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九
北原瑞希の無意識の世界には、〝乙姫瑠璃華〟が棲んでいた。乙姫は、瑞希の守護霊であり、瑞希の前世である。
乙姫の生まれ変わり──北原瑞希には、夫がいる。婿養子として北原家に入ってきた、北原賢人である。
いかにも上品で善良そうな見た目の賢人だが、実は、とんでもないクセモノである。瑞希に隠れて、浮気三昧。愛人もいたし、その愛人との間には、娘もいた。
賢人は現在、大阪に単身赴任中であるが、その大阪で現在、愛人と、家族同然の暮らしをしていた。賢人にとって瑞希との結婚は、すでに形だけのものになっていた。
つまり瑞希は夫から、決定的に裏切られていた。
それに瑞希は、何も気づいていない。
夫の裏切りにも、北原ファイナスの経営状態が厳しいことにも、まるで気づいていない。
瑞希は、自分は一生、金の苦労はしないと信じ切っていた。夫からの愛情も、心の底から信じ切っていた。
しかし、そんな厳しい真実を、乙姫瑠璃華はすべて知っていた。
だから乙姫は悔しくて仕方がない。自分の生まれ変わりである瑞希の、あまりの愚かさ、不甲斐なさ、鈍感さ、弱さが、乙姫は、本当に情けなくて仕方がない──




