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scene 6 堕落の記憶 act 4

「セレーネ!」


 聞き覚えのある声と同時に二人の間から強い光が放ち始める。

「ふぇ……?」

 その声にセレーネは泣きやみ、突然現れた明かりの方を見る。アズモデウスは眩い輝きを拒むため顔を腕で覆い隠す。

 すると、その光の中から一人の天使が現れた。

 セレーネは目をこすって涙をふき、天使の姿を確認する。


「せら……ふぃむ様ぁ……?」


 それはセレーネが大好きで最も信頼している存在、天界を離れて二度と会えないと思っていた天使セラフィムが目の前にいるのだ。


「セラフィム様ぁ!」

 セレーネは今まで甘えられなかった分、セラフィムにぎゅっと強く抱きついた。それはまるで、もう二度と離さない事を示すかのようだった。


「もう、心配ないから……ね」

 セラフィムは強く抱きつくセレーネの頭を何度も優しくなでる。


 やはり離れるべきではなかった。戦う事は無理でも逃げる事ならば私にでも出来るかもしれない。

 このままこの非力な子を一人には出来ない。


 ……違う、そんなんじゃない。私はこの子と一緒に居たかったんだ。

 たとえ天界全てが敵になろうとも、これからどんな困難が待っていようとも、私はもうセレーネを離さない!


「危ないから離れていてね……」

 セラフィムはセレーネを木陰に座らせた後、セレーネの命を奪おうとした存在達を厳しい表情で見つめながら、精神を集中させる。

 すると何もない場所から美しいレリーフが刻まれており、剣の柄がまるで天使が翼を広げているかの様な意匠の銀製の長剣を出し、かつて、セレーネが天使の力を発揮した時と同様に全身を神々しい光で纏い、今まで隠していた純白の翼を広げる。

 長剣はセラフィムのセレーネを守る気持ちに答えるかのように、刀身から炎が激しく噴き出した。


「……久しぶりだな、生きていたのか。セラフィム。あなたにずっと会いたかった。しかし、天使の中でも神格と神性が高いあなたが人間の子供をかばうとは、セラフィムよ、何かあったのか?」


 セレーネは木陰に隠れながらこれから始まるであろう戦いを見ていた。そして、セラフィムが現れてからのルシフェルに、幼心ながら何かひっかかるモノを感じる。


 あの人、さっきよりも優しくって寂しい感じがする。


 それはまるで、今まさにセラフィム様と私がであった時のような、うれしいようなびっくりしたような、そんな感じ……。


 しかし、セラフィムはそのルシフェルの言動を無視し、剣を構えて強く睨んだ。

「この子を傷つけようとするならば、私が相手になりましょう。覚悟しなさい!」

「私と戦うのか? セラフィム……」

 ルシフェルは両手を広げて、武器を持っていないことを証明する。


 セラフィム様とは戦いたくないのかな?

 どうしてしまったのだろ?


 セレーネが感じている思いはセラフィムも同じであった。

 天界から密かにセレーネの様子を監視し、セレーネの危機が迫ったから慌てて駆けつけた。そこへ至るまでの間、ルシフェルと大悪魔達は横暴な破壊行動と慈悲無き殺戮行為に身を投じていたはず。

 なのに今は戦う様子も無く、まるで無防備。

 というか私しか見えていない……?


 セラフィムは混乱していた、このままこの強大な力を持つ相手と雌雄を決さなければならないと覚悟を決めていた。しかし、まるでそんな様子もそぶりも見せないのである。


 様々な理由を考えていたセラフィムだが、この場に居る一体だけはまるで雰囲気が違っていた。


「セラフィムなんて敵じゃありません! 私にお任せを!」

「やめろ! アズモデウス!」

「消滅させてくれる! セラフィム……覚悟!」


 アズモデウスはルシフェルの制止を無視し、剣を突き立てながらセラフィムとの間合いを一気に詰めた。

 ゴードの命を奪った悪魔の攻撃が当たる寸前、セラフィムは空高くへ飛び、攻撃を回避する。


「逃がさないぞ……」

 ゴードを難なく捉えた速度をもってしても、セラフィムにはまるで通用しない、だがアズモデウスは体勢を整えなおして再びセラフィムを追う。

 セラフィムは眼下に自分の命を奪おうとする悪魔を捕捉すると、静かに目を閉じ天空術の詠唱に入った。


「願わくは、穢れし魂に永遠の安息を、滅亡の破光……」

「む、アズモデウス! 退け! あの力は!」

 ルシフェルは何か危険を察知したのか、さらに声のトーンを上げて叫ぶ。だがアズモデウスは無視してセラフィムに突撃する。


 セラフィムは両手をアズモデウスが迫ってくる方へ向けた。

 すると手の平に光の粒が集まり、やがて巨大なエネルギーの塊へと進化していく。


「カタストロフィ!」

 天空術の詠唱の完了と共に、セラフィムの手の平に蓄積された光のエネルギーがアズモデウスめがけて発射される。


「ぐおおおおおーーーー!」

 莫大で膨大なエネルギーはアズモデウスを飲み込み、周囲に轟音と烈風を撒き散らしながら地面へと落ちていく。

「この程度の……力……」

 巨大なエネルギーの塊を克服しようと、正面から打ち破ろうとアズモデウスは持てる全ての力を使い、両手を使って光の塊を受け止め、光の氾濫する力に負けない、悲鳴とも取れなくない雄叫びをあげながら押し返そうとする。


 だが、圧倒的な力の前にアズモデウスの決死の抵抗も虚しく、あっけなく屈してしまった。


「ぐわあああああ」

 支えていた両手は鈍い音をたてて折れ、ぐしゃぐしゃに曲がり力が入らなくなると、破壊のエネルギーに全身に浴びながら、押し潰される形で共に地上へ落下していった。


 大悪魔を一撃で葬る天空術。

 滅亡の破光、カタストロフィは無数に存在する天空術の中でも最上位である禁断クラスの術である。


 超強大な光のエネルギーを対象に向けて発射し、相手を攻撃する。

 光は想像を絶するほどの破壊力を持ち、飲まれた相手が助かる見込みはほぼ皆無。しかし大きな力を扱う故に天界最高位に属するセラフィムですら連続して三回しか使うことが出来ない。まさに切り札であった。


「……全ては無と言う名の起源に返さん」

 その様子をみかねたルシフェルは静かに何かを天空術を詠唱し、片手を光のエネルギーの方向にかざした。

 すると、光のエネルギーはたちまちにばらばらに分解され蒸発していく。

 瞬く間にセラフィム渾身の一撃が完全に分解、消滅し、最後に残ったのはぼろぼろで瀕死の大悪魔だけだった。


 アズモデウスが地面へ苦痛に歪ませた表情のままゆっくりと落ちる。着ていた衣装は破れ、腕と足はあらぬ方向へ曲がり、全身火傷のような傷が広がっている。

 意識もなく、ぐったりとした様子だ。


「正直、私にはあなたが解らない。セラフィム、今は引こう。また、ゆっくりと話したい」


 セラフィムに背を向けながら、ルシフェルは疑問を抱きつつアズモデウスと共に夜の闇へと消えてしまった。



 セラフィムは脅威が去った事を確認するとゆっくりと地上へ降りる。

「セラフィム様ぁ」

 地上に降り立つとセレーネは木陰から出てきて、泣きそうな顔をしながら駆け寄りセラフィムに強く抱きついた。

「よしよし、もう大丈夫だよ……」

 戦っていた時の厳しい表情を止め、大切な存在を迎える表情をして、セレーネの頭を再度なでる。


 セレーネが無事だった、私はこの子を守ったのだ。今はそれだけで十分だった。よかった……。


「いったん、天界に戻ろうね。その人間はまだ生きているから今なら助かるはず」

 セラフィムはセレーネと傷だらけのレナを連れて一度、天界へ戻る事にした。


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