第五話 弁当なんか作るなよぉ……
次の日。
いつも通り自分の席に座ったら、後ろの田崎にちょんちょんと背中をつつかれた。
「おはよう長屋。昨日は桃山さんとデートだったんだろ? 上手くいったか?」
ニヤニヤ笑いながらそんなことを聞かれたので、「お前は恋バナにはしゃぐ女子か?」と心の中でツッコミを入れつつ、ちょうどいいので訂正しておいた。
「凛とは付き合ってない。幼稚園が一緒だっただけだ」
「へ?」
「昨日は久々に再会して盛り上がっちまったんだよ。凛に迷惑だからあんまり付き合ってるとか言うなよ?」
「あ、そうなの?」
田崎はアゴに手をのせてふむふむとうなずいた。
「おかしいと思ったんだよなぁ。お前みたいな普通の男が美少女に言い寄られる訳ないもんなー」
「普通の男とか言うな。失礼だろ」
俺が冗談っぽく言うと、田崎は「すまんすまん」と笑った。
「分かった。クラスの奴等に言っとくよ。転校初日で男と噂になったら、桃山さんも可哀想だからな」
「そうしてくれ」
田崎はお喋りなので、すぐに俺と凛が付き合ってないことはクラス中に知れ渡るだろう。
これで俺も凛も平穏な学校生活が送れる。
俺はホッと胸を撫で下ろしたのだった。
※※※※
それから普通に授業を受けて昼になった。
田崎がちゃんとみんなに話してくれたようで、あれから俺と凛を揶揄う者はいない。
俺はもうすっかりいつもの調子に戻っていて、昼メシのパンを買いに行こうと席を立った。
すると、パタパタと凛が近付いてくる。
「公くーん」
「?」
凛は両手に大きな弁当箱を持っていて、俺に向かってずいと差し出した。
「お弁当作ってきたのです! 一緒に食べましょう?」
「!」
凛の声に、みんな「え!?」と反応する。
付き合ってないのに手作り弁当?
しかも、一緒に食べる?
……それって。
クラス中の好奇心に満ちた視線が俺と凛に注がれる。
「凛……」
「はい?」
俺は頭を抱えながら脱力した。
せっかく誤解を解いてやったのに、手作り弁当など作ったらまた噂になるのは目に見えている。なんでそんなことするかなぁ?
俺は聞き耳を立てているクラスメイトを意識して、小声で凛に注意する。
「弁当なんか作るな」
「え!? もしかして公君、お母様の作ったお弁当をお持ちなのですか?」
「いや……。俺はパン派だが……」
「じゃあ、迷惑でしたか!?」
そう言って凛は弁当の蓋をパカリと開けた。
大きなおにぎりに唐揚げと卵焼き。ほうれん草のコーンバターにタコウインナーまである。
う、美味そう……。
昼はパンばかり食っているので、こういうガッツリ系の食いもんに弱いのだ。
涎を垂らしそうになったが、ハッとしてブルブル頭を振る。
「有り難いけど、弁当なんか一緒に食ったらまた噂になっちゃうだろ?」
「でも……」
凛はションボリしながらうつむいた。
目がちょっとうるうるしている。
やめろよ! お前のそういう表情に俺は昔から弱いんだから!
心を鬼にして目を逸らしたら、凛がぽそりとつぶやいた。
「一生懸命作ったのにな……」
クソッ! 俺の罪悪感がビシビシと刺激される。
ことの成り行きを見守っていた女子が「かわいそー、桃山さん……」とつぶやいているのが聞こえる。
……弁当に罪はない。
タコウインナーにも罪はない。
こんな美味そうなメシを、いらないと言う方が罪だ。
俺はガシガシ頭を掻きむしったあと、はぁーーとデカいため息をついた。
「分かった……。俺が悪かった……。弁当作ってくれてありがとう。一緒に食べよう」
「!」
途端に凛の表情がパーッと明るくなった。
それから今にもスキップし出しそうなご機嫌な様子で「はいっ!」とうなずいた。
「お外で食べましょう! 今日はお天気いいから!」
「はいはい」
俺が投げやりに返事をすると、凛が元気に廊下に向かって歩き始めた。
ついて行こうとすると、田崎にちょんちょんと背中をつつかれた。
「長屋ー。これで付き合ってないとか無理あるんじゃないかなぁ……」
「……」
田崎の意見はもっともだ。
でも、本当に俺たちは付き合ってないんだよぉ……。
クラスの連中は付き合いたてのカップルを見守るような温かい視線で、俺と凛を見送ったのだった。




