scene 30 魔王の記憶 act 1
レナとレインを退けた二人は、再び安住の地を探す旅に出る。道中下位天使や使い魔が何度か襲ってきたが、これらも全て撃退に成功する。
地上を歩き、二人はある街へと足を踏み入れた。
街の建物は全体的に木造が多く、筋肉隆々な男達の往来が多い。粉っぽさと苦い臭いがどことなくするのは、この街の特産物が採掘に関連する物だからだろう。
セレーネの食事の為、二人は酒場へと入っていった。店内は男性が多く、にわかに汗臭さを感じた。
そして中に居る作業員らしき男達の元気は無く、落胆する者や自棄酒に明け暮れている者の姿が多い。
適当に料理を注文している中、工夫達の話が聞こえてくる。
「何で悪魔が住み着くんだ? 俺が何か悪い事でもしたのか?」
「解らなねえ、けどこのままじゃ全員終わりだ」
「別の場所に移住した方がいいかもな……」
悪魔が地上を侵攻しており、その影響が確実に広がっている事を再び実感した。
あの工夫が言う様にこの場から去った方がいいとセラフィムもセレーネも思った。悪魔がいる事による脅威も危険だが、それ以上に天界が大規模な掃討作戦を行えば、この街も他の町と同様に戦いに巻き込まれてしまうからである。
セレーネは、そう思いながら注文した料理が来た為、それを食べようとした最中、酒場の扉が音を立てて勢いよく開かれる。
「そこの白い服を着た女二人に用がある!」
あごひげの長い中年男性と、それに引き連れられて数人の男達がセラフィムとセレーネが座っている場所を指差した。突然指をさされて、何の事だろうと半ば呆然としていた二人であったが、次の発言で彼らの狙いが解った。
「お前達が天界から追われた天使である事は知っている。」
人間界隈でも私たちの事を知っているのだろうか、地上の様々な戦いを経てきたが、全く目撃者も痕跡も無く戦ってきたわけではなく、多数の人間の前で已む無く戦った事もあった。だから私達の正体を知る者もいなくはないが……。二人は警戒し、早急にこの街から出ようと考えた。
「頼む! 鉱山に住み着く悪魔を倒してくれ!」
「どういう事なのです?」
あごひげの男が深々と頭を下げた。遅れて他の男達も頭を下げた。そして頭を下げながら現状を語りはじめる。
「我々がいつも石炭を採掘している鉱山に悪魔が住み着いてしまった。その悪魔は巨大なハエの悪魔で、捕まった工夫は全て奴に食われてしまい、怪我を負わされた工夫は傷口が腐って全員死んでしまった……。このままじゃこの街は終わりだ。だから頼む!」
工夫達の話は正しく、悪魔によって鉱山が占拠されている現状を二人は再認識した。本来ならばなるべく悪魔や天使には関わらず、といきたいところであった。
「解りました。我々で何とかしてみましょう。」
セラフィムは断りきれず、またセレーネも同じ思いであった。
二人はすぐさま鉱山へ向かった。そんな二人を見送り、姿が見えなくなった時、彼らの背後に一人の天使が光と共に現れた。
「……これでよいのですか、ケルビム様」
「上出来ですな。レナを退け、サマエルを打ち破りましたが、ベルゼブブが相手では無事にすまないでしょう……」
何とあごひげの男と天使ケルビムは、裏で結託していたのである。セレーネとセラフィム抹殺の為に、大悪魔ベルゼブブをぶつけようというのだ。退治出来ればそれは天界側が有利になり、負ければ二人を抹殺できる……。
その余りにも卑劣な作戦に、あごひげの男の顔は笑顔であったが心中は穏やかではなかった。
「これでは、天使も悪魔もかわらねえじゃねえか、全く酷い事をする……」




