1話
俺はこの夏、奇跡を体験する。
夏になる少し前の日のこと。
とある高校の昼休み。
俺は廊下で窓の外を見てボーとしていた。
毎日思うことだが、青空は綺麗だな。
「葉乃っち〜。一緒に図書室行こうよぉ」
後ろから声をかけられ、青空に別れを告げる。
俺の友達である大槻忍。忍は普段からマイペースで、話すときなども自分のペースでゆっくりと話したりもする。
「図書室か……。まあ、いいよ」
少しだけ考えてから答えを出す。
たまには読書もいいかもしれないな。
正直言うと読書は少し苦手だけれど。
俺の通う高校の図書室は広くはない。かといって狭くもない。そのせいか人は滅多に来なく、むしろ人がいるのが珍しいくらいだ。
忍に連れてこられたが、当の本人は読書に夢中だ。
しょうがない、小説でも読むか。
「この本、面白いかな?」
俺は小説の棚から一冊の本を手に持ち、図書室内の席を探す。
「あった。あった」
忍の席から離れた場所に座り、本を開く。
パラバラとページをめくる。文字が多いなぁ。
「……隣いい?」
「ああ、いいよ」
隣……って!? こんなに席が空いているのに!?
一体誰が座るんだよ?
一度顔でも見てやろう。
意外にも俺の知知っている人物。
同じクラスの花崎小夜さんだった。
花崎さんはいつもクラスで誰とも話さず、一人でいることが多いように見えてしまう。
けど、たまに俺は授業中にチラッと花崎さんを見るが、クラスで一番美しいような気がするな。
俺はこの時、隣で読書をしている花崎さんが記憶に焼き付いて、胸がドキドキしてしまった。
次の日。
朝、登校してきて、早速前の席の大槻忍に声をかける。
「なあ、忍」
「なぁに?」
俺の方に向く忍を見て「おはよう」と挨拶をしてから本題にはいる。
「胸の内がざわつくのってなんだと思う?」
忍はニヤッと笑みを見せてきた。
「それはね。――恋だよ」
その言葉で十分だった。
なら俺は花崎小夜に恋をしているのか?
昨日の花崎さんの読書をしている姿は魅力的で、思い出す度にドキドキしてしまう。
「で、相手は誰なの?」
「昨日、図書室で花崎さんを見て、そしたら魅力的だなと思ったんだ」
そう、ただそれだけ――だと思う。
それを聞いた忍は若干答えづらくなってしまったみたいだ。
確かに忍が悩むのもわかる。花崎さんはクラス内では一人でいることが多い。話しかけづらい雰囲気が出ているからなのかもしれない。
「まあでも葉乃っち、頑張って。なにかあったらいつでも相談してね」
応援してくれる忍に感謝しつつも、いまもある胸のざわめきが気になってしまう。
そして昼休みへとなった。
さっきからのこの胸のざわめきを確かめてみないと。
もう一度花崎さんに会ってみるべく、図書室に行ってみよう。




