全てのはじまり
二十二世紀 2112年の12月30日
とあるバス内、
そこにはまばらな乗客と共に、3人の中学生が乗っていた。
「う~寒いっ!早くつかねえかな~」
「楽しみですね、兄さん!」
「俺は疾也たちと、一緒にプレイできるなんて嬉しいぜ!」
テンション高めな妹、咲と、うざったらしい表情で俺の袖を掴んでくる、真斗と共に俺たちは今日発売の、初のVRMMORPG「《Over World》Online」を買いに行く途中である。
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「《Over World》Online」(略して「O.Wor」)とは、lapras社のゲームである。
lapras社は元々電子機器を中心に扱っており、軍で開発、研究されていたVR技術を買い取り、研鑽、改良を重ねフルダイブ型の新型ゲーム機「シンクロ・ゲート」と共に、専用ゲーム「《Over World》Online」を開発、社内で行ったβテストを経て、発表した。
初回生産10万本がネットで予約を開始したときには、世界初のVRMMOということも手伝って、全世界からおよそ1000万人がサーバーに殺到し、一時期サーバーが落ちる程の大盛況から、抽選となり0.01%という高倍率で、応募したクラスの友人たちが次々と落選する中、3人は運良く当選したのだった。
コンセプトは「果てし無き世界」で、O.Wor内の世界はアップデートの度に広がっていくと発表されている。
大陸「グランガルド」の広大なフィールドに点在するダンジョンやエリア、グランドクエスト、膨大なイベント量、戦闘では剣、銃、魔法何でもありという高い自由度が売りのゲームだ。
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彼らは「O.Wor」の購入を済ませ、キャラメーク用の身体スキャンを店内で終わらせ、データカードを受け取って、夜9時に「始まりの街 中央広場」集合の約束をするとすぐに家へと帰った。
PM5:30~6:00
疾也と咲は家に着くなり、VRMMO機を機動、ヘッドギアを装着しダイブすると、すぐにキャラメークを始めた。
目を瞑り「ダイヴ・イン」と呟くと共に、「O.Wor」に接続すると脳内を洗われるような感覚の後、目の前に果てし無き草原が広がっていた、目の前にはもう一人の自分が見える。
はじめは驚いたが、これが外装確認用のキャラだと分かると、逆にその精巧さに驚いた。
初めは種族設定からだ。
体の前に半透明のディスプレイが表示される。
【ヒューマン】
もっとも一般的な部族。DEX、ATK、DEFが優れている。EXP+10%
【竜人】
竜の魂をその身に宿すと言われる部族。HP、STR、VIT、AGLが優れている。
【エルフ】
魔力に満ち溢れている部族。MP、DEF、SAT、INTが優れている。
【シャーマン】
森に住まう古代の部族。ATK、SDF、LUCが優れている。精霊魔法を覚える。
それぞれの種族には外見的特徴が備わっている。
ヒューマンを一般的な平均として、竜人は鋭い歯と吊り上がった目、エルフは尖った耳、シャーマンは民族化粧という特徴を持つ。
種族は職業と違い転族はできないが、転生はできる。転生は繰り返すごとに能力補正、外見が変わっていく。
疾也はすでに決めていた竜人を選んだ。
次は属性選択である。
選んだ属性が得意属性にもなるが苦手属性も存在する。
【火】【水】【氷】【風】【土】【雷】【光】【闇】
属性は種族によっては転生により進化するものもある。
疾也は【闇】属性を選んだ。 え、理由?カックイー☆からさ
そしてキャラメークである。
少しバサバサとした髪に触れると、横の空間にセレクトウィンドウが開かれ、髪型、色が表示される。疾也は茶色がかった髪色を漆黒に変更しただけでキャラメークを終えた。
疾也と咲は自分たちの顔にはそれなりの自身があるのだった。
最後のプレイヤーネームは親しみ易さも込めて「疾」にした。
キャラメークを終えたため、ウィンドウを開き、ステータスを確認すると、
【疾】《竜人》【闇】
Lv.1
HP 150/150 MP 50/50 ST30/30
ATK(攻撃)15 STR(力)30 SAT(魔攻)10
DEF(防御)15 VIT(耐久度)20 SDF(魔防)15
AGI(俊敏)25 DEX(器用)10
LUK(運)10 INT(知力)10
EXP(経験値)0
と表示される。確認を終えると、-Game Start- という文字が浮かび上がったところで夕飯の時間になる。
妹もちょうど終わったところのようで、食卓へと向かっていた。
PM6:00~6:45
夕飯と風呂をすませて、ログインの準備をし、咲を待つ。
「《Over World》Online」の公式サービス開始は秘密にされているが、普通に遊ぶことはできる。
PM7:00~9:00
咲と共にログインすると、「始まりの街」に二人は並んで立っていた。
咲のネームは、そのまま「サキ」だった。
疾也らは少しの間体を見回し、感触を確かめるように手を握ったり、開いたりした後、お互いの外見を見合う、
「兄さんは変わりませんね。」
「オマエも変わってないじゃ、な、い・・・」
「・・・?」
絶壁だった場所には見事な渓谷が出来上がっていた。
「兄さん」
目が、目がコワイっす咲さん、やめてそんな目で見ないでっ!
「兄さん」
「・・・。」
「に・い・さ・ん?」
「すいません。すいません。すいません。すいません。」」
なぜ俺の考えは見透かされなければならなかったのか、ぜひとも教えて貰いたい。
てか、どうやった?
「まあいいです。」
ありがたい。これからは神と呼ぼう。
「それじゃ、一通り街を見て回りましょう。」
「はい、神よ。」
「置いてくよ?」
咲の優しい視線を感じると心が痛くなる。
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「始まりの街 中央広場」
ひととおり街を見て回っている間に、一つ気付いたことがある。
「オマエ、エルフを選んだのか?」
サキの耳は尖っていた。
「そういう兄さんは竜人ですよね。」
「ああ、そうだよ。」
「せっかくなのでステータスの見せ合いでもしましょう!」
咲はそういうと体の前で手をかざし、ステータスウィンドウを開き、見せてくる。
自分もそれに合わせるようにウィンドウを開く。
【サキ】《エルフ》【氷】
Lv.1
HP 100/100 MP 100/100 ST20/20
ATK(攻撃)10 STR(力)10 SAT(魔攻)30
DEF(防御)10 VIT(耐久度)10 SDF(魔防)15
AGI(俊敏)20 DEX(器用)25
LUK(運)10 INT(知力)25
EXP(経験値)0
そこにちょうど真斗が現れた。
「ヤッホー、お二人そろってお元気ですかー?」
・・・ウザかった。本当に・・・ウザかった。大切だから二度言った。
「ステータスを見せ合ってんのか。んじゃ俺も。」
そういいながらウィンドウを見せてくる。
【エンド】《竜人》【火】
Lv.1
HP 150/150 MP 50/50 ST30/30
ATK(攻撃)15 STR(力)30 SAT(魔攻)10
DEF(防御)15 VIT(耐久度)20 SDF(魔防)15
AGI(俊敏)25 DEX(器用)10
LUK(運)10 INT(知力)10
EXP(経験値)0
・・・竜人だった。
「一緒かよっ!しくじったか...」
「よろしくな!」
「っていうか、その名前は何だよ!?」
「カッコ良くない?」
「そうだなオマエは既に終わってるよな!?
はぁ・・・、まあいい、フレンド登録でもしとくか。」
ウィンドウを開き、フレンドから登録申請を送る。
二人からも申請が送られてきたためそれを受理してから、
「じゃあな、これからは個別行動だ。用があるときはチャットでな。」
そういって俺は二人と別れた。
そのあと、武具屋と防具屋によって装備を買って、「始初の草原」へ行った。
元あった金、1000アーツもほぼ底を尽いた。