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ユウナとネコさんたちの異世界生活  作者: 藍
第6章 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀
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第5話 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀(3)

過去投稿の 第5話 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀のタイトルナンバーを(前編)(中編)から仮に(1)(2)に変更しました。文字数の増加によるものです。

「ザインがSランクの冒険者だと?」


 私の推測にラルフさんが疑問の声を上げます。


「いえ、もちろんザインが言う街へ入った方法が本当だった場合の話です。ザインが嘘を言っている可能性がありますから」


「だが、嬢ちゃんは俺様が言っていることが本当だと思っているんだろ」


 ザインは相変わらずニヤニヤと笑っています。どうやら、このやり取りを楽しんでいるみたいです。ラルフさん、ゴレットさん、マリアベルさんもこの状況を計りかねているのでしょうか?私に目配せしたあとにラルフさんが会話を続けます。


「根拠は何だ、ユウナ。」


「それは、えっ!!?」


 ゴレットさんの質問を受けてザインに視線を向けると、不意に【アナライズ】の情報が更新されました。


【ザイン(偽名)(人族)・Sランク冒険者・×××・×××・×××・×××】


 ザイン(人族)という情報はザインが現れた時に表示されていたのですが、『(偽名)』と『Sランク冒険者』の部分が新たに表示されたのです。


 『アナライズ』

  意識して見ることで敵の情報を表示する。表示される情報量はスキル使用者の能力により左右される。スキル対象者の抵抗力により情報が制限されることもある。


 アナライズの抵抗力についての説明から考えると、アナライズのスキル対象者であるザインが冒険者のランクに関するついて私に対して情報が知られてもいいと考えたということでしょう。【アナライズ】によって得た知識である以上、ザインがSランクの冒険者であるということは私の推測通りに真実なはずですよね。もちろん、情報偽造のスキルなどがないことが前提ですが。


「どうした、ユウナ?」


「えっと、何でもありません。まず、Aランクの冒険者であるミラさんをBランクのザインが倒していることが不自然です。ランクが全てではないという考えもありますが、過去にザインはラルフさんに一撃で昏倒させられました。そのザインがミラさんを一方的に痛めつけることができるとは思えません」


「ユウナ、お前が言うことはもっともだがこの状況を見て協力者がいることは明白だろうが。数人がかりでミラを襲撃したのなら、こいつでもミラを捕らえることは可能なはずだ」


「はい、協力者がいるというゴレットさんの考えについては私も同意見です。この不可解な現象はザインが起こしているとは思えません。ザインからは魔力が感じられませんから。あっ、でもマジックアイテムが使われている可能性もあるのですよね」


 そういえば、ザインは私とネコさんを襲撃した時にスライムを活用しています。パワーファイターと思いきや、テクニカルな一面がザインにはあったことを失念していました。


「これほどまでの現象を起こしているのだから、マジックアイテムが使用されているとしても、起動や維持の関係で魔力を持っている者が使っているはずだ。魔力がほとんど感じられないザインに使用できるはずはない」


「そうでしたか」


 ゴレットさんのお墨付きがもらえたので、私の推測は今のところは間違っていないと思います。


「話を戻しますが、協力者がいるとはいえ、ザインはラルフさんに倒されて、ゴレットさんに追い払われました。ですが、今はその2人どころかネコさんたち他の戦力を前にしても余裕があります。これは不自然です」


「それについてはザインを見て真っ先に違和感を覚えたことだよ。ザインからは動揺や焦りなどが全く感じられない」


「もちろん、協力者が強いから余裕があるという可能性もありますから決め手には欠けます。それで先ほどの話になりますが、そもそもザインがカーヤの街の中にいることが一番不自然なのです」


「確かにそうだ。ザインの処罰については俺が暴力行為を冒険者ギルドに告発した立場にあるから把握している。冒険者資格のはく奪と指名手配だな。ただ、指名手配されたと言っても、逮捕されていないからギルドカードにはその事実はまだ記入されていない。各々の街や村に通達が行き届いていないとその場所での行動は自由だ。だが、カーヤの街での犯行だから他の場所と違って出入管理を行う防犯課との情報共有も完璧に行われているはずだから、ザインの街への出入りを見落とすはずがない」


「ゴレットの言うとおりだ。それにカーヤの街は最大級のダンジョンの近くにあるだけあって魔物への警戒に力が入れられている。魔物の侵入を防ぐため街の全域が壁に囲まれているし、飛行型の魔物対策に防犯課の職員は壁の上にある通路を複数人で巡回しているみたいだ。壁をよじ登って誰にも気づかれずに侵入することは無理だろうね」


「お前らの言うとおりだ。流石の俺様でも防犯課の職員に見つからずに、この街の壁はよじ登れねぇし、破壊して入るなんてことはできねぇからな。まぁ、嬢ちゃんの家の扉の錠は壊したけどな」


 確かに、正門横にある扉が開いています。扉自体に破損は見られないのでザインが言うように錠の部分を壊したのでしょう。


「つまり、カーヤの街に入るには門番から身分確認を受けることは必須だ。他人のギルドカードを使った成りすましは不可能だから、門番が便宜を働いたとしか考えられないがな」


「まぁ、普通に考えたらゴレットの小僧の考えに行きつくだろうな。だが、嬢ちゃんは気づいた」


「ヨナさんに教えてもらいました。Sランクの冒険者は素性を隠すために架空の人物の情報をギルドカードに表示することができると」


「そんな機能があるのか、ユウナ?」


「初耳だぞ」


「えっ!?でも、ルシアさんの話をしている時にヨナさんに教えてもらいましたよ」


 ヨナさんが教えてくれたことなので当たり前の情報だと思っていたのですが、ラルフさんとゴレットさんは意外にも知らなかったようです。


「お前らが嬢ちゃんに教えたんじゃなかったのか?いち早く気づいたのが嬢ちゃんだったから変だとは思っていたが。まぁ、冒険者ギルドの職員でもその支部ごとのトップレベルしか知らない情報だからなぁ。Aランク程度のザコが知らなくて当然と言えば当然だがな」


「なんだと、貴様っ!!」


「マリアベル、今の情報は本当なのか?」


「…えぇ、本当です。昔、帝都に入ることがありましたよね。その時に私がヨナさんに教えました。ただ、その後で皆さんに私のことがばれたのでラルフさんたちには話す機会がありませんでした」


「あの時のことか?そういえば、その後のことが強烈すぎて気にもかけていなかったな」


「ちっ、マリアベルが言うのなら本当か」


「えっと?」


「にゃふ?」


「すみません。ザインという男のことについて知らなかったのでピンと来ていなかったのですが、何となくわかってきました。ユウナさんが言うようにSランク冒険者のギルドカードは架空の人物の情報を表示することができます。ただ、任意で架空の人物の情報を作成できるわけではありません。冒険者ギルドに作成依頼をする必要があるのです。だから、ザインは指名手配の情報がいきわたる前に別の町の冒険者ギルで新たな情報を作成したのか、自分本来の情報を提示してこの街に入ったのでしょう。顔は隠して入れば問題ないでしょうから」


「そういうことだ。さて、嬢ちゃんの疑問に答えてやろうという俺様の気遣いはここで終わりだ」


「気遣いついでにあなたの目的を教えてください」


 ミラさんに対して、マリアベルさんと天使ネコさんは治癒魔法をまだ使っています。少しでも時間を稼いだほうが良いと思ったので、ダメもとでザインの目的について質問してみます。そもそもマリアベルさんも言っていたことですが、ザインの行動の目的が私であるのかラルフさんたちであるのかが知りたいということでもあるのですが。


「欲しがるねぇ、嬢ちゃん。まぁ、俺様の真のランクに気づいたご褒美だ。俺様の目的は単純だぜぇ。強いやつと戦闘することだ。おっと、もちろん嬢ちゃんのことじゃないし、『光の剣』の小僧やべっぴんさんたちのことでもねぇぜ。目的の相手は依頼主だ」


「依頼主?」


 ザインは意外にも私の問いかけに答えてくれたのですが、疑問の解消にはなっていません。


「そうだ。嬢ちゃんにちょっかいを出しているのは依頼によるものだ。とにかく依頼主にしたがってちょっかいを出していれば、依頼主が俺様と本気で戦ってくれるそうだ。破格の依頼料だぜ」


 ザインの目的といいますか、ザインの依頼主の目的は私だったようです。私にどれ程の価値があるというのでしょうか?私は多少魔法を使えますが、このカーヤの街では珍しいというほどではないでしょう。私と一緒にいるネコさんたちに価値を見出しているのでしょうか?いえ、それなら私をどうこうするより、ネコさんたちを誘拐すればいいはずです。現にザインはネコさんをスライム巻きにして誘拐できたはずですから。だったら、マイホームの権利でしょうか?これも違うはずです。私とネコさんがザインから襲撃を受けたのはマイホームを手に入れる前ですよね。…私の唯一無二の価値…それはやはり、これしかありませんよね。


 地球(いせかい)からの転移者。


 ただ、この事実を知っているのは女神・リューネ様と女神長様を除けばを私とネコさんたちだけです。私は口外していませんし、ネコさんたちは言葉をしゃべれませんし、読み書きができません。いえ、それ以前に私の不利になるようなことをネコさんたちがするはずがありませんから。とにかく、今はザインと話を続けてミラさんが回復する時間を稼ぎましょう。


「よくわかりませんが、そのような理由で指名手配や冒険者の資格のはく奪の処分を受けたのですか?」


「なぁに、処分を受けたのはザイン(・・・)という冒険者だ。今の俺様には関係ねぇ。ギルドカードの成りすましは不可能だから、俺様がザインのものじゃないギルドカードを提示した時点で処罰の対象人物じゃねぇって証明されるわけだ。まぁ、これも抜け道ってやつだな」


「だからって、あなたがザインだということはこのカーヤの街の冒険者ギルドや防犯課の人たちは認識しています」


「そんなこと言ってたら、ギルドカードの存在意義が無くなっちまうだろう?ルールの作り直しになっちまう。そんな手間をかけるくらいなら俺様の一件には目をつむるさぁ。まぁ、そもそも俺様が起こしたのは単純な暴力行為だ。慰謝料を支払って奉仕活動に参加すりゃ、資格は再発行されるぜ。その程度のもんだ。さてと、話がそれちまったが目的はわかっただろう。おしゃべりは終わりだ」


 ザインからニヤついた笑いが消え、真剣な表情に変わります。その途端に肌を刺すようなプレッシャーが発生しました。


「今回は嬢ちゃんの親しい奴らをぶちのめせっていう指示が出てる。防犯課のミラはぶちのめして、ヨナってガキには逃げられちまったから、とりあえずはラルフとゴレットだ」


「ヨナも襲撃したのか!?」


「にゃむむ!?」


「あぁ、そうだ。まぁ、ガキのことはこの際どうでもいい。それよりもラルフにゴレットだ。お前らには演技とはいえ、屈辱を味わされたから念入りにぶちのめしてやるよ。本気でかかってきな!!」


「つぅ!!この殺気はランクの真偽はともかくAランク以上の実力だぞ、ゴレット。マリアベル、ミラの容態はどうなっている?」


「まだ、回復ができていません。天使ネコさんと頑張っていますが、相当痛めつけられたのでしょう」


「にゃきゅきゅ」


「…ごっ、ごめん。まだ、身動きはできそうにないよ。あと、ザインの…実力は本物だよ…気をつけ…て」


「わかった。ゴレット、僕たちで戦うぞ。ユウナとネコさんたちはミラの近くにいて警戒をしてくれ。ザインの協力者が攻撃してくる可能性がある」


「わかりました」


「にゃふっと」


「ふんっ、気がすすまないが2人がかりだ」


「ほぅ、いい気迫だ。依頼主との戦闘の前に肩慣らしにはなりそうだな。だがなぁ、本気で来いよ。お前らの今の装備じゃぁ、力不足だぜぇ。ゾディアックの武具を持ってんだろう?待っててやるから最強装備に換えてから、かかって来な」


「なっ!?ゾディアックの武具のことを知っているのか?」


「【ファイアブレス】」


 えっ!?ザインの言葉にラルフさんはうろたえたようですが、ゴレットさんは意に介さずザインに向けて火の上級魔法を放ちました。


「はっ、思い切りはいいな、ゴレット。だが…【クロスカッター】!!」


「何っ!!俺の上級魔法が【クロスカッター】ごときでかき消されただとっ!?」


 しかし、ザインは両手に持っていた2つの手斧のスキルによる攻撃でかき消しました。これでは、私とネコさんが街中でザインに襲われた時にゴレットさんが助けに来た状況と真逆の結果に終わっているではないですか。


「やるじゃねぇか、ゴレット。リーダーの甘さをお前が律してきたんじゃねぇのか?今のタイミングで攻撃をするのは見所があるぜぇ。嬢ちゃんたちとの会話に参加しつつも、意識を集中して上級魔法をぶっ放すタイミングを計っていたみたいだなぁ。だが俺様と戦うには、残念ながら地力が伴っていないぜ。あきらめて、ゾディアックの武具を使え、ゴレットの小僧よぉ」


「ゴレット」


「くっ!!ラルフ、こいつは全力でぶちのめす!!装備ペナルティについては気にするな。そもそも、俺たちでこいつ一人を倒せないなら、この協力者との戦闘について心配することは馬鹿らしい。今すぐ最強装備に換えるぞ」


「わかった。だが、ゴレット、君はザインとの戦闘中は援護射撃に徹していてくれ」


「わかっている。だが、ラルフ。中途半端な攻撃をしていると貴様ごとザインを攻撃するぞ」


「心配は不要だ…装備変換完了」


 ミラさんやヨナさんの時と同じように装備を格納した指輪から出た光がラルフさんの身を包み、しばらくすると飛び散りました。


「僕がこの武器を…レオを装備した以上、手加減はしない!!」


 ラルフさんは先ほどまでは異常事態に陥ったことに対して、動きやすさを重視していたのでしょうか?革製の防具と白銀の剣をそうびしていました。ですが今は、初めて出会った時と同じ白銀の胸当てに手甲、具足、それと初めて見る白銀の額当てを装備しています。そして左の腰には先ほどまで帯びていた白銀の剣ではない、絢爛豪華な鞘におさめられた剣が吊るされています。


「ふんっ、良い覚悟だ。…完了」


 ラルフさんに続いてゴレットさんも装備の変換を完了しました。ゴレットさんはラルフさんと対照的に暗い紫色を基調としたローブを羽織っていて、白色の羽飾りのついたローブと同系色のカウボーイハットのような帽子を被っています。右手には黄金の杖を持っていますが、その杖の上部の先端には背中合わせの二人の少年の小さな像が飾りとして載っています。


「いいね、いいねぇ。さっきまでとは段違いのプレッシャーだぜ」


「ほざけっ!!【クレイ】」


 ゴレットさんが【クレイ】を唱えると、10の岩の弾丸が一斉にザインに襲い掛かりました。つまり、9つもの【クレイ】の魔法を待機させていたということです。


「かっ。やるじゃねぇか」


 ザインはゴレットさんの【クレイ】に驚くどころか、喜びの笑みを浮かべながら身体を半身に構え右斜め後ろに一歩ほど後退しました。


「だがなぁ。【スイング】」


 片方の手斧を地面に落とし、残りの手斧を両手持ちにして野球のバッティングのように振りぬきました。その一閃は何とゴレットさんの放った全ての【クレイ】を一撃のもとに破砕したのです。


「初級魔法とはいえ、10個の魔法を同時発動するとはやるじゃねえか。俺様の知る中じゃ最多だったな。威力も申し分なかったぜ」


「ちっ。実力は本物か」


 どうやらザインは全ての魔法の軌道を把握して立ち位置を移動することで、【クレイ】を一閃でかき消すことを可能にしたようです。


「おいおい、Sランクの俺様がほめてんだ。素直に喜びな」


「ふんっ。今からジェミニを使った俺の本気を見せてやる」


「おい、ゴレット!?君は援護射撃に専念する約束だろ」


「ラルフ、今のやり取りを見ただろう。この男は力押しだけではなく技量も高い。お前とザインとの近接戦闘中に援護射撃を撃ち込むことは難しい。だったら、俺の高威力魔法で初めにダメージを与えるほうがいいだろうが」


「高威力魔法か。面白れぇ。だったら、俺様も久しぶりに最強装備で戦うかなぁ。最近手に入れたゾディアックの武具を使ってみてぇしな」


「何だと!?」


「貴様もゾディアックの武具を持っていると言うのか!?」


 先ほどからゾディアックという単語がよく使われています。ゾディアックは天体や占星術に関わる単語で十二星座に関連していたと思います。この世界に来てから耳にした十二星座と言えば、ミラさんの2対の大斧のピスケス、ヨナさんの黄金弓サジタリウス、そしてたった今聞いたばかりのラルフさんのレオとゴレットさんのジェミニです。ゾディアックの武具とはこれらの装備をさしているということはわかるのですが、何故、地球の言葉であるゾディアックという単語が使われているのでしょうか?単純に『言語理解の加護』が効いているのでしょうか?


「ゾディアックとは何でしょうか?」


 マリアベルさんは治癒に専念しているので、答えが返ってこないと思いつつもネコさんたちに話しかけてしまいました。


「ゾディアックはカーヤの街のダンジョンの中に生まれた新たなダンジョンの名前だよ、ユウナちゃん」


「ミラさん!?大丈夫なのですか?」


 私の疑問に答えてくれたのは意外にもミラさんでした。


「うん、マリアベルさんと天使ネコちゃんのおかげでしゃべるくらいは大丈夫だよ。ただ、普通に歩くことはまだ無理そうだけど」


「そうですか。でも、良かったです」


「ミラさん、【キュア】は傷は癒せても体力の回復はできません。最悪逃げることになるかもしれませんから、今は無理に動こうとしないでください」


「にゃきゅっと」


「わかったよ」


「それじゃあ、最強装備に変換するかぁ。だが、お前らは待ってくれねぇよな。とりあえず、ちょっとぶちのめすか」


 私たちのやり取りの最中に、ザインが先ほど落とした手斧を拾いラルフさんたちへと一歩を踏み出しました。


「くっ!!」


「ちっ!!」


「そこまでです、ザインさん」


 声の方に顔を向けると、正門横の扉の部分の霧が晴れています。そこから庭に向かって1人の男性が歩いてきたのですが…。


「えっ、二コラさん!?」


 ザインを止めるセリフを発した人物は二コラさんでした。


「二コラの坊ちゃんよぉ。お前さんは今回は結界を張るために来たんだろう?嬢ちゃんたちには顔見せはしないんだったんじゃねぇか?」


「私もそのつもりでしたよ。ただ、依頼主の意向でユウナさんには何が何でも今から新たな才能を授かってもらうとのことです」


「ちょっと待て。俺様はこれからラルフたちをぶちのめすんだぜ」


「私の考えではありません。文句があるのなら、本人に文句を言ってください」


「そいうことだ、ザイン。事態が急変した。報酬は確実に払うから従ってもらうよ」


「ザイン。叔父様に従ってください」


「ちっ、旦那のお出ましか」


「えっ?何で、貴方たちがここに?いえ、それよりも何故貴方がザインに指示を出しているのですか!?」


「どいうことなの!!」


 二コラさんに続いて入ってきた人物は、ゼブ様とノーラさんだったのです。


▽▽▽


「すまない、ユウナさん」


「ごめんね、ミラ」


 突然のゼブ様たちの登場にザインが手斧をおさめたので、ラルフさんたちは戦闘を中断しました。


「これはどういうことですか、ゼブリーズさん」


「ゼブリーズ代表。何を企んでいるのですか?」


 ラルフさんとゴレットさんがゼブ様に詰め寄ります。


「すまないが説明するつもりはない」


「ノーラ!!」


「ミラ、ごめんなさい」


「ノーラ、マリアベルさんたちを抑えてくれ。ラルフさんとゴレットさんは私が相手をする」


「おい、ゼブの旦那よぉ。結局、こいつらを倒すのなら、俺様に任せろよ」


「いや、こうなったからには私が直接やる」


「そいつは贅沢なこった」


「ちっ、理由はわからんがゼブリーズ代表が首謀者ということは間違いないな」


「ゼブリーズさん、有力者である貴方が住民であるユウナに対して暴力を指示するとは」


「言った筈だ。説明するつもりはないと」


 ゼブ様は両手を腰の後ろに回し、その両手を自然と身体の前に垂らしたのですが、両手には刀身の無い柄のみがそれぞれ1本ずつ握られていました。


「これはまさか!?」


 ラルフさんはゼブ様の剣の柄を見ると、先ほど装備した剣を鞘ごと構えゴレットさんとゼブ様の間に割り込みました。


「遅いぞ」


 ゼブ様は意に介さず剣のを2人に目掛けて振り払いました。


「ぐっ!!」


「がはっ!!」


「えっ!?」


 刀身が無い剣の柄を振るっただけなのに関わらず、ラルフさんたちは数メートルも吹き飛ばされたのです。


「顔見知りとはいえ、不用意に近づくからだ」


 ゼブ様は2人が立ち上がる時間を与えず即座に次の行動に移りました。数メートルの距離を一足飛びで詰め、2撃目の斬撃を放ちます。


「【スラッシュ】」


 横なぎの斬撃により、ラルフさんたちは私たちの傍まで吹き飛んできました。


「ラルフさん!?ゴレットさん!?」


「ラルフ、ゴレット、しっかりして」


「くっ、だっ大丈夫だ」


「くそっ。何だあの剣は。レオと同じものなのか」


「そう、この剣―タウルスもゾディアックの武具だ。さて、ユウナさん、私から貴女に対する要求は1つだ。女神リューネに新たな才能…『世界樹魔法の才能』を授けてもらい…そして…アリスの為に死んでくれ」


「えっ?どういうことですか?」


「にゃっ、にゃふー!!」


「にゃむ、にゃむ!!」


「にゃきゅきゅ!!」


「にゃぷにゃ!!」


「ゼブリーズ様、まさかアリスさんが?」


 突然な言葉にネコさんたちがゼブ様に対して敵意を放っています。しかし、マリアベルさんは別な反応を見せ何かに気づいたようです。


「ノーラ、マリアベルさんとネコさんたちを」


「わかりました。ヴァルゴを使います」


 ノーラさんがマリアベルさんの方へ向き、両手を握り合わせ祈りのポーズを取りました。その両手には親指を除く左右4本の指に色違いの指輪がはめられています。


「【乙女の祈り】」


 ノーラさんが魔法かスキルと思われる名前を唱えると、指輪の一つが輝き始めます。


「えっ、こっれは…麻痺…で…すか?」


「にゃにゃにゃふ」


「にゃ…む」


「にゃきゅ~」


「にゃっぷ」


 マリアベルさんとネコさんたちを見ると赤い光に包まれており、光が消えると膝をついたり、地面にバタッと倒れました。


「ノーラ、何をしたの!!」


「ヴァルゴを装備した者は固有魔法を使えるようになって、魔力を消費することで任意の状態異常を付与できるの。マリアベルさんたちは麻痺の状態にしただけだから命には別状はないわ。でも、くっ…叔父様、マリアベルさんの抵抗力が強すぎて魔力のほとんどを消費してしまいました」


「流石だな、マリアベルさんは。ありがとう、ノーラ。あとは休んでいてくれ」


 何なのですか、この状況は。ゼブ様たちが現れてあっという間に動けるのは私一人になりました。本当に…本当にゼブ様たちが私の敵だということなのですか?しかも、死んでくれだなんて。


「ゼブ様、私に死ねとは…本気なのですか?」


「あぁ、本当だ」


「きゃっ」


 先ほどまで伏し目がちだったゼブ様が目を合わすと全身が氷で包まれたような感覚に陥りました。これには緊急クエストの時に暴言を吐いた冒険者をにらみを利かせるだけで押さえつけた場面が思い出されました。つまりゼブ様が本気だということじゃないですか!?


「すまない。感情が高ぶってしまったようだ」


 ラルフさんたちを軽くあしらうような人物に死ねと言われれば私に抗う術なんてありません。


「ゼブ様、私は『世界樹魔法の才能』という才能について知りません。それに女神様にお願いだなんてできるはずがせんよ!?何よりアリスちゃんのために死んでくれとはどういうことですか!!」


「ユウナさん、私は貴女がサクラさんと同じ立場の人間であることは知っているんだ。私はサクラさんから全ての事情を教えてもらっているのだよ」


「えっ?」


 これは桜さんと私が転移者だと知っていると言っているのですよね。


「そして貴女がサクラさんと同じく『女神の加護』を持っていることも知っている」


「なぜ私が『女神の加護』を持っていると知っているのですか?」


「貴女が『女神の加護』を持っているとわかったのは、冒険者ギルドの職員であるノーラに手伝ってもらった…いや、有力者という立場を利用して命令したからだ」


「ノーラさんが?」


「ノーラ、まさか、ギルドの道具を使って冒険者の才能や加護を確認していたの!?それって重罪でしょ!!」


「わかっているわ、ミラ。でも、私は叔父様に恩返しがしたかったの」


「君は女神リューネに願いさえすれば『世界樹魔法の才能』を手に入れることができる」


「私が『女神の加護』を持っているとしても、何故『世界樹魔法の才能』を手に入れることができると言い切れるのですか?」


「ユウナさん、今は時間が惜しいんだ。そのことについては後で時間があれば説明するよ」


 ただでさえ、ゼブ様たちの襲撃と不明なお願いに混乱しているのに『世界樹魔法の才能』という新しい単語や桜さんのことなどが加わりわけが分かりません。その中でも一番意味不明なことは「アリスのために死んでくれ」というセリフです。


「『世界樹魔法の才能』と私が死ぬことは、アリスちゃんのことに関係しているのですか?」


「…理由も教えられずわけの分からないことを言われても戸惑うだけだな。…わかった。私の目的とザインを雇ったことについては説明しよう。アリスが病気にかかっているのは以前話したね」


「はい、長く寝込んでいると」


「アリスがかかっている病気は不治の病だ。薬師や商人、世界樹教団のマリアベルさん、治療院の二コラさんに協力してもらいあらゆる手を尽くしたが病気の進行を遅らすことが限界で完治には至っていない。…そして、先ほど容態が急変して薬師の見立てによると余命幾ばくも無いそうだ」


「アリスちゃんが…」


「治療について試していないのは、聖女が使ったとされる世界樹魔法だけなのだ。だが世界樹魔法の使い手は見つからなかった。Sランクの神聖魔法の使い手すら扱えなかったくらいだ。だったら、サクラさんと同じく『女神の加護』を持っている人物に、女神に願い『世界樹魔法の才能』を得てもらうしかないと考えた」


「それが私だったということですね」


 私が困っている時に女神様から加護を授かったように、桜さんも才能や加護を授かったのでしょう。そのことをゼブ様は教えてもらったということですね。


「ユウナさん、私はアリスのためならどのようなことも行う。それが犯罪行為だとしてもだ」


「犯罪行為というのは、ノーラさんの行いやザインに依頼したことですか?」


「そうだ。ユウナさんは魔物との戦いを拒否していた。それでは魔法を使うことがなく、魔力量をはじめ、魔法威力や魔法制御力の上昇が見込めなかった。いかに、女神に願い『世界樹魔法の才能』を得たとしても、基礎能力が足りていないのであれば、世界樹魔法を使用できない可能性が高い。だから、ゴレットさんに指示して掃除クエストの受注を邪魔したり、ザインやノーラを使いユウナさんが戦闘に参加せざるを得ない状況を作ったのだ。戦闘中にユウナさんや仲間が怪我をした時に、『世界樹魔法の才能』を手に入れるのではという期待もあったのだが」


 ゴレットさんが先ほど言おうとしていた上司とはゼブ様だったのですか。


「だから、今回のザインへの指示は私の親しい人を襲撃しろといものだったのですね。でも私は冒険者登録をする前にザインにからまれましたよ。わたしはその時点でギルドカードをノーラさんに見せていません」


「ユウナさんがこの街に到着した時、偶然貴方を見かけたんだ。貴女は珍しい服装で自転車を押していた。それらはサクラさんとの話で出てきたことがある。だから、十中八九この少女はサクラさんと同郷だと思ったのだ」


「そこで俺様の出番だ。俺様にからまれた嬢ちゃんをノーラの嬢ちゃんが助けて初対面から親しくなるって作戦だったわけだ。まぁ、ラルフの小僧に邪魔されちまったがなぁ」


「さて、『世界樹魔法の才能』を得た者のみが扱える魔法が2つあるそうだ。1つは【リジェネーション】。欠損した身体さえ再生させる治癒魔法。もう1つは【サクリファイス】。己の命と引き換えに他者の死すら完治させる究極の治癒魔法だ」


「アリスちゃんの為に私に死んでくれとは、その【サクリファイス】を使ってアリスちゃんを癒せということですか」


「あぁ、真実の聖女物語によると聖女が最後に使ったとされる奇跡の魔法だ。その奇跡と引き換えに聖女は命を失ったそうだ」


「真実の聖女物語?」


「とある理由で発禁本となった聖女に関する伝記だ。いや、今は関係ないな。ユウナさん、『妖精の針子』で君が両親を亡くしていることを教えてもらった。なら、君も大切な家族を失う苦しみも恐怖もわかるだろう。私はアリスを失いたくないんだ」


 ラルフさんたちを倒した強者であるはずのゼブ様が、今はただただ弱い存在にしか感じられません。ゼブ様のように身内の寿命を事前に告知される方の心情はどのようなものなのでしょうか?私にはわかりません…ただ失った後の悲しみはわかります。私は両親を亡くしたのだから…。


「ユウナちゃん!!」


「え?」


 ミラさんがふらつきながら私の傍まで歩いてきました。


「ゼブリーズ様、ノーラ!!関係のないユウナちゃんを犠牲にするなんて間違っているでしょ!!」


「ミラさん、間違っているのは百も承知だ。だが、私はどんなことをしてもアリスを助けると決めたのだ。この決意は揺るがない」


「だからってユウナちゃんの命の引き換えに助かったアリスちゃんが喜ぶと思っているのですか!?」


「アリスには何も教えない。病気が治ればカーヤの街から離れて幸せに暮らしてもらうつもりだ。私もアリスの新しい生活が落ち着けば必ずこの罪を償う」


「くっ、ノーラもそれでいいの?君はボクが悩んでいた時に正しいと思ったことをしたらいいって励ましてくれたじゃない」


「私は…私もアリスちゃんに助かってほしいの。私も叔父様と一緒に罪を償うわ。ごめんね、ミラ」


「そんな…そんなの間違っている」


 ミラさんはノーラさんの行いに心を痛めています。私もこの世界に来て良くしてくれたノーラさんとゼブ様の行いに胸が張り裂けそうです。ただ、会ったことがないとはいえ、幼いアリスちゃんのことを何が何でも治したいというゼブ様たちの気持ちもわかるのです。ただ、ただ…。


「ミラさん、私は両親に誓いました。両親が事故で亡くなる直前に『優奈は私たち以上に長生きしてね』とお願いされたのです。ゼブ様、私は薄情者だと言われても…絶対に長生きしなければならないのです。亡くなった両親の為にも!!」


「ユウナちゃん…」


「…そうだな、他者の為に命を投げ出せだなんて馬鹿げている願いだ。聞き入れてくれるとは思ってはいなかった。すまない、ユウナさん…すまない…ミラさん」


 突然なゼブ様の謝罪にまさかとは思いつつも改心してくれたのではという甘い期待が生まれました。ですが、次の瞬間にゼブ様の両手に握られていた2つの柄には先ほどまでなかったはずの炎の刀身が伸びていたのです。


 ジュッ!!


「えっ?」


「なっ?」


「そんな…ミラさん!?…ミラさん!!」


「くっ…ユウ…ナ…ちゃ、ん。…に、げて…」


 私の前には信じられない光景が広がっています。ミラさんの両腕が切断されて…その両腕が焼き尽くされたのです。


「…ユウナさん、ミラさんを元の状態に戻せるのは貴女だけだ。…貴女がそれを選ばないというのならば、ミラさんの命だけは助ける。ただその時は、代わりにミラさんの両腕は元に戻らず、これから歩む人生は困難なものになるだろう」


 ヨナさんの説明が思い出されます。


 治癒魔法は治癒を促す魔法であって、失われた部位を再生させる魔法ではない。


 だからゼブ様はミラさんの切断した両腕をその炎の剣で焼き尽くしたというのですか。私が【リジェネ―ション】を使うために『世界樹魔法の才能』を女神様から手に入れさせることを見越して!?


「選んでくれ、ユウナさん。自分の命か…ミラさんの将来か…。ミラさんを犠牲にして、自分を救うのか…。ミラさんを助ける決断ができたのであれば、女神リューネへと語りかけるのだ。それが無理なら屋敷に入り、この惨状に目をつむればいい。ただ、私は信じている。ユウナさんが自身を犠牲にしてミラさんを救うことを…」


「もしも…私が自分の命を選んだとしても、本当にミラさんの命は救われるのですか?」


「…約束しよう…ただ、その選択をした時点で…ラルフさんの両腕を切り落とそう。次も同じ選択をしたのならゴレットさんの腕を切り落とそう。その次は順番にネコさん、エルフネコさん、ドワーフネコさんだ。マリアベルさんと天使ネコさんだけは見逃すが…ユウナさんの選択次第では彼らの人生が激変することは間違いない…そして貴女の人生も…。もう一度尋ねるが…自分の命か、家族の、友人の未来しょうらいか…ユウナさんはどちらを選ぶ?」


 ゼブ様は私に選択権をゆだねているようなセリフを発していますが、実際は脅迫同然のこと行っているだけです。ですが…答えは…決まっています。目の前でミラさんが苦しんでいる以上、私はミラさんを救う以外の選択はないのです。


「私は今から女神リューネ様に語り掛けます。ですが、【サクリファイス】は使いません。絶対に!!」


 私の言葉にゼブ様は無言ですが、今はそのことよりミラさんを癒すことのほうが先です。


「女神様…リューネ様」


 私からリューネ様に語り掛けたことはありません。今はただリューネ様を信じて語り掛けるしかないのです。語り掛けるし…か…。



第5話 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀(後編)は、2018年1月中に投稿したかったのですが、書きたい内容が膨らみ過ぎて、第5話 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀(後編)という区切りでまとめ切ることができませんでした。


そのために、第5話のナンバリングを編集しまして、第5話 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀(3)として投稿することになりました。


第5話については、第5話 ユウナと魔王ネコさんと明かされる陰謀(4)で完結することになります。

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