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scene 14 分裂の記憶 act 3

 その刹那、船の轟音と振動の後、大きく傾き、甲板にいたセフィリア一行と海賊の少年は体勢を崩して倒れてしまう。


「この揺れは、まさか!」

 セフィリアは急いで純白の翼を広げると大空へ翔け上がり、二隻の船とその周囲の海面の様子を見下ろした。


「ったく、なんなんだ? 一体?」

「この揺れは単なる地震じゃない、強力な魔力が大気を揺さぶる事によって生じる現象。こんな事が出来る者は……!」


 セフィリアがある可能性を予感した。

 船を容易に沈める事が出来るモノが、果たしてこの地上にいるのだろうか?誰の目撃者も生存者も出さずにそんな事が出来るのは、地上には本来居ない、人ならざる者。

 それも強大な力を持っている、例えば高位天使や大悪魔。


 そう思っていた瞬間、甲高い鳴き声と共に船の数倍はあろう巨大な龍が海賊船の甲板を突き破って海面へと姿を現す。龍の突撃を受けた海賊船は轟音と共にバラバラになってしまい、まるで玩具の様にようにあっけなく沈没してしまった。


「ああ! ぼくの船が!」

「なんだあいつは?」

 海賊船を容易に破壊してしまう巨大な龍を見ようと、バーンは近くの積荷にしがみつきながら少し身を乗り出す。

 船を破壊した者の正体を目視した瞬間、そのあまりの大きさに開いた口が塞がらなかった。


 な、なんだあれは?

 でかさが半端無いぞ……。

 あんなのが船とぶつかれば、どんなに最新鋭でも、どんなに頑丈でもひとたまりも無い。

 まさかあれと戦うのか?

 でもやらなければ全員あいつの腹の中だ。

 ……やるしかねえ、俺はルミナを守るって決めたからな。


 セフィリアの予想していた事が確信へと変わり、今この状況の説明をする為に一度甲板へ降りる。

「あれは海龍リバイアサンと言う大悪魔、本来は魔界を中心に活動をしているのですが、まさか地上にいるなんて」


 どうしてこのタイミングで出会うの……?

 例え相手が大悪魔であろうとも、私はセレーネを守ってみせる。でも、力を使いすぎてしまえば……。


「セフィリア様ぁ」

「セレーネ、戦えますか?」


 セフィリアがセレーネに協力を望むのは大きな理由があった。かつて戦ったアズモデウスほどの知能はないが、力は遥かに凌駕している。さらにルミナが乗っているこの客船を守って戦わなければならない。そして、誰にも言えない理由がもう一つ……。


「……うん! 私がんばっちゃうからぁ~!」


 セレーネは元気よく大きく縦にうなずいて手伝う事を伝えた。

 みんなで頑張ってやっつけて船守らないと。それにしても、これだけ怖い顔をしたセラフィム様をみたのはひさしぶりかも?

 うう……、悪魔もこあいけどセラフィム様もこあい……。


「バーン! 相手は大悪魔です。気をつけてください!」

「わかってるって!」

 一丸となって戦いこの場を切り抜けようとするセフィリアの思いに答える様に、バーンは自身の不安を払いのけ、剣を勢いよく鞘から抜き、船の揺れでこけないように踏ん張った。

 セレーネは目を閉じて精神を集中させた後、大きく見開くとかつて悪魔を葬った時の様に眩い光を纏い、背中から翼を出し、何も無い所から弓矢を取り出す。


 二人をそんな姿を確認したセフィリアは軽く笑顔を見せた後、再び勢いよく飛び立つ。

 上空にたどり着いた頃には仲間達に見せた笑顔は消えており、大悪魔を屠らんとする天使の表情になっていた。


「おじさん達! ぼくも手伝うよ!」

 海賊の男の子も、セフィリア一行の思いに答えようと再び棍棒を取り出し、戦闘体制をとる。

「………海を護るのも海賊の仕事って訳か?足手まといになるなよ!」

「おじさんこそ、僕の足を引っぱらないようにね!」

 今までにない強大な力を持つ相手だった。本当なら不安と恐怖で押しつぶされてしまうだろう。それでも各々は、お互いを馬鹿にするような会話をして自身の臆病な心をごまかし勇気を奮い立たせる。

 今、互いの全力をかけた死闘が始まる。


 全員の思いは共通しており、それは大悪魔を倒して無事生還する事。



「……でもよ、俺達はどうする?」

 海龍リバイアサンと戦うことになった一行と海賊の子供だったが、やる気満々のバーン達は船の上で構えをとっているだけだった。セフィリアのように空を飛べるわけでもないし、海に潜ればリバイアサンの素早い動きであっという間に餌食になってしまうだろう。


「浮遊の光、レビテーションライト!」

 その考えを察知したかの様に、セレーネは天空術を発動させるとバーン達の体はゆっくりと浮き始めていく。


「海に潜っても少しの時間なら大丈夫だから、セフィリア様を助けてあげて……」

 眩い光に包まれたセレーネは、バーンと海賊の少年に優しく微笑んだ。その愛らしい笑顔に、こんな緊急時でありながら海賊の少年は顔を赤らめてどきっとしてしまう。

「………おぉ?」

「これであの海蛇と戦えるよ!」

「よぉっし! んじゃ行くぜ!」


 先陣はバーンが切った。天高く舞い、ある程度の高さになると、剣を突き立てて一気に落下し勢いをつけてリバイアサンに突っ込んだ。空からの落下とバーンの筋力、セレーネの天空術の力によって剣は巨大な海龍の皮膚に深く突き刺さった。


 手ごたえを感じたバーンはそのまま体重をかけて鱗ごと引き裂こうするが、剣は刺さったままびくともしない。リバイアサンはバーンを振り払おうと泳ぐスピードを上げていく、巨体の移動により本来はありえない海流となり、瞬く間に海流は渦巻きとなる。結果、剣は抜けバーンは海流に飲み込まれてしまう。


「ぐっ、これはやばい……!」

「バーン!」

 バーンを危機を確認したセフィリアはサンクトゥスをしまい、先端が天使の翼の様なデザインの銀で出来た自身の身長と同じ長さの杖を出し、その杖で勢いよく海面を突いた。

 すると水面は大きく歪んだ後、そこにあった膨大な水量は一瞬のうちに砕け海底に日の光が差す。リバイアサンは突然消失した水中の活動領域を失い、うち上げられた魚の様に全身を使い跳ねてもがく。その隙に海底で気絶しているバーンを引き上げると一度甲板へ戻り、体を横にさせて休ませた。

 多少海水を飲み込んではいるが、命に別状は無い様子だ。


「こうなったら……」

 気を失っているバーンを心配そうに見た後、セフィリアは意を決して再び飛びたつ。

 やはり人間には大悪魔の相手は辛すぎる。ここは私が何とかしないと。


 ある程度近づいたセフィリアはリバイアサンがいる方向に杖の先を向けた。すると、そこに光の粒が集まり、たちまち大きな塊になっていく。


「願わくは、汚れし魂に永遠の安息を……、滅亡の破光、カタストロフィ!」


 鋭い目つきで全身を使い杖を振ると光の塊はリバイアサンめがけて落下して行く。膨大な破壊のエネルギーを蓄えた光の塊は、のたうち回るリバイアサンに着弾した後、激しい突風と轟音をばらまき、ドーム状に広がり炸裂する。周囲は燦然となり、次に嵐のような強風が吹き荒れた。



 しばらく経つと光と強風がおさまり、静寂が訪れる。割れた海も元に戻っており、リバイアサンの姿も見えない。


 セフィリアは天空術を解き放った後、リバイアサンが居た方向を静かに見つめている。


 やったあ!

 セフィリア様がやっつけたんだ!

 あんな凄い天空術ひょいっと使っちゃうだもんなあ。

 流石は一番えらい天使様だよね、すごいなあかっこいいなあ……。


 セレーネはセフィリアに近づき、勝利の喜びを共有しようとしたのだったが……。




「セレーネ! 下がって! まだ終わってません!」



 セレーネを振り払うように強い口調で言い放ったその時、海面からセフィリアめがけて勢いよくリバイアサンが跳びかかり、その大きな口で飲み込もうとしてきた。


「きゃあ!」

 避けるタイミングを誤り、リバイアサンの攻撃を受けてしまったセフィリアはそのままリバイアサンと共に海底へ誘われてしまった。


「セフィリアのあの力が効かないだと? なんて奴だ……」

 莫大な力を所有しているセフィリアの、恐らく最大最高の力をもってしてもこの大悪魔には通じない。

 俺らはそんなとんでもない奴を倒そうとしていたのか?

 駄目だ、勝てる気がしねえ。

 あれは無理だ、人間ではどうしようもならんぞ。


 バーンも海賊の少年も、まるで自分とは次元が違う相手にただ驚き絶望するしなかった。


「セフィリア様! 今助けるから!」

「おい! 行くな小娘!」

 セフィリアを救出するため、セレーネは海中へとリバイアサンを追いかける。

 バーンの静止の声も今のセレーネの耳には全く届かない。セレーネは海底でリバイアサンの姿を確認すると、光の矢を引き絞ってリバイアサンに放つ。 光の矢は水の中でも勢いよく飛び、リバイアサンの体に深く突き刺さったが、バーンやセフィリアの時と同様に全く通じていない。


 さらにセレーネの攻撃に反応して長い体をうねらせると今度はセレーネめがけて突っ込んできた。


「何とか引き付けてセフィリア様を助けないと……」


 リバイアサンの執拗な追撃を辛うじて避けつつ、海底のどこかにいるであろうセフィリアを探す。セフィリア様の身にもしもの事があったら、そう考えるだけで今の現状よりも恐ろしい、背筋が冷たくなるような喪失感が襲い掛かる。


 一方、甲板では攻めあぐねるバーンを横目に見つつ、海賊の少年がゆっくりと浮遊しリバイアサンがいるであろう海底のすぐ上に行く。目的地についた少年は、手に持っていた棍棒を再び腰に下げて銃を取り出すと、懐から別のパーツを取り出し銃口に取り付ける。


「僕は海を支配する海賊なんだ!あんな奴に海を荒させはしない。これでもくらえーー!」


 覇気と怒気を込めて、引き金を強く引くとバーンとの戦いでは単発だった弾丸がまるで雨のように飛び散り発射された。

 無数の弾丸はリバイアサンに降り注ぎ、数え切れないほどの風穴を開けた……はずだったが、傷ついた皮膚は瞬時に元に戻ってしまう。


 そして標的をセレーネから少年へと変更し、捕食しようと大きく空中へ飛び跳ねた。

 リバイアサンの巨大な口が眼下に広がり、大悪魔の餌食になろうとする少年だったが、バーンが間一髪救出する。

「危ねえだろう!」

「ちくしょう……」

 少年のとっておきだった、魔法の力を放つ銃。

 本来、弾丸は単発であるが、銃の部品を追加で取り付けることで広範囲に攻撃が可能となる。

 しかし、多く弾を発射する分、消耗も激しい。

 それを証明するかのように、少年の息づかいは荒い。大悪魔を目の前に二人は途方に暮れていた。


「セフィリア様ぁ!」

 一方、攻撃対象がそれた事により、リバイアサンから逃げ切ったセレーネは海の中で気を失っているセフィリアを見つけて、起こそうと必死に呼びかける。


「うぅ、セレーネ……、ここは危ないから、早く海を出ましょう」

 まだ本調子でないが、このまま海の中にいれば今度こそ助かる見込みはない。皆を……、セレーネを守らなければ……。強い決意は気だるい体に再び活力を与え、二人は辛うじて海から出た。


 とりあえず甲板へ帰還した一行だったが、各々は絶望と疲労の渦中にあった。皆が何とか勝つため、この危機的状況を打破するべく作戦を練ろうとするが、何の意見も無い。

「セフィリアの天空術がきかない上、傷つけてもすぐに再生してしまう。くそ、ったくどうすりゃいいんだよ!」


 バーンは圧倒時な劣勢と自身の無力さに苛立ちを隠せず怒鳴り散らす。

 少年は、顔を真っ赤にして涙を堪えていたが、その様子を見たセレーネはそっと近寄り、頭を軽く撫でる。


「泣かないで……」


 いつもセフィリア様が私にしてくれた様に優しく微笑んでみた。

 セレーネは純粋に少年が心配だったし、自身が泣きそうな程不安な時はいつもセフィリア様がこうやって微笑んでくれていた。

 好きな人がこうやって優しく見ていてくれる。それだけでセレーネは安堵し、気力を貰っていた。

 

 しかしこの少年に対しては、逆効果であった。

 確かにセレーネの事が気になってはいた、だが、彼の海賊としての誇りは大人に負けず、不思議な力はあれど自分と似たような、あるいは自分以下の年齢のしかも女の子に慰めてもらう事自体、有り得ないのである。


「……ないてないぞ!」

 セレーネの方をちらっと見ると男の子は命一杯強がり、両手で目をこすって涙をぬぐう。


「実は、話があります」

「どうした?」

「私の力はもうわずかしかありません、このままでは負けてしまうでしょう。ですが、私に一つだけ考えがあります。」


 セフィリアには一つだけこの状況を逆転出来る作戦があった。

 セレーネ達にも告げたが海を砕きカタストロフィを放ち、リバイアサンの攻撃を受け、それでも平然を装っているが、実はセフィリア自身、大きく消耗し、残り僅かな力しか残っていないのである。

 このままでは全員不本意な最期を迎えるだろう。それでも、かなりリスクが高くても、仮に成功したとしても、予期せぬ後遺症が残るとしても、この作戦に賭けるしか無かった。


 もう実行するしかない。選択の余地は無い。私はバーンを、ルミナを、そしてセレーネを守るのだから! 



 セフィリアは小声で自分の考えた作戦を話し始めた……。




「じゃあ、みなさんお願いします」

 セフィリアの話が終わると、皆は何も言わずに散っていく。無言なのは、この作戦がとてもリスクが高いという事を全員察知していたからだった。


 

 まず最初にセフィリアは再び勢いよく海面を杖で突く。海は再度円形に砕け、その中には先ほどと同様にもがき苦しむリバイアサンがいた。

「いくよ!」

「ああ!」

 次に少年は銃を構えて強く念じた。そしてセレーネは男の子の腕に手を添えて自分の力を送っていく。


「……もう少し、あともう少し」


 二人は自分の持てる全ての力を海賊の男の子の銃に注ぎこむ。セレーネの光の力と少年の魔力は銃に蓄積されていき、力の蓄積の比例し銃が強く輝きだす。


 「いっけえ!」

 「くらえーーーーーー!」


 セレーネは願いを籠めて叫び、少年は自身の思いを籠めて叫んだ後、銃の引き金を引く。

 すると、今まで不可思議な力の塊の雨とは違う、膨大な光のエネルギーがまるで土砂降りの大雨のように無数にリバイアサンの頭部へと降り注いだ。


 無数の光の弾丸はリバイアサンの皮膚の再生能力を超え、破壊、溶解し、たちまち頭蓋骨は粉々になっていく。


 そして粉々になった頭部から、まるで人間のような若い女性をかたどった何かが現れた。


「セフィリアの言ってた、あれがあの悪魔の正体なのか?」

「海蛇での姿は恐らく外殻か何かかと、私も話で聞いてただけなので確証は無かったのですが。私がカタストロフィを当てた時、一瞬ですが彼女の姿を確認出来たのです。……説明は後です。さあバーン、最後の一撃を!」


 セフィリアに促される様に,バーンは最初の一撃と同様に勢いをつけて急降下する。自身の恐怖と絶望を、ルミナや他の大切な者を守りたい思いの力で振り払い、リバイアサンの本体へと向かう。

 致命傷を受けた大悪魔の再生速度はかなり鈍っており、女性を模った何かはゆらゆらと、ただ漫然とそこにあるだけだった。


 全員の期待を背負ったバーンの一撃は、リバイアサンの急所ともいえる女性の偶像の首をはねる事に成功したのだ。


 急所に渾身の一撃を加えられたリバイアサンは今までにないほどの甲高い悲鳴をあげながらのたうち回る、再生していた体は腐敗して行き、原型を留める事無く、無残に朽ちていった。

 その姿を見た各々はこの強大な悪魔の最後を悟ったのだ。


「今度こそ、やったな」

「みんな! あれ? 力が……」

 最後を見届けた一行は持てる全ての力を尽くしていた、その疲労は計り知れなく、同時にセレーネが使用した浮遊術の効力が切れたのだ。


 セフィリアも無言で眠るかのように海へ落下し、海上で戦っていた者達は全て大海原へと落下してしまった。


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