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scene 16 分裂の記憶 act 5

 翌日、ミカエルはコンテストの準備で朝早くから出て行ってしまった。セレーネはコンテストを見に行こうと宿から出た時に、別の部屋で泊まっていたルミナと合流する。


「もうすぐミカエル様が出るコンテストが始まります。行きましょう」

 日も昇り、始まる少し前の時間になると二人はミカエルの様子を見る為に、コンテストが開かれている場所へ向かう。


 二人は人ごみをかきわけてなんとか会場へ到着する事が出来た。


 昨日まで男達が戦っていたリングが会場らしい。 会場に通じる道路も凄い人の数だったが、会場内はさらに人がたくさんいる。観客の声、指笛を鳴らす者などでとても騒がしい。リングの中心には美しい女性達とミカエルと大会の運営をする兵士らしき男がいた。


「あっ、ミカエル様だー!」

 セレーネが指差すほうにはいつもの格好とはまるで違った、色気のある服装を身にまとうミカエルの姿があった。観客も参加者も主催者もまさか最強の天使が参加しているなんて事は想像もつかないだろう。


「ミカエル様、さすがお綺麗ですね」

「うんうん、きれーだなあ」

 ルミナとセレーネはその美しさにただ驚き感動していた。


 リングの中心、このコンテストの運営を行っているであろうスーツ姿の男性が、盛大に開会を宣言した後、参加者はそれぞれポーズを取りつつ、リングを一周して観客や審査員にアピールしていく。

 ミカエルの順番が来ると、彼女は過激なアピールはせず、そっと微笑み観客の声援に軽く手を振って答えた。控えめな表現であったが、それでも他の参加者より感嘆の声が多かったのは流石ミカエルと言ったところだろう。


「これより! 結果を発表したいと思います! グランプリは……」


 参加者全員のショータイムが終わると、スーツ姿の一声に会場は一気に静まりかえる。それと同時に低い太鼓の音が連続して響く。



「エントリーナンバー、十三番のマリアさんに決定!」

 結果発表に会場が一気にざわめいた。歓喜の声、悔しがる声、観客の心情を表した様々な声が会場内に入り混じり雑音になる。

 セレーネは目を大きくさせて感動し、ルミナは笑顔で拍手を送った。


「マリアさん、グランプリに選ばれた感想を一言!」

 司会者がミカエルに近寄り、グランプリになったミカエルの感想を聞く。

 ミカエルもその運営陣や周囲にあわせるかの様に笑顔でとても嬉しそうに感想を話し始めた。


「まさかグランプリになれるとは思いませんでした。とても嬉しいです」

「では主催者のマモン様から賞金が渡されます」

 司会者のその発言で一人の太った男がのそりのそりと奥から出てくる。へらへらとしながら、賞金の入っているであろう金貨袋をミカエルへと渡そうとしてきた。

 その時、先ほどの愛想を振りまくミカエルとは反転して厳しい表情をする。今まで封じていた翼を大きく広げて右手からまばゆく輝く長剣を出した。


「堕天使マモン! でてきたわね、覚悟しなさい!」

 私が探していたモノ、それは地上でどこかに潜んでいると言われる裏切り者のマモンであり、見つけ次第抹殺する事が地上にいる真の目的であった。

 ずっと各地を回り、情報収集をしながら探してきた。巧妙に隠れていただろうが、もうそれも無駄である。絶対に逃がしてなるものか。


「やはり大天使ミカエルか……、まあいい」

 逃げれないと悟ったマモンは、腰に下げている派手な装飾が施してあるレイピアを抜き、それと同時に封じていた灰色の翼を広げた。その様子に人々はざわめき、どよつき、逃げ惑い、会場はパニックになった。


「ミカエル様!」

 セレーネはミカエルを呼び、壇上にあがると戦闘体制をとる。ルミナもセレーネの後ろからついていく。


「三人か? 分が悪いな、ベルフェゴールの発明、試してみるか」

 マモンは一人でぶつぶつ言うと懐からなにやら小瓶を出し、その中に入っている液体を飲みだした。


「覚悟しなさい! 堕天使マモン!」

 ミカエルは戦闘体勢をとり警戒をしている中、マモンは小瓶に入っていた液体を飲み干した。


 全て飲み終えた後、殻の小瓶を投げつけると同時にマモンの体は小刻みに震え、痙攣しだす。その怪しい様子にセレーネとルミナは後ずさりをする。


 何をしたと言うの?

 一体何を飲んだのだろう?

 これから何がおこるの……?

 天使同士の戦いが始まったらきっと私たちも無事じゃ済まないかも……。


 ルミナは動揺していたがミカエルは一切動じない。たとえマモンが不意打ちをしてきたとしても十分対応出来るだろう。


「うううぅ……」

 マモンは低い声で唸り出すと、真っ黒な大量の瘴気を出しながら、漆黒の毛皮を持つ魔獣に変身していく。その瘴気で観客が次々と中毒症状を引き起こし、その場でのたうち回り倒れだしてしまう。


「ひどい瘴気、げほっ、げほっ」

 ルミナも顔をしかめて咳き込むとそのまま倒れてしまう。セレーネはルミナの背中をなでて気づかう。

 天使の力を持っているセレーネは多少の瘴気でも平気だが、内心不安で一杯だった。


 大きな海蛇をやっつけた時の様に、ここも天使の戦場と化してしまうのかな?ルミナお姉ちゃんは勿論だけど、いっぱい人がいるのに戦いが始まっちゃったら、たくさんの人が怪我しちゃう……。


 瘴気がおさまり、辺りが見渡せるようになるとマモンは魔獣へと完全に姿を変えていた。その姿は昔天使だったとはとても想像がつかないほど獰猛かつ邪悪である。


 低く唸り、赤くぎらつく鋭い目で凛と構えるミカエルをぐっと睨む。しかしミカエルはその眼光にも怯むどころか、逆に睨み返す程である。


「ワタシからいくぞ」

 変身をとげたマモンは鋭い爪でミカエルに襲い掛かったが、素早い動きでミカエルはその攻撃を難なく避けた。それでも執拗にミカエルを追い、爪や牙を用いた攻撃を繰り出す。その動きは天使としての動きではなく、まるで獣の動きだ。なんとか隙を作り反撃しようとしたり、間合いを開けようとするミカエルだが、予想以上の素早い動きでなかなか思うようにはいかない。


「ねがわくは……、うーん、めつぼうの……」


 ミカエル様を助けなきゃ、私も頑張るんだから!

 セラフィム様がしてた光の玉をぶつけてどーんって何て言ってたっけ?

 うーん、思い出せない……。

 たましいのとわのあんそく?

 でも何とかしないと!


「なんだっけわかんないや! いっけぇーー!」

 ミカエルを助けようと、セラフィムが切り札として使っている天空術を真似して詠唱しようとする、上手く思い出せず集中も出来なかったが、それでも見よう見まねで光のエネルギーを手の平に集約させるとマモンめがけて解き放つ。光の塊は流星のように尾を引きながらマモンの方へ一直線に飛んで行った。


「うおおお!」

 マモンはセレーネの攻撃に気づき、大声で叫び腕を全力で振りかぶる。すると轟音と共に光のエネルギーは砕け散り粉々になってしまった。

「そんなぁ~」

 詠唱もまともに出来ず、半人前にも満たないセレーネの力ではあったが、一応、本人の渾身の一撃だった。それが全く通じず、ことごとく打ち破られ掻き消された事にがっかりする。


「セレーネ、仕方ないわね。お手本を見せるよ」

 セレーネの無駄かと思われた攻撃は、ミカエルに僅かだが時間を作った。その限られた時で間合いを開けることに成功し、目を閉じ精神を集中すると、純白の翼は大きく開き、体全体が眩い光で覆われていった。


「主に叛きし罪を贖え! 汝を主の敵、そして我の第一の敵とする!」


 ミカエルは、剣先をマモンへ向けて言い放った後、この場にいる者全てが捉える事の出来ない速さで一気にマモンの懐へと入り込む。


「裁きを受けるがいい!」


 剣が強く輝くと、ミカエルは物凄い勢いでマモンを何度も斬りつけた。まるで踊っているかのよう流れる動きはマモンの皮膚を斬り、肉を引き裂き、骨を砕いていった。


「ぐあぁあああ……!」

 マモンは体を仰け反らせ、黒い体液を噴き出しながら声を上げる。

 一瞬。僅か一瞬。人間がまばたきをするかしないかと言う微少な時間、小娘の攻撃に意識がいっただけなのに、ベルフェゴールの道具を使い、肉体は予想を遥かに超える力を手に入れたはずなのに。

 流石は天界最強の天使、おのれミカエル!


 ある程度マモンに攻撃を与えるとミカエルは剣を突き刺し、高く飛び両手を広げる。

 すると右手に煌く白き光のエネルギーが集まり、左手に深く黒い闇のエネルギーが集まっていく。


「我が大いなる神の使いの意思に反した時……、光と闇は一つになり汝を葬り去らん」


「ぐぐぅ、ミカエルよ! イイのか? ここでハナてばここにいるニンゲンもコナゴナだ!」


 マモンは苦しみながらミカエルに警告した。多少の脅しもあったが、それは事実だった。

 今解き放とうとしている天空術は……、あれをここで使えばワタシもそこのお前の仲間であろう小娘諸共木っ端微塵になるだろうに!


 しかし、ミカエルにはまったく躊躇する気持ちはない。


「メギドの滅光(ファイナルジャッジメント)、ハイブレイク!」


 両手が頭の上で交わると、本来交わる事のない光と闇が一つの膨大な破壊エネルギーとなる。ミカエルは同時に両手を振り下ろし、破壊の力をマモンがいる方向へ投げ込んだ。


 ミカエルの放ったエネルギーはマモンに激突すると同時に炸裂し激しく爆発する。爆発はコンテストだった会場や観客が一瞬にして純白と漆黒に染め上げ、吹き飛ばし、消滅していく。


「ほーりーばりあ~、きゃぁ!」

 セレーネはその尋常ならざる力から自身とルミナを守るべく、持てる力の全てを使い障壁を築くが、情け容赦ない滅びの光と闇はそれすらも突き破り、セレーネとルミナも大きく吹き飛ばされてしまった。

 周囲が純白の世界へと変貌し、全てを無残に壊す音だけが轟く。




「うーん……」


 セレーネは目をこすり、何とか起き上がる。爆発もおさまり、周りが見渡せるようになっていた。


 会場はすごい静かだけども……。え……、なにこれ……。


 セレーネはその光景に驚いた。大きな会場も、歓喜の声を上げていた観客も、ルミナも居ない。建物が崩壊したならば無数の瓦礫が散乱しているはずなのに、あたりはまるで元々荒野だったかの様に何もない。


 そこにはセレーネとミカエルしかいなかった。

「ルミナおねえちゃん!」

 セレーネはリングがあっただろう場所に行く。ルミナを呼ぶが、返事がくることはなかった。

「逃げられたわ……」

 ミカエルは首を横に振り、そのまま立ち去る。


「待ってよお!」

 セレーネが目にいっぱい涙をためてミカエルを呼び止めた。


「何か用?」

 ミカエルは、気だるそうに振り向く。

 さっきの天空術で相当消耗したのだろう。しかしセレーネは強い口調で問いただす。 


「どうしてあの場所であんな強い天空術を放ったの!? いっぱい! いっぱい人がいたんだよ! なんで、どうして……」


「マモンを倒すためよ」


 ミカエルは何の躊躇いもなくあっさり答えてその場を去ろうとする。


「ルミナおねえちゃんは死んじゃったんだよ!」

 セレーネは泣きそうになりながら、声が震えながらミカエルに言い放った。


 するとミカエルは髪をかきあげて鬱陶しそうな表情で言い始める。

「人間やネフィリムなんてどうでもいいじゃない。あんな愚かな生き物のために攻撃のチャンスを逃したくなかっただけ。どうしてセレーネはそんなに人間を慕うの? 私には理解できない」


 冷たく、はっきりと無慈悲な一言を告げるとミカエルはその場を去っていった。


 ミカエルも他の天使と同じく、人間の命に価値を見出していなかったのだ。むしろ、ミカエルほど神性と神格の高い天使ならば当然の行動と言うべきだろうか。


「ルミナおねえちゃん……、ふえ~ん!」

 セレーネはその場に力なく座り込んで、我慢できずに泣き出してしまう。


 みんな、みんな死んじゃったんだ……。

 ルミナお姉ちゃん、折角会えたのに。こんなのないよ、ひどすぎる!



 悲しみに明け暮れた後、宿にもどったがミカエルの姿はもう無かった。セレーネは再び一人ぼっちになってしまったのである。


「……セラフィム様を探そう」

 もう誰もいなくなってしまったけれど、まだセラフィム様が生きているかもしれない。探さなきゃ、きっと、絶対に見つけるんだ!


 寂しさと悲しみを必死にこらえて王都を去るセレーネであった。


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