転生…そして
雪乃の転生が決まった晩、裕一は皎に連れられて、『転生の祭り』を見ていた。
それから、季節は味気なく過ぎていき。
再び冬が訪れて、小雪をちらつかせるようになった。
「あら裕一、もう部屋行くの?」
階段を昇りかけたとき、ひょっこりと、顔を覗かせた母親に呼び止められる。
「まあ、な…おやすみ」
裕一は、森の中を歩いていた。
今日は、やけに騒がしいような気がする。
【裕一、来ていたか…今迎えに行こうとしたところだ】
尻尾に灯をともして、白狐の皎が、ぴょんと跳びはねた。
皎に、連れられて歩いていくうちに、次第に人の数が増えていくのが分かる。
まるで、祭りみたいだ。
「なんだ、ずいぶん人が多いな」
【今宵、やっと時が巡った…祭りがある、だから人も皆も集まろうさ】
「祭り?なんだ、きいてないぞ?」
【転生が決まった、その祝いだ】
「え?」
【古い器を改め、新たな器へ移るのさ…そら、始まった】
しゃりんと、軽やかな鈴の音が薄闇に響き、それに続いて歯切れのよい鼓の音。
雅楽の調べに乗って、狐たちに担がれたお輿が進んでくる。
なんと言えばいいんだろう、この光景は。
きれいだ。
いや、キレイなんて言ってしまえば一言だ、これは…。
『狐の嫁入り』は、きっとこんなものなんだろうな。
幻想的、という言葉が、よくそれに当てはまった。
「…きれいな夢だな」
夢、と言った瞬間、音が消え、景色が急激に色を失う。
「え?」
【坊よ…よくお聞き。これはな、多くの祈りで成り立つもの、その祈りが少しでも減ると、成り立たぬ。おぬしは、これが夢だと思いたいか?】
どこからともなく響いた声に、裕一の胸は、ひとしきりの痛みを覚えた。
こんな幻想的な風景、もう一生見られないかも知れない。
今だけでも、せめて見ていたい。
「夢じゃない、これは、夢じゃない」
【そうじゃ、そのいきじゃ】
ふわっと、体を縛っていた気配が消え、裕一は深く溜息をつく。
それと同時に、再び音と景色が戻った。
「今の声、お前だったのか?」
裕一は、きょとんと皎を振り返る。
【裕一、そろそろ夜が明ける。2日後の朝に…】
それに照れたように、皎は、ぷいと背中を向けて言った。
「なんだって?よく聞こえないぞ…おーい、おーい!」
裕一は、急に飛び込んできた光のまぶしさに、腕で目を庇う。
どうやら、昨夜カーテンを閉め忘れたようだ。
「…2日後?今日入れてか?」
「あら、おはよう。ゴハンは?」
玄関で靴を履いていると、またも母親に見つかってしまった。
見つかったからどう、というわけではないのだけれど。
「いらない、ちょっと出てくるよ」
「ふうん、いってらっしゃい」
今日はなぜか、すんなりと通してくれたのを不思議に思いつつも、そっとドアを閉めた。
「毎日、どこ行くんだかねぇ?」
「は〜…相変わらずかぁ、雪も積もってないよ」
裕一は、雪乃の家を見あげて、ため息ながらに呟いた。
階段に腰掛け、ゆっくりと伸びをする。
「ん、冷て…」
ふわりと、綿雪が手の甲におりて、溶けた。
「あれ、雪?」
時が、動き始めた。
まるで、春が来て、氷が溶けて行くみたいに。
冬の朝、裕一は、雪乃の家の前に立ち竦んでいた。
「2日経った、雪乃、本当に」
景色は、少し積もった雪の他には、何も変わってはいない。
「はい、呼んだかしら?」
背後には、聞き慣れた声。
裕一は、勢いよく振りむいた。
「裕一さん、ただいま」
「雪、乃?ホントに雪乃か!?」
「ええ、帰ってきたわ?あなたに逢いに」
にっこりと笑う雪乃に、裕一は胸が痛む思いをした。
「すまなかった…俺のせいで、お前を」
「そんな顔しないで、ね?裕一さん。謝るくらいなら、笑って?」
瞬間、裕一は力一杯、雪乃を抱き締めていた。
「っ苦し」
「あ、ああごめん…あのな、雪乃」
「言わなくても、分かってるわ?もう、どこにも行かないから…もう一度、その、妖怪のあたしと生きてくれますか?」
はにかみながら言った雪乃を、裕一は柔らかな眼差しで見つめた。
「妖怪でも、ちっともかまやしない!俺からも頼む。雪乃、本当にありがとうっ」
「…はい」
ありがとな‐‐―‐―。
悲しまないでって、言ったでしょう?
あたしが、傍にいるからね?
涙は、幸せな数だけ 流れるものなのよ。
だから、悲しまないで…。
どうも、維月です。
読者さま方、ここまでご苦労さまでした。
これからも、どうぞよろしくお願い致します。
それでは、失礼します。




