scene 27 復讐の記憶
サマエルとの戦いの傷を癒したセレーネは、セラフィムが待っており、かつて自身が監禁されていたルシフェルの居城へと到着した。
忌々しい過去を振り払い、セレーネはルシフェルの待つ王座の間へと向かって走った。道中、大悪魔の妨害があると思われたが意外にも誰にも見つからずに、目的地まで難なく到着してしまった。
これは罠なのだろうか……。扉を開けた瞬間、待ち構えられてて一気に倒されるのではないか。何か辛辣な罠が張り巡らされているのではないか。しかし、全ては無用な考えである。今の私にはこの方法しかないし、ここで引く事は有り得ないのだから。
セレーネは王座の間の扉を開けた。玉座にはルシフェルが足を組んで座って待ち構えていた。その様子からして、まるでセレーネが来る事を予知していたかのようである。
「セラフィム様を取り戻しに来たわ、ルシフェル!」
銀の十字架に願いを込めて、ネックレスから白銀の剣へと変化させる。
「お前はその運命を選んだか、ここを脱出してそのまま大人しく平穏な生活も送れただろう。実に愚かしい」
ルシフェルはセレーネの気持ちを踏みにじるが、セレーネは何の思いも抱かない。
奴はセラフィム様を殺した私の仇である。最大の敵相手に一切の情はない。
「セラフィム様、あなたが目覚めるなら私なんてどうなってもいい」
「ほう、それが自身の決意か。ならば試してみるか?」
「その前に、一つ聞きたいの。私やセラフィム様がどうなったかを天界側の誰かに伝えたの?」
「……私の知る限りは天使と好んで接しようとする者はおらぬ。何故その様な事を聞くのかは知らないが、来ないのか?」
あの時と同様に黒い水晶で出来た剣を持ち、切っ先をセレーネに向ける。まるでセレーネの覚悟を試しているかにも見える。
セレーネはサマエルを討った時と同様に、自身を加速させてルシフェルに幾度か剣撃を加えた。最初は回避したり、応戦していたルシフェルであったがその速度に次第についていけなくなった。
もはや回避不能と認知したルシフェルは、自身の損傷を可能な限り減らすためにその場から動かず結界を展開し防戦一方となってしまった。
「今ならいける……! ピアシングオブディバイニティ!」
サマエルを打ち負かした天空術を繰り出した。空間は捩じれ、セレーネは一筋の光となってルシフェルを貫こうとした。
「その天空術はやめておけ、体への負担が大きすぎる」
まるでセレーネの行動を予想していたかの発言であり、次の瞬間、ルシフェルを貫くはずの銀の十字架の剣が黒水晶の剣によって大きく弾かれ、軌道が逸れてしまった。
セレーネは慌てて減速し、体勢を立て直す。サマエル様にも追いついた速度が、ルシフェルには通じないのだ。その動揺の大きさは計り知れない。
「どう言う事なの……?」
全身の苦痛に耐えながら、ルシフェルの発言の意味を問いただした。
「光と同等かそれ以上の速度で動作し、その衝撃と運動エネルギーを利用して相手に一点集中攻撃をする。銀の十字架が突き攻撃に特化した武器であり、その性質を利用している、決してアイデア自体は悪くない」
冷静にセレーネの天空術を分析し、その分析が全て的を得ていた。
「だがしかし、その天空術は移動時に生じる空気との摩擦に、人間の体では耐えられない。今はまだぎりぎり耐えられるようだが、これ以上速度を上げればお前は燃え尽きるであろう。さらに、とても素早く捉える事は不可能であるが、一点集中が故に軌道が読みやすく、次にどこを狙ってくるかが解りやすい。」
セレーネは絶望した。そして悟った。私ではルシフェルには勝てないと言う事を……。
完敗であった。たった一撃、それも予備動作の最中に私の切り札を完全に見抜いていた。強みも、弱点も何もかも……。
あまりにも強大で絶対過ぎる相手だと思い知らされ、もはやなす術がなかった。全てを諦め、現実を受け入れるしかない。私とセラフィム様の終わりと言う非情な現実を……。
「ごめんなさい、セラフィム様。私もここで……」
「サマエルからは、何も言われなかったのか?」
ルシフェルは何もかも知っているのか。セレーネはそう思わずにはいられなかった。確かにサマエル様からはいろんな思いを貰った。
「その程度では、セラフィム様は助けられない。頑張りなセレーネ、あなたならきっと出来るから」
サマエル様の言葉を思い出した。サマエル様は堕落しても私の事を信じていてくれた。諦めちゃ駄目なんだ。どんな絶望も苦痛も、この命燃え尽きるまで耐えて立ち向かって、そして克服していかなければならないんだ。
それこそ、生きると言う事であり、そうでなければ私の悲願を達成出来ない。
でもどうする。私の切り札は完全に読まれてしまっており、今のままでは到底当たらない。再び攻撃しても避けられ、無為に消耗するだけである。
「では、いくぞ」
ルシフェルは両手を広げ、高速で天空術を詠唱する。それはセラフィム様を葬った時と同じであった。
「メギドの滅光!」
力の解放と共に、白と黒のオーラが交互に周囲を満たした。
セレーネは何かを待つように、ルシフェルの行動全てを常に確認する。
「ハイブレイク!」
「全てを穿つ貫通の神光、ピアシングオブディバイニティ!」
空間は膨張し、次々と爆発は連鎖し広がっていく。しかしセレーネは光の速度を伴って爆発へと突っ込む。そして、怒涛の爆破エネルギーを貫き、ルシフェルの体を貫いた。
セレーネが狙っていた瞬間は、ルシフェルが隙を見せる時、つまり天空術を使うときである。しかも大規模な高等天空術であればあるほど隙は大きい。
メギドの滅光ハイブレイクはミカエルの切り札であり、天空術の中でも最も高効果高リスクである'禁断'の部類に位置する。
この格付けがされている天空術は他にセラフィムが使用していた滅亡の破光カタストロフィ、ラファエルが使えるどんな傷も治療し、失った命すら取り戻す復活の命光リザレクションの三種類のみと言われている。
ルシフェルの今まで変わらなかった表情が苦痛に歪み、貫かれた胸を手で押さえ膝をつく。セレーネは遂にルシフェルに打ち勝った。と思いきや、セレーネの腹部から血が滴れた。
「まさか、ハイブレイクに合わせて来るとは、見事だ。だが、言ったであろう。その術は負担が大きすぎると、初撃に比べて速度も威力も大幅に落ちていた。故に私は無理な体勢からでも反撃出来たのだ。」
セレーネは無言のまま崩れるように倒れた。全身全霊を込め、自身の命をもかけた一撃を繰り出しても倒す事が出来ない、セレーネはふらふらになりながら何とか立ち上がるが、少しでも気を抜けば失神してしまう。遠のく意識の中、自分の無力さに苛まれる。
「力は見せて貰った、完璧ではないがまず良しとしよう。セラフィムは玉座の後ろの隠し階段を下りた場所に安置している、さっさと行け」
ルシフェルは黒水晶の剣を鞘に収め、戦いでついた衣服の埃を手ではらうと玉座へ座り頬杖をついた。
まるで戦意や殺気と言った物が感じられない、今まで互いを傷付け殺しあっていた。それなのに今は戦った事実すら無かったかのようにルシフェルは平然と座りいつもの表情の無い冷たい眼差しでセレーネを見ていた。
「何をしている? 早くいかないか」
戸惑いながらもぼろぼろのセレーネはゆっくりとセラフィムの居る場所へ向かって行った。
「セラフィム様!」
階段を下ると青白い炎に照らされた部屋へ到着した。その真ん中にセラフィムは眠るように横たわっていた。
急いでセラフィムの近くに駆け寄り、体に手を当てて無事を確認した。天使がその命尽きた時、光の粒になって消滅してしまう事から、そうなっていないと言う事は生きている証であるとセレーネは確信した。
だがしかし、どんなに体を揺さぶっても目を覚まさない。まさか私が幽閉されていた時もずっとこのままだったのだろうか?
ラファエルの助言通り、銀の十字架に祈りを込めると、青白い光のゲートが生成された。セレーネはセラフィムを担ぎ、自身の傷の治療も兼ねて一度ラファエルがいる場所へと戻る事にした。
ANGEL MEMORY how to 6 「登場人物の設定 サマエル編」
大天使サマエル。外見年齢は20歳、実年齢は数百歳となる。
金髪の短い髪に簡素な銀の飾りをあしらった冠をつけ、深いスリットの入った白いロングドレスを身に纏っている。
性格は剛毅で大胆。一度決めた事はやり遂げる強い信念の持ち主。
近接戦闘に関しては天使の中でも右に出る者がいない。天界の主より神器ロンギヌスを賜る。
使用する天空術は、ロンギヌスを利用した物が中心だが、基礎となる天空術も一通りこなす。
セラフィムを救出しようと魔界へ乗り込むが、不意打ちを受け負傷。悪魔の取引によって悪魔の花嫁となってしまい、かつての弟子であったセレーネに倒され最期を遂げる。




