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scene 24 傲慢の記憶

 セレーネはいつもと変わらず街道を歩いている。地上の現状は大よそ理解していた。今探しているのは人の集落ではなく、地上に駐留している天使達が詰めている場所だ。彼女の目的はセラフィムの奪還であるが、今のままではルシフェルに対抗できない。そこで天界へ赴き、全ての天空術が書き記された禁書、Mの書を奪おうと考えていた。

 ただし、それを手に入れるには天界へ行かなければならない。八年前はルミナと一緒に天界へ通じる道、ゲートを開く事に成功したが、セレーネ一人では天使の力を持っていてもゲートを開く事は出来なかったのである。


「あれは……」

 セレーネの望んでいた通り、街道から少し外れた先に天使達のキャンプが見える。先の戦いにて、天界は援軍を派遣していると聞いていたがまさにその通りだった。

 



「俺ちょっと荷物とってくる!」

 若い天使が荷物を取りに仲間からはぐれ、誰もいないテントの中へ入って行った。

「さてと……」

 若い天使は何かを探していており、周りが一切見えていないようだ。

 今こそ絶好の機会である。荷物の影に隠れていたセレーネはすかさず天使の背後へ忍び寄り、短剣の刀身を若い天使の首にあててそっと囁いた。

「静かにして。あなたにお願いがあるの。聞いてくれれば殺しはしないわ」

「な……なんだ?」

 若い天使はいきなりの襲撃に恐怖し体を震わせていた。襲撃者の正体を確認しようと首を動かすが、姿が確認出来る方向まで動かすと刃が首に食い込んでしまう。

「私を天界に連れて行って欲しいの」

「……解った」

 若い天使はそのままの体勢で手の平だけテント内の何も無い部分をかざし、天界へのゲートを生成する。

 生成された事を確認したセレーネは天使の束縛を解き、ゲートをくぐり天界へと向かった。


 潜った先、光が止むとそこにはセレーネにとって懐かしい風景があった。

 セラフィム様も、サマエル様も居ないけれど、何も変わらない町並みである。

 セレーネはすぐにMの書があると思われる神殿へ向かった。


 途中下位天使とすれ違うが、翼を出していればだれもセレーネとは解らないのだろうか?

 セレーネが思っていたより簡単に神殿の入り口まで行けた。この調子で神殿も……、と思ったセレーネであったが二人の門番に呼び止められてしまった。

「待ちなさい!」

「ここは高位天使か許可を受けた者しか入れないぞ! そんなことも解らないのか?」


 セレーネは目を閉じて少し考えた。今までの居住区とは訳が違う、ここからは一部の天使のみが出入りを許された場所である。私なんかが到底入れる場所ではないと解ってはいたが、自身の行動が甘かったと改めて思い知った。


 そして次の瞬間、さらに自身の行動の軽率さを思い知る事になる。


「その者を通しては駄目です!」


「ケルビム様!」

 神殿の中から声が聞こえた。門番達はその声がすると同時に頭を下げた。


「ひさしぶりですな……、セレーネ」

 神殿の中から、かつてセラフィムを死地に追いやった大天使ケルビムが現れる。ケルビムの表情はまるでセレーネの考えを全て見通したかのように勝ち誇っていた。


「セラフィム様が死ぬことを解っていながら戦地に赴かせて……」

「それがどうしたの言うのですか?」


 看破された事もそうだが、それ以上に解っていて死地へ追いやったこの天使が憎くて仕方が無かった。セレーネは怒りのあまり体を震わせ、ケルビムを強く睨む。


「私と戦うのですか? セレーネよ! セラフィム様の力を受け継いだとしてもまだまだ子供。私の天空術に勝てますかな?」

 自信満々でケルビムは言い放った。

 その発言に間違いは無く、今ケルビムと戦ってもまず勝てないであろう。実力差がありすぎるのである。


「この者を牢獄に入れておきなさい! 絶対に逃がしてはなりません!」

 セレーネは門番達に捕縛され、牢獄へと連れて行かれてしまった。


「どうしよう……」

 目的も果たせない上に捕まってしまった。このままでは私はセラフィム様と同じく誰にも気づかれず殺されてしまう。


 そもそも、何故ケルビムは全て知っていたのだろうか?


 セレーネには一つだけ心当たりがあった。それは悪魔側と通じている可能性である。

 しかし、あれだけ互いを傷つけ憎みあった天使と悪魔が、秘密裏に手を組むのだろうか。あるいは悪魔側に内通者、もしくは悪魔側と結託してセラフィム様を葬ったと考えれば、今回の事に関しても辻褄があう。


 でも、何故そこまでセラフィム様を邪魔者扱いしたのだろうか。


 私を匿っていたから?


 それだけではない。何かもっと重大な秘密が、私が知らない、セラフィム様を含む当事者にしか知らない秘密があるはず。


「ん……?」

 思考を巡らせ、様々な可能性を考慮していた最中、遠くから足音が聞こえきた。


 その足音の正体は、さきほどセレーネを牢獄へ連行した門番であった。二人の天使がそれぞれ牢獄の鍵と手錠を手にしてセレーネの前に現れる。

「セレーネよ、我々についてきて貰おう」

「お前に会いたいと言う高位天使様がおられる」

 私に会いたい天使とは一体誰の事だろうか。そうセレーネは考えつつ、手錠をかけられ手荒に牢獄から出されどこかへ連行された。


 少し歩き、セレーネは神殿から少し離れた建物に連れて行かれる。

 セレーネが来ると、閉まっていた扉がゆっくりと開いた。

「よく来ましたね……」

 建物の中には、微笑みながら柔らかい声で話しかける天使がいた。


 ゆったりとした法衣に、ゆるいウェーブのかかったロングヘアー、そして暖かい眼差しがとても穏やかで優しい、まるで日向にいるような暖かさを感じる。


「あなたは?」

「私はラファエルです」

「大天使が、私に何か用ですか?」

 セレーネはラファエルとは真逆の相手を拒む、冷たい眼差しで返した。

 高位天使、それだけでセレーネが憎む対象であり、セラフィムの仇であった。でも私を牢獄から出してまで何を告げる事があるのだろうか。


「ええ、ですがその前に……」

 ラファエルは目線で合図を送ると、門番達は出ていき、部屋に二人っきりになる。


 セレーネとラファエル以外に誰もいない事を確認したラファエルはセレーネの手錠を外した。

「何故?」

「あなたの気持ちは解っております。そして私はあなたの敵ではない事を解って貰いたいのです。」

 高位天使はセラフィム様とサマエル様以外は全員結託し、セラフィム様を排除しようとしたのではないのか?

 それとも私が知らないだけで、セラフィム様側の天使が居たと言う事なのか……。それとも私から情報を聞き出す罠?


 様々な可能性を考えている中、まるでそれも見抜くかのようにラファエルは話を進める。


「あなたが天界へ来た目的は禁書であり、それを求める理由はルシフェルを討伐し、魔界に幽閉されているセラフィム様を救い出す為ですね。」

「……はい」

「では、こちらへ来てください。私は回復と復活を天使であり、攻撃系天空術はあまり得意ではありません。セラフィム様のように、力を分け与えても恐らくルシフェルには及ばないでしょう。ですが今のあなただったら十分に使いこなせるでしょう」

 ラファエルは手近にあった銀の十字架がついているネックレスをセレーネに渡す。

「ネックレス……? これは?」

「あなたが力を欲した時、十字架を握り、強く祈ってみてください。そうすればその十字架はきっとあなたの思いに答えてくれるでしょう。そして、その十字架の力を使えば天界へのゲートを開く事が可能なのです。」


「どうして、私にここまでしてくれるの?」


「セラフィム様は、大きな使命を背負っているのです。ケルビムやツァドキエルの様な、己の野心で動いている天使とは違うのです。私は、そんなセラフィム様の力になりたいのです。」 


 ケルビムやツァドキエルの野心、それが先ほど仮定した悪魔側の結託と関わっている事だったら?


 それにしても、サマエル様もラファエル様も言っていた。セラフィム様が背負っている使命とは一体何だろうか。


 事態は予想以上に大きく、そして行動を急ぐ必要がある事をセレーネは感じていた。


 銀の十字架を受け取り首にかけた。そして天界から去ろうとしたその時、今まで笑顔だったラファエルが急に真剣な眼差しで、セレーネに一言告げる。


「気をつけなさいセレーネ、悪意は確実に大きく、そして深く根付きあなたを絡めとろうとするでしょう……」


 セレーネはラファエルの方向を振り向かずに、強い決意と意志を示した。それはセラフィムの協力者であったラファエルに対するお礼の言葉でもあった。



「もう私には何もない、だから誰よりも強いし、誰にも負けない」



次回予告


 ラファエルの助力を借りたセレーネ、だが彼女が地上に戻った時新たな脅威が彼女に迫る。それはかつてセレーネと親しかった者の成れの果てであった。はたしてセレーネはこの脅威に打ち勝つ事が出来るのだろうか?


次回、scene 25 死神の記憶

「私の悲しいって思い、もう無くなってたと思ったけど……、こんなに胸が痛いのは何故?」

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