一五
自宅に入った瑞希は、早速ひとりファッションショーを始めていた。
ミニスカートを穿いた自分は我ながらとても可愛らしく、セクシーである。しかしこれだと下着が見えてしまうらしい。そして、〝パンチラさん〟などと呼ばれてしまうし、痴漢にも遭ってしまう。だから、ミニスカートは穿かないほうが良さそうだ。
彼女はズボンを引っ張り出し、穿いてみた。
(うわー、似合わない……)
スタンドミラーにズボンを穿いた、地味な女の姿が映った。
(これは酷い……全然可愛くない……)
改めて、ミニスカートを穿いてみる。
(やっぱりこれこれ……すごく似合ってる……)
膝丈スカートも穿いてみるが、やはり似合わない。それを穿くと、どこにでもいる地味な女に見えてしまう。
(うーん……)
彼女は頭を悩ませた。
どうしても自分の美貌のレベルを落とすような服装はしたくない。あくまでも自分の美貌を最大限に引き立たせるような服装がしたい。
自分の美貌やセクシーな姿を、多くの人に見せびらかしたい。
そんな自分の強烈な欲求に、彼女は今更ながらに気づいた。
しかしまた痴漢されるのは絶対に嫌だ。スカートの中を覗かれるのも嫌だ。だからどうしても、ズボンを穿いたほうが良い。
(仕事の制服だと思って……)
自分にそう言い聞かせてみる。
ズボン、膝丈スカート、ミニスカートと、何度も穿きかえ、鏡をみて、悩む。
膝丈スカートを穿くと脚が短く見えてしまい、がっかりしてしまう。やはり抜群に似合っているのは、ミニスカートである。それが一番、可愛く見える。
スカートは、短ければ短いほど、脚が長く見える。
そして靴のヒールも、高ければ高いほど良い。ヒールの高さは、十センチ以上は欲しい。
彼女の身長は百六十二──あまり高身長ではない。だから、高いヒールの靴は、絶対に必要だ。それでモデルのように、すらりと脚が長く見える。
高いヒールの靴と、超ミニのスカート。やはりそれが、自分の本来の服装であるように思えた。
やはり女性として、人からは、常に最高に美しい自分を見てもらいたい。そのためなら、多少下着が見えてしまうのは仕方がない。いちいちそんなことを気にしていては、一番似合う服装はできない。
彼女の一人ファッションショーは、長々と続いた。
豹柄の超ミニワンピースや、Hカップのバストをアピールする谷間見せコーデなど、色々着てみる。アクセサリーも色々とつけて、キラキラした自分の姿にうっとりとする。そして改めて、自分が派手でセクシーな服装が大好きなのだということを知る。
今回の服装で、「パンチラさん」などと言われてしまったが、彼女にとっては、かなり地味な、大人しめの格好をしたつもりだ。本当は、もっと派手でセクシーな服装が好みだ。
長々と続いた一人ファッションショーが、ようやく終わった。
それからシャワーを浴びた。
体が疼き、火照っていた。シャワーのお湯が乳首に当たると、声が出そうになってしまう。
痴漢され、スカートを覗かれた。たくさんの男性から、露骨に性的な目で見られた。
それが彼女をゾクゾクと興奮させ、体を熱くさせられた。
しかし彼女には、それを静める術がない。
彼女には自慰をする習慣が無かった。それは罪悪であると、彼女は考えていた。
だから体の疼きを静めることもできず、彼女はバスルームを出た。そして全裸のまま、革のソファーに座った。
もう深夜零時をとっくに過ぎているが、まるで眠くない。
まず、明日のボランティアに行くかどうかという問題があった。もう行かないと決めたが、その決心がぐらついていた。
電車の中で号泣してしまい、自分の情けなさを痛感した。
だから、このままボランティアをやめてしまうことが、悔しかった。少しはマシな大人になるために、もう少し頑張りたいような気もしていた。
彼女は真っ暗な部屋の中でソファーに座り、頭を抱えこんでいた。
現実問題、もうボランティアには行けないだろう。深夜零時を過ぎても全然眠くならないのだから、もし行くとしたら、寝不足になってしまうだろう。
しかし行かない場合、しばらくは家にこもりがちの生活になってしまいそうだ。社会に出ることの大変さに、ほとほと懲りていた。このショックを引きずって、もう二三年は何もチャレンジできないかもしれない。
それを考えると、諦めず、もう少し頑張ったほうが良いように思えてくる。
とにかく、ズボンを穿けば良いのである。そうすれば痴漢に遭うこともないだろうし、下着を見られることもない。
しかしそれが嫌なのである。どうしてもミニスカートを穿いて、可愛い姿で人前に出たいのだ。
自分のこの容姿や美貌に関する並々ならぬ執着は、一体なんなのだろう?
彼女は我ながら、それが不思議に思う。
容姿は、自分のたった一つだけの取り柄なような気がしていた。だからそれを守り抜きたいと、自分は思っているのかもしれない。
(はぁー、なんか辛い……)
ため息をついた。
真っ暗なリビングルームで、全裸の北原瑞希が蠢いていた。
彼女の頭の中は、混沌としていた。そしてその頭の中を、クリアに整理整頓したいと思った。
そのために彼女がやり始めたのは掃除──雑巾がけである。
彼女は部屋を、煌々と照らした。そして深夜に、せっせと雑巾がけを始めた。
見えるところも見えないところも、残さず全部、綺麗にしていく。タンス、ソファー、机など、大きな家具を移動させて、せっせと雑巾がけをする。リビングルームの床を、ピカピカにしようというのである。
その雑巾がけの手は、リビングルームだけに留まらず、バスルーム、トイレにも及んだ。すべてピカピカになっていく。
寝室、廊下、台所、階段も、せっせと雑巾掛けをする。
二階建ての住宅である。
ベッド、化粧台も移動させ、床をピカピカにする。まるで年末の大掃除のようである。
ただし騒音による近所迷惑を考え、掃除機はかけない。黙々と、雑巾掛けだけをする。洗剤は一切使用せず、水で濡らした雑巾だけで、せっせと掃除した。
深夜のその行動は、まるで狂人のようである。
カーテンレールも換気扇も、ピカピカにしていく。
全裸の女が神経質に、せっせと家を掃除するのである。それが彼女のストレス解消法になっていた。
痴漢に触られ性欲を刺激されたが、自慰をしてそれを静めることもできない。その代わりに掃除して、ムラムラを発散させようというのである。
(だいぶ綺麗になったわね……)
そう呟く彼女はもう、汗びっしょりである。
シャワーを浴びた。
そして化粧をして、下着をつける。純白のハイレグショーツと、ハーフカップブラである。
Hカップの豊かな乳房を、ブラがこれでもかというほど持ち上げた。悩ましい胸の谷間は深く、いまにも乳房がポロリとブラからこぼれ出てしまいそうだ。
そんな自分の下着姿を、スタンドミラーで入念にチェックする。
無駄な脂肪はないか。体にシミなどないか。ムダ毛は全部処理されているか。
入念にチェックする。
我ながら、惚れ惚れするような美しい肢体である。
それを見てると、無性に外に出たくなる。この美しい姿を、たくさんの人に見せびらかしたくなる。
(行くわ……)
ボランティアに、である。
彼女はそう決意していた。そしてその決意が鈍らないうちに、なるべく早く出かけようと思った。
始発の電車で行こうと決めた。それなら、痴漢されることもないだろう。
まず、服を着る。
迷った末に、やはり超ミニのスカートを穿いた。
ピンク色のサマージャケット。ピンク色のミニスカート。白いブラウス。
その格好がこの日の仕事着としては、一番相応しいように思えた。ピンク色のミニスカスーツである。
その姿を鏡で見る。
我ながら、清潔感に満ち溢れ、キュートでセクシーある。誰に見られても恥ずかしくないような、素敵な見た目になっている。
白いトートバックを持ち、白いハイヒールを履いた。
そして玄関を出た。
もう三十分後に、始発の電車が出る時間帯だった。自宅から駅まで徒歩で十五分くらいである。
外はまだ薄暗い。まだ早朝四時台の時間帯である。
瑞希は駅に向かって、歩いていく。
始発の電車はガラガラであった。
瑞希は痴漢に遭うこともなく、終着駅に到着した。
しかし到着したとき、時刻はまだ早朝の五時九分であった。そして事務所に行く時間は、九時である。だからどこかで時間を潰す必要があった。
駅周辺には、一晩中飲んでいたらしき酔っ払いたちがウロウロしていた。
「おー姉ちゃん、こんな時間まで頑張るねえ。ホ別でいくらだい?」
「エッチな格好してやがんなあ、おい。スカートあげてパンツ見せてみろや」
「どこの店で働いてんの? 今から一本抜いてくんねえ?」
男たちは、瑞希に卑猥な言葉を浴びせかけてくる。
瑞希の短すぎるスカートを見て、水商売の女性だと思ったようである。ピンクがメインの服装も、いかにも夜の女性のように見えた。
(ひえーっ……)
瑞希は怯えながら、そんな下品な男たちの間を通り抜けた。
そして竜宮ファミリーの事務所の近くにあるファミレスに入った。そこで時間を潰そうというのである。
食欲はまるでなかった。だから、コーヒーだけを注文した。
それを飲んで、しばしぼんやりした。
事務所に行くまで、時間はまだたっぷりある。
だんだんと、ウトウトしてきた。
今になって、強烈な睡魔に襲われた──




