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scene 36 主の片腕(ミカエル)の記憶

 三人は地上で身を潜め、自身の傷の治療とルシフェルから情報を聞き出す事に専念した。

 ルシフェルは一切の抵抗をせず、黙秘する事も無くセレーネやセラフィムの質問に答えていく。


「……それなら、あなたは魔界側に天界との内通者が居る事を知らなかったのですね」

「ああ、私が知りうる範囲ではな。だが、全ての使い魔や低級悪魔の管理はしていない。いるのであらば、地位の低い者を疑うべきだろう」


「どうして、私達を殺さなかったの?あなたなら出来たはず……」

「私の目的は私の大切な者を奪った天界の主への復讐と、実行犯を特定し相応の報いを受けさせる事だった。お前達の命に興味は無い」


 質問に淡々と答えていく、表情や声の抑揚を一切変えることなくまるで彫刻が喋っているような感覚すら感じる。


「私も確認する事がある、ラファエルにいくつか聞きたい」

 ルシフェルには何か思い当たる節があるらしく、これ以上有用な情報がないと解った二人も一度天界で情報収集をしているラファエルと合流しようとした。


 三人は天界へと向かうため、ゲートを展開しようとしたその時。


 眩い光の塊が三人の近くに落下する、光が収まると中心にはセレーネがかつて幼少の時に出会った天界最強の天使、ミカエルがいた。


 ここへ来た目的が全員の抹殺である事は疑いようが無かった。セレーネはかつて幼少の時に見た強大な力の持ち主を目の前に、ルシフェルはかつての大戦で自身に深手を負わせた天敵を目の前に、セラフィムは変わり果てたミカエルの姿に愕然とした。


 全員銀の鎧を身に纏うその姿は戦いの天使の象徴そのものであったが、かつて宿していた青い瞳の中の強い光は無く、背中の翼は漆黒に染まっていたのである。


「……全員を我が主の命により、抹殺する」


 かつてセレーネが感じた、近くにいるだけでびりびりとした感覚は無かったが、それでも手にしているいかなる物質をも断絶する光で出来た長剣と、禁断の天空術メギドの滅光ハイブレイクは三人の天使にとって脅威であった。


「ミカエルよ、一体何があったのだ?」

「……お前達裏切り者に語る事は無い。この場で朽ちよ」

 ルシフェルの問いかけにも一向に取り合う気も無い、天使達は自身の所持している武器を取り出し最強の天使へ対抗しようとする。


「我が意思は一太刀の光とならん、時空を斬り、万物を裂け。断絶の神光サークレットエッジ!」

 天空術を詠唱し終えると、ミカエルが所有していた光の剣の刀身がみるみると大きくなっていき、それを凄まじい勢いで振るう、それはまるで荒れ狂う竜巻の様に周囲を見境なしになぎ倒し切り刻んでいく。

 すさまじい斬撃は辺りの自然環境を裁断しつつ三人の天使の命も絶とうとしてくる、しかし全員はこの攻撃をかわす事に成功した。


「焼き尽くせ天の雷、全ての邪悪を塵と化せ、紫雷の神光インペリアルノヴァ!」

 次にミカエルは自身の拳をぐっと強く握り無数の稲妻を召喚する、雷撃は莫大な光と音を放ち三人の天使達を焼却しようとしてくる、しかしこの攻撃も難なく回避出来てしまう。


 二回とも見た目と威力は派手だが、まるで当たらない。ルシフェルはその様子に不信感を抱く。本来なら最初の攻撃で全員跡形も無くなってていいほどなのに、セレーネやセラフィムの成長と今までの戦闘経験を考慮してもまだミカエルの方が圧倒的に上なはず、それが何故だろうか。


「光満ちる世界、全ての敵を忘却と消却の彼方へ誘わん、抹殺の神光ブライトバニシングフィールド!」

 ミカエルは休む間も無くさらなる攻撃を加える、一瞬にして辺りに純白の世界が広がると同時に光の爆発が三人の天使を覆っていく。

 全方向から来る攻撃は回避の余地は無く、結界もろとも粉微塵になるのは必然であったがセラフィム一人の結界により爆風は阻まれてしまい、破壊したのは周囲の自然だけである。


 結局三度に渡る攻撃全てを回避、防御してしまった。


 ミカエルが現れた時、ルシフェルは自身の最後を覚悟していた。それほどの脅威であったはずなのにかつての天空術の力とはまるで違う、その弱体化はまさに別人のようであった。


 ルシフェルは確かめる必要があった、己が思考の正しさを。ミカエルの身に起こった全ての事象を。

「どうしたミカエルよ、ハイブレイクを使わないのか?」

 ルシフェルの問いかけにミカエルはただ黙秘を貫く。表情も一切変わらず、視線も真っ直ぐこちらを見たままで外観からは何も変化は無かったが、ルシフェルは全てを悟った。そして自身の考え、予想が正しい事を確信した。


「……もはや隠し通せないか」

 ミカエルは自身隠していた事があった、それをルシフェルに看破されたと悟った時、武器を収めその場に倒れるように座る。


「ケルビムは私の全てを奪い、天界の新たな主として君臨している。私の体も、神格も、何もかも全て汚されてしまった……」


 自由意志はあった、だが感情が豊かな天使ではなかった、良くも悪くも天界の主に従順な天使であった。主亡き後も頑なに主の教えを地上の人間に説き、大悪魔の脅威を退け続けた。恐らくもっとも天使らしい天使であっただろう。


「そして力を奪われ、主の愛に背いた私の命はもう長くない」


 ミカエルは一息つくと、物憂げな眼差しで遥か彼方の空を見つめた。


「もう抵抗はしない、このまま放置しても勝手に命尽きるがネフィリムの仇をとるのなら私の胸に武器を突き立てて殺すがよい」

「ルミナお姉ちゃんは……、ミカエル様が原因じゃないけど死んだよ。だから仇じゃないよ」

「そう……」

 そんなミカエルが僅かだが緩く微笑んだような気がする。天使なのにネフィリムであるルミナお姉ちゃんや私の事を気遣っていた……?


「ルシフェル、こちらへ」

 枯れた声でルシフェルを側へと誘導する、そしてセレーネとセラフィムには聞こえないほどの小声で話しかけた。

「先代セラフィムを見殺しにしたのは主だが、計画したのは悪魔側と結託したケルビムとツァドキエル、アラリムだ。実際に手をかけた者が誰かまでは解らなかった、すまない」

 ルシフェルが最も知りたかった情報を今ここでミカエルは最後の時を使い伝えた、自身が主にならんとするケルビムへのせめてもの報いを与えたかったのだろうか。


 ルシフェルの体内に熱く滾る何かが駆け巡る、拳を握り、光の粒となって消滅していくミカエルを燃え盛る炎を宿した青い瞳で見つめながら彼は叫んだ。


「反逆の続きをはじめよう。今こそ私の無念を晴らす時!」


 ミカエルを見届けた天使達は、元凶達が巣食う天界へと向かう。




 しかし、そこで予想されなかった悲劇が訪れ、今まで頑なに封じていた真実が解放される事は、まだ誰も知らない。


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