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scene 19 結集の記憶 act 1

 またあの場所だった。

 いつもと同じ風景、いつもと同じ謎の女性がセレーネの前に立っている。



「あなたは、だれぇ?」

 何度も同じ夢を見て、何度も同じ呼びかけをする。未だに正体が解らず、セレーネはその女性が気になっていた。

 誰なのか?

 何の為に私の夢に出てくるのか?

 何故セラフィム様が死ぬなんて事を言うのか?


 夢を見るごとにだんだんと鮮明になっていくその女性の姿、白い服を身に纏い、十字架のネックレスをしている事は解った。


「よく聞いて………」

 いままで喋り声も曖昧にしか聞こえなかったのが、今回はよく聞こえる。夢を見る度に鮮明になっていくのはなぜだろう?


「これから苦難が続くけれど、どんなにつらいことや苦しいことがあってもめげないで」


 セレーネは謎の女性が言っている言葉の意味が解らず、首をかしげる。

 何を言っているの?

 苦難?

 今の事なのかな……?

 よく解らないけれど、めげないし頑張るっ。


「そして、もう、あなたの夢にはでないから……最後に……」


 セレーネの様子に謎の女性は優しく微笑みながら色白の手で頬を優しくふれる。触れられてもセレーネはただ呆然としていた。


「あなたは一人じゃないから……」


 一言告げ、謎の女性は去ろうとするが、セレーネは強い意志と夢とは思えないはっきりとした意識で再び問いかけた。


「あなたはだれなの!」


 セレーネの言葉に歩みを止めた。そしてセレーネが欲していた一言が遂に告げられる。

 


「私はセラフィム様の力と思いを継ぐ天使セレーネ。未来のあなた……」



 そして女性は笑顔のまま消えてしまった。

 未来の私が夢の中に?

 どういう事なの?

 全く意味が解らなかった、正体を知っても未来の私が何をしたかったのか、何を私に伝えたかったのかその真意は不明のままである。


 考える間も無く、周囲は白く光に満ちていく……、それは夢が覚め現実へと戻る感覚。


「ん……」

 セレーネは目覚めると、そこにはバーンがいた。

「起きたな、準備したら行くぞー」

 目覚めたセレーネを確認したバーンは立ち上がり、歩き始める。

「……うん」

 頭がぼーっとして寝ぼけているが、セレーネはバーンについていった。夢にあった事象も夢から覚めたらなんだかうやむやになってしまった。あの夢はなんだったのだろう。


 こうやって野宿して進んでをくりかえして、もう数日が経つが、食料はバーンが調達してくれている。旅をする上で最低限の事は全てバーンがやってくれていたのだ。


「もう少しで俺の仲間がいる街につくからな。そこへつけば美味い飯もたらふく食えるし、ベッドで寝れるし、情報収集もしやすいし……」

「ねぇ、バーン」

「ん? どうした?」

 セレーネの呼びかけに、バーンは歩きながら答えた。

 あの夢の事を言ってみよう、バーンはどんな反応を返すだろうかな。


「私、変な夢を見たのー、未来の私が出てきていろいろ教えてくれるんだ」

「ほお。んで、どんなことを教えてくれんだ?」

「よく解らないけど、頑張れ?みたいな?事なのかな……、うーん」

「そ、そうか」

 夢の内容があまりにも漠然かつ曖昧であり、言ったはいいがどのように説明していいかセレーネの持っていた言葉の引き出しには適切な表現が見つからなかった。


「まあでもよ、もっと頑張れって事なんだろう? つまり、頑張れって事だな!」

 バーンは無理矢理結論付けて笑いながらセレーネの夢の解答を示した。がさつな答え方であまり解決もしなかったが、バーンなりの気遣いが捉えられなくもない、そう感じたセレーネはえへへ、と苦笑いをして見せた。



 他愛の無い話をしつつ二人は目的地を目指し、ついにセレーネとバーンは街に着いた。



 「ここだ!」

 「ついたー!ちかれたぁー」

 街に入り、裏路地に一軒の古びた雑貨屋があった。バーンはそこに何のためらいもなく入っていく。


「いらっしゃいませ!」


 扉が開くと同時に扉に取り付けられた鈴の音と快活な声が店に響いた。

「よっ! 元気か?」

 バーンは快活な声の主であろう、一人の女性店員に声をかけた。


 「……誰?」

 「俺だよ! バーンだよ!」

 「……たしかに、あたしの知り合いにバーンってろくでなしはいるが、子持ちじゃないはずだよ!」

 「そこかよ! てかこいつは違うぞ!」


 なんでそんな間違いをするんだ!?

 たかが数年離れていただけじゃないか!

 それなのにガキの時からずっと居た俺様の事を忘れて……、あげくの果てに子持ちだと?

 本当にこの小娘には祟られるぜ、俺が何をしたって言うんだ……。


 何か大きな勘違いをしていると、即座に察知したバーンは誤解を解こうとするが、女店員は手近にあった箒を振り回し、バーンの顔面へ直撃させた。


「あんた! あたしの親友の名前をかたる悪党だね!」


 親友の名前を語った悪党がついに出てきた!

 私はこの店を、あいつの帰る場所を守るんだ!

 それにしても、よく似ているなあ。私が注意深くなければ騙されそうだったよ、我ながら大手柄だね!


「いてっ! なにすんだよ!」


 店員の思いがけない攻撃に怒りながらも動揺する。


「うるさい! とっとと店から出ていきな!」

「ミルフィ、酒は……」


 バーンが何を言っても聞く耳を持たなかった。彼女はバーンを完全に盗賊か詐欺師と言った犯罪者と思っているようだ。そんな揉め事の最中、顔に深いしわが刻まれた、杖をついた老人が入ってきた。


「どうした? なにがおこったのじゃ?」

「この子連れ男がバーンの名前を語っている悪党なんだ! ゲンじいさん、やっちゃってよ!」

「俺だって! ったくわかんねーかなぁ?」

 イライラしながらバーンも困り果てる。その客はバーンに近寄り顔をまじまじと見つめた。


 ……どこを見間違えたらバーンじゃないとなるのじゃろうか。

 わしが見た限りは紛れも無くバーンじゃが、はてさてどうしたものか。


「じいさんまで俺のこと疑っているのか?」

「……ミルフィ。こやつは本物のバーンじゃ」

 女店員は老人の発言でバーンをもう一度よく見てみたが表情は変わらず警戒したままだった。


「うーん………」

 まだ悩む店員。疑いは晴れてない様である。箒を構えたまま、バーンの顔をじろじろと観察する。


 バーン自身疲労しており、セレーネを早く休ませたく旅の経緯は後で話そうとしたが、この場を解決する為に旅であったことをおおまかに伝えた。


「納得できたか?」

 鼻息荒く、少々怒りぎみバーンが一通り話すと店員は腕を組み、にかっと笑顔を見せた。


「悪かったね! バーン!」

 誤解は解け、彼女は今までの傍若無人な振る舞いを軽く詫びて開き直ってしまった。


 開き直りやがった、面倒くせえ……、もう怒る気にもなれん。

 バーンはあきれて何も言い返す気にならない、大きなため息を一つついた。


「セレちゃん! 奥へ行こうか? 立ちっぱなしで疲れていたでしょ?」

 そう言うと無理やりセレーネと共に奥の部屋へ行ってしまった。

「やれやれだな」

「バーン、久しぶりじゃな!」

 老人は手をめいいっぱい伸ばしてバーンの肩を叩く。

「おう! じいさんも元気で何よりだ」

「とりあえず一杯やろう!」

 久しぶりの再会と旅話を酒の肴にしようと、二人は意気揚々と酒場へと足を運んだ。



 酒場へ到着し、扉を開けた瞬間、何度も店員を見直した後バーンは驚いた。


 エプロンはしているが天使教の衣装、色白の肌、目元を隠しているがよくみたら両目の色が違う。

 この店員は……、まさか。


「ルミナ! ど、どうしてここに?」

 死んだと聞いていたルミナが何故か酒場にいたのである。


「あ、バーン……」

 あれ……?

 バーンが生きていた?

 ずっと会えなかったけれども、生きていたんだ……。


 ルミナも突然のバーンの登場で呆然としている、互いに生存が解らなかった為、喜びよりも驚きが先行してしまった。


「ルミナ。料理を手伝って……えっ?」

 聞きなれた声が奥から聞こえると、白いエプロンをつけたセフィリアも出てきた。


 おいおいどういう事だよ!?

 何故ルミナとセフィリアが揃って居るんだ?

 何か化かされているのか……?

 わ、わけが解らんぞ……。


「セフィリア!」

 二人の意外な登場でバーンは驚きのあまり呆然と立ち尽くしていた。


 しかし、すぐに我に返り、セレーネも一緒にいる事、かつて犯罪者扱いされ箒で叩かれた店に居る事をセフィリアに告げた。

「ミルフィの店にセレーネがいる。セフィリア、いってやってくれないか?」


「ええ、わかりました」

 セレーネは生きていたんだ、ずっと一人だったけれども大丈夫だろうか、元気だろうか、ああ……、私の大事なセレーネに会える!


 セフィリアは驚きと喜びを感じつつ、エプロンを外し走ってセレーネの居る場所へと向かった。



「すー……、すー……」

 セフィリアが店に到着した時、セレーネは規則的な寝息を立ててぐっすり寝ていた。ここまでの旅で疲労が蓄積したのだろう。

 天界から追放された時に買った服が所々綻び、破け、靴底は大きく磨り減っている様子から、セレーネにとって過酷な旅であった事は容易に想像できた。


 こんなにも苦労していた。きっと何度も挫けそうになったのに、諦めずにここまで来たのね…。


「セレーネ……」

 愛らしい寝顔とセレーネの無事からか、自然と笑顔になってしまう。セフィリアはそっとセレーネの頭をなでた。

「んん……」

 セフィリアがなでられた拍子にセレーネは眠りから解き放たれた。

 視界はぼやけており、目の前にいるであろう女性をじろじろ見て確認した。


「久しぶりですね。セレーネ」


 懐かしい姿がそこにあった、長い髪、穏やかな声、優しい笑顔、間違いない、セラフィム様だ!

 やっと会えた!

 セラフィム様は生きていたんだ!

 よかったあ。


「セラフィム様ぁ~、ふえ~ん!」

「よくここまで頑張りましたね」

 セレーネはセラフィムに泣きながら抱きついた。今まで甘えられず、様々な事件もあった。それ故に感極まったのだろう。二人は久しぶりに互いの温もりと存在を確認しあいながら、セフィリアはようやく会えたセレーネを優しく抱きしめた。

 

 そのころ酒場では、同じ様に再会を喜ぶ二人がいた。


「久しぶりだな、ルミナ。俺、ルミナが死んだって聞いたときは本当に心配したんだぜ?」

「……実はセレちゃんが護ってくれたの。大した怪我もなかったけれども、ミカエル様が放った天空術が凄まじくって気がついたら吹き飛ばされて街から離れてたの。それから一人でここへ向かう途中にセフィリア様と合流したの。セフィリア様と一緒になるべく寄り道せずにここへ向かった。バーンならここに来るだろうと思って待ってたけども……」


「んで、予想通りってわけか……ん?」

「うんうん」


「ミカエル様って、あの大天使ミカエルか!?」

「うんうん」


「まじかよ、よく無事だったな。てか危うく大天使ミカエルが仇になる所だったのか、流石に勝てる気がしないな……」

 真実を聞いた時、セレーネがあえて何も言わなかった事を悟った。確かに言えばまず勝ち目の無い相手を敵にするであろうから。

 二人はお互いの旅の経緯を話し明かした、そして一通り話すとバーンは自分の家へと戻り寝床についた。



 セレーネがバーンの故郷の村で住み始めてから、幾日かが経過した。

 念願だったセフィリアとの穏やかな生活を、ようやく手に入れることが出来たのだ。


「じゃあセレーネ。私は仕事に行ってきますね」

「うんー。いってらっしゃい」

 セラフィムはルミナと同様、街の酒場で働いて生計を立てる事にした。

 バーンが住んでいる家を間借りさせて貰っているので、寝るところには困らずにすんだ。今のところ天界からの追っ手もネフィリム狩りをする者も現れない。


「うーん……」

 セラフィムの見送りをするとセレーネは寝起きで半目状態のままボーっとしている。

「……ねよぉ」


 セレーネはセラフィムが仕事から帰ってくるまで退屈だった。

 街には同年代の子がいないため、友達もいない。

 たまに老人から剣術について聞くが、そこまで剣術が好きでもないためすぐに飽きる。

 バーンやルミナ、ミルフィはそれぞれの仕事をしている。

 結局寝るくらいしかする事がないのであった。

 午後にはセラフィムの仕事が終わるので、いつもそれを待ち、午後からはセラフィムと一緒に街を散策したり遊んだりしていた。


「ん……」

 セレーネは目覚める。陽はかなり昇っていた。

 両手を上にあげて体の筋を伸ばす、ゆっくりと寝室から出る。


「おはよう。セレーネ」

 ルミナとセラフィムがお昼ご飯の支度をしていた。サンドイッチとコーヒーとサラダ、ごく普通の昼食である。


 ところで、セラフィム様もお腹が空くのかな?今まで一緒にいたけれども、何かを食べているところを見たことがない気がする。天使はお腹すかないのかなー?


「セレーネ。お昼ご飯ができたから一緒に食べましょう」

 セラフィムがそう言うと寝ぼけながらも椅子に座った。

「もぐもぐ……」

 セレーネはうとうとと眠そうだが、ゆっくりと並べられている料理を食べ始める。


「セレーネ。お昼が食べ終わったら片づけておいて下さいね」

 一言告げるとセラフィムは外へ出て行ってしまった。まだ何か用事があるのだろうか。

 でもお昼になったと言う事は、セラフィム様と遊べる!

 楽しみだなあ、今日は何をしてくれるのかなあ。



ANGEL MEMORY how to 5 「登場人物の年齢設定その1」

セフィリア 22歳

セレーネ 9歳

バーン 27歳

ルミナ 16歳

ミカエル 18歳

ラファエル 24歳


※あくまで外見年齢です。

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