表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

 小金井達治のダンボールハウスの中で、来生は生活保護申請のため、小金井の個人情報をせっせとノートに書き留めた。

 そして他のホームレスにも声がけするべく、来生と瑞希は、小金井のダンボールハウスから出てきた。

 すると一緒に、小金井もダンボールハウスから出てきた。彼は、瑞希と離れがたい心境になっていた。

 小金井が自らのダンボールハウスから出てみると、そこに十数人のホームレスたちが固まって立っていたので驚いた。そして、普段はまったく他のホームレスとはコミュニケーションしない小金井であったが、そのときはなんとなく、他のホームレスたちに向かって、ペコリと頭をさげた。

「パンチラ見た?」

 そんな小金井に、六十五歳のホームレス──新庄時貞が、そう声をかけた。

「うん、バッチリ見たよ」

 小金井は照れ臭そうに、そう返事をした。

「もしかして、あんたも見たの?」

「見た見た。いやー、エロいね。グフフ」

 そういう新庄は、喜色満面だ。

「もしかして、この人たちもみんな?……」

 十数人固まっているホームレスたちは、みな一様に鼻の下を伸ばした、デレデレした顔つきをしていた。

「おう、みんな見たんだよ。フフフ、われら、パンチラ同盟だ!」

 新庄はそう叫んだ。するとその場にいたホームレスたちは皆、ガハハと大爆笑した。

(パ、パンチラ同盟……)

 小金井は呆気に取られた。そしてその集団と一緒に、瑞希の後を、ゾロゾロと付いていった。

 小金井は、普段は他のホームレスたちとは一言も会話しないし、挨拶もしない。しかし久しぶりに若い女性のパンティを見て、小金井はひどく興奮していた。そして我知らずベラベラと、周りのホームレスたちと会話していた。

 他のホームレスたちも同じである。みな一様に、ひどく興奮しているようだった。

 来生と瑞希は、次々とダンボールハウスに入っていった。

 そして数分後、彼らがハウスから出てくると、それに続き、そのハウスに住むホームレスも一緒に外に出てきた。そして出てきたホームレスも小金井と同様に、集まっているホームレスたちを見て、目を丸くした。

「パンチラ見た?」

 今度は満面の笑顔の小金井が、そのホームレスに声をかけた。普段は無愛想な小金井が、まるで別人のように社交的になっていた。

「え? 見たけど……もしかして、あんたもかい?」

「見た見た。いやー、ヨダレが出たよ。ガハハ」

 小金井は明るく笑った。

「もしかして、ここにいる人たちみんな……」

「そうなんだ。みんなパンツを見たんだ。われら、パンチラ同盟だ!」

 小金井がそう叫ぶと、その場の全員がゲラゲラと笑った。

 新たなに加わったパンチラ同盟の一員も、すっかり興奮しており、浮き浮きとしていた。

 そんなホームレス集団に、朝の痴漢が近づいてきた。彼は、朝に瑞希に痴漢して、その後、ストーキングをした男である。

「これは一体、なんの騒ぎですか?」

 その痴漢──田村義博は、ホームレスの一人にそう尋ねた。

 振り向いた汚い顔をした初老の男──小金井達治は、少年のように、満面の笑みを浮かべていた。

「パンチラ同盟だよ!」

 小金井は、そう叫んだ。

 しかし田村はそれを聞いても、意味がわからない。しかし、そこに集まっているホームレスたちが、なにかでひどく盛り上がっていることだけはわかった。

 彼はホームレスたちに混じって、北原瑞希が入っていったダンボールハウスの入り口を眺めていた。するとしばし後、腰をかがめた瑞希が、そこから出てきた。

「おおっ!」

 男たちからどよめきが起こった。瑞希のスカートの奥から、ピンク色のパンティがチラリと見えたのである。

 それに田村は見惚れた。

 その肩に、誰かの手がかかる。それは先ほど声をかけた、小金井であった。

「わかったかい? これがパンチラ同盟だよ」

 そう言った小金井は、満面の笑みを浮かべていた。

「うーむ……」

 田村は唸った。

 ダンボールハウスからは瑞希に続き、来生公平も出てきた。彼はよれよれの服を着て、卑しい顔つきをしている。先ほど事務所の前で田村の顔を睨みつけ、彼を無言で追っ払った男である。

 来生の後からは、ホームレスらしき、汚い身なりの男が出てきた。その男は興奮しきった顔つきをしていた。

「パンチラ見た?」

 その男に、ホームレスの一人が、そう尋ねた。

「見た見た、バッチリ見た!」

 そう叫ぶ男は、最高の笑顔を浮かべていた。

「よしよしよし、われら、パンチラ同盟なり!」

 尋ねたほうのホームレスは、はしゃいでそう叫んだ。

(なるほど……)

 それを見た田村は、〝パンチラ同盟〟を完全に理解した。

 田村は、コソコソと身を隠した。

 彼は、瑞希にも来生にも顔を知られていた。彼は電車の中で瑞希に痴漢して、その後もフラフラと瑞希の後をつきまとった。

 そして瑞希は、とある建物の中に入っていった。そしてその数分後、その建物の前に来生が降りてきた。そして来生は無言で田村を睨みつけ、彼を追い払った。

 事務所の建物には、〝竜宮ファミリー〟という看板が立っていた。田村は、その名前をネットで検索した。そしてそこが、生活困窮者支援の慈善団体であることを知った。

 来生から一度は追い払われた田村であったが、再び建物の前に戻ってきた。そしてこっそりと、建物の様子を伺っていた。

 すると建物から、瑞希と来生が出てきた。そしてどこかに向かって、歩き出した。

 それを田村は尾行した。すると、この公園に辿り着いた。

 瑞希たちは、公園内に点在するダンボールハウスの中に、出たり入ったりを繰り返していた。出てくるときには、中にいた者も一緒に出てくることもあった。そして出てきた者は、みんな瑞希たちについてきた。それがどんどん増えていき、今では二十人くらいになっていた。

 そして彼らは嬉々として、

「われら、パンチラ同盟なり!」

 などと、叫んでいるのである。

 まるで狂人集団だ。

 しかしそんな楽しそうなホームレスたちが、田村には羨ましく思えた。

「あのー……」

 田村は、小金井に声をかけてみた。

「ん、なに?」

 小金井は、上機嫌そうである。

「そのパンチラ同盟なんですけど……、僕なんかでも参加できますか?」

「は?」

 小金井は不思議そうに、田村を見た。そして周りに叫んだ。

「おーい、この兄ちゃんが、パンチラ同盟に入りたいんだってよ!」

 それを聞き、ホームレスたちは大爆笑した。

「あんちゃん、普通の人じゃないか。ダメダメ」

 そう言う者もいれば、

「まあまあ、いいじゃねえか。パンチラさんは共有財産だぜ?」

 そう言う者もいた。

〝パンチラさん〟というネーミングを聞き、みんなは大爆笑した。

「いいね、〝パンチラさん〟。うん、それでいこう!」

 一人が、そう叫んだ。

「しかしよう、お兄ちゃん。なにか手土産の一つでもないのかい? タダでパンチラ同盟に入れてもらおうなんて、ちと虫が良すぎはしないかい?」

 笑いながら、そう言い出す者もいた。

「手土産とは、具体的に何を持ってくればよろしいですか?」

 田村は汚い男たちに卑屈な笑顔を向けて、そう尋ねた。

「酒だ酒、酒もってこい!」

「そうだそうだ!」

「酒だ酒、酒酒酒!」

 ホームレスたちは爆笑しながら、そう叫び始めた。

「は、はい! ただいま!」

 田村は、すぐに走り出した。

 そしてコンビニで、ごっそりワンカップの日本酒を仕入れてきた。手に持った大きなビニール袋はパンパンで、今にもはち切れてしまいそうだ。

 公園に戻ってきた田村は、さっそくホームレスたちにそれを配り始めた。

「おー、兄ちゃん、ありがたいねえ」

「いやー、うれしいねえ」

「すまんねえ、兄ちゃん」

 ホームレスたちは大喜びである。

「これで僕も、パンチラ同盟に入れてもらえるのでしょうか?」

 おずおずと、田村はそう尋ねた。

「うん、いいよな、みんな?」

 一人のホームレスがそう尋ねると、

「構わん構わん」

「よっしゃよっしゃ」

「じゃあ俺たちは、義兄弟のちぎりだ!」

 などと、それぞれが叫び始めた。

「先輩がた、ありがとうございます!」

 田村は入会が認められた気配を感じ、嬉しそうにそう叫んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ