第4話 ユウナとネコさんたちとサンドウィッチ
脚を切り終わった机は、ドワーフネコさんが【クリエイトツール】で作ったやすりで切断面を滑らかにして、1階にある和室に運んでくれました。これで食事をする場所の準備が完了したので、次は私が料理を作る番ですね。これから昼食を作る作業に取り掛かります。ヨナさんたちには和室で待ってもらうよう伝えましたが私が作る昼食に興味津々なようでキッチンについてきました。
そんなこんなで、この屋敷にきて初めての料理です。ヨナさんたちの期待のこもった目を向けられながら料理するのは緊張しますが、これから作る料理は比較的簡単なサンドウィッチなので失敗はしないでしょう。具はシンプルにゆで卵とハムと野菜です。この街で買える食材で作る料理なので、ヨナさんの口にもあうはずです。もちろん、ネコさんたちにもですよ。
先ほど購入した食材や調理器具に食器をシンク横のスペースに置いていきます。調理器具は鍋にフライパン、まな板に包丁と木製のボウルとツタで編まれたザルを買いました。さてと、これから料理に取り掛かるのですが、今朝に軽く目を通してきた桜さんの『説明書』を思い出します。
『説明書』に書かれていた調理に関係する屋敷の水道光熱関係についてですが、まず冷蔵庫などの電化製品は屋根に取り付けられた太陽光発電により電気が供給されています。次に水道水については、まだ世間的には開発されていないとされている水の魔石から水を生成することができる魔道具が各蛇口に取り付けられているそうです。キッチンのコンロは一般的に市販されている火の魔石を用いる魔道具が設置されています。そして、これらの地球のテクノロジーやこの世界の魔道具、そして屋敷本体にはルゥちゃんが専門とするエンチャント魔法によって耐久性強化がなされており、100年後に転移者が訪れても壊れることはなく使用可能だと書かれていました。魔道具はともかく地球のテクノロジーに故障がないということは勇気づけられます。できたら、私のスマホにもエンチャントしてほしいと思いますが…とても、と~て~も~、と~~て~~も~~莫大な金額が掛かったと括弧書きで説明があったので難しいでしょう。財を成した桜さんが強調するくらいですものね。
さて、水の魔石の水道に魔道コンロや冷蔵庫などが正常に機能することが確認できたので、いよいよ料理に取り掛かりましょう。まずはメイン具材の1つ目のゆで卵。鍋に卵がつかるほどの量の水を貯めます。そこに卵を入れるのですがここでひと手間です。卵のとがっていない先端の方をスプーンで軽くたたきヒビを入れておきます。すると、ゆであがりに殻が綺麗にむけるのです。ペシペシ、ペシペシ、ペシペシ。これでオッケーです。さて、水の状態で卵を入れて加熱し、沸騰して来たらスマホのタイマー機能で11分間計ります。大体この時間で卵は茹で上がるのですが…あれっ?この世界の卵も同じで良いですよね…。まぁ、この世界の一般的な鳥の卵らしいので大丈夫でしょう。
続いて異世界もので転移・転生者が必ず?作るマヨネーズです。今回はゆで卵の味付けに使いますよ。マヨネーズは卵黄にお酢と塩を混ぜ合わせ、そこに食用油を少しずつ混ぜ入れるだけで作ることができます。ちなみに卵を黄身と白身に分けるには、器に割った卵の黄身をペットボトルで吸い上げる簡単便利な方法があります。しかし、この世界に来た時に持っていたスポーツドリンクはペットボトルに入っていましたが、飲用目的だけに使いたいので、今回は道具いらずの方法で取り分けます。まずは器の真上で半分に割った殻の中に黄身と白身が残るように割ります。次に何も入っていない殻の方に黄身を移し入れます。その時に白身が下の器に落ちていくので何回か繰り返すと殻の中には黄身だけが残るのです。さて、この方法で黄身の用意ができたので材料を混ぜ合わせていきます。少しすると粘度が出てきて程よい硬さになったので味見をしてみましたが、市販のマヨネーズより滑らかさは足りませんが成功と言ってもいいでしょう。味はお酢の程よい酸味と卵の甘さが感じられて美味しいですよ。
次はメイン具材の2つ目のハムです。ハムは塊で売っていたので食べやすい厚さにスライスします。今回はハムがメインではなくてマヨネーズ味のゆで卵を味わってほしいので薄めにスライスしましょう。もちろん、厚めに切ったハムのサンドウィッチも食べごたえがあって美味しいですよ。
最後は野菜ですね。レタスのような葉物野菜が安く売っていたので、これを購入しました。レタス(仮)を一枚一枚はいでから、水で綺麗に洗うのですが、ここで重要なポイントがあります。それは水気をよく切ることです。水気が残っていると味付けが薄まったり、食感がべちょっとしてしまいますからね。
「【ウィンド】」
ザルに入れたレタス(仮)に威力を調節した風魔法を浴びせます。風力により水がはじかれていき、数秒で水気が無くなりました。これぞ異世界クッキングですね。
『にゃふっと、にゃむっと、にゃきゅっと』
おっと、スマホのタイマーが卵の茹で上がりを告げます。今回のタイマーに設定した音源はネコさんとエルフネコさんと天使ネコさんのコラボ鳴き声バージョンです。魔道コンロの火を止めて鍋をシンク内に置いて水道水を流し入れて冷やします。
「にゃぷっ?にゃぷにゃぷ?」
お、ネコさんたちの声が本人たち以外から聞こえてきたので、ドワーフネコさんがスマホに興味を持っているようです。
「えっと、これはこの道具から出てきた音です。ネコさんたちの声を録音?して再生?する機能があります」
録音と再生という単語が通じるのか不安になり疑問形になってしまいましたが、ドワーフネコさんが頷いたので『言語理解の加護』の効果があるみたいですね。これからは地球の単語も積極的に使っていきましょう…と思うのは早計ですよね。たまたま、ドワーフネコさんの理解力が高かったのかも知れませんからね。言葉のチョイスは相手を選んでいきましょう。
「にゃぷっと」
ドワーフネコさんがスマホに興味があるようなので渡してあげます。でも、いろいろと触られて様々な機能が起動されても混乱しますから、タイマーの音声設定画面を開いて再生ボタンや停止ボタンを私が一緒に押してあげるにとどめておきましょう。
『にゃふっと、にゃふっと、にゃふっと』
「あっ。えっと、これは起床時のタイマー音声に使っているネコさんの声ですね」
ドワーフネコさんがたまたま再生したのはネコさんの音声です。そういえば、今日はネコさんたちが目覚ましより先に私を起こしてくれたので、ドワーフネコさんは目覚まし音を聞いていないのでした。
「このネコさんの音声によって私やネコさんたちは起床していますよ」
「にゃぷぷ?」
「指定した時間になるとネコさんの鳴き声がアイテムから鳴ります。ドワーフネコさんの声も記録していいですか?」
「にゃぷっと!!」
「では、私が『はい』と言ったら『にゃぷっと』と1回鳴いてくださいね」
「にゃぷ?にゃぷっと!!」
「それでは…『はい』」
「にゃぷっと」
「…はい、ありがとうございます。それでは再生してみますね」
設定をちょっといじって…ポチッとな。
『にゃぷっと…にゃぷっと…』
「にゃぷっと、にゃぷっと!!」
おっと、自分の録音された声を聴いて、ドワーフネコさんが喜んでいます。
「それでは調理に戻ります。ドワーフネコさん、戻ってくださいね」
「にゃぷっと」
ドワーフネコさんが戻っていったので粗熱が取れたので卵の殻をむいていきましょう。…うん、ヒビを入れたひと手間のおかげで綺麗に殻がむけました。大成功です。
「さて、下準備は終わりました。もうすぐできますよ」
「にゃきゅっと~」
「にゃむっと~」
「にゃふっと~」
「楽しみ」
ヨナさんとネコさんたちが嬉しそうに返事をしてくれます。誰かのために料理を作るのは、本当に楽しいですね。さて具材を挟むパンですが、なんと食パンが売っていました。ただ、他のパンと比べて手間がかかり生産量が少ないらしく一般的なパンと比べて数倍の値段です。迷いましたが今日は異世界初の手料理とヨナさんへのお礼も兼ねているので思い切って購入しましたよ。まぁ、ゴブリンキング討伐の報酬と宿屋代が不要になったので、深刻な出費ではないのですが。調理に戻りましょう。まずは食パンは塊で買ったのでまずは薄く切ります。ちなみに、日本で食パン1斤の明確な重さは決まっていないそうです。今回買った食パンの量は、スーパーで買える食パンの袋で約6つ分です。ドワーフネコさんを含めて6人ですから、中々の量ですね。まずはパンの耳を切り落とします。耳が残っていても食べごたえがあっていいのですが、せっかく高価な食パンを買ったので、ふわふわ触感を楽しみましょう。よし、準備オッケーです。続いて、食パンの具材を挟む側に薄くマヨネーズを塗って胡椒をふるっていきます。全てのパンに塗り終わったので、いよいよ具材を挟みます。具材は下からレタス(仮)、マヨネーズと混ぜ合わせたゆで卵、ハムの順にのせていきました。レタス(仮)の触感とハムを味わい、最後にこの世界にはない調味料のマヨネーズの味が口の中に残るようにする配置です。
「よし、ご飯ができましたよ」
「にゃきゅっと」
「にゃふっと」
「にゃぷっと」
「にゃむっと」
「ユウナ、早く食べたい」
「それでは、ドワーフネコさんが加工してくれた机で食べましょう」
「にゃぷ~」
▽▽▽
サンドウィッチや食器に飲み物をみんなで持って和室に移動してきました。それらを座卓に置いた後に、机と一緒に購入していたクッションを配置して、食事の準備が完了です。
「これがユウナの故郷の料理でいい?屋台の料理と似ている」
「はい、私の故郷ではパンに具材を挟んだ料理をサンドウィッチと言います」
「屋台と違って高価なパンを使っているから美味しそう。でも、ハムと卵のパン料理はある。その…珍しくない…」
ヨナさんは私の故郷の料理を楽しみに今日来てくれました。調理風景を見ていましたが、完成したサンドウィッチが日常的に屋台で売られている料理と似ていてがっかりしていますね。私を気遣って、どう言っていいのか悩んでの言葉でしょう。ですが、私にはヨナさんを驚かせて喜ばせる自信があります。
「確かにコンセプトは同じなので、屋台の料理もサンドウィッチと言えるかもしれません。ですがヨナさん、安心してください。味付けが珍しいのですよ。ヨナさんの期待は裏切らないと思います。それでは食べましょうか」
「…そう。わかった。ユウナを信じる。いただきます」
ヨナさんが夕食を食べた時に教えたあいさつをしてくれました。ドワーフネコさんもネコさんたちに教えられて「にゃぷぷにゃぷ」とあいさつしていますね。
「…っ!!この味、何!?…美味しい!!」
ヨナさんがサンドウィッチを1口食べると目を見開いて驚き、すぐに2口目、3口目と口に運んでいます。
「ユウナ、この卵の味は何?」
「これも私の故郷で使われているマヨネーズという調味料です」
「マヨネーズ!?。マヨネーズ、美味しい!!」
「ヨナさんが気に入ってくれて嬉しいです。マヨネーズはいろいろな料理に合いますよ」
「にゃふふ!?」
ネコさんの声が聞こえたのでそちらを見ると、ネコさんが嬉しそうに万歳しています。
「ネコさんも気に入りましたか?」
「にゃふっと!!」
ネコさんは私の声に返事をしてくれた後に、サンドウィッチを勢いよく食べ進めています。
「にゃむ!!」
「にゃきゅきゅ!!」
「にゃぷ!?にゃぷぷ!!」
「エルフネコさんも、天使ネコさんも、ドワーフネコさんも気に入りましたか?」
「にゃむっと!!」
「にゃきゅっと!!」
「にゃぷっと!!」
「それは良かったです」
ドワーフネコさんたちも美味しそうに食べているので、本当に嬉しいですね。マヨネーズ異世界万能説が証明された瞬間でもあります。恐るべしマヨネーズ。
「サンドウィッチ…マヨネーズ味は本当に美味しい。ユウナも食べる」
「そうですね。いただきます」
ヨナさんに促されて私もサンドウィッチを1切れ取って1口食べます。うん、日本で食べていたサンドウィッチとほとんど変わりませんね。レタス(仮)もレタス(本物)と言っていい物です。
「この世界で…じゃないですね。えっと、久しぶりにサンドウィッチを作りましたが成功ですね。サンドウィッチは多めに作ったのでヨナさんもネコさんたちも遠慮なく食べてください」
「屋台のパン料理と全然違う。ユウナ、料理の天才。いっぱい、いただきます」
ヨナさんが返事をしてくれてからサンドウィッチに手を伸ばすと、ネコさんたちも一鳴きして手を伸ばします。
▽▽▽
「ごちそうさまでした」
「にゃぷぷにゃにゃぷぷにゃ」
ヨナさんとドワーフネコさんたちがサンドウィッチを食べ終わり、ごちそうさまをしてくれました。
「お粗末様でした」
「ヨナ、少食だけど久しぶりにいっぱい食べた。本当に美味しい。ユウナのマヨネーズサンドウィッチ、好物になった。」
ヨナさんの評価はサンドウィッチと言うよりマヨネーズですね。でも、嬉しそうな表情をしているので料理人としては嬉しい限りです。
「ヨナさんが喜んでくれて本当にうれしいです」
「サンドウィッチはまだ残っている。でも、ヨナはお腹がいっぱい。もう、食べれない。残念」
ヨナさんが向けた視線を追うと、座卓の上にサンドウィッチがまだ残っています。ネコさんたちも満足したのかお腹をさすっています。やっぱり、作りすぎたみたいですね。
「…ユウナ、残ったサンドウィッチ、貰っても良い?」
「えっと、ヨナさんが欲しいのでしたら食べてもらいたいのですが、サンドウィッチの具材は腐りやすいので夕食で食べるとお腹をこわす可能性がありますので…」
サンドウィッチの具体的な消費期限はわかりませんが、保冷設備のないこの世界では料理は早く食べてもらいたいというのが料理人の気持ちです。
「ユウナ、違う。今から友人に持っていきたい」
「えっと、友人ですか?」
「そう。この街の孤児院の院長。名前はマリアベル」
「孤児院の院長のマリアベルさん?」
「そう。そして『光の剣』の元パーティーメンバー」
お読みいただきありがとうございます。
今回の話は少し文字数が少なくなっています。
次話で調整していき、今後修正をかけるかもしれません。




