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scene 13 分裂の記憶 act 2

「おらおらぁ! 全員伏せろ!」

 怒声と共に半裸のガタイがいい男達が十数人、突然客室に入ってきた。手には棘付の棍棒や曲刀といった近接戦闘向けの武器を握り締めている。

 その声にバーンはすぐさま身構え、セフィリアはセレーネを守るように抱きしめた。


「なんだ?」

「この船は乗っ取った! 命の惜しい奴はおとなしくしていろ!」

「しっかしタイミング悪い海賊どもだな。俺達が乗っている時に襲撃するとは。なあ、セフィリアはどうする?」

「私はルミナとセレーネを見ています」

 セレーネは海賊の迫力ですっかり弱気になり、セフィリアにしっかり抱きついている。ルミナは船酔いのせいで机に顔を伏せて寝ていた。隙間から窺える顔色はあまり良くない。


「んじゃ、ちょちょっと行ってくるぜ」


 小娘はぎゃんぎゃんと煩かったし、ルミナはずっとぐったりだし、船内は何も無いし、セレーネと同様にバーンも暇を持て余していた。


 バーンは剣を抜き、船旅の退屈と今までの鬱憤を当たり散らす……のもあるが、この危機を打破するべく海賊達の群に突っ込んでいった。


「うわぁ!」

「なんだこいつ!」

「ひ、ひけえ! ひぃぃぃぃーーー」

「ぎゃああ!」

 海賊も多少の抵抗はあれど、まさかこんな使い手が乗っているとは思ってはいなかった。客室へ容易に侵入出来た事が仇になり、余計に隙を見せていたのだが、それが完全に裏目となったのだ。


 バーンは海賊の攻撃に身を翻し、あるいは持っている剣ではじき返し、まるで草木をなびかせ翻弄させる風のように次々と海賊を倒していった。


「どんどんいくぜ! おらおらおら!」


 破壊の突風となったバーンは、客室へ侵入した海賊を蹴散らし、甲板にいる海賊も楽々と倒してしまう。


 そして残る海賊はただ一人、体格が非常に大きい、いかにも海賊の親分であろう大男だけになってしまった。

「お前か? 親玉は!」

「来たか、馬鹿なおとこ……ぐぇ……」 

 海賊がこれから何か話そうとした瞬間、鈍い音と共に海賊はくずれるように倒れて気を失った。

 バーンは海賊の親分らしき男の懐へと素早く潜り込み、強烈な一撃を見舞ったのである。

 海賊は体を痙攣させ、口から泡を吹いて失神してしまった。


「……悪いが俺は聞き下手なんだ、てか見掛け倒しかよ。やれやれ。意外とあっけないな、海賊って言ったらもっと鍛えてあるものだろう?」

 あまりの海賊の弱さに不満とあきれを露にしながら、バーンは客室へ戻ろうとした。これだけ痛めつけておけば後は船員が海賊を捕まえてしかるべき場所へ連れて行くだろう。

 もうちょっと楽しませてくれれば良かったが。と思いつつ、いまいち物足りなさを感じるバーンであった。


 海賊の襲撃騒ぎも収束しつつあった時、海賊船の中からあくびをしながら小さな男の子が現れた。年齢はセレーネと同じくらいか?


 バーンはふと思った。

 この子供は今までこの騒ぎに気づかなかったのだろうか?

 客はセレーネ以外に子供は乗っていなかった気がするぞ……、そもそも海賊船から出てきたと言うことは。


「ふわぁ~、みんな調子はどう? あれ? これやったの、おじさん?」

「ああ……、そうだが、ってお前何者だ!」

 バーンの風は勢いを止めた。相手は恐らくセレーネと同じくらいだろう、それに対してバーンは今二十代後半である。大の大人がただ圧倒されていた。驚いていた。バーンは自然と腰を深く落とし、相手のいかなる速度、方向、力量、どれにも対応できる構えになっていた。


「負けはしないだろうが、面倒な奴だ、……小娘といい、俺はいまいち子供運がないらしい」


 ため息を二つほど間に挟みながら、バーンは独り言を吐き出した。

 このガキんちょと言い、小娘といい、一体なんだって言うんだ、俺の子供嫌いが何か呼び寄せているのか?

 あれか?

 神様からの試練なのか?

 面倒な話だ。ってそんな訳ないよな、セフィリアの話では神様は居なくなったらしいし。ぐぬぬ。


 独り言が終わった事を確認した少年は、懐から黄金に輝く小銃を取り、銃口をバーンの額に向ける。


「魔法の力を凝縮して放つお手製なんだ、僕のお気に入りなんだよ?」

 少年は無邪気に笑いながら引き金を三度引いた。

 物質でない、不確かだが非常に危険で破壊力を伴う物体がバーンの急所を貫こうとする、しかしバーンは手持ちの剣を素早く迅速に振りかぶり、飛来してきた物体を叩き切り被弾を免れた。


「やるじゃんおじさん。」

「……てめぇ」

 攻めあぐんでいたバーンをまるで救援するかのように、タイミングよくセフィリアが甲板へと上がった。


「いままでの海賊とは違うみたいですね」

「ああ……、子供のくせに大した奴だ」

 二人はこの海賊の少年の実力を思い知った。決して油断ならない相手だと。だが、バーンは負ける気がしなかった。十分勝てると信じていた。


「でもよ、所詮は子供ってわけだ」

「どういうことです?」

 へらへらと不気味に笑いながら大きく跳躍し、海賊の少年を飛び越えようとする。少年は再度引き金を連続で引き弾丸を発射させるが、まるで当たらない。


 確かに強い、並の大人だったら手も足も出ないだろう。あの年で海賊やっているってのも大した事だ。

 だが、俺は並の大人じゃあないからな!

 馬鹿め、残念だったな!

 ふはははは!

 おじさんだと?

 大人を舐めやがって、おしおきだ!

 苛めて泣かして大人の怖さを教えてやるぜ。


 たちまちバーンは少年の背後、死角を奪った。そして少年の服の襟を掴み、硬い甲板に叩きつけた。

「あうっ!」

 少年はうずくまって必死に痛みをこらえていた。強敵だが子供に対して加減をしなかった大人げない自分を少し反省しながらバーンはうずくまっている少年に近づき手を差し伸べようとする。


「うわああ!」

「おいおい!落ち着けよ!」

 突然少年は起き上がり、顔を真っ赤にし爆発した怒りを隠す事無く、腰に下げていた棍棒を腕をいっぱいに使い振り回す。戦いで遅れを取り、さらにこんな結末だった事がよっぽど屈辱的だったらしい。

 バーンは少年の無秩序な攻撃をかわしつつ、なだめようと説得するが、その声は少年には一切届いていかった。

 

「死ね! 死ね! 死んじまえーーー!」

「ったく……、どうすりゃいいんだよ!」


「セフィリア様ぁ~」

「おい! 小娘! 出てくるな!」

 

 客室入り口から、何の警戒心も無さそうにセレーネがセフィリアの名を呼びながら勢いよく飛び出してきた。

 こんな危険な状況で何で小娘が出てくるんだ。てか出てくるなよ面倒くせえ。


「馬鹿! 危ないんだぞ! そして俺は大変だぞ! 兎に角戻れ! このクソガキが……、あ、あれ?」

 このままではセレーネも危険に晒してしまう、もしも万が一何かあれば、そう思ったバーンは大声でセレーネに客室へ戻れと命令するが、セレーネが出てきて少年の動きがぴたりと止まってしまった。


「バーン、どうしたのー?」

「いや、今までこいつがしつこく攻撃してきたんだが?」


 男の子はぼーっとしていた、そしてセレーネを見つめていた。今までとはまるで雰囲気が違う、戦闘中とは思えないほどの緊張感のなさ、隙だらけの状態だ。


 セレーネはそんな無抵抗な男の子にゆっくり近づき優しい笑顔でたずねてみる。


「あなたは、だぁれ?」

「え……、ぼ……ぼくは……」


 バーンに怒りをぶつけていた時よりも顔は真っ赤だった。挙動不審で上手く喋す事も出来ない。少年はうつむきながらもじもじして落ち着かないそぶりを見せた。


 しかしセレーネは自分に危害を加えないと悟ったのか、少年の手をとり笑顔で答える。


「わたしはセレーネ。よろしくね!」

「あっ、その……、えっと……」


 何が言いたいのか、いまいち解らずセレーネは首をかしげた。そんなやり取りの中、バーンは剣をおさめて腕をくんで一人でうなずいていた。

 どんなに考えても解らないセレーネは、少年の手を握ったままセフィリアに聞いてみる。


「ねえセフィリア様ぁ。どうしてこの子何もしゃべらないの?」

「この男の子はセレーネの事が好きなんですよ」

「すきって、私がセフィリア様のこと好きなのと同じことなのー?」

「ええ」

「ありがと! 嬉しいなあ~」


 わたしの事好きでいてくれてるのかあ、うれしいなあ~。

 こんなにかあいい男の子とお友達になれたよー、わーい。

 でも、なんでバーンと戦ってたんだろ。さては、ルミナおねえちゃんに隠れてまたいじめてたのね。相変わらずわるいんだから~、むーむー。 


 少年の顔は海水が沸騰しそうなほど赤く、熱くなっていた。


 そんな矢先、再び騒動は芽吹いた。それはバーンの一言に呼応したかのように。


「船沈めたのは、とてもこいつらではないよな……」



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