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scene 20 結集の記憶 act 2

 セラフィムは家の裏にある井戸で水汲みをしていた。


「セラフィム様……」


 誰かの呼び声に水汲みをやめてあたりを見回したが、誰もいなかった。

 呼ばれた気がしたけれども、姿が見えない。気のせいかしら?

 そう思い、再び水汲みをし始める。


「セラフィム様……」


 再びセラフィムを呼ぶ声がした。

 また聞こえる、やはり誰かが私を呼んでいるようだ。

「……誰ですか?」

 セラフィムはあたりをきょろきょろしながら誰もいない場所で話しかけてみる。


「私です、ケルビムです」

 その声と同時に一人の天使がまばゆい光と共にあらわれた。その天使は、かつて側近として共に天界の運営を代行していたケルビムであった。


 一瞬、セラフィムは天界からの追跡者と考えた、しかしセラフィムが居なくなればケルビムが最高位である。まさか私を処罰する為だけに最高位天使がじきじきに来るとも考えにくい。じゃあ、何故ここへきたのだろう?目的は一体……。

 セラフィムは武器こそ出さなかったが警戒を怠らないように勤めた。


「おひさしぶりです。セラフィム様」

「……私になにか用ですか?」

 意外な訪問者にすごし驚きながらもセラフィムは、ケルビムにここへ来た理由を聞いた。

「あなた様の力を貸していただきたいのです。天界に戻って頂けないでしょうか?」

 ケルビムは表情を強張らせセラフィムに頼む、その面持ちからはただならぬ事が起きていると言う事は察しがついていた。


 セラフィムはそんなケルビムの表情とはまるで正反対に、少し微笑みながら答える。

「私は天界を追放された身、そんな私が天界に戻ったら他の者は動揺するでしょう。」

 今更天界へ戻っても私の居場所は無い、この穏やかな生活こそが本来の在るべき場所なんだから。もうセレーネとも離れないし、離れたくない。


「そんなことはありません。今でもセラフィム様を慕うものはたくさんいます。天界は今、未曾有の危機を迎えようとしております。この危機を放っておけば、天界は勿論のこと、地上にもその影響が訪れます。ここの街も、やがて脅威にさらされる事になるでしょう。」


 ケルビムの言った言葉が少し気になる。脅威とは何か、確かめる必要がある。もしもそれがセレーネを害するのであらば、立ち向かわなければならない。


「危機とは、なにがおきているのですか。」


「実は、かつての戦いで封印した悪魔が全て蘇ったのです。ミカエルに調査させたところ、ベルゼブブやベルフェゴールも、もうすでにルシフェルの手に落ちています」

 ケルビムの深刻な状況報告に、セラフィムは沈黙してしまった。


 どちらも過去の大戦時には力が強い悪魔として恐れられてきた。

 ベルゼブブは寄生能力と繁殖能力が非常に高い悪魔である。さらに自身が持つ体液は生きとし生ける者を腐敗させるほどの毒性があり、多くの天使達がその毒の犠牲となった。

 ベルフェゴールは力こそ他の悪魔より劣るが、悪魔の中でも知識面において右に出るものはいないと言われており、数多くの有用な発明や兵法を編み出し、それによる天使達への被害は計り知れない。

 

 セラフィムは考える。

 確かにどちらも危険な悪魔である。今はまだ被害はないにしろ、その様な悪魔を集めているという事は再びかつての大戦のような戦いが始まってしまう、そうなればこの土地も被害を受けてしまう……。


「あなた自身の為でもあり、天界の為でもあり、そしてあなたの周りにいる者の為にもここはたちあがるべきです。」


 私が少しでもそれら脅威を排除する事が出来れば、地上でセレーネと平穏な暮らしが出来る。たとえ今は一時的に離れる事となっても……。


「……解りました。力を貸しましょう。」

「感謝します。」

 ケルビムは深々と頭を下げた。


 離れる事となったとしても遠征を手伝い、生きて無事にまたこの場所へ帰ってくればいい。そうすればセレーネと一緒に居れて、私達の平穏な日々を害する者もいなくなる。ここで申し出を断れば、天界と大悪魔達の両方を敵に回すかもしれない。


「では、早速行きましょう。みなさんに見つかってしまうと何かと面倒でしょう。」

 ケルビムはセラフィム急かせ、天界へ通じる光のゲート生成すると、セラフィムと共に潜ろうとした。


 セラフィムが一時的な別れを心の中で決め、二人がゲートを潜る途中、セレーネが現れる。

 ケルビムの気配を察知したのだろうか、多少息を切らせて慌てた様子をしている。


「セラフィム様ぁー」

 しかし、セレーネの呼びかけに応じることなくそのまま行ってしまった。


 ごめんねセレーネ、でもすぐに帰ってくるから。必ず戻ってくるから待っててね……。


「セラフィム様ぁ!」

 セレーネはセラフィムの名前を叫び、共にゲートを潜ろうと走るが、もう間に合わなかった、ゲートは光の粒となり跡形も無く消えてしまった。


「どうしてなの? これからもずっとずっと一緒だと思ったのに……」

 セレーネは目に涙をためて、泣きそうになる。

 何故、天界へと向かってしまったの?

 何故、私から離れてしまうの?

 何故……。



 その夜、ルミナとバーンを酒場へ呼んでセレーネはセラフィムが天界へ行ったことを話した。


「追放されたのに何でまた呼び戻されたんだ?」

「でも、よっぽどなにか訳があるのかも……」

 ルミナは何かを考えながら淡々と話す。


 確かに、堕落した天使を処断するならばまだしも、何故今更協力を要請するのだろうか?

 バーンもルミナも、天界側の行動が理解できず、腑に落ちない状態であった。


「おーし! 俺らも天界へ行くぞ!」

 バーンは机を両手で叩き、勢いよく立ち上がる しかしその発言にセレーネの表情は暗いままである。


「私は天界へ通じる道を開く事出来ないよ……?」

「そ、そうなのか……」

 バーンは再び座り、三人はまた悩む。

 一緒に行きたくても行く方法が無い。天界のゲートは天使しか開く事が出来ない。

 ルミナお姉ちゃんはねふぃりむ?だっけかな、私は天使の力が使えるだけで、なんかお互い半々って感じだよねえ……。


 んん!と言う事は!


「どうしても出来ないのかな?」

「ルミナお姉ちゃんの力と私の力を合わせればひょっとしたら……、でも失敗しちゃったら知らないとこにいっちゃうかも?」


 ネフィリムであるルミナは天使と人間の子であり、セレーネは天界で修行し天空術を行使出来る。個々の力では無理であっても、二人合わせれば一人の天使の力になるのではないのだろうか。


「でも、セフィリアとかそのケルビムって天使は出来ているんだろう?」

「うん……」

「だったらやってみるしかないだろ?ぐずぐずしてる暇はないぜ! セレーネ、セフィリアに会いたいんだろ?」

「会いたい……、セラフィム様にあう!」

「セフィリアって最高位天使だったのかよ!?」

「あ……」


 思考を巡らせ、意識を集中していなかったせいか、思わずセラフィムの正体を口走ってしまった。

 またセラフィム様に怒られちゃう……、ぶるぶる……。


「まあ、今はそんな事どうでもいいや、力を貸すぜ」

「私も頑張る、今度は私がセレちゃんを助ける番だね」

「うっしゃ! じゃあ決行は明日だ!」


 全員は同じ決意を胸に秘め、三人は天界へ行く事を決めた。

 出発は明日の朝。

 セフィリア救出に備え、セレーネは早めに休み、バーンは装備の確認を、ルミナは考え事をしながら夜は更けていった。



 翌日。

「バーン、ルミナ、セレーネ。頑張るんじゃぞ!」

「ああ! セフィリアを必ず連れ戻してくるからな!」

 セフィリアが移動した井戸がある広場には、バーンの師匠である老人がいた。

 老人の思いに答えるかの様にバーンがこぶしを握り、意気込んだ。

 俺はルミナ救出でセフィリアに助けられた、今度は俺があいつに恩返しする番だな。


「バーン!」

「どうした?」

 遠くからミルフィが布で巻かれた一振りの剣を抱えて走ってきた。そして、紐を解き布を取り出して、剣をバーンへと手渡す。


「これを渡そうと思って……、あんたがいない間、あたしが鍛えた剣さ。前のを刃こぼれ酷かったし、所々錆びてたし……これ使いなよ!」

 新品のロングソード。バーンが前使っていた剣よりも刃渡りが長い。鞘の根元にはミルフィの銘が彫ってある。

 バーンは剣を鞘から抜いてみた、新品特有の日光により眩く刀身が輝いた。持った感触からして、ミルフィ会心の一振りなのだろう。


「……ありがとよ!」

「無事に、帰ってきてね」

 ミルフィはバーンの無事を祈願し、バーンはミルフィに満面の笑みでお礼を告げて、剣を鞘へと収めた。


 前の剣もミルフィが鍛えてくれた、その剣で多くの戦場を気に抜けてきた、ルミナも救った。ミルフィの作った剣ならば百人力だ、信頼出来るぜ。


「じゃあ、いくよお……」

「いくよー」

 三人は互いに手をつなぎ、円陣を組む。セレーネとルミナは目をつぶり精神集中する。

 セレーネとルミナからは眩い光が発せされ、やがて光は辺りを包んでいく。


 光が膨張し強くなっていき、それが弾けた瞬間、そこにいた三人は跡形も無く消えていた。




ANGEL MEMORY how to 10 「ミルフィについて」


正式名はミルフィーユ・クロッククロム

年は26歳とバーンよりもやや低め、年齢よりも幼く見える健康で快活とした印象が強い女性。

父親は鍛冶職人、母親は天使教に入信している専業主婦。


家は代々鍛冶職人をしており、ミルフィで六代目となる。

本人は甘そうな名前にコンプレックスを抱いており、フルネームで言われる事を嫌っている。


職人にしては若いが、鍛冶の腕前は超一流であり、付近の都から装備の受注を受けたり、天使教の武装の為に装備を作ったりと、実績人望共に豊富である。


幼い頃からの付き合いだったバーンに淡い恋心を抱いているが、バーンがルミナを好きでいる事を知っている為、なかなか言い出せず今に至る。


β版では、諦めて別の男性と結婚する描写があった。

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