とりっく、おあ、とりーと!
はっぴーはろうぃいいいん!
え?『もうハロウィン過ぎてます』?
え?え?え?…………あ、『もういいです』?
イベント投稿って、考えた時には既に期限ギリギリで、実際に投稿する時は大抵過ぎちゃっているんですよね( ;∀;)
でも、書いたから投稿するのです!
では、
とりっく、おあ、とりーと!!
おはようございます、ルーです。
最近何だか風が冷たくなってきて、タンスの中のお洋服も半袖から長袖にこの前替えました。衣替えって言うらしいですね。
ルーは新しく買って貰ったお洋服とかもっと着たかったけど、旦那様は「また来年着ればいい。てか、早く冬服バージョンのお前が見たい」と言って、ルーの衣替えを手伝ってくれました。
皆もお洋服を半袖から長袖に替えて、でも、千里さんはお洋服には拘りがあるようで、1週間ほどかけてタンスの中身を替えていました。
あ、そうでした。
おはようございます。
今朝は替えたばっかりの懐かしいお洋服を着て、ルーは商店街にお買い物に来ているのです。
なんと、今夜はお店に璃央さんが来てくださるのです。つまり、琉歌様も来てくれるのですっ!ルーはすっごく嬉しいのですっ!
琉歌様の為にも今夜のお鍋は凝りに凝った至上のお鍋にしなくてはいけないのです!
と言うわけで、ルーはいつもよりちょっとお高いお肉を買いにお肉屋さんに向かっているのです。
美味しいお鍋を食べたら琉歌様が笑顔になってくれるかもしれないと思ったら、もうルーはルンルン気分なのです!
「ちょっとちょっと、ルーちゃん」
「は、はう?」
「こっちにおいで」
惣菜屋の前を通った時、琉雨はそこを営む夫婦の妻に呼び止められた。
「何ですか?」
用心屋の夕飯のおかずや自身へのおやつにコロッケを買い食いする琉雨は彼女とは顔見知りだ。
「これあげるよ。店の飾りだけど、使うのは今日までだからね」
「今日までって、いいんですか?、まだ今日は始まったばかりです。それに、これは……?」
「いいのいいの。これを着て、他のお店の前でおばちゃんが教える魔法の言葉を言ってみると、すごいことが起きるわよ」
「す、すごいことですか?」
「ふふふ。言ってみたら分かるわよ」
きょとんとした琉雨を店の奥の座敷に招いた惣菜屋の奥さん――多喜は正座する琉雨の膝に黒い布を乗せた。それを広げると、琉雨の衣服の上からそれを着せる。そして、頭にも同じく黒のそれを被せた。
「魔法の言葉はね…………」
短いような長いような。
琉雨は教えてもらった言葉を口には出さず、唇を動かして繰り返した。何度も何度も、忘れないように。
「覚えたです!」
「まずはおばちゃんに言ってみなさいな」
「はひっ、魔法の言葉ですね!」
琉雨は多喜が魔法使いだったことにびっくりし、その魔法の効果を知らないことに恐れも感じながら、そっと多喜の耳に囁いた。
「うんうん。分かったよ、琉雨ちゃん」
「?」
琉雨の魔法の言葉を聞き遂げた彼女は頷くと、店の名物メニューであるあつあつコロッケの入った保温機を開け、コロッケを一つ取り出す。そして、それを紙に包むと、琉雨に差し出した。
「どーぞ」
「へ……ルー、お金払ってないですよ?」
「魔法の言葉言ったでしょ?」
「駄目です!だって、これを売ってお商売をしてるのに……」
「それは琉雨ちゃんに言われたくないね。だって、琉雨ちゃんはこの町の皆のお手伝いをお金を貰わずにしてくれたじゃないかい」
「でも…………ルーは皆さんの為にできることなら何でもしたいだけなんです……」
琉雨の中には“奉仕”が本能に組み込まれている。主人に奉仕し、守り抜くことが護鳥に課せられた使命だ。
だから、琉雨にとって手伝いは苦痛ではない。
「琉雨ちゃん、この魔法の言葉はね、言われた相手を笑顔にする魔法なの。私は琉雨ちゃんがこれを受け取ってくれたら笑顔になるのよ。ね?」
多喜が微笑み、琉雨は熱の持つコロッケを両手に包み込んだ。
「あの、ありがとうございます」
「私も琉雨ちゃんに笑顔にしてもらえて嬉しいよ。さぁ、その魔法の言葉で皆を笑顔にしてちょうだい」
「頑張りますっ!」
言われた人を笑顔にする魔法のような魔法の言葉。
琉雨は今まで学んだどの魔法よりも綺麗な魔法だと胸を温かくした。
「はむはむ。お惣菜屋さんのコロッケはいつ食べてもおいしいのですっ」
「おや、ボデガードのとこの。可愛い恰好をしてるなー」
「呉服屋さん、おはようございます。これ、お惣菜屋さんに貰ったのです!」
通算8回目にして洸祈が“職業:ボディーガード”だということを教えるのを諦めた齢75の呉服屋の主人が店先に椅子を置いて日向ぼっこしていた。彼はコロッケを頬張る琉雨を見付けると、椅子から立ち上がって彼女に近付く。琉雨は自ら歩み寄って呉服屋の主人に肩を貸し、椅子に座らせた。
「最近、寒くなってきましたね。ルーは元気ですが、呉服屋さんは体調にお変わりありませんか?」
「わしは嫁の喚き以外には元気だ。ボデーガードの坊達は元気にしてるか?」
「はひっ。皆元気です!」
「子供は風邪の子元気な子。それにしてもお前さん、わしのとこの嫁さんと交代してくれんか?」
「もー。千和さんはいい人ですよ」
呉服屋の息子の嫁――千和の文句を彼は琉雨に良く話す。しかし、別に彼は千和のことを毛嫌いしているわけでも、嫌悪しているわけでもない。千和に「お義父さん」と優しくされるのが照れくさいだけだ。
「そうだ!魔法の言葉です!」
琉雨はこの機会にと、教えて貰った言葉を呉服屋の主人に言う。
「とりおとり?ふむ……鳥を取り……鳥か?」
「はわわ。とりおとりじゃなくて……」
ちゃんと伝わらないと魔法の言葉の効果はでないようだ。琉雨は彼の耳に口を近付けると、更にゆっくりと言った。
が、
「とりとり……とっとり…………鳥取か!」
「ますます遠くなっちゃったです……」
「ボディーガードさんのとこの。琉雨ちゃん、どうかしたの?」
「あう、千和さん」
まだ幼い赤子を抱いた千和が店から琉雨の声を聞きつけて出て来る。
「うげ……息子の嫁……。赤ん坊を抱いて店に出るなとあれほど。また子供を増やしおって」
「お義父さん、正志が言っていたあれですよ。あれ。お菓子の呪文」
呉服屋の主人の文句をさらりと受け流す千和。そして、彼女は赤子を彼の腕に抱かせた。
「陽奈子を少しよろしくお願いします」
「ちょっ、息子の嫁……千和!」
主人の腕には赤子。すやすやと安らかな寝息を立てているが、彼の方は緊張で固まってしまっている。
「わ、わしに赤ん坊をも、持たせるんじゃないと……!」
「呉服屋さん、赤ちゃんはすっかり安心してますよ。ルー分かりますから」
仄かな明るさのある魔力の流れを見た琉雨は赤子の額を撫でた。すると、赤子は琉雨よりも小さい手のひらで呉服屋の主人の腕に触れる。
その瞬間、彼は柔らかな笑顔を見せた。
「琉雨ちゃん、これあげる」
店の中から出てきた千和が包装された手作りクッキーを琉雨の手のひらに収めた。
「はう?いいんですか?」
「いいのいいの。今日の為に作ったものだし。これからも、お義父さんのことよろしくね」
「はひっ!ありがとうございます!」
「嫁!嫁!陽奈子はもうわしの腕から動かせんぞ!わしの腕の中が一番みたいだ!」
すっかり興奮した主人に千和も琉雨も微笑まずにはいられない。
「じゃあ、今日は私が店番をしますので、お義父さんは2階で子供達のことお願いできますか?」
「うむ……しょうがないから2階で孫の相手をしてやる」
そう言って、主人は腕の赤子と指先で戯れながら店の中へと入って行った。
ルーは偉大な魔法の言葉を得ることができて大満足なのですっ!
でもでも、皆が笑顔になってくれるのはいいのですが、何故か琉雨は魔法の言葉を言っているだけなのに、鞄の中身がお菓子で一杯になってしまいました。
はう……どうしてだろう……。
きーんこーん。
「はーい」
由宇麻は家のドアを開けた。
「こんにちはなのです、由宇麻さん!」
「こんにちはー、琉雨ちゃん!なんや、今日もまたかわええかっこしとるんやね?」
「はひっ!」
今日の琉雨は俗にいう魔女っ子である。
黒いマントと黒い帽子。カラフルなお星さまが所々に散っている。
由宇麻は買い物帰りらしい彼女を家の中へと招き入れた。
「それでですね、今日のお夕飯は璃央様と琉歌様とお鍋なんです!一緒にお鍋食べませんか?」
「お鍋!皆でわいわい食べるん?楽しそうやな!俺も是非一緒に食べさせてくれへん?」
「今日の夜7時に家に来てください!」
「うん!あ、つまみ持ってってもかまへん?」
「いいですけど、飲み過ぎちゃ駄目ですからね。あ……そうでした、幸せの御裾分けです!」
「?」
それは由宇麻もよく知る呪文。
琉雨は幸せ一杯の笑顔でそれを言った。
「琉雨ちゃん、今日の10時のおやつにチーズケーキ食べたんやけど、余ってるんや。貰ってくれへん?」
「は、はひ。今日は沢山お菓子を貰ったのです。この魔法の言葉、とっても不思議な効果があるんですね」
「せやね。皆の食後のデザートにでもどうや?」
「分かりましたです!」
きっと琉雨は今日が何の日かよく分かっていないのだろう。
由宇麻は今日の主役は琉雨だったと思い出し、後で酒のつまみの他に沢山のお菓子を持っていこうと考えた。
「あ、琉雨ちゃん」
「何ですか?」
「その魔法の言葉、崇弥にゆう時は気を付けるんやで?」
「はひ……?えっと、気を付けます……?」
琉雨は由宇麻がラップをしたチーズケーキの乗る皿を受け取り、首を傾げる。
由宇麻もそんな純粋な少女の姿に、自分の発言は不適切だったかなと首を振って誤魔化した。
今日は皆が楽しめればそれが一番いいのだ。
琉雨も洸祈も皆が笑顔になれれば由宇麻にはそれだけで満足なのだ。
「また夜に」
「今日はいつも以上に腕を振るうのです!期待しててください!」
そして、少女は勢いよく由宇麻の家を出て行った。
由宇麻さんの言ったことが良く分かりません。
旦那様に魔法の言葉を言う時は気を付けてって……ルーは旦那様にも笑顔になってほしいけど、言っちゃいけないのでしょうか。
「おかえりー。テーブルと椅子増やしたけど、こんな感じでいい?」
人数が多い時用のテーブルを普段の食卓テーブルの隣に設置し、椅子を増やした千里がリビングで琉雨を出迎えた。
「はひ!ありがとうございます!」
「あ、そうだ。洸がちょっと今撃沈中なんだ。熱が出て。現在も体温上昇中。璃央先生が来る頃には意地でも治すって言ってたよ」
買ってきた野菜や肉を冷蔵庫にしまう琉雨を手伝う千里。
「だから、今日のお昼は洸祈はお粥。俺達は焼そば」
エプロンを付けて台所に立つ葵がフライパンを動かした。その動きに合わせて香ばしいソースの香りが漂う。
琉雨は商店街でコロッケを食べたが、それでも沢山歩いて空いた小腹を撫でた。
「今日は沢山お菓子を貰ったから、皆で食べたかったのに」
「お菓子……って、あ、そっか、その格好はあれだね!」
千里が手を打つ。
「あれ……ですか?」
「千里、しっ。今日はまだ時間があるんだから」
「あ…………分かった。ね、琉雨ちゃん。ここは僕がするから洸を起こしてきてくれる?」
「はひ」
背中を押した千里に頭を下げ、琉雨はリビングを出て言った。
布団に顔を隠す洸祈の頭に触れた琉雨。
「旦那様、大丈夫ですか?」
「…………琉雨……?」
「はひ。ルーです。お買い物から帰ってきたです。これからお昼ご飯なんですが、葵さんが旦那様の為にお粥を用意してくれたみたいですよ」
ぬっと布団から現れた手が琉雨の腕を掴む。そして、洸祈は彼女を自分の布団へと引き入れた。
魔女っ子の帽子がその勢いで床に落ちる。
「お粥よりも……琉雨を食べたい」
琉雨の首筋に鼻先を付けた洸祈が彼女の体臭を深く嗅いだ。
「司野の匂い……」
「はひ。由宇麻さんの手作りのチーズケーキを貰ったんですよ。皆にって。あと、お夕飯に由宇麻さんも来てくれるそうですよ」
「本当?」
「でも、旦那様がお粥を食べてぐっすり眠ってくれないと、熱が下がらないからお鍋食べられないですね」
「食べられる……」
「お客様に移すんですか?」
「うぬぅ……粥食べて寝る……」
琉雨はベッドから降りると、スリッパを整え、タンスからブランケットを取り出す。
「温かくしましょうね」
「ん」
「あ、そうです!今日、お惣菜屋さんに魔法の言葉を教えてもらいました!」
「魔法の言葉?」
ブランケットにくるまった洸祈に向かうと、琉雨は彼の腰に抱き付いた。
「とりっく、おあ、とりーと!」
笑顔を見せた琉雨は洸祈の腹に頬を付けて目を閉じる。洸祈は暫くぽかんとし、琉雨の肩に掛かる黒いマントを摘まんだ。
「旦那様が笑顔になる魔法の言葉です」
「…………とりっくがいい」
「ほへ?」
「俺を笑顔にしたいなら、俺に悪戯して。あんなことやこんなことして。ほら」
琉雨をくっ付けたままベッドに大の字になる洸祈。琉雨は潰してはいけないと両手で体を起こす。が、それを拒み、洸祈が琉雨を抱きすくめた。
「俺のことを好きにしちゃっていいよ?てか、して?」
「あわわ。ルーはご飯を食べて下されば……」
しかし、洸祈を笑顔にするには悪戯をするしかない。
悪戯をしたことがない琉雨は首を捻って焦る。
洸祈に好きに悪戯をしてと言われたら、琉雨にはずっと傍に居て欲しいとしか言えないが、それこそが決して琉雨にはできないことなのだ。
「そんなに悪戯して欲しいなら、俺がお前を好きにしちゃおっかなー」
「………………お前には言ってない」
第三者の声に琉雨は振り返ると、そこには馴染みの顔があった。
「陽季さん?」
予定では陽季が用心屋に来るのは夕方のはずだ。
「呼ばれて登場、陽季だよ」
「別に呼んでないから」
「お前の熱が伝わるくらいの熱い吐息でお前が言ったんだろう?『陽季、早く会いたい』って。覚えてない?意識朦朧とさせながらも俺のこと想って電話してきたってこと?」
ぎしりとベッドを鳴らして琉雨の上から洸祈に被さる陽季。彼はゆっくりと洸祈に顔を近付ける。
洸祈は赤い顔を更に赤くしてそっぽを向いた。
「言ってない!お前は離れろよ!」
「なら、トリック・オア・トリート」
「…………は?」
「ほら早く菓子寄越せよ。あ、ない?よし、悪戯決定。熱下がったら覚悟しろよ」
矢継ぎ早に言い、洸祈に喋らせる機会を与えず、陽季は琉雨が目を放した隙を狙って洸祈の唇を奪う。その手際の良さはキスのプロにでもなったかのようだ。勿論、そんな職業はないが。
「な、何すんだよっ!」
「続きは後のお楽しみだ――今はそれより、腹減ってるんだ。早く焼そば食べたい」
「ルーもお腹ぺこぺこなのです」
「あ、じゃあ、洸祈は熟睡してて起きなかったことにして、焼そば食べに行こっか。よく見れば今日の琉雨ちゃんは魔女さんだね。可愛いね」
琉雨を抱っこした陽季は洸祈の部屋のドアを開けた。大の字待機の洸祈に舌を出して意地悪く微笑むのも忘れない。
ぱたん。
「ま、待てよ!俺も昼飯食べる!」
洸祈はスリッパを引っ掛けて二人を追い掛けた。途中で床に落ちていた帽子を広い、自分の頭に乗せる。
その横顔には小さな笑み。そして、一度俯くと、再び不機嫌な顔になって目を擦った。