ユウナとネコさんのお買い物(装備編)
お読み頂きありがとうございます。
ノーラさんの提案で、数日間ラルフさんとミラさんが私たちの実戦訓練に付き合ってくれることになりました。
「もうすぐ夕方になるから、明日から訓練にしようか」
「そうだな。夜間は魔物の方が有利になるから朝の9時過ぎに出発して、夕方までには街に帰ってくるくらいの行動予定が無難かな」
ラルフさんとミラさんが話合って、予定を決めてくれます。
「あの、何か用意した方が良い物ってありますか?」
「そうだな、装備品は当たり前として、近場だからユウナとネコさんの食料と水くらいで十分だよ。念のため、携帯食を2食分かな。僕が初級の回復魔法が使えるから、回復薬は準備しなくて大丈夫だ」
「ラルフさは回復魔法が使えるのですか?凄いですね」
「なーに、これも紳士のたしなみさ」
「何が紳士だか。ユウナちゃんは水魔法が使えるから水は必要ないよね。悪いけど私とラルフの水も頼んでもいいかな?荷物を減らせたら動きやすくなるから、魔物の討伐依頼では重要な事なんだよ」
「はい、任せて下さい!!」
ラルフさんやミラさんのようなメンバーの中で役割が与えられて嬉しいです。
「にゃふにゃふー!!」
私の返事に続いて、ネコさんがギルドカードを持ってフリフリしています。
「あっ、ネコさんは『危険察知の才能(動物)』を持っていますよ。この才能には『気配察知の才能』が含まれています」
私の『水魔法の才能(初級)』の話になったので、ネコさんも自分が保有している才能を伝えたかったのでしょう。ネコさんが私の発言に頷いてくれます。
「ネコちゃん凄いね。その才能があれば、魔物との遭遇率をコントロールできるから実戦訓練には最適だね」
「あぁ、ユウナたちの魔物との戦闘を避けての採取クエスト専門という考えも現実味が出てくるな」
ネコさんの才能に対して、ミラさんは訓練の、ラルフさんは採取クエストに対してお墨付きをくれました。ネコさんは嬉しそうに、にゃふっと、と万歳をしています。そんなネコさんを見て、私は頼もしく感じました。やっぱり、ネコさんあっての異世界生活ですね。
「よかったね、ネコちゃん。ところで、ユウナちゃんは装備は整っているの?」
「えーと、今日はノーラさんに訓練の相談だけと思っていたので、全く整っていません」
「だったら、一緒に買い物に行こうか?」
「ミラさん、一緒に行ってくれるのですか?」
「うん、この後詰所に帰って冒険者ギルドに報告した件を伝えたら今日は仕事は終わりだよ。ついでに、休みの申請をしてくるよ。ネコちゃんと宿屋で待ってて」
「はい、わかりました」
「にゃふっと」
「ラルフはどうする?」
「すまないが、この後に知人と会う約束をしている。これで失礼させてもらうよ」
「だったら、明日は9時前にこの冒険者ギルドで集合だね」
「ラルフさん、今日はありがとうございました。明日からよろしくお願いします」
「にゃふっと」
おー、ちゃんとネコさんもラルフさんに頭を下げています。流石、礼儀を知るネコさんです。
「ユウナもネコさんも気にしないでいいよ。レディを助けるのは紳士のたしなみさ」
「じゃあ、ボクもちょっと詰所に行ってくるよ。また後でね」
「はい、お願いします」
「にゃふふ」
「ノーラさんもありがとうございました」
「にゃふにゃふー」
「2人とも明日は頑張ってくださいね。でも、無理は禁物ですよ」
「はい」
ノーラさんにもお礼を言って、私たちは宿屋に帰りました。
▽▽▽
今はミラさんと合流して武器屋にいます。
「ミラさん、私は魔法を使いますがやっぱり杖を買った方がいいのですか?」
「そうだね。魔法は装備が無くても使えるけど、魔物との接近戦になった時のことを考えたら、杖を持っていた方が良いと思うよ」
「近接戦?」
「うん。前衛をスルーされたり、後ろから襲われた時に、何も持っていなかったら素手で対峙することになるからね。杖を持っていたら、とりあえずは振り回したり、敵の攻撃を受けとめたりすることができるよ」
「なるほど、わかりました。あと、杖って魔法に何らかの影響を与えますか?」
「杖の性能によるけど、魔法の威力上昇や魔法の制御力上昇の効果があるらしいよ。でも、このあたりの性能は今は考えずに安い杖で十分かな。料金の問題もあるし、本格的に魔物討伐を目指すわけじゃないからね」
「そうなると…この『樫の木の杖』でしょうか?」
説明書きには、『樫の木で作られた杖(銀貨1枚)』と書いてあります。説明になっているような、なっていないような微妙さですね。どうやら、この杖がこのお店で最安値のようです。日本円で1万円相当ですね。
「ちょっと、貸してね」
ミラさんが受け取り、軽く振ったり、コンコンと棚に軽く打ち付けています。
「うん、重さも強度もそれなりだね。この杖でいいと思うよ」
「わかりました。えっと、ネコさんは何か必要ですか?」
ネコさんは『魔爪の才能』による爪で切り裂く攻撃をしていますが、何か欲しかったりするのでしょうか。
「にゃふふ」
どうやら、必要ではないようです。
「うーん、ネコちゃんなら下手に武器や防具を装備するより、アクセサリーで能力上昇を狙った方がいいかもしれないね」
「能力上昇ということは『妖精の針子』ですね」
「確か、ユウナちゃんの魔法の先生のお店だったね。じゃあ、次はそこに行こうか」
「はい。お会計を済ませてきます」
カウンターで銀貨1枚を支払い『樫の木の杖』を手に入れました。うー、必要な物とはいえ、なかなかの出費です。
「お待たせしました。では、移動しましょう」
▽▽▽
「いらっしゃいませ~」
いつも通りの間延びした声で、ルゥちゃんが挨拶をします。
「こんにちは、ルゥちゃん」
「にゃふにゃふ」
「2人とも忘れ物ですか~」
「今回は買い物に来ました」
明日から実戦訓練をすることが決まり、装備品を買いに来たことを説明し、ミラさんを紹介します。
「初めまして~。『妖精の針子』の店主でルゥです~」
「初めまして。カーヤの街の防犯課で勤務しているミラです。ユウナちゃんの先生ってこんなに可愛かったんだね。あと、そのメイド服も凄いに合っているよ」
ミラさんはルゥちゃんには普段通りの口調で話すようですね。
「ありがとうございます~。ミラさんもメイド服を着てみますか~。オーダーメイドで作りますよ~」
「うっ、興味はあるけど止めておくよ。スカートってはきなれてないから」
そういえば、ミラさんと出会った時にセーラー服を着てみたいと言っていましたが、おしゃれに興味があるのでしょうか?制服をおしゃれというのも変な話ですが、異世界ですからね。モデル体型で美人のミラさんならどんな服でも着こなせると思いますが。
「残念です~」
本当に残念そうにしています。私も以前ルゥちゃんからメイド服を着てみませんかと勧められて断ったことがあります。メイド服を布教したいのでしょうか?
「えっと、ネコちゃん用のアクセサリー以外に欲しい物はありますか~」
「ミラさん、私の服はどのようなものが良いですか?」
ちなみに今の服装は仕事終わりから着替えていなくて、ジャージとスニーカーです。
「そうだね。ユウナちゃんは体力に自信が無いって言っていたから、靴は今履いている歩きやすい物で良いとして、長袖長ズボンにローブで良いかな」
安全のためブーツの購入を考えていましたが、スニーカーで良いと言われほっとしました。
「上下の服はこれとこれを以前購入しました」
「うん、この服だったら問題ないよ。だったら、ローブだけだね」
「ローブなら、この商品がオススメですよ~。薄手ですが斬撃に強く、軽くて通気性が良いのが特徴ですよ~」
ルゥちゃんが一度カウンター奥の部屋に入ってフード付のローブを持って出てきました。受け取ると確かに軽いです。
「素材は麻ですが、わたしが学生の時にエンチャントの練習で防御力上昇を付与していますから丈夫ですよ~。練習品なのとユウナお姉ちゃん価格で銀貨3枚のお値段です~」
他のエンチャント商品と比べると、かなり値段を安くしてくれていることがわかります。女神様から貰っている初期の所持金とお掃除クエストで稼いだ報酬の残金を考えると購入しても余裕はあります。
「ルゥちゃん、ありがとうございます。このローブを売って下さい。あと、ネコさんへオススメのアクセサリーを選んでくれますか」
「ネコちゃんへのオススメは腕輪で、能力は防御力上昇と素早さ上昇にしておきましょうか~」
ルゥちゃんついて腕輪の棚の前に移動します。棚には金属製の物から布製のリストバンドのタイプまで並んでいました。
「金属製の物だと値段が上がるしネコちゃんには重いので、リストバンドがオススメですね~」
ネコさんを抱きかかえて、商品が見えるようにします。
「にゃふー、にゃふー」
リストバンドはエンチャント込みで1つにつき銀貨2枚前後です。金属製の物だと金貨になっているので、リストバンドなら私たちでもなんとか購入できます。
「にゃふっと」
どうやら、ネコさんがどれを買うか決めたようです。
「にゃふー、にゃふっと」
ネコさんはリストバンドを指した後に私の三つ編みのリボンを触ります。
「あっ、私のリボンとおそろいの色を選んでくれたのですね」
私は腰まである髪を右寄せの緩めの三つ編みにして胸元に垂らしていますが、その三つ編みの先を青色のリボンで結んでいるのです。ネコさんが選んだリストバンドはそのリボンと同じ青色でした。
「にゃふふー」
ネコさんの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めています。
「では、この青色のリストバンドを2つ下さい。防御力と素早さ上昇でお願いします」
「はい、ローブとリストバンド2つで合計銀貨7枚です~」
ルゥちゃんに代金を支払います。えーと、今日だけで銀貨8枚の出費ですね。…明日から頑張りましょう。
ネコさんにリストバンドをつけてあげて、ローブは畳んでスポーツバッグに入れます。
「ルゥちゃん、今日はありがとう」
「にゃふっと」
「こちらこそ、お買い上げありがとうございました~。ユウナお姉ちゃん、明日は気を付けて、危険だと思ったらすぐに逃げて下さいね~」
「はい、無理だけはしないよ。また会いに来ますね」
「待っていますよ~」
『妖精の針子』から出て、ミラさんとこの後のことについて話し合います。
「とりあえず、買い物は終わりだね。携帯食については『猫のしっぽ亭』でお願いしたら用意してくれるよ。この後予定がなかったら一緒に夕食を食べようか」
「はい、ご一緒します。ネコさんもいいですね」
「にゃふっと」
ミラさんと楽しく食事をした後、宿屋に帰ってきました。
リーネさんにお湯を用意して貰って体を拭き、ネコさんと一緒にベッドに横になります。
「明日からいよいよ魔物と戦うのですね」
「にゃふっと」
「この世界に来たときは絶対に戦いたくないと思っていたのに、1週間ほどで考えも状況も変わってしまいましたね」
「にゃふ」
「うーん、魔物との戦いも心配ですが、体力の不安が大きいです」
運動部に所属していない私は、体力の無い現代っ子です。一応ミラさんとラルフさんには、私は運動などをしていなくて長距離を歩くだけでも疲れてしまうとは説明しています。ミラさんは「魔法使いは体力が少ないからね」と笑っていましたが、日本人とこの世界の人との長距離のニュアンスがあっているか疑問です。
「とりあえず、1時間も歩かない場所を選定してくれるとは言っていましたが…」
靴はスニーカーだし、荷物も通学より少ないので何とかなるとは思いますが大丈夫でしょうか?
「はぁ」
にゃふっと、にゃふっと。
私のため息の後に、ネコさんの鳴き声が机の上から聞こえてきました。ネコさんは私の隣で横になっているので、鳴き声の主は机に置いていたスマホです。
「あれっ?メールの着信?」
起きてスマホを手に取ると、メールの着信を知らせる表示が出ていました。録音したネコさんの鳴き声はアラームの他にも設定していましたが、まさかこの世界でメールの着信音として聞く機会があるとは思いませんでした。しかし、この世界でメールが送られてくるということは故障でないとすると…
「やっぱり、女神様ですね」
新着メールを開くと件名が『女神様より愛をこめて』となっていたのです。
▽▽▽
翌朝、冒険者ギルドで2人と合流して予定通りに出発しました。
私たちの装備は昨日買った物でが、ラルフさんは白銀の剣と革の鎧で、ミラさんは革の胸当てと40センチメートル位の2本の金属製の棒を持っています。
「ラルフさんは前の白銀の鎧と違うのですね。それにミラさんの持っている棒は武器ですか?」
「あぁ、鎧はこの指輪の中に入っているんだ。指輪を身につけている人の意志で装備を入れ替えることができるマジックアイテムさ」
「ボクも最強装備は指輪に入れているよ。あとこの棒は殴打用の棍棒の一種だよ」
棍棒というと木でできているイメージがあったので意外でした。しかし、装備の入る指輪とは凄いですね。
「すごく便利そうな指輪ですが、高いのですか?」
「いや、これはBランクの冒険者になれば冒険者ギルドが無料で貸出ししてくれるのさ。商業者ギルドや魔術者ギルドの共同開発アイテムで、冒険者の支援を目的として作られている。もちろん、貸出しだから勝手な転売や私物化をすると厳罰が下され、下手をすると冒険者資格のはく奪まで行われるそうだ」
「そうなんですか。あれ?ということはミラさんも冒険者のランクがB以上ということですね」
「うん、まぁボクもAランクだよ。公務員になってから依頼はほとんど受けていないけど、冒険者登録自体はそのままだから指輪は借りたままなんだ」
ミラさんはAランクのラルフさんの元パーティーメンバーだけあって、やはり高ランクでした。
「あと、ユウナちゃん。この指輪は便利だけど、装備の入れ替えを意識してから発動まで10秒くらい何も行動しないことが使用条件となっているよ。だから、敵への攻撃途中に武器を入れ替えたり、敵の奇襲を受けて即鎧を纏うといったことができないんだ。あくまで、移動中に重い装備品を身につけないということに主眼を置いて作られたアイテムみたいだね」
戦闘中に武器や防具がパッと入れ替わるなんて凄いなーと思っていたら、どうやらできないみたいです。
「さて、そろそろ出発するか。ユウナ、移動速度は控えめにするけど、苦しいと思ったらすぐに教えてくれ。今回の目的は戦闘の訓練だから、東の森に到着しても体力が無かったら意味が無いからね。時間は十分あるから無理せずに行こう」
「ありがとうございます」
ラルフさんの気遣いに感謝しますが、体力の面での心配は本当は無くなっています。
私はこっそりとギルドカードを確認しました。
『消費体力減少の加護(小)』
この加護を持っていると行動によって消費する体力が少なくなる。(効果小)
昨日体力に心配があるといった翌日に、こんな加護を手に入れましたなどと説明できるはずがありません。私は昨日女神様から送信されたメールを思い出しました。




