3話
その後、花崎さんとはメル友になり夜などにメールをしたりする。
まあ、いまでは小夜さんと呼び、たまに一緒に出掛けたりするような仲にはなった。
そして月日が流れ、今日は二学年の夏休み前日。いわゆる終業式の日だ。
その日の朝、俺の携帯には一通のメールが来ていた。
当然の如く家族からのメールなどではない。僕が片思いしている友達から届いたものだ。
『今日、学校に来たら校舎裏に来て。お願い』
小夜さんからのメールだ。
しかし、いつもとは感じが違うような気がしてしまう。
それにしても校舎裏に一体なんの用事なんだろう。
おっと、考え事をしていたら学校に遅刻してしまう。
俺はさっさと支度を済ませ、軽い朝食をとって家を出た。
遅刻せずに登校した俺は小夜さんからのメールに書かれていた校舎裏に足を運んだ。
「ここでいいんだよな?」
でも誰もいなさそうな雰囲気だ。
しかしここには来るはずである。だから俺はその場所でずっと小夜さんを待ち続けた。
しかしそこには小夜さんは現れなかった。
あと数分だけ待ったがそれでも来なかったので、しょうがなく俺は教室に戻ることにした。
その途中、廊下からの窓から外で見知った人影が見えた。
俺は知っている、あれは小夜さんの姿だ。
けれど小夜さんは、学校に登校するのではなく、逆に校門を走って出ていってしまう。
「小夜さん、どうしたんだ?」
俺は小夜さんの後を追おうと、教室とは逆方向へと走り出した。
今日はサボり確定だな。あとで忍にでも連絡しておこう。
校舎から随分離れた場所で小夜さんを見失ってしまった。
こんなとき、どこに行けばいいんだろうか。
そんな時、とある人物が俺に声をかけてきた。
「あれ、下野くん?」
「た、橘さん!?」
俺は交差点で橘さんに遭遇した。
橘さんは、小夜さんの昔からの親友でいま現在探せるのは彼女だけであった。
「お願いです。小夜さんを探すの手伝ってください!」
「焦らないで。ほら、一から説明してみて」
一度、落ち着いてから俺は朝からの出来事を橘さんに説明した。
話し終えると、
「わかった。とりあえず、心当たりがあるからついてきて」
そう言って、見当がついたのか橘さんは走り出していく。
俺は彼女の後を追っていった。
数分走り終えると、俺たちは河川敷まで走ってきていた。
橘さんは周囲を見渡すと、橋の下を指さす。
「あの下に、小さい頃の小夜はよくいたわ」
そして橋の下まで走っていく。
やはり予想は的中していた。
「小夜さん……」
そこには体育座りをして泣いている小夜さんがいた。
「ほら、小夜。一体どうしたの?学校をサボっちゃったりして」
橘さんが小夜の背中を撫でている。
「……みーちゃん?みーちゃん!!」
小夜さんは橘さんに抱きついて、さらに泣いてしまう。
「どうしたの?昔のあだ名なんて呼んじゃって?」
「だって、だって、気づいたら知らないところにいたんだもん!それでこわくなって……」
「知らない所って……今日は高校の終業式じゃなかった?」
「コーコー?知らないよ、わたし小学二年生だもん。みーちゃんも小学二年生だよね」
明らかに小夜さんの様子がおかしい。そのことは橘さんも気づいているみたいだ。
「違うよ。あたし達は高校二年生なんだよ」
「ううん、わたしとみーちゃんは小学二年生だよ?」
「ほら見て、あたしはあの頃と同じ姿に見える?」
「ちがう。みーちゃんはわたしより大きくなかったよ?」
橘さんは小夜さんに「少し待っててね」と言い、俺の側まで走ってきた。
「下野くん、ちょっと聞いてほしいの」
「小夜さんについてですか……」
「小夜は、いま小学二年生になっていると思うの。あの様子は小二の頃とそっくりなの。たぶん頭をぶつけたりして一時的に小二の頃の小夜になったんじゃないかって思ったの」
大方、俺と橘さんの予想は同じであった。
しかし問題点は山ほどある。
「仮にそうだとしたら、小夜さんの家にはどうやって説明しますか?」
「……小夜は両親から離れて暮らしているの」
初めて聞かされた真実。
俺は小夜さんの両親について何も知らなかったんだ。
友達より近づけたと思っていたが、なぜか今だけとても離れているように感じてしまう。
「ねぇー、ねぇー。お兄ちゃんはだれー?」
俺の制服の袖を掴んできた小夜さんを見て気づいてしまう。
……小夜さんは俺の事を忘れてしまったんだ。