暁の約束
私達は。
どうしてこんな場所へ、辿り着いてしまったのだろうか?
『ねえ、約束だよ』
あの日、暁の空の下で交わした約束は、まるで昨日の事の様に鮮明に思い出すことが出来るのに。
何が悪かったのだろうか?
何処から狂ってしまったのだろうか?
どうすれば戻る事ができたのだろうか?
考えても考えても答えは出ない。
「ねえ。貴方達は、もう、忘れてしまったの…?」
呟いた言葉は、応えのないまま、陣幕の中の闇に溶けた。
「刻限です」
陣幕の外から声がして、私は運命の刻がやって来る音を聞いた。
髪に刺していた、簪をそっと引き抜くと、懐にそっと忍ばせて、
「さあ、出陣だ」
ゆるく微笑むと、陣幕の向こうの闇にその身を躍らせた。
聞こえるのは、法螺貝の紡ぎだす刻の声。
悲しみ、憎しみ、様々な感情。
朱色に染まる大地。
嗚呼、世界は泣いている。
この世界の悲しみを、断ち切らなくてはならない。
襲い掛かる敵兵を、愛刀で蹴散らして、目指すは戦乱の渦の中心地点。
そこには、きっと居るだろうから。
暁の約束の彼等が。
もうすぐ、戦乱に終止符が打たれるだろう。
沢山の悲しみと、尊い命達を代償に。
嗚呼、彼らの声が聞こえる。
嬉しくて、懐かしくて、そして切なくて。
私は渦の中心を目指しながら涙した。
ねえ、約束を覚えている?
私は、あの日の約束を守りに来たよ。
だんだんと近づいてくる懐かしい姿に、心の中で言ってみる。
世界の悲しみを止めるのは、戦乱に終止符を打つのは・・・・・・・
『ねえ、もしもね。もしも皆が悲しむような事が起こったら、きっと私がそれを止めるからね』
『じゃあ、俺もそれを手伝うよ』
『私も手伝ってやる』
『ふふふ。じゃあ、約束だね。きっとだよ?』
ねえ?
私達、何処で道を間違えてしまったのかな?
もう、戻れないのかな?
あの日の約束を、貴方達はもう、忘れてしまったのかな・・・・・?
私は、約束を守る事が出来たかな・・・・・・・?
視界が、霞む。
酷く朦朧とする瞼の向こうで、貴方達の叫ぶ声がする。
ねえ、何て言っているの?
よく聞こえないよ。
泣き出しそうな貴方達の頬に触れようと、伸ばした指先は朱色に染まっていた。
そして・・・・・
そうして。
私は・・・・・私の世界は白に染まった。