番外章 彼と彼女の戦い
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番外編
・・・あの日を境に、私の人生は大きく狂い、大事な、たった一人の家族を失った・・・。
私には、親がいない。
母親は、体が弱く、弟を産んですぐに死んだ・・。 父親は、私と母を置いて、家を飛び出した。理由も言わずに・・。
だから、私の家族は弟だけ・・。その弟も今日で16歳だ。
わがままな弟だけど、たった一人の肉親だ。
私は、16歳のお祝いに料理を作るため、買い物に出掛けた・・。
私の住んでいる町は、かなり発展していた。
店がたくさんあり、人も大勢暮らしていた。そして、お城もあり、この世界の統知者が暮らしていた。
とりあえず、目当ての物を買って、ブラブラしていた。
それにしてもこの空はなんだろう・・。数ヵ月前までは綺麗な青色だったはずなのに、今は真っ赤な血の色をしている。
何かの前触れなのか?それとも異常現象なのか?よく見ると、赤黒い部分もある。不意に、背筋がぞっとした為、足早に、家路へ向かった。
その時、その赤黒い部分が、じわじわと広がっていた。だけど、私はその現象には気が付かなかった。
家に戻ると、弟が、外で木の剣を振っていた。最近はよくこうして剣を振っている。もうすぐ、賞金獲得サバイバルが、ファースト城であるからだろう。
料理を作り終えて、弟を呼んだ。
「リョウー、ご飯出来たわよー!」 弟は、剣を振りながら、
「もう少しやらせてくれよ姉ちゃん!俺が優勝したら金貨が手に入るんだぜ!」
と、自信満々に言った。
私は冷やかしながら、あんたにはまだ無理よ。と言ってあげた。弟が、舌打ちをして、剣を直し、家に戻ってきた。
テーブルにつき、弟の大好きな鳥の丸焼きを目の前に置き、
「16歳おめでとう。なにかほしいものがあったら言っていいわよ。」 すると弟が、待ってましたと言わんばかりの速さで
「じゃあさじゃあさ、真剣買ってくれよぉ!」
と、鳥肉を噛みながら、大きな声で言ってきた。
私は、そんなの必要ないと言いながら、窓を開けた。すると、いつも見ていた空が赤くなかった・・。
真っ黒だった。今までの赤色が嘘のように、空が、漆黒に染まっていた。
すると、弟も空を見ながら固まっていた。
いきなり、家のドアが開いて、城の兵士が駆け込んできた。
「突然申し訳ありませんが、即刻お城の方へお向かいください。」
私は、ゆっくりと兵士によりながら、
「なに?なにがあったの?この空は何?」
私は混乱していた。
すると、兵士が落ち着いた口調で、
「とにかくお城へ・・。事情は王からお聞きください。」
私と弟は、急ぎ足で城に向かった。
城に向かう途中、火事が起きている家が何軒かあり、その近くに、真っ黒な人が寝そべっていた。
城につき、城内に入った。豪華なシャンデリアが、天井から吊られていて、とても広い王座に、この町の住人が、ほぼ全員集まっていた。
みんな何があったのか理解できておらず、呆然としていたり、泣きわめいたりしていた。
弟を見ると、いつものリョウとは思えないほど、冷静だった。
すると、一人の女性が王に、しがみつき、すごい形相で問い掛けた。
「なにが・・なにがあったのぉ!!?どうして私たちだけがぁぁ!!あなたのせいよ!あなたの・・!」
混乱していて、言っていることがむちゃくちゃだった。
混乱している女性を落ち着かせて、王が立ち上がり、私達に向かって、考えられない事を口にした。
「この町は、まもなく崩壊する。だから、出来るだけ早く、この町から逃げて、ファースト城に向かってください。」
王の言葉が、もの凄く広い王座に響き渡った。
すると、あちこちから、なんで?という言葉と、何があったの?っと、当たり前な疑問の声があがった。 一人の男が王の前に立ち大きな声で、
「冗談じゃねえ!なんで崩壊するなんてあんたに解るんだ!俺はこの町を出ないぞぉ!」
と、怒鳴りながら言った。周りの住民も、そうだそうだぁ!と、男に賛成していた!
すると、年老いた執事が、前に出てきて
「とにかく皆さん。ここにいては危険ですので、一刻も早く、城を出てください!」
と、とても老人とは思えない大きな声を出した。危険という言葉に反応して、大勢の人達が、一斉に自分の家へ向かいだした。
私と弟も、自分の家に向かって歩きだした。
私達は、必要な物を皮のバックに詰め込み、ずっと暮らすはずだった家に別れを告げて家を出た。
走りだして、家から少し離れた時、後ろから、爆発音がした。振り返ると、さっきまでいた家が、炎に包まれていた。私は、弟の手を引っ張って、町の入り口に走りだした。
入り口に行くと、コッカー(馬みたいな動物・陸上で唯一の移動手段)が10頭くらいいた。トロッコのような乗り物が、コッカーに付けられている。 一つだけ、大きな馬車が付いているコッカーがいた。その前に王が立っていて、周りには、兵士が十数人整列していた。
なにか、王が喋っている。すると、兵士達が馬車に乗り込みだした。
王が私達に気付き、悲しい顔をしながら、口を開いた。
「この町はもう終わりです。人が何百人亡くなったのでしょうか・・。少なくとも、人口は十分の一になりました。兵士や執事達も・・・。」
私は黙って聞いていた。すると弟が、いきなり王様の顔をぶん殴った。
周りには、兵士や、残り少なくなった住民もいた。みんな目が点になっていた。殴られた王が、殴ってきた少年を呆然と見ていた。 殴った弟は、しっかりと王を見て叫んだ。
「悲しんでる暇があったら、仕返しをするために、色々と策を考えろよ!王様だろ!なんでもできるんだろ!」
王と兵士達以外、なぜこうなったかは解らないが、誰かから攻撃を受けたのは聞かなくても解っていた。 なぜなら、入り口にくるまでに、血を流している死体がいくつも転がっていたからだ。
王は、弟に謝礼を言い、一部始終を見ていた私達にに、コッカーでファースト城へ移動するように提案してきた。
私達を乗せたコッカーは、すごい速さでファースト城に移動していた。
同じトロッコに、さっき王様に怒鳴りつけた男が乗っていた。男は、不満そうに空を見上げていた。
無理もない。事情も聞かされず、住んでいた町を出ろと言われたからだ。
一時して、ファースト城が見えてきた。
コッカーが凄い勢いで、城門をくぐると、即座に城門が閉じられた。
私達は、王座に通された。すると、髭を生やした、体格の良い中年の王様が、私達を待っていた。
「いったい何があったのだ?いきなりクストフ城の住民全員を、移住させてくれだなんて・・・ん?他の住民はどうした?」
本来なら、住民は千人いるのだが、今はたったの百人しかいない。
「これで全員です。他の者は・・・殺されました。いきなり変な生き者が現われて、城の兵士を襲い、町の住人を殺したり、家に火を付けて・・」
クストフ王が、暗い顔で、初めて詳細を語った。ファースト王が、口を開こうとしたが、それより先に、私の口が開いた。
「でも、私達はなにも見なかったわ。それに、最初集まったときは、まだ900人は居たはずなのに、なぜいきなり100人に減ったの!?」
すると、クストフ王が突然笑いだした。
「ふっはっはっはっはぁ!なんで減ったか解らないのかぁ?お前の家は爆発しなかったのかぁ?運のいい人間だぁ!はっはっはっはぁ!」
不気味に笑いながら、クストフ王が宙に浮いた。
みんな金縛りにあったかのように、動けなかった。 「ふっふっふ。そうさ。私が犯人だ。私が町の全員を殺した!家を爆発させてなぁ!」
そう言いながら、クストフ王の体が大きくなっていくのがわかった。 「あんたは何者なの?何が狙いなの?」
私は、大声で叫んだ! すると、クストフ王は、楽しそうに笑いながら、
「暇つぶし。」
「あ、そうそう。私の名前はタイタンだ。」
バカにした言い方をしてきた。
ファースト王が、怒りに震え、銃を腰から抜き取り、タイタンに向かって撃った!が、タイタンは、その場から消えた。弾丸が、天井のシャンデリアにあたり、直径2メートルのシャンデリアが落下し、粉々に砕け散った。
突然、タイタンの声が聞こえてきた。
「ふっふっふっ。この世界の人間は威勢の良い者ばかりだな。気に入った。この世界を、私が支配してあげよう。治安のよい世界になるよ。くっくっくっ。」
すると、ファースト王が、脅すように言った。
「残念ながら、私の軍事力を倒さないかぎり、この世界は支配できない。」
いきなり、タイタンが現われて、口笛を吹き出した。すると、外から今まで聞いたことのない鳴き声が聞こえてきた。
「ショータイムの始まりだ。退屈にしないでくれよ。」
そう言い残して、また消えた。
タイタンと入れ替わるように、若い兵士が飛び込んできた!
「た、大変です!恐ろしい怪物の軍団が、ファースト城に向かって来ています!もう一キロ先にまで迫っています!」
それを聞いたファースト王が、大声で、周りにいた兵士達に言い渡した。
「よく聞け!この名もない世界を、よその世界、異界から来たバカなどに渡してなるものか!我が軍事力をもって、必ず撃退・・いや、壊滅するんだ!お前達、準備にかかれぇ!」
ファースト城の兵士全員が、王座から出ていき、ファースト王は、立派な椅子に座ってぼそっと言った。
「異界から来たものとの戦争・・異界戦争の始まりだな・・。」
私達が、どうしていいか解らずうろたえていると、ファースト王が、「あなたたちは、ここにいてじっとしていてください!」
と、言ってきた。すると、弟が突然立ち上がった。
私がどうしたの?と聞くと、トイレ。といって、王座から出ていった。
この時の弟は少し変だった。それに気付けなかった私はなんてバカなの・・。今はとても後悔している。
城から約一キロ離れた場所に、ファースト城の兵士と、元クストフ城の兵士、合計200人が武装して、待機していた。
その中に混じって、少し背の低い男の子が居た。彼も武装をして、腰には木の剣と、鉄の短剣を差していた。それは、紛れもなくリョウだった。
とその時、目前に、おぞましい怪物の軍団が現われた。約300体はいるだろう。だが、兵士達はひるまずに、怪物達に向かって走りだした。もちろんリョウも同じように・・。
すると、怪物達も、戦闘態勢に入り、こっちに向かってきた。
二つの大きな固まりが、同時にぶつかり、一つの、とても大きな黒い固まりが出来た。
赤い血を撒き散らしながら、兵士と怪物達は、潰し合っていた。
その頃、リョウがどこにも居ないことに気付いたエミルは、外に捜しに出ていた。
私は、遠くの方で、異界戦争が始まっているのを目撃した。嫌な予感がした。 急いで、黒い固まりに向かい、走りだした。
リョウは、必死に闘っていた。自分の故郷を潰され、姉との平和な暮らしを潰された怒りに燃えていた。 すると、怪物の中に、タイタンを見つけた。
リョウは目の前にいる怪物の首を切り落とし、首なし死体をタイタンの前に蹴り飛ばした。
「おやおや。威勢の良い坊やじゃないか!なんでこんなとこにいる?迷子かな?くっくっ。」
なめた口調で挑発されたリョウは、剣をタイタンに向け、言い放った。
「次はあんたの首を無くすよ!」
タイタンは、ふっと鼻で笑い、手を刄変形させた。 「殴られた時、なかなか痛かった。借りを今から返してあげるよ・・!」
私は走った。全速力で走った。すると、黒い固まりはなくなっていた。
地に、点々と死体が散乱していた。中には、手足が無い死体や、首が無い死体、お腹がなくなっている死体があった。
その中に、立っている影が見えた。私は、急いでそこに向かった。
そこには、タイタンがいた。そのタイタンの腕が、斜め上に上がっていた。
その手の先に、リョウが突き刺さっていた・・。
おびただしい血を流しながら・・。
私は動けなかった。今、目の前でなにが起きているか理解できなかった。
すると、タイタンが、リョウを地面に投げ捨て、私に向かって笑いながら言った。
「今回は、まあまあ楽しめたから引き上げよう。また暇つぶしにくるよ。次回はもっと派手にしよう。ではまた。」
そう言ってその場から消え去った。同時に、怪物の死体も消え去った。
私は、リョウに近付き、抱えあげた。冷たかった。顔も青ざめていた。目には涙が溜り、右手には、木の剣を握り締めていた。
私が15歳の誕生日に作ってあげた木の剣を握り締めていた。
「リョウ・・起きなさいよ・・。まだ・・誕生日プレゼント買ってあげてないわよ・・・私を・・私を独りにしないでぇ・・!うぅぅ・・。リョウ・・リョーーーー・・・」
一年後・・
空は青く、風が気持ち良い。私は、リョウが死んでから、体を鍛えて、今は各地で用心棒をしながら力を付けている。
久しぶりにファースト城に戻り、リョウの墓標にお花を添えた。
きっと、またタイタンは現われる。私は、絶対にタイタンを殺す。弟の為、そしてこの世界の為に・・。
空を見上げた。空は、綺麗なオレンジ色をしていた。久しぶりに見る、綺麗で不気味な空が眼前に悠々と広がっていた。
最後まで読んでくれてありがとうごさいます。結構苦労しました。今度から本編に戻ります。ではまた・・