ユウナとネコさんの訓練依頼
「ラルフとミラか」
冒険者ギルドに入ってきたラルフさんとミラさんを見て、ゴレットさんが名前を呼びます。
「久しぶりの再会を喜びたいところだけど、レディに対するその態度はいただけないね」
「ゴレット、その尊大な態度は止めた方が良いってアドバイスを忘れたの?」
どうやら3人は、顔なじみのようですね。
「ふんっ。貴様らと違って俺には立場がある。庶民の娘に媚を売るようなことなどはしない」
「立場だとか庶民だとかなんて関係ないだろ、ゴレット。ユウナは真面目に働いているのに、横槍を入れるなんて横暴じゃないか」
「ラルフ、貴族の貴様が言うとただの嫌味だぞ。それに今回の件はそもそも、この娘が掃除クエストのみを受注していることが原因だ」
「ちょっと待ってよ。冒険者が特定のクエストのみを受注することに問題がないのはゴレットも知ってるよね。それに清掃局は公共施設や設備の美化衛生を保つことが本業でしょ。商店の依頼をユウナちゃんが受注してることくらいで目くじら立てなくてもいいじゃない」
「もともとは商店の清掃は我々清掃局が受け持っていた。それを商業者ギルドが冒険者ギルドに配慮して依頼を出すようになっただけだ。冒険者も掃除の依頼を定期的に受注せずに放置して、結局我々が清掃を行ってきただろうが」
「だから、ユウナちゃんが受注してちゃんと成果もあげるようになったんじゃない。だいたい、清掃局の掃除も手抜きだって依頼者から不満を聞いたことがあるよ。他人の仕事に口出すくらいなら、自分の部下をちゃんと指導しなよ」
「脳筋女は黙っていろ!!…他部署の仕事に口出しができるのだったら、ギルド職員だった時に冒険者に注意位しておけよな」
「なっ!…そんなに半殺しにされたいの、ゴレット?良いよ、表に出てよ」
脳筋と言われてミラさんの目つきが鋭くなります。
「ふんっ、腕力しか能が無い貴様に俺を半殺しになどできるわけないだろうが。後悔するなよ」
ミラさんが殺気を放っていますが、ゴレットさんは怯むことなく受け止めています。待って下さい!!ミラさんはこのイザコザを止めてくれるのではないのですか?積極的に喧嘩を売らないで下さいよ。
「ちょっとミラさん、待って下さい!!喧嘩はダメです。危ないです」
「ボクは大丈夫だよ。ユウナちゃん、危ないからネコちゃんと一緒に建物の中にいてね。ゴレットを倒して謝罪させるから、ちょっと待ってて」
謝罪とかそういうことじゃないんです。イザコザを起こさないで下さい…と思っても、ミラさんとゴレットさんは殺る気で出入り口の方へ歩いて行きます。
あぅー、どうしたらいいのでしょう。私はすがる思いでラルフさんを見ます。ラルフさんは私の視線に気づき、頷いた後に2人に向けて言葉を発しました。
「そこまでだ。君たちが本気で戦ったら街に被害が出るだろう」
「被害が出る前に、俺の魔法で瞬殺に決まっているだろうが!!」
「ボクの攻撃で瞬殺に決まっているでしょ!!」
「だったら、お互いの対戦成績は何勝何敗かな?」
「……」
「……」
「答えは出たようだね。ミラ、とりあえず君は大人しくしていてくれないか」
ラルフさんの言葉にミラさんは大人しくなります。
「ゴレット、君もだ。清掃局が冒険者ギルドに不満があるのなら正式な文書で抗議してくれ。それでいいかな、ノーラさん?」
「はい、ラルフさんの仰る通りです」
ラルフさんの提案にノーラさんが賛同します。
「だそうだよ。それにゴレット、君はこんな乱暴な手段を取る人じゃなかったはずだ。何か問題を抱えているなら、相談に乗るよ」
「ふんっ。貴様に相談するほど落ちぶれてなどいない」
ゴレットさんはラルフさんの気遣いを吐き捨てるように断りました。
「…まぁ、良い。確かに俺の要求も急すぎたな。元パーティーのリーダーであるラルフの顔に免じて、今回はこれで帰らせてもらう。だがな…」
ゴレットさんが何か悩んでいるような表情をして私を見つめます。
「これ以上は清掃の依頼を受け続けようと考えるなよ」
ゴレットさんは私に忠告をして冒険者ギルドから出て行きました。
「やれやれ、ゴレットももう少し穏和になればいいのだけどね」
「あの、ラルフさんにミラさん、ありがとうございました」
「いや、問題自体を解決したわけじゃないから気にしなくて良いよ。それに結局ミラがゴレットを煽ってしまったから、逆に謝らないといけないね」
「うっ、ユウナちゃんごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ、ミラさん。気にしないで下さい」
「にゃふ、にゃふ。にゃふー」
私とネコさんは気にしないように言いましたが、ミラさんはなかなか頭を上げてくれません。
「ミラ、それくらいにしておきなよ。ノーラさん、バタバタしているところすまないが緊急で報告したいことがあるんだが時間をくれないかな。あと、さっきのゴレットの件もあるからユウナたちも一緒に来てくれないかな」
ラルフさんがノーラさんと私たちに問いかけます。お掃除クエストの件については、今後どうすればいいのか相談したいと考えていたので渡りに船です、と考えていると…。
「にゃふ、にゃふー!!」
ラルフさんが私にウインクをしてきたので、ネコさんがラルフさんに威嚇しました。ラルフさんとの出会いを思い出して、興奮しているようです。ネコさん、ちょっと落ち着いて下さい。ネコさんの首元を撫でると、にゃふにゃふと悶えだしました。ふっふっふっ、ネコさんは私のテクニックにメロメロですね。
「それではここではなんですので、奥の個室で対応させて頂きます」
ザインとのイザコザの時に使ったのと同じセリフですね。ラルフさんが頷きます。
「えっと、私たちも本当にご一緒しても良いのですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。ほら、ミラもいくよ」
ラルフさんは、未だにゴレットさんが出て行った扉を睨んでいたミラさんに声をかけます。
「わかってるよ」
ミラさんの返事を聞いて、私たちは奥の個室へと場所を移動しました。
▽▽▽
ザインとのイザコザに続いて2回目の個室です。コピペのような展開ですね、ハッハッハー…、私は呪われているのでしょうかと疑問に思います。
「実はカーヤの街の東の森に、ゴブリンキングがいる可能性があるという情報を得たんだ」
「なっ、ゴブリンキングですか!?」
ラルフさんの報告にノーラさんが慄きます。が、私にはゴブリンキングの凄さがわかりません。もちろん、ゴブリンという魔物については小説などで知っていますが。
「あの、ゴブリンキングとはどういう魔物なのでしょうか?」
「ユウナちゃん、ゴブリンについては知っている?」
「えーと、人型の小柄なモンスターで人や家畜を襲い、女性を誘拐するという魔物でしょうか?」
「うん、あっているよ。ゴブリンキングはオークと同じくらいの巨体を持っているゴブリンの突然変異種なんだ。しかも、オークみたいに単純な性格ではなくて、ゴブリンと同じく狡猾なんだ。そしてキングの名にふさわしく、100匹近くのゴブリン種を従えているんだよ」
「100匹ですか!?」
「あぁ。しかも、烏合の衆というわけではなく、キングをトップとした組織として動いている」
「ラルフさん、先程ゴブリンキングがいる可能性があるというふうに仰られましたが、どういった経緯で情報を得たのでしょうか?」
そういえば、ラルフさんは可能性と言っていましたね。
「僕が東の森近くの街道を移動していると新人冒険者たちに会ったんだ。彼らは非常に慌てていたから理由を聞くと、森の奥でゴブリンキングらしき魔物の後ろ姿を見たと言ったんだ。ただ、実物を見たことがなくて、もしかしたらオークかもしれないとも言うんだよ。とりあえず、彼らには街に戻るようにいって、僕は報告の為に先に急いで帰ってきたというわけだ」
「ボクは街中でラルフに会って話を聞いたから念のためここまで同行したんだよ。オークだったらいいけど、本当にゴブリンキングなら防犯課も動かないといけないからね」
「あの、オークとゴブリンキングでは対応に違いがあるのですか?」
「オークは強いとはいえ、あくまでも個体だから放っておいても問題はないかな。でも、ゴブリンキングはさっき言ったように組織的で、村や町がゴブリンキングたちに滅ぼされた事例は何件もあるくらい危険な存在なんだよ」
「対応としては私たち冒険者ギルドが緊急のクエストとして、ゴブリンキング及び配下のゴブリンの討伐依頼を出します。ただ今回は正確な確認が取れていないので、まずは東の森の探索が先ですね。探索能力に長けた冒険者数名に直接かけあってみます」
ノーラさんが指示をするために一度部屋から出て戻ってきました。でも、探索をしている間に攻め込んでこないのでしょうか?不安です。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、ユウナ。ゴブリンキングの群れはその数の多さから移動が遅い。早くてもカーヤの街にたどり着くまで5日はかかるだろう。5日もあれば確実に発見できるから、冒険者たちが攻め込んで討伐完了だ。仮に、ゴブリンたちが先に攻め込んできたとしても、カーヤの街は冒険者が多く滞在しているし、ミラたち防犯課と連携すれば大した被害もなく討伐できる。それでも不安なら僕が付っきりでユウナの警護をするよ」
「にゃふー!!」
ネコさんが威嚇します。ラルフさんのことを警戒しているのでしょう。
「ありがとうございます。でも、ネコさんがいるので大丈夫です」
残念だね、とラルフさんは苦笑いします。本気なのでしょうか?
「報告も終わったし、とりあえずゴブリンキングの件は終わりだね。次はゴレットの件についてかな」
いよいよ私たちにとって本題のゴレットさんの話に移ります。
▽▽▽
「あの、それでゴレットさんが何故『お掃除クエスト』の受注に口出しをしてきたのでしょうか?」
根本的な質問をノーラさんにしてみます。
「それが恥ずかしながら、清掃局が何故そのような対応を取ってきたのか全くわからないのです」
すみませんと、ノーラさんが続けます。
「わからないのですか?」
「にゃふふ?」
ゴレットさんは他組織である冒険者ギルドに口出ししてきたのです。何かしらの理由があると思うのですが。
「確かに、商業者ギルドが掃除に関する依頼を冒険者に発注した当時はイザコザがありました。でも、もう過去のこととされています。何故なら、清掃局の減収については商業者ギルドからのカーヤの街に対する寄付の増額で話は終わっていたはずですから」
「だったら金銭面での理由ではないのですね」
「えぇ、それに先ほどミラが言ったように清掃局の仕事は公共の美化を保つことです。正直、ユウナさんとネコさんがお掃除クエストをしたところで清掃局に不利益は無いはずなのです」
うーん、何故でしょうか?ネコさんも同じように首を傾げています。
「ユウナの件と関係あるかわからないが、ゴレットに関しては情報があるんだ」
「ラルフさん、どういった情報でしょうか」
「実は、カーヤの街の3名の有力者で権力争いが行われているそうなんだ」
「有力者の権力争いですか?」
「そうだよ。ユウナは有力者については知っているかな?」
「カーヤの街を納めている人たちの中に街の有力者も含まれているとミラさんに教えてもらいました」
「あぁ、そうだね。カーヤの街の有力者とは街の運営会議に参加できる人物の中で、住民から選ばれた代表者とギルドマスターを除いた3名を指す言葉だ。そもそも有力者とは、カーヤの街が自治運営が認められた後に、領主との関係の悪化を防ぐために迎え入れられた領主の親戚筋の人たちなんだ」
「ということは、ゴレットさんたちは貴族なのですか?」
ゴレットさんの庶民などの見下すような言動を思い出します。
「いや、カーヤの街の有力者になる時に貴族としての地位は失っている。その代りとしてゴレットもそうだが、有力者やその家族は公務員のそれなりの地位に就くようになっている。しかし、領主の親戚筋であることは現在も変わらず、金銭や権力を得れば貴族に戻ることも可能らしいんだ」
「ラルフさん、有力者たちが権力争いを行っているというのは本当なのでしょうか?」
ノーラさんが話を戻します。
「権力者争いは表面化こそしていないが間違いないね。信頼できる人物からの情報だ。そしてその権力者争いは、カーヤの街を実質支配しようという野望を持った人物によって始まった」
「その人物とは?」
「ユーゴ・ギャレット。ゴレットの父親だ」
「ラルフ、それってゴレットの今回の件とどう関係するか予想とかできないの?」
「具体的なことは本当にわからない。ただ、このタイミングでゴレットがことを起こそうとするくらいだから、何かしら理由があると思うんだ」
街の有力者の権力争いに関わっている可能性があるなんて…。
「ノーラさん、私はお掃除クエストを受けても大丈夫でしょうか?」
「立場上、大丈夫ですと言いたいのですが…依頼の受注が権力争いに関わってくる可能性があるのではオススメはできません。ユウナさんの安全にも関わってきそうですし」
「そうですか」
やっとお掃除クエストによる収入が確保できた矢先に問題が起こるなんて、なんて前途多難なんでしょうか。
「それにゴレットさんは商業者ギルドにも口出しをするようなことを言っていました。依頼主自体が発注を取りやめる可能性があります」
ということは、私の意志に関わらず受注できない状況になる可能性も考慮しなければならないようです。これ以上は考えても仕方ありませんから、当初の目的を済ませましょうか。
「…ネコさん、やっぱり薬草の採取クエストが必要みたいです」
「にゃふっと」
▽▽▽
「ノーラさん実は私たちは、薬草の採取クエストを受注しようと考えていたのですが、魔物との戦闘経験がありません。だから、冒険者の方で魔物との実践訓練に付き合ってくれる人を紹介してほしいのですが」
この件について、再会できたラルフさんにお願いしようかと思いましたが、よくよく考えるとラルフさんはAランクの冒険者です。私なんかの訓練に時間を取ってもらえるかわかりません。あと、以前ミラさんに私が魔法を使えるようになったことを伝えると、魔物との戦闘で稼ぐ方法も検討した方がいいとアドバイスをしてくれましたが、ミラさん自身は冒険者ではなく公務員ですので訓練してほしいという依頼はしにくいのです。
「だったら、僕がやろう」
「ボクが付き合うよ」
なっ、ノーラさんへ話しかけたのに、ラルフさんとミラさんが同時に声を上げます。
「ちょっと、何でラルフが訓練に付き合おうとするの?」
「ユウナにはピンチになったら助けに来ると約束したのさ」
「綺麗な娘を見ればすぐこれだ」
「綺麗とかそんなのは関係ない。レディを助けるのは紳士としての役目だからだ。それにミラ、君は公務員だろう。ユウナのことは僕に任せてくれ」
「ボクだって元冒険者だし、防犯課の職員としては街で暮らしている人を助ける義務があるよ。なにより2人はボクの友達だからね」
「とはいえ、君はシフトで働いているのだろう。僕なら今受注している依頼はないから、ユウナの都合に合わせることができる」
「心配ご無用。上司から働き過ぎだから休めって言われているから、ボクだってユウナちゃんとネコちゃんの都合に合わせれるよ」
私を置いてけぼりで、ラルフさんとミラさんが議論を続けます。先ほどのミラさんとゴレットさんのやり取りのようです。
「ラルフさんとミラ、夫婦喧嘩はそれくらいにして下さい。ユウナさんが驚いていますよ」
「「夫婦喧嘩じゃない!!」」
おー、見事にハモっています。
「それに、ゴブリンキングの件はお忘れではないですよね」
「「あっ」」
ノーラさんの一言に2人がまたしても同時に声を上げます。すっかり忘れていたようです。
「はー、2人が持ってきてくれた情報ですよ。しっかりして下さい。ゴブリンキングの群れと遭遇したら、ラルフさんやミラなら1人でも逃げれますが、ユウナさんたちがいたら逃げれないですよ」
「あの、ゴブリンキングが発見されたのは東の森ですよね。他の場所なら大丈夫じゃないですか?」
「もちろん、弱い魔物と戦う訓練だけが目的ならそれでいいと思います。ですが、ユウナさんは薬草の採取を考えているのですよね。なら、採取場所の東の森での戦闘を経験していた方が良いと思います」
「ということは、ゴブリンキングの問題が解決するまでは、どっちみち薬草の採取クエストは受けれないということですね…」
「残念ですが、そういうことです」
「でも、問題解決までお掃除クエストも受けれない、薬草の採取もできないとなると収入がゼロになるのですが」
本当の敵はゴレットさんでもゴブリンキングでもなく貧困だったとは…。
「いっそのこと、魔物を狩って魔石で稼ぐことを視野に入れてはどうでしょうか?」
安全策を取るという主義を変えてみましょうか。でも、街の近くに出てくるような弱い魔物の魔石だとかなりの数を集めないと生活が成り立たないとミラさんが以前教えてくれました。
「すみません。やっぱり討伐クエストを専門とするには私には荷が重すぎます」
「そうですね。だったらミラ、ラルフさんと一緒にユウナさんたちの護衛を兼ねて東の森での戦闘訓練に何日か付き合ってあげたらどう?2人が力を合わせればユウナさんたちがいても、ゴブリンの群れ位問題無いでしょ。あと、薬草探しのコツも教えてあげたら、ゴブリンキングの問題が解決するまでの収入源にもなるよね」
ノーラさんが至れり尽くせりな提案をしてくれます。
「ユウナちゃんたちが困っているなら仕方ないね。ラルフ、それで良い?」
「異論はないよ。僕もユウナたちを助けたいからね」
「本当にいいのですか?あの、多くの報酬とか用意できませんし、私たちでは2人の力になれることも無いですよ」
「報酬とか気にしないで。さっきも言ったけどボクは友人を助けたいだけだからね」
「僕も同じだ。レディを助けるのは紳士の役目なのさ」
2人が優しい言葉をかけてくれるので、思わず涙ぐみそうになりました。
「本当にありがとうございます」
「にゃふっと、にゃふっと」
前途多難かと思えた現状もラルフさんとミラさん、そしてノーラさんのおかげで解決の兆しが見えてきました。
お読み頂きありがとうございました。第3章残り3話は今週中に投稿します。




