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ユウナとネコさんたちの異世界生活  作者: 藍
第4章 ユウナと天使ネコさんと幽霊屋敷
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第3話 ユウナとネコさんとザインの復讐

「あなたはザイン!!」


「おっ、嬢ちゃん。覚えてくれていたのか。嬉しいねぇ」


「私は嬉しくありません!!」


「嫌われちまったみたいだなぁ」


「当たり前でしょうが!!この人はあなたの仲間ですか!?」


 私たちに店を見てほしいと言っていた男性は、首を横に大きく振って否定しています。


「すっ、すみません!!」


 男性は謝ったかと思うと、脱兎のごとく走り去りました。


「ちっ、根性がないぜ、最近のおっさんはよ~。あんなやつは仲間じゃねぇよ。そこら辺のおっさんに嬢ちゃんを裏路地に連れ込むように脅した…じゃねぇや、頼んだんだよ。猫がいち早く気付いたみたいだが、嬢ちゃんも気付いたみたいだな。どうしてだ?」


「このカーヤの街には『麦の麺亭』なんてお店はありません」


「ほう、詳しいな。冒険者は辞めて、街のガイドにでも転職するのかい」


「お掃除クエストのために街中のお店を調べていただけです!!」


「そうかい、そうかい。将来に期待している若者ってやつはまぶしいなぁ。だが、俺様は嬢ちゃんたちのせいで未来が断たれたわけだがよ~」


「それはあなたが勝手にしたことでしょう。それに、結局1週間の拘留だけだったでしょうが」


「なーに、この業界は情報ってやつに敏感でよ。もちろん、酔って暴れただけじゃあ問題はなかったが、相手が悪かった。なにせ、俺様を倒したのが『光の剣』のリーダーであるラルフって小僧だったからよ。『光の剣』のリーダーに刃向った俺様に依頼を発注しようって骨のある連中は、なかなかいねえんだよ」


 ラルフさんの知名度があだになったということでしょうか?あっ、ラルフさんと言えば…。


「もしかして昨日の夜に宿屋の近くでラルフさんに殺気を放ったのは、あなたですか?」


「あぁ、そうだぜ。あの距離で気づくとは流石はAランクの冒険者だけのことはあるぜ。あと、金髪の猫も気付いてたみてぇだが、これは種族の力ってやつかい?」


 やはり、昨日の歓迎会の後の街中での殺気はザインによるものだったみたいですね。


「依頼が受けれなくなっても、ダンジョンに潜っていれば稼げるのではないのですか?あなたはBランクの実力者なんですよね」


「嬢ちゃんは知らねえだろうが、Bランクともなるとそれだけで指名依頼ってのがあるんだよ。その依頼料は高額でダンジョンに潜ってちまちま雑魚と戦うのが馬鹿に思えちまうんだ」


「だったら、どうしたいのですか!?」


「なーに、冒険者稼業はもう引退だ。これからは、裏社会に入って面白おかしく暮らしていこうかって思ったわけだ。そしたら、昨日の夜に嬢ちゃんとラルフを見かけた。それで時間を空けて、『猫のしっぽ亭』の食堂に顔を出して情報収集してみたら、ラルフは今日から1週間街から離れて嬢ちゃんは冒険者ギルドに報酬を受け取りに来るって話じゃねぇか。邪魔な小僧もいねぇし、餞別せんべつ代りにその報酬を貰おうかなって思ったんだな、これが」


「つまり、お金が目的ってわけですね。でも、あなたは防犯課に監視されているんじゃないんですか?」


「俺様が拘留されてから何週間経ったって思ってるんだい、嬢ちゃん。防犯課の連中も解放したやつをずっと監視するほど暇じゃねぇよ」


 確かにザインとイザコザがあってから、もう2週間以上過ぎています。


「別に俺様は冒険者稼業に効率的な稼ぎっていうこと以外には未練はないから、正直に言えば嬢ちゃんたちに恨みってものは持ってない。前に捕まった時には、稼ぎや面子のこともあるからいきり立っていたが、今じゃ裏社会へ入るきっかけを作ってくれて感謝すらしているぜ。でも、まぁそれでも嫌がらせくらいはしても罰は当たらねぇだろう?」


「罰は当たりますよ!!」


「まぁ、良いじゃねぇか。さっさと金を渡しな。それが嫌なら、ちょっと遊んでくれよ。拘留されてから腕がなまっているかなぁ。小僧たちがいたとはいえ、ゴブリンキングを倒す戦力にはなったみたいだからなぁ」


 ザインは手斧を私に向けてニヤリと笑います。どうやら、私たちは素直にお金を渡すことなく抵抗すると思っているのでしょう。


「…ちなみに、お金を渡せば素直に帰ってくれますか?」


「面白れぇ嬢ちゃんだ。その時は、その金で嬢ちゃんを買うぜぇ。明日の朝までベッドで相手して貰おうか」


 うっ、なんだか以前に冒険者ギルドで絡まれた時と感じが違います。セリフとは裏腹に油断なく私とネコさんを警戒しているようで、言っている内容は滅茶苦茶ですが、何となく意志の強さを感じます。以前は本当に酔っ払っていたので問題を起こしたのでしょうか?今回のお金目的ということ建前で、私たちと戦うこと自体が目的のように感じられます。本当に本当は私たちを恨んでいるのでは?


「それは遠慮します。ネコさん、準備して下さい」


「にゃふっと!!」


 私の言葉にネコさんが魔力の爪を伸ばします。それを見たザインも手斧を構えて私たちを睨みつけました。


「ほぅ、良い気迫だぜ」


 っ!!ザインの鋭い殺気に私は身を固くしてしまいました。ラルフさんとの戦闘では一瞬で倒されたザインですが、実力者だということはBランクの実績から間違いがありません。冒険者成ったばかりの戦闘経験が1日だけの私では歯牙にもかけられないでしょう。もちろん、ネコさんがいるので何とも言えませんが、私が足を引っ張るのは確実です。


「嬢ちゃんは杖を持っているから魔法使いで、猫は魔力の爪による近接戦闘タイプだなぁ。バランスが取れてていいコンビだ。せいぜい、楽しませてくれよ~」


 考えがまとまりません。ゴブリンキングとの戦闘の時はラルフさんたちがいたとはいえ考える余力はありました。ですが、数メートルの距離にいるザインのプレッシャーは考えるということすら不可能にしています。


「別に殺しはしねぇよ。ただ、運が悪ければ数か月くらい病院で天井のシミを数えることになるくらいは覚悟しておけよ~」


「にゃふっと!!」


 あっ、ザインのセリフが終わると同時にネコさんが飛び掛かりました。


「しゃらくせー!!」


 キーンッ。ネコさんの爪とザインの手斧が交差して甲高い音を上げます。


「にゃふ!にゃふ!にゃふー!!」


「がはははーっ、やるじゃねぇか猫よー」


 ネコさんの左右の魔爪の連撃をザインは両手の手斧でいなしていきます。


「今度はこっちの番だ!!【クロススラッシュ】」


 ザインのスキルの掛け声と共に、クロスする斬撃が青い光を放ちます。


「ふにゃー!!」


 【クロススラッシュ】の交点に対してネコさんは魔爪を伸ばした突きを放ちました。両者の攻撃は火花をまき散らし、ネコさんが吹き飛ばされる結果に終わります。


「ネコさん!!大丈夫ですか?」


「にゃふっと」


 ネコさんは素早く立ち上がり、私の横まで戻ってきます。


「やるじゃねぇか、猫の癖によ~」


「にゃふふ!!」


「さて、じゃあこんな余興はどうだい?くらいな!!」


 ザインが腰のベルトのホルダーからナイフを取出し、ネコさんに向けて投げました。


「にゃふっと!!」


 ネコさんは横っ飛びにかわしました。


「甘いなっ!!」


 パリッ。


 ガラスの割れる音が響きます。


「にゃふ!?」


 ネコさんの着地点付近にガラスの破片が飛び散っています。


「ネコさん、大丈夫ですか?」


「にゃふふ~」


「えっ?」


 ネコさんを見ると何かゼリー状のものにまとわりつかれています。ネコさんは必死にもがいていますが、取れないようです。


「そいつはスライムだ」


「スライムって確か物を溶かす能力!!」


「落ち着きな、嬢ちゃん。そいつはスライムはな、特定の植物の近くに生息している変わり種だ。消化能力は持ってねぇ、生き物にまとわりついて離れないってだけのスライムだ。まとわりつかれた生き物は身動きが取れずに、やがてその場で衰弱死する。死亡した生き物から養分をもらった植物がスライムに魔素を掃き出してやるっていう、持ちつ持たれつな生き方をしているらしいぜ」


「ネコさん、爪で切れませんか?」


「にゃふっと!!」


 ネコさんは頷いて爪を伸ばします。しかし、魔爪がスライムを押しのばしたかと思えば、魔爪は消えて元の状態に戻ります。


「そのスライムは『物理無効の才能』を持っていてるぜ。しかも、無属性の魔力武器は無効っておまけつきだ。面白れぇだろ」


「面白くありません!!【ファイア】」


 物理無効で無属性がだめなら、火魔法で攻撃です。


 ネコさんは私から4メートルくらいの位置に横たわっています。この距離ならネコさんに貼りついているスライムにのみ魔法を当てることは可能なはずです。


「【クロススラッシュ】」


「えっ!?」


「良い腕してるじゃねぇかよ、嬢ちゃん。魔法のチョイスに発動時間、猫が傷つかねえように手加減する魔法制御、正直恐れ入ったぜぇ」


 ザインとネコさんの距離は6メートルくらいは離れていました。それが私が魔法を発動した瞬間に私とネコさんの間に立ち、スキルによる攻撃で私の魔法をかき消したのです。


「嬢ちゃんは魔法の才能はなかなかのものだが、身体能力は全然ダメだな」


「どっ、どうすれば…」


「まっ、諦めな。猫が動けなくなった時点でおまえらのパーティーは全滅確定だ。まっ、気絶するくらいは覚悟するんだな」


「くっ【ウィンド】、きゃーっ」


「にゃふっと!?」


 【ウィンド】を放った瞬間に、頭へと衝撃が来ました。


「さてと、意識はあるかい?」


 ザインの声が頭に響きますが、何とか意識はあるようです。視界がぼやけているのは黒縁メガネが先ほどの衝撃で飛んで行ったからでしょうか?


「へ~。嬢ちゃん、メガネを取ったら美人じゃねぇか!!外してたほうが男が選びたい放題だぜ」


 立ち上がってザインの方へと顔を向けますが、すぐにふらつき倒れてしまいます。頭がガンガンして顔を上げることするできません。


「まっ、今の衝撃でメガネは壊れちまったがよぉ」


「メ、メガネが壊れたのですか?」


「レンズは割れて、フレームも折れてるな、こりゃあ」


 そっ、そんな!?私はメガネが無いと何も見えません。


「さてと、猫はスライム巻きになって、嬢ちゃんもそんな状態だ。約束通り、金をもらおうか。意識があるなら財布をこっちに投げ捨てな」


 っ、私はメガネが壊され目が見えないので、ネコさんを助けることもできません。いえ、仮に見えたとしてもザインの隙をついてネコさんを助けることができるだけの実力がそもそもないのです。


「わっ、わかり」


「貴様ら、何をしている。ん、スライムに巻かれているのはあの時のネコか。それなら、そっちでうずくまって下を向いているのはユウナとかいう小娘か?」


「だっ誰だ!!おまえは!!」


 こっ、この声は。


「ふんっ。庶民は相手に名を尋ねるのなら、まずは自分の名を名乗るという当たり前の礼儀も知らないのか?」


「なんだと、この小僧が!!」


「ふんっ。まぁ、良い。貴様みたいな低能そうな男に礼儀を期待する方が馬鹿らしいな。俺は清掃局の局長補佐をしているゴレット・ギャレットだ」


 やっぱり、ゴレットさんです!!


▽▽▽


「小僧が!!なめるなよ!!【クロスカッター】」


「【ファイアブレス】」


「なっ、街中で上級火魔法だと!!狂ってるのか!!」


「ふんっ。壁を見ろ。焦げ跡すらないだろう。消し炭になるのは貴様だけだ」


「なんて魔法制御力だ。ん?ゴレット…ゴレットだと。お前!!『光の剣』のパーティーメンバーか!!」


「ふんっ。パーティーメンバーだ。斧使いはやたらと人を不愉快にさせる才能でも持っているのか」


「何を言っている?」


「貴様には関係ないことだ。とりあえず、半殺しにして防犯課にでも引き渡してやる。【ウィンドアロー】」


「次は中級風魔法だと!!【唐竹割り】。ちっ、『光の剣』と2度も関わっちまうとは運がねぇな。嬢ちゃん、とりあえず金は預けておくぜっ。って言っても、もう会うことは無いだろうがな!!」


 パンッ、パンッ、パンッ!!


 ザインの声の後に、甲高い破裂する爆音が響きました。


「ふんっ。逃げたか。爆竹に煙幕とは古典的だな。小娘、大丈夫か?」


 ゴレットさんが問いかけてきます。


「ふっ、ふらつきますが大丈夫です」


 ザインの攻撃と逃げる時の爆音で、未だに意識がふらつくので顔を上げることができません。でも、なんとか受け答えはできそうです。


「【ファイア】」


「にゃふっと!?」


「とりあえず、ネコに巻き付いていたスライムを燃やした。ネコに介抱してもらえ。さっきの爆音で防犯課も直に来るだろう」


 ゴレットさんの言うようにネコさんは自由になったようで、駆けよって来てにゃふにゃふと心配してくれていますね。


「あっ、あのどうして私たちを助けてくれたのですか?」


「何か勘違いしているようだな。俺たちは職務と立場上敵対しただけだ。小娘は掃除依頼をあれから受注していないようだから、今のところはどうこうするつもりはない。それに街の治安を守ることは有力者の次男として当然の行為だ。別に小娘だから助ける、助けないという次元の話ではない」


「そっ、そうですか。あのゴレットさん、今回は助けて頂きありがとうございました」


 ネコさんに起こしてもらいながら地面に座り、ゴレットさんに何とかお礼を言います。

 

「ふんっ。別に小娘に礼な…」


「あっ、あのどうしました?」


「小娘、その顔は!!」


「えっ!?傷痕でもあるのですか?」


 慌てて顔を触ります。ですが、傷痕や血が出ているような感じはありません。多分、ザインは手加減をしていたと思います。


「クリステ、いっ、いや何でもない。とにかく、防犯課に事情説明をしてミラに警護してもらえ」


「あっ、ミラさんは今冒険者ギルドの依頼で1週間くらい街に戻ってきません」


「ふんっ。使えないヤツめ。とにかく防犯課でも冒険者ギルドにでも警護してもらっておけ、小娘」


「はっ、はい」


「俺はもう行く。…気をつけろよ」


「あっ、ありがとうございました」


「にゃふにゃふ~にゃふっと」


 視界はぼやけたままですが、ゴレットさんの足音が遠ざかって行くのがわかりました。


「ネコさん、私はメガネが無いと手の届く範囲でも視界がぼやけて何も見えません。私はこれからどうしたらいいのでしょうか?」


「にゃ、にゃふふ~?」


 私の問いかけにネコさんは困ったような鳴き声を上げます。


「あと、ルゥちゃんのお昼ご飯遅れてしまいますね」


「にゃふっと」


 とりあえず今私にできることは防犯課が駆けつけくれるまで、ネコさんを撫でることくらいしかなかったのでした。

お読み頂きありがとうございました。

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