第一話 転校生は元護衛
「桃山凛と言います。これから宜しくお願いします」
教壇の前に立った転校生の少女は、そう言ってペコリと頭を下げた。
クラスの連中(特に男)がその子を見てぽおーっと頰を赤らめている。
何故赤くなっているのかと言うと、それはその子がもの凄く可愛かったからだ。
サラサラした黒髪にパッチリとした瞳。均整の取れた体はモデルのようだ。
まさに美少女と言っていい。
だが、俺だけみんなと違う反応をしていた。
その子を見た瞬間ギョッとして、思わず声が出てしまったのだ。
「お、おりん……!」
ヤバイと思って慌てて口を押さえたがもう遅い。
美少女はハッとした表情をしたあと声の主を探すため、キョロキョロ生徒たちの顔を見回した。
そして、俺と目が合ってしまったのだ。
美少女は震えるような声をあげた。
「若様……!」
うぉっ。俺のこと若様って呼んだ。と、言うことはおりんも前世の記憶があるのか。
これなら気まずくないな。
俺は美少女……いや、おりんに向かってニコリと微笑んだ。
「久しぶりだなぁ、おりん」
「若様ぁ……!」
おりんがこちらに走ってきて、ギュッと俺に抱き付いてきた。
クラス中の連中がギョッとしている。
担任など驚き過ぎてメガネがずれている。
「長屋……。桃山と知り合いなのか?」
「あはは……。まぁ、そんなところです」
担任の問いかけに、俺は苦笑しながらぽりぽりと頰を掻いたのだった。
※※※※
俺には前世の記憶がある。
十歳のときに階段から落っこちた衝撃で突然思い出したのだ。
前世は戦国時代に生き、一国一城の主を父に持つ、武士の子供だった。
名を「公乃助」と言う。優しい父と母に育てられ、恵まれた子供だったと思う。
俺には護衛兼、従者のくの一がついていた。
名を「おりん」と言う。
サラサラの黒髪とパッチリした瞳が特徴的な美少女だ。歳は十六、七歳くらいだったと思う。
おりんは俺のことを「若様」と呼び、いつも一緒にいてくれた。
歳の離れた者しかいない城の中で、歳が近い女の子は珍しかった。だから、俺はおりんにとても懐いていた。
だが、俺は病弱で、十二歳で病にかかってしまった。
ある雪の降る日。熱に苦しみ意識が朦朧としていた俺の寝床に、おりんがやって来た。おりんは俺の手を取りこう言ったのだ。
「若様が殿様になることを夢見ておりましたのに、こんな形でお別れするなんて、おりんは寂しいです」
(拙者も寂しい……)
そんなことを思いながら力無く笑うと、おりんは泣きながら言った。
「若様……。若様が生まれ変わったら、また私を従者にして下さいませ。絶対若様を見つけますから……!」
そんなことは無理だと思いつつ、おりんを落ち着かせるため、俺は「あい、分かった……」とうなずいた。
それからほどなくして、俺は戦国の世を去ったのであった。
※※※※
数百年後。
俺は「長屋公」と言う名で現世に生まれ変わり、高校生活を楽しく送っていた。
そんなときに転校生のおりんと再会したのだ。
正直、滅茶苦茶嬉しい。
話したいことがいっぱいあるのだ。
俺はこの奇跡の再会に感動して、ちょっと泣きそうになってしまった。おりんなどワンワン泣いている。
「若様……。大きくなられましたねぇ。最初に拝見した時、あまりの成長ぶりに誰だか分かりませんでした」
「だろ? あの頃はチビだったからなぁ」
不思議なことに、俺は前世の顔と今の顔が全く同じなのだ。それはおりんも同じだ。だから今世でも混乱することがなかった。
「でも、面影がございます。更に凛々しくなって、おりんは胸がドキドキしてしまいます」
「おりんも相変わらず可愛いなぁ」
おりんの顔がリンゴみたいに赤くなった。
「まぁ……。若様ったら、そのような戯言を……」
「ほんとだよ」
「うぅ……。恥ずかしゅうございます……」
おりんは恥ずかしくなったのか、うつむいてしまった。
周りをそっちのけでそんなやり取りをしていたら、担任がゴホンっと咳払いした。
「えっと……。長屋! 桃山! お前らはなにを言っとるんだ!? 時代劇ごっこは外でやりなさい!」
『若様』とか『おりん』と呼んでいたので、時代劇ごっこをしていると思われたようだ。
俺たちはクスリと笑い合い、『はーい』と返事をしたのだった。




