エピローグ
あれからどのくらい月日が経ったのであろうか。
セレーネは石版に手をかざし、目を閉じて集中している。そこは共鳴音と淡い光だけがある場所。
「過去の私へ伝えなければならない、この苦難を乗り越える為に……」
幼き頃、未来の私がメッセージを送ってくれた。今は過去の幼き私にメッセージを送らなければならない。
少しの瞑想の後、石版の中心に埋め込まれた宝石に亀裂が入ると淡い光と共鳴音は無くなり、セレーネは過去の世界から現在へと引き戻されてしまった。
セレーネは、かつてセフィリアが滅ぼした村の近くにある森の中に小屋を立ててそこで生活をしている。天界は多くの大天使の不在が原因となり、魔界も同様の理由で互いの長きに渡る争いは終結した。地上は未だ混沌から抜けてはいないが、セレーネはようやく平穏な生活を手に入れたのである。
ルシフェルは別に住まいを構えて研究に没頭している。一度だけ研究の内容をセレーネに話した事はあるが、詳しくは解らなかった。どうやら死んだセラフィムを復活させる為の研究らしい。
多くの思いと命は儚く全うする事が出来ずに消えてしまった。セレーネとセフィリアの旅はそれだけ多くの取り返しのつかない犠牲を出してしまった。
黒い服のセフィリア様、デストラクターは滅んだ。あの眩い輝きは収束した時に全てが決していた……。セレーネはあの全てが決着した時を思い出す。
青白い輝きがおさまり、セレーネは辺りを見渡すとそこには背中に六枚の翼を携え、七色の光に包まれた銀髪のセフィリアとデストラクターが立っていた。
「言ってるじゃない、私を倒す事は……」
デストラクターは微笑みながらその場に倒れる。彼女の腹部には致命的な損傷があった。セフィリアは崩れ行くもう一人の自分を抱きかかえる。
それは自身の弱さを受け入れ、立ち向かう強い意志の表れであった。
「……ありがとう」
黒い服のセラフィムは涙を一粒流し、跡形も無く消えてなくなった。
「どうやら完全に目覚めたようだな、我が主よ」
ルシフェルは傷ついた腹部を押さえながら何とか立ち上がり、銀髪のセフィリアにひざまずく。
「今まで苦労をかけましたね、ルシフェル、そしてセレーネよ」
セレーネはその場で泣き崩れた。そこにいるのは天界の主であり、大好きなセフィリアでは無くなってしまったからである。セフィリアは自分自身に打ち勝った、しかし自身を失う結果となってしまった。その事にセレーネはあがなう事が出来ず、ただ絶望するしかなかった。
「嫌だよセフィリア様ぁ……、何で私を置いていくの……」
セレーネは声をあげて泣いた。声が枯れるほどの大声で泣いた。
「置いていかないよ、ずっと一緒だからね、セレーネ」
セフィリアはそっとセレーネを抱きしめる。それは初めてセレーネと出会った時の様に。その様子にセレーネは顔を上げ、セフィリアの姿を何度も確認しつつ驚いた。
確かに見た目は今までのセフィリア様とは違う、ルシフェルの言うとおり主の力の目覚めたのであらば、今までの記憶が無くなるはずである。
「可能性があるとするならば、人間と交わった事が影響しているのだろうか。今となっては真相は定かではないが……」
ルシフェルは立ち上がり、七色に輝くセフィリアをそっと見つめる。
「私は探さなければならない、そして追究しなければならない事がある。今回の件、一応礼は言っておこう。そしてセフィリア、セレーネ、さらばだ」
「私を倒して、仇をとらないのですか?」
「既に解決した、何ら問題は無い」
ルシフェルは二人に別れを告げると、まるで元々居なかったかのように消えてなくなってしまった。別れの最後、普段は氷の様に凍てついた表情が日向で照らされ溶けかかったような、少し緩んだそんな気がした。
そしてセフィリアとセレーネは二人で生活する事になった。
セレーネは部屋を出ると、そこには椅子に座り、本を読むセフィリアがいた。
「この本も面白いですよ、セレーネも読んで見てはどうでしょう?」
自身が読んでいた本を笑顔でそっとセレーネに手渡す。その姿は主として覚醒した時ではなく、普段の栗色の髪に緑色の瞳を持つ天使であった。今までと違うところがあるとすれば、漆黒の翼は再び純白を取り戻した事くらいか。
もっとも、セフィリアにとって翼の色は今更気にもしていなかった。大好きなセレーネ過ごせる幸せで十分であった。
あれ以降、主として覚醒する事も無く、穏やかな日々が続いている。
「うん、セフィリア様ありがとー!」
目が合うと二人は優しい笑顔になった。
「あなたがいてよかった、願わくは永久に共にあらんことを」
第一章 外伝 予告
何故デストラクターは誕生したのか?
セフィリアから生まれた破壊の化身の本当の目的とは?




