extra scene 無垢なる破壊神
※本内容はメインストーリーとは関係のある外伝となります。
scene59と60の間の内容となっておりますが、読まなくても物語の完結は出来ます。
「何で女神様やめちゃったの? どうして? 私の憧れだったのに……」
セフィリアとセレーネが自分達が住んでいた場所へ戻った時、そこにはセレーネがグリゴリの隠れアジトで出会った超越天使の少女が家の前で待っていた。
その顔は、いつもの明るい笑顔では無く、不満と疑問、不快感に満ちている。
「ごめんね、私は女神にはなれなかった。なりきれなかったんだよ」
セレーネはこの少女の思いが全て解っていた。
それ故にセレーネはこれ以上言い返す事も出来ず、ただ悲しそうな表情をするだけであった。
かつて私がルシフェルにセフィリア様と倒された時や、天界の陰謀によって離れ離れになってしまった時と同じ感情を抱いている。
大事な者を奪われた激しい喪失感、奪った者に対する深い憎悪、どんな力でも取り入れどんなモノを犠牲にしてでも晴らしたい復讐心。
その結果、私がしてきた過ちを繰り返すだろう事は容易に予想が出来ていた。
そしてセフィリアもセレーネのそんな悲痛な思いを理解していた。
セレーネはサンクトゥスを、セフィリアは琥珀崩しの魔剣を何も言わずに取り出し。これから来るであろう史上最大にして最悪、最強の相手をしなければならない事を熟知していた。
「……許さないよ? 私の女神様を奪ったあなた達を認めないから、シェムハザ様が教えてくれた内緒の言葉で、憧れていた女神になってあなた達を裁いてみせる!」
幼き少女には似つかわしくない、復讐心に捕らわれた醜悪な表情を露にすると、シェムハザから教えて貰った言葉をそっと放つ。
「ラストジェネレーション:虚無へ全てを帰す原初なる存在」
自身に取り込んだ琥珀の知恵の実の力を開花させる言葉を言い終えると、少女から圧倒的な量の白黒の光が溢れ、周囲を包む。
セフィリアもセレーネもその光に怯み、眩んで周囲が確認できなくなってしまう。しかし、二人は見えなくとも少女に何が起きているかは解っていたし、これからどうなるかも知っていた。
やがて閃光がおさまると、そこには体形は幼い少女のままだが、引きずる程の長すぎる純白の髪と全身を覆うロングドレスの裾も同様に地面に引きずっており、瞳も肌も、背中の六枚の翼も何もかも純白の女神が立っていた。
少女は変化の乏しい表情と、遠くを見つめる虚ろな眼差しで自身の右手の平を見て、己の変化を確かめている。
「ジェネレーション:完全なる光の創造主」
少女が余所見をしている隙に、セフィリアも少女と同様、解放の言葉をそっと口ずさむと、自身に秘められた主の力を目覚めさせる。栗色の髪は眩い銀髪へと変化し、エメラルドグリーンの瞳も髪色と同様の色へと変わっていく。背中には六枚の翼が悠然と羽ばたき、全身からは七色の光を常に発している。
私はセレーネを守らなければならない、主の力を解放すると意識が遠のくけれど、私はもう自分を見失わない。大好きなセレーネとずっと一緒にいる、そう決めたのだから!
セフィリアはその絶対的な力を身に纏いながらも、セレーネの方へと視線を向け、自分は大丈夫と言わんばかりにいつもの穏やかで優しい笑顔を向ける。
セレーネにもその思いは伝わったのか、光を放っているセフィリアの手をそっと握り、同様の思いをこめて笑顔で返す。
私たちはずっと一緒だから、たとえセフィリア様が何になろうとも、ずっと私が側にいるからね。
大好きなセフィリア様、もうあなたとは離れないよ。
二人は互いの手を強く握り、決意の固さを確認していた時、今まで雲ひとつ無い空にみるみると暗雲が広がっていき、すぐさま雨が降り出す。
「この雨、もしかして天界からの?」
「ええ、恐らくは破滅の女神が覚醒した事をどこかで察知したのでしょう」
セレーネの問いかけにセフィリアがいつも通りの口調で答えた後、セフィリアは手の平で雨を受けながら、ふと何かを考える。
「どうしたの? セフィリア様~」
「いいえ、何でもありません。さあ、来ますよ!」
セフィリアの不可思議な態度に疑問を感じつつ、セレーネは剣を構えて女神の動向を一部始終漏らさない様に強く睨みつける。
セレーネはどの方向からでも、何が来ても対応出来る程、精神を集中させ、神経を研ぎ澄まして相手の攻撃に対応……したはずだった。
「えっ……」
セレーネは気がつかない、まるで瞬間的に今まで居た場所からセレーネの目の前まで移動した後、女神は表情を変える事無く、無言のままセレーネの胴体へとゆっくりと手を当てる。
手の平が腹部へとくっついた時、引っ付いた場所を中心として衝撃波が広がり、周囲に降っていた雨を霧散させると同時にセレーネは後ろへ大きく吹き飛ばされ、背後にあった木々をなぎ倒し大岩を破壊しつつ、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「セレーネ!」
セレーネは並の天使以上の力、間違いなく高位天使と同等かそれ以上の力を持っていたが、女神の前では無力同然だった。例えセレーネが光の速さを伴って移動しても、女神にはそれが遅く見えるのである。それ程、圧倒的な力の差があるのは、セフィリアもセレーネも十分解っていたが、改めて恐るべき破壊の象徴の脅威を思い知る事となった。
そしてその脅威はすぐにセフィリアの身にも降りかかる。
「混沌なる主の力、命ある者に終幕を、形ある者に終末を与えん、ライトアンドダーク・エクスターミネーション」
女神は目を見開いたまま、天空術らしき何かの詠唱を始め、六枚の翼を大きく広げると周囲に白と黒のエネルギー球が生成されていく。
エネルギー球は膨張していき、ある一定の大きさになると、それらからまるで槍の様に鋭い光線がセフィリアの体を貫かんとしてきた。
「主の光、忌まわしき滅びを退けん、ブリリアント・オクタゴン・ウォール!」
セフィリアはすぐに自身を女神の攻撃から守るべく、眩く輝く半透明の盾を生成し、命を奪う光線を弾き、軌道をそらす。行き場を失った光線が地上に落ちると、地上は白と黒交互に光る大爆発を伴い、見境なしに全てを消滅させる。
「こんなにも凄く素晴らしい力を手放しちゃうなんて、セレーネはお馬鹿さんだよね? 私と同じ力を持つあなたもそう思うでしょ?」
一旦は攻撃の手を緩め、片手をセフィリアに向けながら笑顔で女神は話しかける。
この少女もセレーネと同じ様に、七つの罪に目覚め、破壊の化身となり、壊す事に至高の悦楽を感じる様になってしまったのだろう。
「私の力はあなたとは違います。あなたは罪に取り込まれ委ねてしまった。しかし、私は罪を受け入れ共存する事を決めた」
女神になる前の、無邪気で無垢な少女の笑顔をセフィリアは真っ向から否定し、琥珀崩しの魔剣の切っ先を向けて拒絶と、自身とは異質である事を女神に伝えた。
その様子に女神は自身のお腹を抱えて、全身を震わせ、顔を下を向いて笑い出す。
「あははははっ……、何それ? 全然、何も解ってないよ?」
幾ばくかの時を大笑いした後に顔を再びセフィリアの方へ向ける。笑顔は消え、女神になると決意した時と同じ、醜悪で獰猛で、復習の炎に身を焼く様が表情へ戻ると、再び術の詠唱へと移る。
「みんな何も解らないから、全部壊しちゃってもいいよね? 混沌たる主の力、森羅万象を歪め捻じ切れ、マクロコスモス・ディストーション!」
女神が両手を広げると、セフィリアはまるで周囲の風景が広げた両手へと吸い込まれるような錯覚に陥る。その解析不能な力の前に何とか抵抗するが、じりじりと、ゆっくりと、確実にセフィリアも同様に引き付けられていた。
両手に吸い込まれた景色は耳をつんざく様な轟音を立てて崩壊していき跡形も無くなっていく。
このままでは女神の手によって地上すべてが吸い込まれ消滅してしまうだろう。
「全てを穿つ貫通の神光、ピアシングオブディバイニティ!」
セフィリアが聞きなれた声で天空術の詠唱がされた後、遠くへ吹き飛ばされてしまったセレーネが光の速さを伴い女神に迫る。セレーネの突進速度と女神の吸い込む力の二つがあわさり、女神は一瞬目視出来たがその瞬間、胸にサンクトゥスが突き立てられていた。
「過去に大悪魔と倒したときと同じ戦法がつかえるなんてね」
「わ、私が……、こんな天使ごときに……、げほっ、げほっ」
女神は自身に刺さったサンクトゥスを握り、何とか抜こうとするがまるで動かず、傷口は広がり、剣は深々と刺さる。女神は咳き込み、不意を突かれ自分よりも下等な存在に手傷を負わされた事に憤怒し、苦しみ怒る。
セレーネは女神を打ち倒した、セフィリアも強大な敵の最後に淡い期待を寄せた。
「……なんてね、本当に何も解らないんだから、僅かな優越感と共に滅びなさい」
まるで非情な現実を突きつけるように、苦しんでいた表情は再び邪悪な笑顔へに戻り、腕を大きく振るうと、セレーネの胸元に何か鋭い物を振るった様な一筋の残光と、斬られた傷あとが生じる。
なんと女神の振るった腕を纏うドレスの袖は、空から降り注ぐ雨を弾く程の鋭く、まるでカミソリの様に変化していたのだ。
「うああああ!」
僅かに身を引いたおかげで胴体が二つに別れる事だけは避けたセレーネであったが、深手を負った事に変わりは無く、激しい痛みに叫び、泣きそうな表情でセフィリアのもとへ一旦身を引く。
「痛いの? 苦しいの? ああ、凄く気持ちいいなあ」
苦痛の色に染めた表情のセレーネを見て、女神は悦な顔をする。体全体をびくりびくりと震わせ、命を削ぎ落とした事による充足感で失神してしまいそうな様子だ。
そんな狂気じみた言動に、セフィリアとセレーネは同じ様に体を震わせたが、それは快楽からではなく恐怖からなるものである事は本人達が最も理解していた。
セレーネが酷く傷ついてしまった……。
二人の力を併せないと到底立ち向かうことは不可能、ここは何とか逃げて治療しないと。
セフィリアはセレーネを抱きかかえて、一度この場を離れて体勢を立て直そうとした。
自身の持てる最高速度で飛行し、全力で女神から逃げ去った。
しかし、何故か女神はこれを何事も無かったかのように見送るのである。
逃げるの?
どこへ行っても同じ、この地上は私の手で全て壊れちゃうのだから。
ふふ、無駄な事ばかり、本当に無知なのだから……。
女神は不敵な笑みを残しつつ、セフィリアを見送った後、周囲を片っ端から破壊し始める。
人間が築きあげた建造物は少女の悦楽の為だけに破壊され、逃げ惑う人間の恐怖を煽り、あえて残虐とされる方法で、大人子供や男女問わず見境なしにそれらの命を奪う。
地上にいる人々は等しく、破滅を撒き散らす存在にあがなえず、涙を流し、懇願し、そして絶望した。
その時も彼女は終始、笑顔だった……。
何とか難を逃れたセフィリアとセレーネは、雨を凌げる無人の小屋へと入り、いつものセフィリアへ戻ると、そこでセレーネの受けた傷の治療をする。
セレーネの胸は大きく斬られているというよりかはえぐられていると言うべきだろうか、内蔵されている知恵の実がむき出しになっており、傷口から光の粒がゆっくりと蒸発している。
「もう少し、反応が遅ければ知恵の実、すなわちあなたの生命の源が斬られ、命を落としていたでしょう」
「……ごめんね、セフィリア様」
セフィリアはセレーネの傷口に手を当て、精神を集中させると暖かい光がセレーネを包み込み、みるみると傷口は塞がっていく。セレーネは泣きそうになりながら自身の無力を悔やみ、セフィリアへ一言謝った。
「このままでは攻撃を防ぐ事は出来ても、あの女神を止める事は出来ないでしょう」
傷の治療をしながら、セフィリアは僅かにうつむきつつセレーネにこのままではジリ貧である事を告げた。しかし、寂しげな表情と違い、瞳の輝きは失われておらず、力強さは未だに健在である。
その様子を見て、セレーネは自身の無力さをかみ締めながらも少しだけ安堵する。
「……ふふ、私の考えはお見通しみたいですね」
「セフィリア様の事なら、なんでも解るんだからねっ」
私の考えを、この子は解っているみたい。
そう、絶対に諦めない。もうどっちかが犠牲になるのは嫌だから。
セレーネは……、絶対に守る。
二人で帰るって決めたのだから!
治療を終え、傷が癒えたセレーネをぎゅっと強く抱きしめる。セレーネもセフィリアを強く抱きしめ、互いは互いの愛情を感じあっていた。




