第1話 ユウナとエルフネコさんの歓迎会
「それじゃー、エルフネコちゃんの歓迎会を始めるよ。かんぱーい」
「乾杯」
「かんぱーい」
「にゃふにゃい」
「にゃむにゃい」
私たちはゴブリンキングを討伐してから街に帰還して、冒険者ギルドに報告した後に一時解散。夜になって『ねこのしっぽ亭』の食堂で集合して、エルフネコさんの歓迎会を始めました。今回の歓迎会は東の森でのラルフさんとミラさんのやり取りから、ラルフさんが奢ってくれることになっています。
「それにしてもエルフネコさんの魔弓は凄かったな」
「確かに凄かったね。5本同時に矢を放ち全て命中していたからね。Bランクの冒険者並みの実力じゃないのかな」
「にゃむっと、にゃむにゃむ~」
ラルフさんとミラさんの賞賛にエルフネコさんは照れているようです。ピンチを救ってくれたエルフネコさんを称賛する内容で話がはずみます。ネコさんもお姉さんが褒められて嬉しそうですね。
「今更だけどエルフネコさんはエルフの特徴を持っているね。エルフの耳も本物なのかい?」
私を挟むようにネコさんとエルフネコさんが座っており、ラルフさんはエルフネコさんを見ながら疑問をつぶやきました。確かに私も疑問には思っていたのですが。
エルフネコさんの金髪を撫でると非常にサラサラで気持ちいです。また、エルフ耳も触るとほのかに温かく感じられて本物ですね。
「にゃむにゃむ、にゃむっと。にゃむっと、にゃむむ。にゃむー、にゃむー」
あっ、ラルフさんの質問にエルフネコさんは身振り手振りを交えて説明してくれいるようですが、残念ながらネコさんと同じく言葉はわかりません。
「うーん、ごめんなさい。やっぱり言葉はわからないです。でも、エルフネコさんとネコさんは姉妹で、私と一緒に暮らしてくれるのですね。これからよろしくお願いします」
「にゃむっと」
ネコさんと違うエルフのような外見は不思議ですが、それよりもこれから一緒に暮らしてくれるということの方が今の私には重要です。出会ったときは戦闘中でちゃんと挨拶もできていなかったので、忘れないうちに改めて挨拶をしておきましょう。私が頭を下げると、エルフネコさんもお辞儀をしてくれました。ネコさんのお姉さんらしく、礼儀正しい淑女ですね。
その後はエルフネコさんに対してラルフさんたちの自己紹介改めて行い、私とネコさんの現状も詳しく説明しました。その後は『ねこのしっぽ亭』の料理を楽しみます。ちなみに、リーネさんがエルフネコさんの可愛さにやはり暴走したのですが、エルフネコさんはさらりと逃れました。その身のこなしは「流石です」としか言いようがなかったですね。
「さて、今回の訓練はトラブルの連続だったが、結果的に実戦訓練から戦闘に薬草の採集まで経験してしまった。明日からはユウナたちはどうする予定なんだい?いや、明日というより今後はどうするつもりなのかな?」
話題が途切れた時にラルフさんが私たちの今後について質問をしてきました。
でも、明日というより今後とは?
あっ、私たちはラルフさんの言ったように、ゴブリンキングとの遭遇によって図らずも魔物との実戦訓練どころか戦闘を経験しました。つまり、数日間を予定していたラルフさんとミラさんへの訓練依頼を、1日で達成してしまっているのですね。
「えっと今後については、ゴレットさんのことがあるのでお掃除クエストについてはしばらく受注できないと考えています。だから、予定通りに薬草採取のクエストを受注していきたいと思っています。エルフネコさんが草木に精通しているみたいなので、薬草採取は問題ないと思っているのですが」
街に帰ってからラルフさんたちと解散した後に、宿屋の部屋でエルフネコさんの【才能と加護】を見せて貰いました。その中に【木霊の加護】という加護があったのです。
【木霊の加護】
この加護を持つ者は森林に関する場所で木霊の助けを受けることができる。
説明文からは詳しいことはわかりませんが、エルフネコさんに「薬草の場所がわかったのは木霊に教えてもらったからですか?」と質問すると肯定していました。森林と言えばエルフ。エルフと言えばエルフネコさん。何らかの関係があるのでしょうか?
「そうか…ユウナは考えていないみたいだが、魔物の討伐クエストについてはどうかな?ユウナたち3人の実力ならダンジョンで稼ぐことも難しくは無いと思うのだが?ダンジョンでの魔物討伐はなかなかの稼ぎになるのだからね」
「うーん。討伐クエストに関しては、現時点では考えていません」
魔物を倒すことに関しては以前より前向きです。実は、最終手段としてはダンジョンでの稼ぎも考慮に入れようかと思うようにもなりました。でも、現状としては討伐クエストは避けようと思っています。
「やっぱり、安全重視でいきたいと思っています。もちろん、採取クエスト中に魔物と遭遇したら倒していきたいとは思いますが」
「そうか。3人なら魔物と遭遇しても倒すことができるのは間違いない。そうか…今回の戦闘で覚悟が決まったみたいだな…」
「ラルフ、心配なのはわかるけどそろそろ本題に入らないと。ユウナちゃん、実はボクとラルフは明日から今回の件の調査を依頼されたんだ」
ラルフさんに対する私の回答を受けて、ラルフさんの後にミラさんが続けます。
「今回の件ですか?」
「そう、ゴブリンキングが2匹も同じ場所にいた件だよ」
「魔物は基本的に自分の縄張りから移動はしないんだ。縄張りの範囲は種別によりそれぞれだが、ゴブリンキングほどの珍しい魔物が2匹も同じ場所に縄張りを持つ確率は非常に低い。だから、どこからかゴブリンキングの群れが移動して来たはずだ。そして、それには何らかの原因があるのではないかと冒険者ギルドは考えているようだ」
「移動する理由?」
「にゃむむ?」
「にゃふふ?」
私が首を傾げていると、ネコさんとエルフネコさんも同じく首を傾げていました。
「例えば、魔物にとって食料にあたる魔素が縄張りから少なくなった場合。これなら魔素を求めて移動するのは当然だね。だが、ゴブリンは弱い魔物だから、魔素をあまり必要としない生態らしい。冒険者ギルドが言うには、ゴブリンキングに率いられた100匹の群れと言えど、縄張りから移動しなければならない程の魔素の枯渇は考えられないらしい」
ラルフさんの話で出てきた魔素とは世界の各地に点在する魔力スポットから発生する魔力のことです。以前ルゥちゃんに魔法を教えてもらった時に自然界存在する属性魔力の話が出てきましたが、それと同一の物だとのこと。ただ、魔法についての用語としては『魔力』、魔物についての用語としては『魔素』と使い分けるのだと教えられました。何やら大人の事情が有るとか無いとかで、理由ははっきりしないらしいですけど。
「でも、ゴブリンキングは町や村を襲うこともあるのですよね?そういった理由で移動したのではないのですか?」
「あのね、ユウナちゃん。ゴブリンやゴブリンキングが村や町なんかを襲うのって、いわゆる繁殖期なんだ。繁殖期は今の季節とは外れているから、今回は関係ないと思うよ」
「確かにゴブリンは繁殖期以外でも人を襲うことはある。冒険者や旅人と遭遇した時。また、群れの個体数が減少した時なんかは繁殖期とは関係なく人を襲い女性を攫う。だけど仮に個体数が減ったゴブリンキングの群れが移動して、別のゴブリンキングの群れに遭遇して戦闘になったとしても数的に優勢な群れが大打撃を受けることは無いだろう。統合された後のゴブリンキングの群れは全部で20匹位だったから少なすぎるね」
「だったら今回のゴブリンキングが2匹も同じ場所にいた理由は、何らかの理由で数が減った2つの群れが統合されたのか、何らかの理由で数が減っていない2つの群れが戦闘後群れの数を減らして統合されたのか、どちらかということですね」
「そういうことだよ、ユウナ。まあ、都合よく2つの群れが減少してから遭遇したとは考えられにくいから、減少することなく2つの群れが移動した可能性が高そうだ。そして、その理由として考えられる一番の理由は、強力な魔物が2つの群れの縄張りの範囲に現れたり通過したから逃げてきたと考えられる。過去の事例でドラゴンが現れた時に、その周辺の魔物たちが大移動をした記録があるんだ」
「つまり、ゴブリンキングが逃げ出すほどの強力な魔物…その存在の有無を確認をするということを2人は依頼されたのですね」
でも、これって私たちは薬草採取のクエストを受けれないような…。だって、ゴブリンキングらしき魔物がいる可能性だけでも東の森へはラルフさんたちに同行してもらったのに、それ以上に強い魔物がいるのなら私たちでは東の森には行けませんよね。
「正解だ。まぁ、あくまで可能性の話だが無視はできない。ゴブリンキングが逃げ出すような強力な魔物がいたのなら、甚大な被害が予想されるからね」
「そういった理由ででカーヤの街周辺の哨戒を、冒険者であるラルフと防犯課のボクに依頼として来たんだよ」
「だから僕たちは、明日から1週間くらい街を離れるんだ。ユウナたちとはあと数日訓練に付き合う約束をしていたのに、申し訳ない」
「ごめんね、ユウナちゃん。この埋め合わせは必ずするから」
ラルフさんとミラさんが私たちに頭を下げます。
「あの、本当に気にしないで下さい。ネコさんとエルフネコさんがいれば大丈夫ですから。それよりラルフさんとミラさんも気を付けて下さいね」
「ありがとう、ユウナ。そして、ネコさん、エルフネコさん」
「ありがとうね」
「それで本当に申し訳ないのだが、僕たちの調査結果が出るまでは薬草採集のクエストを控えてほしいんだ」
「やっぱり、そうですよね。ラルフさんとミラさんへの依頼内容を考えると東の森へは行けませんよね」
あうー、やっぱりビンゴでした。
「すっ、すまない」
「ごめんね、ユウナちゃん」
「あっ、いえ、ラルフさんとミラさんは悪くありませんから」
「にゃふっと」
「にゃむっと」
大恩人の2人に頭を下げられたので慌ててしまいます。ネコさんとエルフネコさんも私と同じように慌てていますね。
「そうだ!!今回のゴブリンキングやゴブリンの討伐に関する報酬をユウナたちも冒険者ギルドで明日受け取ってもらえるかな。僕たちは明日の朝には出発するが、その時ギルド職員にユウナに報酬を渡すように話をつけておくよ。今回の報酬なら僕たちが帰るまでの1週間以上は生活できるからな」
「えっ!!そんなに頂けるのですか?」
「あぁ。ゴブリンキングを2匹も倒したのだからな。回収した魔石はさっき冒険者ギルドに渡してあるから、明日には報酬が用意されているだろう。取り分としてはユウナたちと僕たちで半分ずつだな。ユウナたちは3人で人数が多いところ申し訳ないが、複数のパーティーで活動した場合は基本的に報酬はパーティー毎に等分するようになっているんだ」
「今回はユウナちゃんチームとラルフチームで等分という考え方だね」
「でも、私たちも報酬を貰ってもいいのですか?ラルフさんとミラさんは無報酬で私たちの戦闘訓練をしてくれたのに?」
「にゃふふ?」
「にゃむむ?」
「もちろんだ。今回ユウナたちもゴブリンキングとの戦闘で活躍したじゃないか」
「報酬があれば相談して分配するのは当然だよ。もちろん、その報酬を得るだけの活躍が必要だけどね。ユウナちゃんにネコちゃん、それにエルフネコちゃんは大活躍したんだからね」
私たちの疑問にラルフさんとミラさんは満面の笑みで肯定してくれました。どうしたものかと思い、ネコさんとエルフネコさんを見ます。
「えっと、好意に甘えてもいいのかな?ネコさん、エルフネコさん?」
「にゃふ、にゃふっと」
「にゃむにゃむ。にゃむ、にゃむっと」
私の問いかけに2人は頷いてくれます。
「それでは好意に甘えて、報酬を貰ってもいいですか?」
「もちろんだよ、ユウナちゃん」
「そうだ、気にすることはない。じゃあ、明日遠慮なく受け取ってくれ」
「それでは、ありがたく頂きます」
「にゃふにゃう」
「にゃむにゃう」
私たちはラルフさんたちに頭を下げました。
あれ?ふとラルフさんの魔石を回収したというセリフを思い出しました。
「あの、いつ魔石を回収していたのですか?2人が魔石を拾っているところは見ていませんが」
「あー、それはこの指輪の力だよ」
ミラさんが指輪を私たちに見せてくれます。
「?それって、Bランク以上の人が貸してもらえる指輪ですよね。装備品を収納できる」
「そうだよ」
ミラさんが私の質問に肯定しました。
「魔石って、素材回収や燃料になったりと重要なアイテムだよね。低ランクの冒険者なら、倒す魔物は弱くて少数だからいちいち拾うことは簡単だけど、高ランクになると戦う魔物の数はすごく多いんだよ。だから、自動的に魔石を拾うことができる機能が指輪に付与されているんだ。冒険者ギルドとしても、高ランクの冒険者が弱い魔物の魔石をその場に捨てずに持ち帰ってくれた方が利益が上がるからね」
「だから、僕たちとチームを組んでいたユウナたちが倒した魔物の魔石も回収済みだ」
思わぬ収入が発生したので非常に嬉しいですね。そして私たちを依頼者としてではなく、冒険者として認めてくれたラルフさんとミラさんの心遣いを嬉しく思います。
「そうだ、ユウナちゃん。この1週間は街中でできる掃除以外の雑用クエストを受けてみる?」
「雑用クエストですか?」
この1週間は薬草の採取クエストを考えていたのですが、先程の話題にでたように受注はできません。そんな私たちにミラさんが意外にも雑用クエストを提案してきました。
「そうだよ。仕事を探していた時のユウナちゃんはコンスタントな収入ができる仕事として、雑用クエストの中のお掃除クエストを選んだよね。でも、ユウナちゃんも知っているように雑用クエストにはいろいろな仕事があるんだ。報酬は少ないけど、数時間で終わる依頼もあるしね。だから、お掃除クエスト以外の雑用クエストを受けてボクの帰還を待っていてくれないかな?ただ待つよりは損にはならないからね」
確かにミラさんの提案は魅力的ですね。無為に過ごすよりは良いです。それに、私たち3人で受けることができる依頼があるのかわかりませんが、最悪報酬は1人分でいいので3人で受けさせて貰えば3人そろっての行動ができます。ラルフさんたちの好意によって金銭的には余裕ができたので、ラルフさんたちの報告待ちの時間潰しになるかもしれません。
「そうですね、ただ時間が過ぎるのを待つよりは良いと思います」
「にゃむっと」
「にゃむっと」
ネコさんとエルフネコさんも同意してくれています。
「それでは、ユウナたちの予定も決まったし、そろそろお開きにしようか」
「そうですね」
「じゃあ、ラルフ支払いはよろしくね~」
「わかった。わかった」
「ラルフさん、御馳走様でした」
「にゃむにゃい」
「にゃふにゃい」
約束通りにラルフさんが今回の歓迎会の代金を支払ってくれました。その後、『ねこのしっぽ亭』の外まで2人を見送りに行きます。
「ラルフさん、ミラさん、明日からの依頼はお気をつけて下さいね」
「ありがとう」
「ありがとう。仮に街の方に問題の魔物が来たとしても防犯課や冒険者がいるから安心してね。まぁ、ゴレットもいるから大丈夫だと思うよ」
「ははは、そうですか」
トラブルの原因であるゴレットさんの話題に思わず乾いた笑いが出ました。でも、今回のゴブリンキングとの闘いで強さを見たミラさんと拮抗する実力者のゴレットさんが街にいれば安心だとは思います。
「ん!?誰だっ!!」
「にゃむにゃむっと!!」
不意にラルフさんとエルフネコさんが振り向き、建物の陰に向かって叫びました。
「…逃げたのか」
「にゃむっと」
「どっ、どうしたんですか?」
「何があったの?」
「建物の陰からこちらをうかがっている気配がしたんだ。少しだが敵意なようなものも感じた。僕たちが気づくとすぐに逃げたようだが」
「にゃむっと」
「敵意…。あの追いかけますか?」
「まぁ、追いかけなくてもいいと思うよ。ラルフは冒険者として知名度があるし、何かの依頼で恨みとかかっているんじゃない?」
「そうだな。否定できないのは事実だが…」
ミラさんの指摘にラルフさんは苦い顔になります。
「ユウナたちはもう宿に戻って休んだ方がいい。トラブルに巻き込みたくないからな」
ラルフさんはあえて明るい声で話します。
「わかりました。それではお休みなさい」
「お休み~」
「お休み」
ラルフさんとミラさんは周囲を警戒しながら帰って行きました。私たちも見送り終わったので、すぐに部屋に戻ります。
「さてと、明日からは街の中で雑用クエストですよ」
「にゃむっと」
「にゃふっと」
「何か面白い依頼でもあればいいんですが。頑張っていきましょうね」
「にゃふー」
「にゃむー」
お湯で身ぎれいにして3人でベッドに入ります。魔物との戦闘もそうでしたが、するはずの無かったお掃除クエスト以外の雑用クエストを受けることになるとは、本当に人生どうなるかわからないものですね。でも、金銭的に余裕ができたみたいなので、せっかくだから楽しんでいきましょう。明日のことを考えながら、眠りにつきました。




