scene 28 復活の記憶
「確かにセラフィム様は生きておられます。ですが非常に弱っており、このままでは意識を取り戻す為には長い時間が必要でしょう」
ラファエルはセレーネを治療し、セラフィムの体の状態を診断した。このままの状態でもやがていつかは目を覚ますであろうが、今の二人が天界に長居するのは非常に危険である事はセレーネもラファエルも熟知していた。
「私がリザレクションを使い、瞬時に回復しましょう。」
現在、ラファエルのみが使える究極の治療系天空術、復活の命光リザレクション。それはどんな傷をも瞬時に治療し、絶命した者ですら条件さえ満たせば蘇生出来る。
ラファエルは椅子からゆっくりと立ち上がり、セラフィムが横になっているベッドのすぐ横へと移動した。目を閉じ、ゆっくりと両手をかざし静かに詠唱を始めた。
「尊き命の光よ、清廉なる魂の輝きよ、偉大なる主よ、今こそ迷える同志に活力を与えたまえ……」
セラフィムとラファエルの体が淡く光り輝く、その光はとても暖かく、直接触れていないセレーネであってもとても心地が良い。
「復活の命光、リザレクション」
静かで穏やかな声から天空術の名前が放たれると、セラフィムの体が眩い光に包まれて行った。あまりの眩しさにセレーネは思わず目を閉じてしまった。
光が止み、目の眩みもおさまったセレーネがゆっくりとまぶたを開いた。そこには同じ様にゆっくりとまぶたが開き、セレーネの方向を見ているセラフィムが居た。
「セラフィム様!」
「セレーネ、なの……?」
セレーネは目覚めたセラフィムに抱きつき、目覚めを泣きながら喜んだ。そしてセラフィムは確信したのである。セレーネが私を目覚めさせる為に、今まで諦めず苦労をしてきた事を、さらに服の隙間から見える素肌についた生々しい傷痕は厳しい戦いと、そして囚われの身であった時の拷問に受けた物である事から挫けそうになっても耐えてきた事を。
セラフィムはそんなの思いに答えるかの様に、幼少の時と変わらず頭を優しく撫でた。
「よかった……、もうセラフィム様さえ居てくれれば……」
「ありがとう、セレーネ」
こんなに苦労をかけてしまった、本当は謝罪の言葉が正しかったのかもしれない。それでも今は私の為に頑張ってくれたセレーネにお礼がいいたかった。
セレーネはずっと声を上げて泣いていた。セラフィムは泣きじゃくるセレーネの頭をずっと優しく撫でていた。
泣き止み、気持ちが落ち着いたセレーネは今の状況をセラフィムに説明した。
天界や魔界の状況、ラファエルが助けてくれた事、サマエルを倒した事、ルシフェルの事など……。
「ルシフェルの行動が気になりますね」
「うん……、何故私達を助けたり助けなかったりするのだろう。」
その場の話を聞いた三人全員が疑問に思っていた。ルシフェルの行動が矛盾だらけである事である。セレーネやセラフィムを倒そうと思えば倒せたはず、結局二人とも力及ばずであった。生殺与奪は思いのままであったのに。
そして、何故私やセラフィム様を魔界から脱出させたのだろうか。あのまま監禁しようと思えば延々出来たはずである。
「ルシフェルの目的は、セレーネとセラフィム様の命を奪う事ではなかったのかもしれません。」
ラファエルがある仮説を告げる。
もしもルシフェルの目的が他にあるのであらば、セレーネやセラフィム様を退けたはしたが殺害はしなかった事も納得がいかないわけではない。
「ルシフェルの考えはとても私達には解らないかも。」
「あともう一つ、天界の行動だよね」
セレーネが気になっていた天界の行い。
何故セラフィム様やサマエル様が亡くなった事を、下位天使には言わなかったのか、そしてセラフィム様を死地へと送った理由。これも初めて仮説を口にしたのはラファエルであった。
「ケルビムやツァドキエルと言った主だった高位天使は、己の野心の為にセラフィム様を利用していたのかもしれません、そして、利用価値が無くなった為に遠征の話を持ちかけ、謀殺したのかと……」
「その野心って?」
「自らが天界の統治者となって全ての天使を、やがては地上をも支配しようとしているのです。私も表側は協力者となっております。ですが、無為に他者の命を損なうのは許しがたい行為であり、天使が統治者だなんておこがましいと思うのです。統治者はあくまで主であり、天使は主への絶対の忠誠と愛を忘れてはなりません。」
治療を司り、命を尊び、天界の主の教えを頑なに守る。その姿は癒しの天使の名前に相応しい。
「それなら、ここから本格的な追撃が始まるのですね……」
セラフィムの言う通り、これからが辛く厳しい旅になるであろう。魔界と天界、双方から命を狙われる日々。
それでも、セレーネとセラフィムはもうずっと離れない。お互いがお互いを守っていき、困難があればそれを向かい討ち、乗り越える。その事は敢えて口にするまでもなく、互いの心に深く刻まれていた。
「後は、ケルビムが私やセラフィム様の所在を知っていた事だけれども」
「ケルビムがセラフィム様やセレーネがどうなったか、悪魔側でしか本来知りえない内情を知っていたと言う事は、やはり秘密裏に通じていると断定してよいでしょう。ですが、私とセレーネを討伐する為だけに結託しているのでしょうか、もしもそうならば余りにも用心深すぎると思うのです。」
ただ単純にセラフィム、セレーネを抹殺するのであらば天界だけでも戦力としては十分である。それなのに何故不倶戴天の敵同士が手を結ぶのだろうか。
「何か私も知らない恐ろしい秘密があるのかもしれません……」
ラファエルが一言、体に多少の震えを感じながらふと言い放った。
確かに、この三人が未だ知りえない真実があるはずである。物事の核心に迫った時、全ての謎が解けるであろう事は言わずとも解っていた。
「取り敢えず、私とセレーネは早急に天界を出ます。ラファエル、いろいろとお世話になりました」
「いいえ、私ももう少し調べてみます。何かあったら連絡しますので……」
三人は別れる事にした。これ以上長居をして他の天使に見つかってはとてもまずい事になるからである。
結局どれも明確な解答を得る事が出来なかった。決定打となる情報がない事を互いに確認しただけだった。
そして、セレーネとセラフィムの二人が平穏な生活が出来る場所を探す旅が再び始まる。
ANGEL MEMORY how to 7 「銀の十字架について」
セレーネがラファエルより渡された銀の十字架。
普段はネックレスになっているが、願いをこめる事で剣となる。
刀身が細身な為、叩いたり斬る事は不得意だが、突き攻撃に優れている。
β版(没案)には、各地の精霊を訪ねて銀の十字架に各種属性の力を与え強化するお話があった。強化後の名称は「虹の十字架」




