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scene 29 迷人の記憶

 二人は安住の地を求めるべく旅をしていたが、脅威はすぐにも襲い掛かった。しかも天使側と悪魔側の双方同時と言う最悪の状態である。


 天使側はケルビムともう一人女性の天使、悪魔側は全身をローブで身に纏っており誰かは解らないが仕草や口調から察するにリリスであろう。もう一体は下半身が牛のように発達した筋肉と蹄を持ち、全身をベルトで拘束されている人間……なのか魔獣なのか、それぞれ半々の体を持つ存在。


 奇しくも女性の天使、半獣の男はセレーネがよく知っている存在であった。


「もしかして、レナとレイン……?」

「下賎なる人間よ、気安く私の名を呼ぶな」

「グルルルル……」


 セレーネの問いに二人からはまるで予想のできない返答が帰ってきた。レナは天使となって神格と神性に目覚めているのだろうか、レインは半獣だが心は既に獣でしかないのか……。


「ケルビム! これは一体どういうことなの?」

「セレーネよ、彼女は我らが崇高なる力を授かったのです。人間と言う下劣な種の肉体を捨てて天使へと昇格したのです。」

 人間から天使への転生は決して不可能ではなく、過去にも天使へと転生し名を上げた天使もいる。しかし、レナは天使になる事を望んだのであろうか……。


「お嬢ちゃん、彼は私の奴隷となった元人間、そこの天使はどうか知らないけれど彼は彼の意思でこうなったのよ? 素敵でしょう? フフフ……」

 リリスは不敵に微笑みながら答えた。経緯は全く謎であったが、昔のレインとレナでは無いと言う事は嫌でも解らざるを得なかった。


「ではレナよ、堕落した天使達に裁きを下すのですぞ。」

「後はお願いね、帰ってきたらご褒美してあげる」

 ケルビムの厳格な命令と、リリスの甘い誘惑を残し、二人はその場から去ってしまった。


 私は戦わなければならない、短い間だったけれども共に過ごした過去の仲間と……。


 最初の仕掛けたのはレインであった。レインは鼻息荒く両手両足を使い跳躍しながらセラフィムに襲い掛かってきた。

 その動きは人間のモノではなく、まるで獣のようだ。無駄がなく素早い攻撃でセラフィムに迫る。回避し攻撃が当たらないようにするのは容易であったが、攻勢に出るほどの余裕は無い。


 セレーネがそんなレインの変貌ぶりに愕然としている中、レナが攻撃を繰り出した。レナは自身が持つ先端に棘のついた杖でセレーネの頭を砕こうと振り下ろすが、銀の十字架の剣で杖を弾き詰められた間合いを開ける。


 セレーネとセラフィムは一旦呼吸を整え、体勢を整えようとするが休む間も無くレインとレナが襲ってきた。相手の攻勢を防御と回避する事に専念しており、このままでは無駄に体力が減っていく。


 セレーネは銀の十字架に力をこめて、自身を加速させようとする。このまま貫通の神光で一気に決着をつけるはずであったが、それを見越していたセラフィムから思わぬ言葉をかけられた。


「その天空術はやめたほういいです、セレーネの負担が大きすぎます」


 かつてルシフェルにも言われた事を、まさかラファエル様と居た時に少しだけ話しただけなのに、自身最高の天空術の弱点が既に看破されていた事に驚きつつ、貫通の神光は使用を控える事にした。


 攻め手が無く、ただ攻撃を避ける事しか出来ない二人に異変が起こる。


 なんとレナとレイン、各々がセラフィムとセレーネを相手していたのにも関わらず、レナとレインの二人が同時にセラフィムを襲撃したのだ。


 セレーネは慌ててセラフィムの援護へと向かうが、二人がまるで意思疎通しているかのような息の合った連携は、瞬く間にセラフィムを追い詰め、ついにレインの鋭い爪とレナの杖による攻撃を受けてしまった。


 攻撃を受けたセラフィムは大きく吹き飛ばされ、巨木へと打ちつけされてしまった。攻撃を受け、全身を強打した影響か、そのまま力なくぐったりとして倒れてしまう。


 警告されたにも関わらず、セレーネは光の速さを伴ってセラフィムの救援へと向かった。流石に追いつけないのかレナもレインもただ立ち尽くしているだけであった。


「駄目……でしょう。その術は使ってはいけないと……」

 朦朧としつつも、セラフィムはセレーネを戒めた。あの天空術がもたらす影響、最終的にセレーネを死に追い込む諸刃の剣である事は十分解っていた。


「でも使わないと、この場を切り抜けることが出来ないから」

 このままでは二人とも天界と魔界の追撃者によって命を落としてしまう。この場を切り抜ければ私達に明日は無い。それはセラフィムも十分解っていた。しかしそれでも頑なに使う事を拒否した。どんなに説得しようともセラフィムが首を縦に振ってくれる事は無い。


 二人のやり取りの最中、レインとレナが攻撃を再開する。今度も前回と同様に二人で連携して攻撃を繰り出してくる。セレーネとセラフィムも力を合わせて何とか回避するが、互いが対立した陣営にいるのも関わらず精度の高い攻撃に圧倒され追い込まれていった。


 セレーネは光の塊を半ば闇雲にレナへと向けて放った。当然攻撃はいとも容易く防がれてしまった。だがしかしこの攻撃が戦況を大きく変えたのである。


 今まで攻撃を回避してきたレナはその攻撃を見た途端に結界を張り、回避したのではなく受け止めたのである。

 

 これは人間の時に、リリスの攻撃を受けた状況に似ていた事からレナ自身のトラウマが行動を鈍らせ、防ぐ事を余儀なくさせたのであるが、セレーネとセラフィムはその事に関しては気づいていなかった。


 だがしかし、足を止めて守勢に回ったレナの行動は見過ごしてはいなかった。セレーネは次々と光の塊を飛ばし、レナを攻撃に転じさせないようにする。その間にセラフィムは、天空術の詠唱へと入る。

「滅亡の破光、カタストロフィ!」


 膨大な光の力はレナめがけて飛んでいき、レナの築いた障壁を破り周囲を爆発と爆風で蹴散らしていく。ドーム状に膨れ上がった光は轟音と地響きをたててそこにいた全てを等しく破壊していく。


 眩い光はやがておさまり、周囲が見渡せるようになった時、そこには傷つき倒れたレインとレナの姿があった。しかもレインがレナを守るような形で覆い被さっている。レインも人間の時の記憶が少なかれ残っていたのだろうか……。

 どちらもまだ息はあるが、抵抗できるだけの力は無い。


 セレーネとセラフィムが、二人に最後の攻撃を繰り出そうと剣を突き立てた時、レナの体から眩い光が発せられ、セレーネとセラフィムを包んでいった。


 気がつくと、そこには天界の門を潜る、昔のレナの姿がぼんやりとあった。私達に何かを伝えようとしているのだろうか。セレーネとセラフィムはレナの幻影を無言で見つめた。


 そして幻影のレナはゆっくりと語り始める。自身の過去を……。 



 八年前、レナはリリスに受けた怪我を治療してもらい、天界から出た直後であった。

 後追う様にケルビムが光のゲートを潜り現れ、たちまちレナを拘束したのである。


「喜ぶのだ人間、お前の豊かな才能が認められたのだからな。」


 それは私が人間だったときに聞いた最後の言葉だった。

 

 それ以降、天界へ連れて行かれた事は何と無く覚えていたが、それ以外全く記憶に無かった。

 私が次に目が覚めた時、レナは困惑した。


 何故、私がそこにいるのか?

 目の前には私の体が横たわっていた。


 私自身の意識はここにあるのに、体だけ関係の無い場所にある。一体何が起きているのか解らなかった。その私の体であろう肉体はまるで死んだように眠っており、呼吸も血液の流れも一切感じない。恐る恐る触れて見たがその肌は非常に冷たかった。

 でも意識だけははっきりと存在していた。決して悪い夢とかそういうのではなかった。


 だから私は次に自分自身の姿を確認しようとした。そうすれば今自分が何者か、あの死体は誰の物かが解ると考えた。


 ちょうど手元に手鏡があった、レナはそれで自身の姿を確認した。


 鏡に映っていたのは白い法衣を身に纏い、薬指に銀の指輪、そして背中に白い羽……、金髪碧眼で肌は白い。


 そこで私は気づいた、どうやったか知らないけど、人間ではなく天使になってしまった事に……。


 私は気が狂いそうになり、声をあげて叫んだ。だって無意識の内に自分が自分じゃ無くなってしまったもの……。


「人間は、そうやって喜びを表現するのかね?」


 私が叫び狂っていた時、タイミングよく一人の天使が現れた。その天使は私を天界へ拉致した天使と同じケルビムだった。


「何故、こんな事を……」

 頭を抱え、混乱と狂気の最中にいる私は何とかその質問を搾り出した。


「現在、天界は戦力不足に悩まされておる、天使創造は今はもう亡き主にしか出来ず、悪魔との戦いで天使の数は減る一方である。そこで我々高位天使が考えたのが人間から天使への昇格である。勿論、全ての人間が天使になれる訳では無い、君は成功したのだよ。」


 望んでもいない天使への転生をさも当たり前の様に、そして良い事をしたのだと押し付けがましく言い放たれた私は、混乱と狂気の次に怒りがこみ上げてきた。


「私は、こんな体を望んでいない!」

「何を罰当たりな、より高次な存在へと生まれ変わったと言うのに何たる発言か、やはり下等な生物になぞ理解できぬか……」


 ケルビムは懐から先端に宝石のついた白銀の杖を出し、天使になった私へとかざすと、杖は眩く輝き、レナは激しい頭痛に襲われた。


「ならばその精神をも書き換えてやろう、我らが崇高なる主の教えに目覚めよ!」

「い、いやぁ……」


 まるで頭の中をぐしゃぐしゃにかき回される様に感覚だった。それ以降、私の意識はない。


 たぶんケルビムの腹心として、天使として働かされていたのだと思う。



 レナの過去に触れ、彼女の天使化の経緯を知った瞬間、レナの体は光の粒となり消滅してしまった。絶命する瞬間、レナは人間の時の心を取り戻したのだろうか。何故このようなものを見せたのだろう……。


 また、瀕死であったレインは跡形も無く消えていた。こちらはセレーネとセラフィムがレナの過去に気を取られている間に逃げたのであろう。レナが引き付けている間に、レインを逃がしたとも解釈出来るが、今となっては定かでない。


 しかし、この悪逆卑劣な事実をセレーネ達に伝えたい事だけは、真実であったのかもしれない。


ANGEL MEMORY how to 8 「ピアシングオブディバイニティについて」


 対サマエル戦が初出の天空術。

 光の速さで対象へと迫り、勢いで相手を貫くセレーネオリジナルの天空術。正式名称は「全てを穿つ貫通の神光、ピアシングオブディバイニティ」

 その威力はかつて天空術の師匠だったサマエルを一撃で葬る程であるが、あまりに素早く動く為、体の負担がとても大きい事と、細かい動きが制御出来ず、故に単調になりやすく読まれやすい事が弱点である。

 

 余談ではあるが、β版ストーリーでの術名称は「チェックメイト」だった。

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