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scene 32 魔王の記憶 act 3

「人間の天使化……、毒に冒された肉体を捨て魂を天使の体へと移し新たに転生する……」


「お願い! それでセレーネが助かるのなら!」

 セラフィムは少しの躊躇いも無く、一切の迷いも無く唯一の救済手段を選んだ。ラファエルは必死のセラフィムに対し一つ頷くと、急いで準備をする。


 用意されたのは、天使の命の源である生命の樹の実。天使は生命の樹の実を己の生きるための核、人間で言えば心臓の役割をする部位となる。


「それでは早速始めましょう」

 ラファエルは目を閉じ、術の詠唱に入る。すると周囲は薄暗く、多少の冷たさを感じるようになる。瀕死のセレーネを治療していた時はまた違う、青白い光に包まれて行く。


 気持ちを落ち着かせたセラフィムはふと考えた。かつて自身に脅威となってきた天使レナの様に、性格が一変してしまうのではないか、天使化の現実を受け入れきれないのではないのか、人間をやめる位なら死んだほうが良かったと思うのではないか……。


 そもそも生きてて欲しいという思いは私のエゴでしかない、このまま楽にさせた方が……など様々な思いが頭の中を駆け巡る。


 やがて青白い光が落ち着くと、生命の樹の実があった場所にはセレーネの新たな肉体、すなわち天使の体がセレーネと平行になるように眠っていた。


「次の日の出までには転生が完了します。それまで待っていてください。心配とはお思いですが、くれぐれもセレーネには触れない様ように……」

 ひと段落したラファエルは消耗した力の回復と気分転換の為に一旦その場から出ていってしまった。


 傷ついたセレーネは青白い光に包まれたまま、まるで死んだように眠っている。新たな体も同様にぴくりとも動かず、人間とは違い呼吸もしていない為、生きているかどうかも解らない。容姿は人間の時と比べてさほど変わりはないが、天使特有の白い法衣を身に纏い、左手薬指には主への永遠の愛を誓うエンゲージリングがはめられている。


 セラフィムはセレーネの目覚めを待った。他に何もせず、ただセレーネが無事に復活する事のみを考えて、セレーネのみを見続けた。





「ん……」

 私は目を開けた。視界からは眩い光が差し込み、思わず目を強く閉じる。

 体が妙に軽い、奇妙な心地よさも腹部の煮え滾る感覚も嘘の様に消えている。死んでしまったのかな?

 それならばここは天国なのだろうか。


「うーん……」

「セレーネ! ああ、よかった……」

 むくりと上体を起こし、あたりの眩しさにも慣れてきたのかようやく目が開く。開いたと同時にセラフィム様が私に抱きつき泣きながら喜んでいる。


 どうやら私は助かったらしい、その事は理解できた。でも何かがおかしい、体が妙に軽く、背中がそわそわとくすぐったい。


 私は背中を触ろうとした時、何か羽根の様にふかふかした物と指が接触する。無意識の好奇心でそっと後ろを振り向くと、背中に一対の白き翼があった。


「これは、……どういう事?」

 確かに天使の力を使う時は自然と羽根が出てた、けれどそれは光の力の具現化による為、実体はなく所謂幻や蜃気楼とかそういう類の物だと思ってきた。けれど今は違う、触った感触も触られた感覚あるし、誰かに教えられたわけでもないのにまるで手足の様に自在に動かせる。


「あなたの命を救う為、天使として生まれ変わったのです」

 セレーネの目覚めと困惑にまるで合わせるかのようにラファエルが戻ってきた。


「その体は、我々と同じ天使の体……」

 私はラファエル様の説明とセラフィム様の不安げな表情で全てを理解した。私は天使になったんだ。かつて戦ったレナの様に人間の肉体を捨てて転生したんだ……。


 セレーネは迷っていた。レナの様に無理矢理天使化したわけではない、あのままでは間違いなく死んでいた事はセレーネ本人も十分に解っていた。最終的な決断はセラフィム様がしたのだろう、私を生かす為に。


 ふと、私に抱きつき一命を取り留めた事を泣きながら喜ぶセラフィム様の姿を見た。普段はしっかりしているのに、こんなに取り乱して私の事を心配してくれている。無事を喜んでくれている。それなら、別に人間じゃなくてもいいかな。とセレーネは思った。


 そしてここまで瀕死の私を連れてきてくれた事、私の意識がない間も介抱してくれた事を考えて、この選択は間違いではない、何よりもセラフィム様とずっと一緒に居られる。


「ありがとう、セラフィム様」


 迷いを打ち払い、最初に出した言葉は感謝の言葉であった。



 新しい体にも慣れた時、ラファエルは告げた。


「実は伝えようとしていた事があるのです。魔界の動きを独自で調べていたのですが、大悪魔達がルシフェルから離反するらしいです」


 新たな事実。今まで結託し互いの力を尽くし合わせて天界と戦ってきた悪魔側に新たな潮流、しかも今までの常識を覆す事になる。一体悪魔陣営に何があったのだろうか。


「ルシフェルのいる場所へ行ってみよう、セラフィム様。そして危機が迫っていたら助けてあげよう」


 セレーネからの信じられない提案にセラフィムは驚いた。過去にも大悪魔との戦いで死の危機に瀕してきた、何とか退けたが旅で共に居た地上の仲間達や人間であるセレーネを失った。それでも悪魔と関わろうとするのか。


「もうやめましょう、二人で穏やかな生活を……」

 セラフィムは今回のベルゼブブとの戦いで思い知ったのだ、これ以上戦い続ければやがていつかは最悪の結末を迎えるだろう。地上での天使と悪魔の戦いが再び表面化し、安住の地なんてどこにもないのかもしれない、さらなる強力な追撃者が来て無残な最後を迎えるかもしれない。けれども、自ら危険の渦中へ飛び込む必要なんてないじゃないか。


 その思いはセレーネも十分解っており、側に居たラファエルにも十分理解出来る事であった。今更ルシフェルの事を心配している場合ではないのである。


「確かめたい事がいくつかあるの、真実を知る為にはルシフェルが必要不可欠なの」

「何を言ってるの? 散々傷ついてきたのにまだそんな解らない事を言うの?」


 確かにまだ解かれていない謎があるのは事実である、セレーネはその謎を解かねばならないという使命感にも似た思いを持っていた。何故ならば、このまま天使と悪魔の動向を放置すれば一時の平穏な生活は戻るかもしれないが、根本的な解決になっていない。だからこそ、今大きく動きだした時に一緒に動いて見ようと考えたのである。


 一方のセラフィムは、これ以上の危険を避けてセレーネとの穏やかな生活を望んでいた。何故セレーネがここまで拘るのか意味が解らない。確かに謎はまだある、ここで天界と魔界の問題を解決すれば今度こそ平穏な生活が手に入る。しかし危険性が大きすぎる。何故それがセレーネには解らないのか、今までならセラフィムに同調していたはずなのにここまでセラフィムの意見に対して反発した事はなかった。


「お願い、セラフィム様。これで最後だから……」

「……そこまで言うならば解りました」

 結果としてセラフィムが折れる事となり、二人はルシフェルの居城へと乗り込む事になった。ここまでセレーネが強く言うには何か理由があるのかもしれない。


「ですが、私が少しでも危険と判断した場合は何も言わずに引き返して下さい」

 そして、僅かだが期待もしていた。特別ではあるが人間で天使の力を扱えるほどの資質の持ち主が、天使化した時どれほどの力を発揮するのだろうか。


「私はここに残り、再び天界の動向を探ってみます。くれぐれも無理のなさらぬよう……」

 ラファエルは自身の残留を告げ、各々はそれぞれの目的を果たす為に目的地へと向かった。


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