痛み
妖の雪乃といることを望んだ、重病人である裕一は、僅かながらの回復を見せ始めていた。それは、自らの命を削っている、雪乃のお陰だった。
妖狐である雪乃は、人間の命を吸い、やがては衰弱させてしまう。
裕一の、少ない命をさらに減らせてしまうのに、分かっていて、彼はそれを望んだのだ。
季節は、風が吹くように、あっという間に過ぎゆき、そして、とうとう雪が降った。
日に日に、彼の命が衰えていくのが分かる。
その度に、胸が灼けるように痛むのだ。
「雪か…よく降るな。雪乃…俺、越せないかも知れない…冬」
「なんて事いうの!そんなこと言わないで…前に先生が『よくなった』って褒めてたじゃない、ね?だから」
「そう、だな…けど、自分でも分かるんだよ。そんな気が、してならない」
「そんなことない!あたしの気を分けるから、悲しいこと言わないで…」
雪乃は、きつく裕一を抱き締めた。
「温かい…」
「お願いよ、裕一さん」
(あなたの為なら、あたしは…どうなったっていい。生きて!お願いよ)
そっと、瞼を閉じる裕一。
雪乃の体が、ほのかに輝いて、光の粉を散らす。
光の粉が裕一を包むと、青白かった裕一の顔色が、あっという間に戻り始めていた。
「ありがとな、雪乃…お前と話したら、なんか元気出た」
「よかったぁ、今日はそろそろ行くね。看護婦さんに見つかったら、怒られちゃう。また来るから、おやすみ」
「おやすみ、気をつけて帰れよ?」
頷いて手を振ると、雪乃はドアを閉めた。
「うっ…」
雪乃は、口を押さえて咳き込んだ。
彼女の顔色は、夜目にも青白かった。
力を与える負担は大きく、雪乃自身を、深く蝕み始めていた。
しかし、まったくいやな気持ちではない。
口を押さえた手には、べっとりと鮮血がこびりついていた。
うっすらと微笑むと、雪乃は、深闇に消えていった。
それから何日も、幾月日も、雪乃は病院へ通った。
「どう?具合は…」
雪乃が病室に顔を出すと、裕一は売店の袋をあさっていた。
「ああ雪乃、最近調子よくてなぁ、長く歩けるようになったんだ。ん、お前…少し痩せたか?」
「そんなことないわ、よかったわね。その調子よ」
一瞬、雪乃は動じそうになったが、慌てて平常を保つ。
「そうかなぁ?」
「気のせいよ。今日はちょっと、様子見に来ただけなんだ…だからもう、行くね?」
「あ、ああ」
らしくない雪乃の様子に、裕一は少し、首を傾げた。
体調でも、悪いんだろうか?
そんなことを考えながら。
そうしているうちに、ついに見かねた皎が、雪乃を咎めた。
「雪乃、もう…裕一の所に行くな!」
「ダメよ、あたしが傍にいなきゃ…あの人はダメなの」
壁により掛かり、立っているのもやっとの状態で、それでも尚、雪乃は会いに行こうとする。
「雪乃っ!お前、こんなに痩せちまってんだぞ!?分からないのかっ」
「行か…なきゃ」
「雪乃!?」
ぐらりと揺らいだ雪乃を、皎は慌てて抱きとめた。
「もう、行かなきゃ…あの人、きっと待ってる」
「行くな!なんで、なんでアイツなんだっ、アイツじゃなきゃダメなんだ!」
ふらつく足で、行こうとする雪乃の腕を、皎は無理やり掴む。
「皎…」
「俺だって、お前が好きなんだよ!…だから、雪乃、今日はもう行くな。休んだ方がいい」
「う、ん…」
どうも、維月です。
ちょっと切ない話をお送りしております。
よろしければ、謁見の程を




