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scene 21 守人の記憶 act 1

「みんな~! やったよ!」

「うっ……、ここは、どこだ?」

 バーンとルミナが目覚めた時にはセレーネは既に起きていた。


 二人は移動の反動により意識を失っていたのである。まだ朦朧としているが、何とか目覚めようと首を振ったりする。


「ここが天界なのー!」

「すげえ……」

「美しい町並みね……」


 まるで空の上にあるかのように、澄んだ水色に浮く石造りの街並み、ここが天使達が住まう光の世界、私のお母さんの故郷だった天界なのね……。


 二人の眼下に広がる美しい町並みにただ感動していた。


「という事は、結局移動は成功したって事か?」

 セレーネは笑顔で二度うなずいた後、二人の手を引きどこかへ連れて行こうとする。

 上手く行くか解らなかったけれども、これでセラフィム様にまた会える!

 けれども、いきなり主の間がある神殿に行ったら駄目そうだしなあ……。

 そうだ、あの天使様を頼ろう!

 あのお方だったら……。


「私についてきて!」

 どこへ連れて行く気なのだろうか?セレーネに言われるままバーンとルミナはついて行った。



 森の小道を抜け、少し歩くと奥に一軒の家があった。白い石で作られ、木のつるが壁にからまっている。

 セレーネはその家の扉を何の躊躇いも無くノックした。


「おい、ばれるぞいいのか?」

 バーンは警戒した。セレーネ、ルミナ、バーンは招かれざる客である。他の天使に見つかれば追い出されるか、最悪その場で処断されるかもしれない。


 しかし、その心配は無用であった。


「開いてるよ! 勝手に入ってきな!」

 家の中から威勢のいい声が聞こえる。声に従いセレーネは扉を開けて勝手に入っていった。


「サマエル様~!」

 セレーネが家の中にいる天使に話しかける。天使もセレーネの呼び声に反応しこちらを振り向く。


「ん? その声は……、セレーネじゃないか!」

 追放され、二度とあえないと思っていた。ましてや人間であるセレーネが天界へ行ける訳が無い、何故?

 それほどに天使の力を上げたというのか?


「どうして? 追放された天使は二度と天界に行けないはずだが?」

 セレーネとサマエルのやり取りをうかがいつつ、バーンとルミナも恐る恐る家の中へ入って来る。


 あの人間の女、ネフィリムか。

 ……まさかセレーネとあのネフィリム、二人の力をあわせてここまで来たと言うのか!?

 そんな事が可能だったなんて……、全くセレーネには驚かされてばかりだ。


 三人の様子と雰囲気を見てサマエルは今に至る状況を察した。


「まさか、セレーネとネフィリムでゲートを開いたのかい?」

「ごめんなさい! でも、セラフィム様ぁが……」

 無断で天界へ来た事を詫びつつ、セレーネは今までの経緯を大まかに話した。



 サマエルはセレーネの話をただ黙って聞いた。

 顔が強張っており、セレーネも怒られるのではないのかと思い、少しおどおどする。

「すごいじゃないか! セレーネがここまで強くなってあたしは嬉しいよ! 少し見ない間に大きくなったし、顔つきも随分しっかりしたじゃないか」


 怒られて天界を追い出されなくてたすかったあ。それどころかこんなに喜んでくれた、やっぱりサマエル様を頼ってきてよかった……。嬉しいなあ。


 怒られるかと思っていたセレーネだが、逆に喜んでくれたのでほっとした。

 

 サマエルの言う通り、セレーネは多くの苦難を超えてきた。その経験は面持ちや雰囲気で感じられるほどになっていたのだ。まだまだ年相応の甘えん坊だが、昔の無力な人間と言うわけではない事は、十分に感じとれるほどであった。


 そんなセレーネの成長に喜びを隠せず、笑顔のセレーネの頭を強く撫でる。セレーネは髪型がくしゃくしゃになりながらも満面の笑みでサマエルに答えた。

「でもセラフィム様は天界にはいないよ。ついさっき魔界へ行ったのさ」

「どうして? セラフィム様が魔界へいかなきゃなの~?」

「……ケルビムとツァドキエルさ、あいつらがセラフィム様にルシフェル討伐の話を持ち掛けたのさ」


 サマエルの言葉にセレーネの表情が曇る。

 どうして、セラフィム様が行かなきゃいけないの……?

 魔界の悪魔やっつけたいなら他の天使がいかせればいいのに!


「あいつら、セレーネとセラフィム様を疎ましく思っていたからさ、だから魔界へ行かせたのさ」

 その話を静かに聞いていたバーンはサマエルに迫った。その表情は怒りに満ちていた。

「なんて奴らだ! それでも天使か!」

「人間よ、お前が天使をどう思っているかしらないけどね……」

 少し遠い目をしながらサマエルはバーンに語りはじめる。

 この人間の言った事は実に正しい。私もそう思っている、けれども……。


「天使って言ったってね。全てがいい奴って訳じゃないのさ。人間と同じようにいい奴もいれば悪い奴もいる。主がいなくなって各々が自由に行動しているこの現状、特別な力があるって事以外、案外人間と変わらないかもね」


「このままじゃセラフィム様は死んじゃうよ! 私、助けに行きます!」

 単身魔界へ乗り込むのは自殺行為、幼いセレーネでも勿論解る事だ。それでもセラフィムを助けに行きたい。セラフィムを失ってしまう可能性が非常に高いと理解したセレーネは、物凄い不安に駆られて家を飛び出そうとした。


 しかし、サマエルの一喝で体は硬直してしまう。

「セレーネ! あんた一人が行った所で変わんないよ! 無駄死にしたいのかい?」


 セレーネ自身、自分一人が言ったところで、戦況が変わるわけがない事は勿論解っていた。

 ならばどうする?

 このまま見殺しにするの?

 私に今、出来る事は何も無いの?何も出来ない自分に酷く落胆した。


「私やこの人間の仲間がいるじゃないか!」

 サマエルは立ち上がり、壁に掛けてあった槍を持った。


「あんたらだけじゃ不安だからね、あたしも手伝わせてもらうよ」

 意外な協力者を得た。まさか天使が力を貸してくれるなんて……。思いがけない強力な助っ人が出来て、一同は沸きあがる。


「セラフィム様は、あのお方は大きなモノを背負っている。あたしはそんなセラフィム様を力の限り助けたいんだ、自分の中でもそう誓った」


 詳しくは語らなかったが、サマエルがセラフィムの強い味方である事を示し、四人はセラフィムの後を追い、魔界へ赴く事を決意した。


「魔界へは天界へ行くのと同じ要領で魔界へ通じるゲートを開くのさ」

 サマエルは、何も無い空間に手をかざす。すると、赤く禍々しく光る、人一人がなんとか潜れそうな輪が現れる。


 各々は意を決してゲートを潜り、魔界へと向かった。




 ゲートを潜って少し歩いた先には妖しい城があった。

 天界の雰囲気とは違う、漆黒の岩で作られた建物はその場に居るだけで押しつぶされそうな感覚に陥る。


「ここにセラフィム様が……」

「さっさといくよ! 早くセラフィム様を助けに行かないと!」

 セレーネが城を見つめ、一言つぶやいた後、サマエルが他三人を急がせ、鼓舞させて目の前の城に乗り込んでいった。

「まっていて! セラフィム様ぁ!」

 一行の目指す所は、セラフィムが向かったルシフェルが居る王座の間だ。


 セラフィム様をたすけて、また町に戻って皆で暮らすんだ、私の側にはいつもセラフィム様が居て、よしよしってしてくれるんだ。

 絶対に、戻ってくるんだ!

 まけないもん!


 城の中に入り、ひたすらルシフェルが居る場所を目指す。 城内はすべて黒紫色の石で作られており、床は鏡のように磨かれている。廊下の天井は物凄く高く、所々青白い明かりはあったがほぼ暗闇になっており先が見づらい。


 四人はある程度走ると大きな広間に出る。


 広間に出たと同時に、先を走っていたサマエルが槍で後からついてきた三人を静止しようとする。その合図に全員は走るのをやめ、その場に止まった。


 奥からは何かがゆっくりと迫って来る。やがて暗黒の中からは、全身を黒色の金属の鎧を纏った騎士が現れた。


 騎士は、自分の身長以上もあるような分厚い剣を片手で持っている。露出は一切無く、顔も隠れている為表情が一切見えない。金属の冷たい感じしかしないため、まるで生きているかどうかも解らない。


 ただ四人が解る事は歴戦の猛者が持つ特有の威圧感を常に放っている事と、剣士は大悪魔の一人、アシュタロトであるという事であった。


 アシュタロトは剣の切っ先を四人に向け、無言で構えた。どうやらここは通してくれそうにないようだ。

「セレーネ達は先に行ってろ。大丈夫だ、後から追いつく。だから、早く!」

 バーンも同じ様に剣を鞘から抜き、腰を落として相手の攻撃に対応した姿勢をとった。


 とても人間が手におえる相手ではない。サマエルもセレーネも、ルミナも全員が同じ考えであったが、バーンは構えを崩さずをセレーネ達を強い口調で先へ急がせた。

「……わかった、行くよ!」

 サマエルはバーンの思いを汲み、セレーネとルミナを連れ先へ向かった。ルミナは後ろを振り向きつつ走る。やがて三人は暗闇へと消えて見えなくなっていった。


 アシュタロトはなにも喋らず、バーンと同じ様に相手の行動を窺っている。


「やれやれ、大悪魔になんて勝てるのか……」

 バーンは大きくため息をつく、あまりにも強大でどう足掻いても勝てない相手である事を既に悟っていた。


「さてと、その分厚い鎧剥いで正体を見せてもらおうか!」


 故に自分の最後を覚悟していた。


 多少の後悔はあったが、セレーネやセフィリアを無視してルミナと平穏な生活を送る事も出来なくはなかった。それでも首を突っ込んでしまったのは何故だろうか。実に馬鹿げている。我ながら賢くない選択であったと苦い表情をしつつ薄ら笑みを漏らした。



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