第1話 ユウナとネコさんたちと聖女物語
筆が進まず、投稿が遅れてしまいました。
「それでは今から緊急クエストについて説明します。現在、カーヤの街に向けて魔物の群れが進行中です。その数はおよそですが500匹ほどです」
「なっ、なんだってー!!」
「それは本当か!?」
「ごっ、500匹てっ程度か…おそろるに足らん」
「おい、声が震えてるし、かんでるぞ!!」
冒険者ギルドでノーラさんが説明を開始すると、集まった冒険者たちから驚きの声が上がります。
「詳しくはAランクの冒険者であり、この案件を発見したラルフさんから説明があります」
「紹介にあずかりましたラルフです。緊急事態ですので端的に説明します。現在、東の森方面から魔物の群れがカーヤの街に向かって進行中です。魔物の群れの詳細については概算ですが、突然変異種であるゴブリンキングとその配下のゴブリン100匹ほどの群れが3つ、オークやトレントにワーウルフなどの中難易度の魔物100匹、ツノウサギやキラービーなどの比較的弱い魔物が100匹程度です。進行速度からカーヤの街に到達するのは明日の昼頃になると思われます」
「ちょっと、待てよ!!なんでそんな多種多様な魔物たちが群れを作ってるんだ!!」
「カーヤの街に進行中ってどういうことだよ!!」
「オ、オークごとき、我が剣の錆にしてくれよう」
「だから、落ち着けって。お前の武器は弓矢だろうが」
「皆さん、静粛に願います。ラルフさんの他にもう1名のAランク冒険者も魔物たちを確認しているので間違いはないでしょう」
ノーラさんが言ったのはミラさんのことでしょう。ラルフさんは冒険者の前に立ち説明していますが、ミラさんは私たちと一緒に壁際で説明を聞いています。
「『光の剣』のラルフさんが見ているのなら間違いはないだろう。それで俺たち冒険者への緊急クエストの具体的な依頼内容は何なんだ?まぁ、魔物の討伐だろうがな」
ラルフさんの説明に動揺している冒険者が多いのですが、中には泰然としている人たちもポツポツといるようです。その中の1人から質問が上がりました。
「はい、おっしゃるとおりです。具体的には魔物の討伐班への参加か、カーヤの街に待機して防犯課へ協力してもらう防衛班への参加を選んでもらいます」
「報酬はどうなっている」
「それについては私から説明させてもらうよ。知っている者もいるかもしれないが、私はこの街の有力者の1人のゼブリーズ・バートンだ」
説明をかって出たのはノーラさんの横で待機をしていたゼブ様です。
「有力者が何故仕切るんだ」
「ギルドマスターはどうしたんだよ」
「ノーラさんよ~、いくら親戚だか知らねぇが有力者を冒険者ギルドででかい面させるのはおかしくねぇか?」
えっ?ゼブ様の登場に、冒険者たちがゼブ様やノーラさんに対して声を荒げます。
「あんたがカーヤの街の有力者だろうが、調子に乗るなよ!!この街は冒険者の功績で成立した歴史があるんだぜ」
「カーヤの街は冒険者の街だ。元貴族だか知らねぇが口出ししてくるんじゃねぇ。現場が混乱するんだよ!!」
冒険者たちの罵詈雑言を聞いていると、主張されている内容はとにかくカーヤの街は冒険者優位だということです。
「カーヤの街は冒険者の街とはいえ、街の有力者に対してここまで強気な態度をとることができるのでしょうか?」
私は不思議に思い、小声でマリアベルさんに話しかけます。
「冒険者は街の住民というより出稼ぎに来ているようなものですから、街の運営を行っている有力者に対して敬意が無く、むしろ稼ぎの取り分を税などで徴収する敵対者のようなイメージを持っているのです。そして有力者は街の運営にたずさわる重要人物ではありますが、貴族みたいに特権があって守られているわけではないので、このような攻撃的な態度をとる者もいるのです」
「ですから、今から叔父…ゼブリーズ様から説明が」
「だから有力者がしゃしゃり出てくるなって言っているんすよ、ノーラさん」
ノーラさんが場を取り仕切ろうとしますが、冒険者たちは好き勝手に声を上げ聞く耳を持ちません。
「あいつらっ!!」
「ミラ、落ち着く」
「ミラさん、ここは抑えて」
冒険者たちの横暴な態度にミラさんが一歩踏み出しましたが、ヨナさんたちがそれを留めました。ミラさんは元冒険者ギルド職員だったので、冒険者たちの振る舞いに強い怒りを感じているのでしょう。
「静粛に!!」
「ひっ!!」
「はいっ!!」
バタッ!!
「おい、こいつ、白目むいて倒れたぜ」
ゼブ様が鋭い声を上げると、冒険者たちは先ほどまでの振る舞いが嘘のように声を潜めました。と言いますか、腰砕けになって床に座り込んでいる冒険者が数人います。特別大声を出したというわけでなのですが、何故でしょうか?
「ミラ…、ゼブ様は実力者?」
「違うはずだよ、ヨナちゃん。ゼブリーズ様はただのって言うと変だけど、有力者だよ。ノーラも商才で有力者になったって言っていたし。私も防犯課の仕事で何回も接する機会はあったけど戦闘に関する才能があるとは気づかなったよ…だけど、今の状況を考えると…」
「えっと、どうかしたのですか?」
「ユウナさん。ゼブリーズ様は言葉を発すると共に声を荒げていた冒険者に対して殺気を放ちました」
「えっ!!そうなのですか?私は何も感じませんでしたが…」
「実力者となると殺気を指向性を持って放ち、狙った相手のみを制圧することができると聞きます。ただ、ラルフさんやミラさんでもその域には達していないので、ゼブリーズ様は少なくともSランク以上の実力を持っていると思われるのですが…」
ゼブ様は物腰の柔らかなロマンスグレーの紳士です。荒事とは無縁のように感じますが違うのでしょうか?しかし、目の前には冒険者たちの一部が気絶していたり血の気の引いた顔で呆然と立ち尽くしている光景が広がっています。マリアベルさんの言うように相当の実力者だという証ですよね…ですよね?
「君たち冒険者が我々街の運営する者に対して良い感情を抱いていないことは理解しているつもりだ。だから、普段はことさら君たちに口を出してはいない。だが、カーヤの街が危機にさらされている今の状況は別だ。君たちもカーヤの街を拠点にして生活基盤を持っているからには従ってもらう。いいね」
「はっ、はい」
「わっ、わかった」
ゼブ様が言葉を発すると、多くの冒険者が機械仕掛けの人形のように首を縦に振り同意を示しました。
「協力に感謝するよ。それでは先ほどの説明の続きだが、君たちの長である冒険者ギルドのマスターは冒険者ギルドの定例会議のためにカーヤの街を離れている。また、私以外の2人の有力者もそれぞれの仕事のため同様だ。有事の際には指揮を執るのは有力者と冒険者ギルドのギルドマスターと定められているが現状カーヤの街にいるのは私のみとなっている。だから、私ゼブリーズ・バートンが君たちに指示を出させてもらうことになる。いいかな」
ゼブ様の問いかけに反論できる者はおらず、皆が無言で首を縦に振っています。まるで冒険者たちがゼブ様に屈服したかのようです。
「それではギルドマスターに代わり、君たち冒険者へ緊急クエストを発令する。今回のクエスト内容は魔物の討伐およびカーヤの街の防衛だ。Cランク以上の冒険者は半強制的に参加してもらい、それ以外の者は各々で参加の意思を示してほしい。報酬についてだが討伐への参加者には金貨3枚を、防衛への参加には金貨1枚を街の財源より支払う。また、魔物の魔石は討伐者への報酬とする。参加者全員に魔石回収の指輪を貸与するので回収の心配は不要だ。複数人数で魔物を討伐した場合は当事者間の話し合いで配分を決めてもらう。これは君たち冒険者が心得ているはずだから、我々は口出しはしない。なお、今回手に入れた魔石に限り冒険者ギルドでの買取額にボーナスを付けるので、Bランク以上の冒険者で指輪をすでに個人貸与されている者も必ず緊急クエスト用の指輪を受付で借りるように。魔物のカーヤの街への到達は明日の昼頃と予想されているため、明日朝の8時には冒険者ギルドへ集まること。なお現在、魔物の群れは斥候を得意とする冒険者によって監視下に置かれている。到達が早まる可能性がわかれば街中に緊急時の警鐘を鳴らすので即座に冒険者ギルドへ集合するように。不明な点は今のうちにギルド職員に質問をしてくれ。私からの説明は以上だ。後はノーラとシェラス君にお願いするよ」
「わかりました。ゼブリーズ様」
「かしこまりました」
ゼブ様は説明を終えてノーラさんとシェラスさんに引き継ぐと冒険者ギルドを後にしました。続いて、ノーラさんたちから指輪の貸与などの今後の行動の説明がなされ準備に移ったのですが、ゼブ様の影響なのか冒険者たちは不満を口にすることなく粛々と行動して1時間程度で準備は終わりました。
「それではユウナさんとネコさんたちは街の防衛班に参加ということでいいですね」
「はい、お願いします」
「にゃふっと」「にゃむっと」「にゃきゅっと」「にゃぷっと」
私とネコさんたちは他の冒険者が緊急クエストの手続きをしている間に、ラルフさんたちと話し合いをして防衛班へと参加することを決めたのです。理由は街にまで魔物が到達すれば結局は戦うことになってしまうからだそうです。それなら緊急クエストに参加して私たち5人分の報酬をもらっていたほうが良いとのことでした。心配だったのは指示によりネコさんたち別行動になることだったのですが、パーティーとして団体行動が許されるのでネコさんたちと離れ離れにならずにすむようです。
「それでは魔石回収の指輪を貸与します。ネコさんたちにはチェーンも貸与しますのでネックレスのように身に着けてください」
ノーラさんから指輪を受け取り指にはめます。ネコさんたちも器用に身に着けていますね。
「…ユウナさん、本当にすみません」
「大丈夫です。私では力不足ですが、ネコさんたちがいれば百人力ですから」
ノーラさんは半強制的な参加になっていない私が参加することに申し訳なく思っているのでしょうか?でも、危険の少ない防衛班でネコさんたちがいるのですから大丈夫です。
「いえ、そうでは…はい、そうですね、ネコさんたちはとても強いですから。それにユウナさんも強いですよ」
「えっと?」
最近、ノーラさんは元気がない時があります。幽霊屋敷の『お願い』の件をまだ気にしているのでしょうか?
その後、明日の大まかな指示を受けて帰宅の許可をもらいました。もう、夕方になっているので夕食をとってゆっくり休みましょうか。
「ユウナたちも準備が終わったようだね」
「ラルフさんたちも終わったのですか?」
ラルフさんたちはシェラスさんに受付をしてもらっていました。
「終わった。明日はラルフとヨナとマリアベルで討伐班に参加する」
「ボクは緊急クエストには参加しないけど門番として街を護るよ。もし魔物たちが冒険者を突破しても街への侵入はさせないから安心してね」
「私たちは午前中に防衛のための資材運搬を行います。昼近くになると街を取り囲む壁の上に登って、空を飛べる魔物が近づいてくれば魔法や弓で迎撃するように指示を受けました」
街の壁の上部には監視塔から渡ることができるそうです。幅は広く5メートル近くあり、戦闘行為も可能です。
「そうか、防衛班にはベテランの冒険者も参加するからユウナたちは無理しないように。さて、僕は冒険者ギルドの職員たちと明日の具体的な動きを詰めてくるよ。マリアベルとヨナには明日の朝に合流してから説明をする。それでは解散としようか」
「そうですね。私は子供たちの食事や明日の準備がありますから、これで失礼させていただきます」
ラルフさんはノーラさんたちと一緒に冒険者ギルドの事務室へ、マリアベルさんは孤児院へと帰っていきました。
「ボクは防犯課への報告はもう終わっているから、ご飯を食べて休もうかな。そういえば、ヨナちゃんはいつカーヤの街に戻ってきたの?」
「ミラとラルフが東の森の捜索に出発した日」
「そっか、入れ替わりに訪れたんだね。じゃあ、今は宿屋に泊まっているの?」
「短期滞在の予定だから宿屋暮らし」
「それなら今日からボクの部屋に泊まる?宿代が節約できるよ」
「ありがとう、ミラ。でも今日はユウナの家に泊まってみたい。ユウナ、いい?」
「えっと、私はいいですよ。ネコさんたちもいいですか?」
「にゃむっと!!」
ネコさんたちは顔を見合わせて頷くと、代表してエルフネコさんが同意を示してくれました。
「じゃあ、ボクの部屋は明日からだね。…って、ユウナちゃんの家!?」
「はっ、はい。私の家です」
そういえば、ミラさんは捜索から戻ったばかりで私たちが家を手に入れたことは知りませんでしたね。
「実はこんなことがありまして…」
ゼブ様のお願いから桜さんの家を手に入れた経緯をかいつまんで説明します。
「へぇ、あの幽霊屋敷がユウナちゃんたちの家になったんだ」
ミラさんは意外にもすんなりと納得してくれました。他人への家の譲渡は日本では考えられませんが、こちらの世界では普通なのでしょうか?
「ユウナちゃん、もし良かったらボクも泊ってもいいかな。幽霊屋敷…って、ユウナちゃんに失礼だね。あの周辺は巡回してよく目に入っていたから、噂になった屋敷の中がどんな風なのか興味があったんだ」
「もちろん、いいですよ」
「にゃふっと」
「ありがとう。じゃあ、せっかくだから夜ご飯も一緒に食べようか」
「ならヨナが泊まっている『猫の耳亭』で食べる」
「ヨナさんは『猫の耳亭』に泊まっていたのですね」
『猫の耳亭』は私たちが宿泊していた『猫のしっぽ亭』の店主のロイさんのお姉さんが経営する食堂兼宿屋です。清掃依頼で何度か訪れたことがあります。…清掃依頼…今となっては懐かしい響きです…。
「じゃあ、ヨナちゃんとユウナちゃんたちは先に向かっていてよ。ボクは身支度をしてから追いかけるから」
「わかった」
「はい、わかりました」
私たちはミラさんと別れて『猫の耳亭』へと向かいました。
▽▽▽
「『猫の耳亭』の料理もやっぱり美味しいね。流石はロイさんの料理の師匠だけあるね」
今は『猫の耳亭』での食事を終え、私の家の前に着いたところです。ロイさんのお姉さん、ローラさんが作る料理は絶品でした。あと、簡単な挨拶だけで済ませていたミラさんとドワーフネコさんは食事の席でとても仲良くなりました。
「それにしても相変わらず大きな屋敷だね。サクラさんって人はよっぽど大金持ちだったんだね」
門を入り庭を進んでいるとミラさんが感嘆の声を上げます。
「中も凄い。ミラは絶対驚く」
「そうなんだ。楽しみだね。それじゃあユウナちゃん、お邪魔します」
「はい、いらっしゃいませ」
カードキーで解錠して玄関ドアを開けます。すると、例の音が近づいてきました。
「これが掃除をしてくれるマジックアイテムなんだね」
もうお馴染みになったお掃除ロボットです。ミラさんには事前説明していました。それにしても、このお掃除ロボットはいつも出迎えまでしくれて働き者ですね…偶然ですけど。
「にゃぷっと」
はっ!?ドワーフネコさんが足の裏を拭き終わるとお掃除ロボットに飛び乗りました。お掃除ロボットは意に介することなく、ウィーンと掃除をしながらリビングの方へと旅立っていきました。これって投稿動画で見たことのあるような…。それを見たネコさんたちは、その手があったか!!とばかりに驚いて、旅立った『ドワーフネコさん・オン・ジ・お掃除ロボット』を追いかけていきました。私たちもそれに続きましたよ。
「本当に凄い屋敷だよ。何だろう、これ?」
ミラさんは興味深そうに部屋中を見渡し、気になったものがあるとすぐに質問をしてきます。異世界転移に関しては濁して、差支えない程度に説明をしていきました。ただ、視界の片隅では、お掃除ロボットに交代でネコさんたちがライドオンしています。まるで、遊園地の動物をモチーフにしたコインで動く乗り物で遊んでいるかのようなのでほっこりとしました。
「そんな!!水を生成する魔道具が実用化されてるの!?」
「この箱で食べ物を冷やせるの!?」
「お風呂がある!?こんなの一般家庭には無いよ!!」
ミラさんは見る物、見る物に興奮しています。ヨナさんも前回訪れた時には部屋の確認を手伝ってくれましたが、すべて見たわけではなかったのでお風呂や冷蔵庫に同じく驚いています。
「ユウナちゃん、お金を払うからお風呂に入ってもいいかな?お願い!!」
「ヨッ、ヨナも入る。銀貨何枚支払うといい?」
えっと、ミラさんとヨナさんがお風呂に非常に食いついてきました。と言いますか、ヨナさんが感情を出すのは珍しいです。ゼブ様が実力者とわかった時以上かも…。
「あの、別にタダで良いですよ。お湯を沸かすのに費用はかかりませんから」
水は水の魔道具で作れますし、湯沸かしは太陽光発電による電化湯沸かし器によるものですから。
「えっ、本当にいいの?お風呂なんて帝都でも高級な宿屋や娼館にしかないし、温泉や水資源が豊富な場所にいくしか利用できないんだよ」
ミラさんが言うには、お風呂はこの世界にもあり作ること自体は容易ですが、水の確保や燃料費などの問題から実用的でないため金持ちの娯楽的な要素が強いそうです。それを逆手に川べりの村などは豊富な水を利用して公衆浴場を作り観光資源にしていたりするそうです。ただ、混浴のために女性には不人気だとか。村や町には井戸があるのが普通らしいのですが、生命線である水はあくまで飲料や一部の生活用水に用いられ、娯楽的な面が強く大量に消費されるお風呂には使うことは禁止されているそうです。ちなみに、私も使える水魔法は乾燥地帯では重宝されますが、その水を売ってもお金はあまり稼げないそうです。水の有無は人の生死に関わるので、水の値段はその地域の平均的な稼ぎになるように国やギルドが厳しく取り締まているのです。まぁ、このカーヤの街は水の調達などの管理は公務員が行っているため、街中での売買が禁止されているのですが…残念無念。
「大丈夫です。それでは明日のこともありますから、今から入りましょうか。結構広いですから、皆で入りますか?」
「うん、ありがとう」
「早く、入る」
「にゃぷっと」
皆で入るのは少し恥ずかしいですが、お風呂の操作を誤ると危ないですからね。まぁ、ネコさんたちも含めて女性ばっかりだから問題ありません。転移の時にスポーツバッグに入っていたタオルで隠しますしね。
…タオルをミラさんにはぎ取られ親の仇のように胸を掴まれたのは内緒です。我に返ったミラさんも謝ってくれたので忘れましょうか…。
▽▽▽
まぁ、いろいろありましたが就寝です。ミラさんたちは2階の寝室で寝てもらい、私たちはエルフネコさんが気に入っている和室で寝ます。寝具はネコさんたち1人1人分も購入していたので、ミラさんたちに貸しても余っています。
「にゃきゅ~」
お布団に入ったのですが天使ネコさんがバッグから絵本を持ってきて差し出します。
「にゃぷっと」「にゃむっと」「にゃふっと」
それを見たネコさんたちが目を輝かせて私を見てきます。
「えっと、クーちゃんに借りた聖女様の絵本を読みたいのですか?」
「にゃきゅっと」
うーん、明日のこともあるので早く眠りたいのですが、そんなに厚い絵本ではないのでいいでしょうか。それにネコさんたちが期待に満ちた顔をしているので断るのは無理ですね。
「それでは読みましょうか?」
「にゃぷっと」
絵本はリアルではなくて可愛らしいデフォルメされた絵で描かれています。タイトルは『聖女物語』ですね。
「そういえば、ネコさんたちは文字が読めないのでしたね。読み上げましょうか?」
「にゃふっと」
ネコさんたちは丁寧にお辞儀をして私の横に座って絵本をのぞき込みます。何だか小さい子に読み聞かせをしているみたいです。
「それでは『聖女物語』を読み上げます」
―昔々、ある小さな村に小さな女の子が住んでいました。女の子は女神リューネ様が大好きで神聖魔法の才能を持っていました。女の子は女神リューネ様の教えを守り、村人が怪我をするとすすんで治してあげてみんなから感謝されていました。女の子は大きくなるとより多くの人を助けたいと思い旅立ち、いろいろな場所で怪我で困っている人たちを治してあげました。女の子は多くの人に感謝され、いつからか『聖女』と呼ばれるようになったのです。
「にゃきゅ~」
―女の子が聖女と呼ばれるようになってから問題が起きました。大魔王が多くの国に戦争を仕掛けてきたのです。大魔王が率いる魔族はとても強く多くの国で怪我人が出ました。聖女様は一生懸命にみんなの怪我を治していきました。聖女は危ないとわかっていても戦場にもおとずれて戦い傷ついた人たちを治していきました。それを知った大魔王は聖女を邪魔に思いさらってしまったのです。
「にゃむっと!!」
―聖女がさらわれて多くの人が悲しみ嘆きました。多くの国の王様は国民が聖女に助けられたことを知っていました。王様たちは相談をして自分の国から一番強い者を選び出し、パーティーを組ませて聖女を助けに向かわせたのです。パーティーは全員違った種族で勇者である人間、弓使いのエルフ、神聖魔法を使う天使、力持ちで器用なドワーフの4人でした。
「にゃふっと!!」
「にゃむ~」
「にゃきゅ!!」
「にゃぷにゃぷ」
私が勇者パーティーの種族を読み上げるとネコさんたちが大はしゃぎをしました。えっと、これってネコさん以外の特徴と種族が同じですね。でも、ネコさんもネコさんたちの中ではノーマルなネコさんであると考えれば、特徴がない人間的な立ち位置ともいえますね。自分たちと似ている種族が聖女を助けに行くので皆さんのお気に入りの物語なのでしょうか。そう考えれば、私がつけた種族の特徴を含んだ名前に皆さんが喜んでくれたのもうなずけます。
―そして大魔王の娘である心優しい魔王も囚われの聖女の世話をするうちに仲良くなり、勇者たちを助けることになりました。
娘の魔王はドレスを着て頭の左右に角があり、背中には黒い羽が生えています。
―人間、エルフ、天使、ドワーフ、魔王が協力をして大魔王を倒し、聖女は無事に助け出されたのです。戦争も終わり世界には平和が訪れました。めでたし、めでたし。
「にゃふふ~!!」
ハッピーエンドにみんなが大喜びです。それにしても、日本の小説ならありふれた物語と言えますが、大魔王の娘が仲間になるなんて子供向けの絵本としては斬新ですね。まぁ、これは事実に基づいているのかもしれませんが。…もしかして、まだ合流していないネコさんのお姉さんって…。
「いい物語でしたね」
「にゃきゅっと」
ネコさんたちを見ると満足そうに頷いています。よっぽどこの物語が好きなのでしょう。
「それでは、そろそろ眠りましょうか。明日は早いですよ」
電気を消して布団にもぐります。孤児院でマリアベルさんたちと出会い、ミラさんたちが泊まりに来て、絵本の読み聞かせをするなど今日は非常に楽しい日常を満喫できました。でも、この楽しい日常を守るには明日のカーヤの街の防衛成功が必須なのです。ですが、不思議と気負いのようなものはありません。ラルフさんたちがいて、ネコさんたちがいるからなのでしょうか?それとも私がこの世界での生活になれてきて、気が緩んでいるからなのでしょうか?それは駄目です。私は父さんと母さんに長生きすると誓ったのですから。明日起きたら気を引き締めなおしましょう。ネコさんたちとの楽しい異世界生活を続けるために。
お読みいただきありがとうございました。




