの小さな体躯ででたらめな強さですね」


「えっ?なっ、シェラスさん!!」


 そんな!!私の横にはいつの間にか冒険者ギルドの受付のシェラスさんが立っていたのです。全く気づきませんでしたよ!?


「にゃぎゅ?」


「ノーラ、遅くなって済まない。ゼブリーズ様、ザイン、二コラ、戦闘をやめてください。もちろん、魔王ネコさんとルシアさんもですよ」


「まさか、シェラスさんもゼブ様の協力者なのですか」


「そうですよユウナさん。と言いたいところですが、私はゼブリーズ様に協力しているというよりノーラに協力しているのですよ」


「シェラス」


「シェラスさん、迷惑をかけるな」


「いえいえ、愛する人の為なら火の中水の中と言いますしね」


「シェ、シェラス!!」


 シェラスさんは受付をしていた実直なイメージと違い飄々として、ノーラさんは顔を真っ赤にして慌てふためいています。


「シェラス、あんたいくらノーラのことを愛しているからって悪事に加担するなんて間違ってるでしょ。本当に愛してるなら無理にでも止めてよ!!」


「ミラ、ノーラの決意は固いから止めることはかなわい。無理矢理に止めたら自殺しそうだ。だったら協力するしかないだろう、愛する人を思えばこそ」


 ミラさんの言葉もシェラスさんはさらりと流しています。


「さて余りにも遅いので迎えにきたのですが、ルシアさんの相手をしているゼブリーズ様はともかく、ザインは情けないですね」


「うるせぇ、キザエルフが!!俺様は本気を出しちゃいねぇんだ、ぶちのめすぞ!!」


「はいはい、言い訳は戻ってから聞きますよ」


「逃がすと思ってかい?」


「ルシアさん、ここは見逃してください。でないと、お孫さんのルゥさんがどうなるでしょうかね?」


「ほぅ、そんなに死にたいのかい」


「ふー。流石は帝都救出の立役者。殺気で人が殺せそうですね。冗談ですよ、ルゥさんには手を出しません。これでも子供好きですから。まぁ、私が到着した時点で撤退は成功したようなものです」


「えっ?なんで?」


 私はザインたちを正面に見据えていました。それなのに今はザインたちの横にいてルシアさんの正面にいます。


「お前さんも空間魔法の使い手かい。それも他者すらまとめて移動できるほどの」


「そういうことです。ユウナさんはこの魔法で連れ去らせてもらいます。ルシアさんでは追いつけないし、魔王ネコさん1人が追い付いたとしてもこの戦力で返り討ちですね。つまり、我々の勝ちということです」


「ちっ、どうやらそのようだね。情けないが」


「にゃぎゅぎゅ」


 ルシアさんは持っていた剣を地面に落としました。魔王ネコさんも大鎌を消します。


「そんな、ルシアさん。諦めるのですか。魔王ネコちゃんも!?」


「落ち着きな、ミラちゃん。ユウナちゃん、今回はゼブリーズたちの方の勝ちのようだ。ユウナちゃんはこれで諦めるのかい?」


「私は諦めません!!」


「そうかい。良い返事だ。実はこの屋敷に入る前に魔王ネコちゃんが持っていたあの人・・・からの伝言のメモを見せてもらったのさね。本当は『光の剣』のメンバー宛だったようだけど、ユウナちゃんの救出には私も参加させてもらうよ。バカのゼブリーズを止めるためにもね」


「ルシアさん」


「にゃぎゅぎゅ。にゃぎゅっと。にゃぎゅにゃぎゅ」


「魔王ネコさん、来てくれてありがとうございます」


「にゃぎゅっと」


「よくわからないが別れは済んだようだね」


「あぁ、今生の別れじゃないけどね。ゼブリーズ、ユウナちゃんは必ず助け出す。それまで擦り傷一つつけるんじゃないよ」


「ふぅ、乱暴なことはしない。ただ、【サクリファイス】を使ってもらうだけだ」


「なら、とっとと行くがいいさ。ユウナちゃん、ユウナちゃんがハッピーエンドを望むのならいいアイデアを最後まで考え続けるんだよ。私もアリスちゃんに助かってほしいからね」


「はい、頑張ります。ルシアさん」


「あーっ、なんだかわからないけど、ユウナちゃん。ボクも絶対に助けに行くからね」


「ミラさん、ありがとうございます」


「にゃぎゅにゃぎゅ」


「魔王ネコさんもお願いします」


「何か策がありそうだが、ルシアたちには我々の居場所も特定することすら無理だろう。そして…私は絶対にアリスを助ける!!」


「ミラ、ごめんなさい」


「マリアベルさん、聞こえていますか?貴女が行うのは聖女様を助けにくるのではなく、聖女様の奇跡を後世に伝え残す語り部となることです」


「魔王猫にばあさん。次会う時はぜってぇぶちのめしてやるぜぇ」


「ザインのセリフだけ小悪党のそれだね。では、皆さん、もう会うことはないでしょう」


「シェラス、てめー!!」


 あっ、一瞬で視界が真っ黒に染まりました。シェラスさんの空間魔法が使われたのでしょうか。なんだか急に眠気が出てきました。【リジェネ―ション】を使った反動だけではなく、目まぐるしい出来事に心が疲れているためかもしれません。そういえば、せっかく魔王ネコさんと出会えたのに撫でることもできませんでした。この騒動が終わればネコさんたちと一緒にまた元の楽しい異世界生活に戻れるのでしょうか?いえ、戻るのです。ネコさんたちを信じて、ラルフさんたちを信じて、ルシアさんを信じるのです。絶対に助けてくれるのですから。そして、アリスちゃんも助けるのです。この騒動の最後をむかえるのならハッピーエンドが絶対に良いのですから。そうしないと心の底から楽しめませんよね。


 これからの私とネコさんたちの異世界生活を。


お読みいただきありがとうございました。これにて第1部は終了です。

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