第1章
長い連休が終わり、新たな一日が始まる。
他の学校も当然のように、外には他校の制服の学生風情らが見える。
その様子を少し垣間見た「雫」は時間を確認する。
「7時半か・・・」
そろそろ時間なのだろうか、雫は自分の部屋に戻り制服を着始める。
慣れた手つきで制服を着終えた雫は、この家のもう一人の住居人である双子の兄の部屋に足を運ばせる。
というのも、この家には二人以外に誰もいない。
彼らの両親は彼らが幼い時に失踪、未だ見つかっていなく死亡者扱いになっているかもしれない。
なのでこの兄弟(一時間差で生まれた二卵性の双子)は二人だけで生活をしてきたのだった。
雫は兄である「刹」の部屋まで来ると、ノックもなくドアを開けた。
ベットを見ると寝ている男が一人。
やはり刹だった。
気持ち良さそうに寝息・・・いびき?を立てている刹に雫はため息をついた。
呆れるような顔をして雫は刹に近づく。
「・・・おい起きろ、刹。顔踏みつけるぞ。」
そう言いながら雫は足を上げ刹の頭に置く。
いや、もう踏んでいるに近かった。
しかし、刹は全く起きる気配を見せない。
雫はだんだんイライラしてきたのか足にどんどん力を入れ始めた。
しかし、そんなことにも動じないで刹はかなり気持ちよさそうに眠っている。
「はぁ・・・、春がこの姿を見たらどう思うか・・・」
「春ちゃん!?どこだ!?春ちゃんはどこだ!?」
雫がため息交じりに呟いた瞬間、刹は操られているかのように飛び起きた。
「あれ?春ちゃんがいない・・・。てか、雫何してんの?」
「朝だ。早く支度しろ」
雫は刹の質問に答えることなく部屋を出て行った。
「何だあいつ?今日なんかあったっけ?」
刹は少し考えたがめんどくさくなり起き上がった。
そして、毎日の日課である顔面チェックを始めた。
「よし!正面は大丈夫、ななめ45度からも大丈夫、決め顔も決まってる・・・やっぱ俺ってかっこいい~!この世界で一番かもしれないな。やめろよ!照れるじゃん」
端から見ると鏡に映る自分と会話する可哀そうな人物にしか見えない。
しかし、本人は世界に浸りきっていて全くそのことに気付かない。
そして10分ぐらいのチェックを済ませ、パジャマのまま部屋を出てリビングにむかった。
リビングは2人で暮らすには少し広いくらいの大きさがあった。
キッチンとつながっており、食事も簡単にできるようになっている。
部屋にあるのは、テーブルとソファがあるだけで少しさびしい印象を与える。
しかし、2人で暮らす分には全く問題なかった。
刹が席についたときには、雫は朝食を食べ終わっていた。
刹も用意されているトーストにかじりついた。
「早く食べろ。遅刻する」
刹はそう言った雫を見て笑った。
「何言ってんだよ!今日は休みじゃん!制服まで着て雫はバカだな~」
そんな刹を見て雫は少しため息をついた。
「今日から学校。早くしないと遅刻する」
また刹が笑おうとした時、外から女の子の声がした。
「刹~!雫~!何してるの~?早くしないと遅刻しちゃうよ!」
元気で鮮明な声。
二人はこの声が分かっていた。
この声の正体は、二人の幼馴染である「春」の声である。
幼いころからずっと遊んでいて、まして今でも一緒に登校し、夏休みの間も何度か顔を合わせている二人にとって、春の声を聞き落とすことは無かった。
「春ちゃん!?・・・うぅ、ゲホゲホッ!」
春の声を聞いた刹は驚愕し、そして噎せた。
「今日から学校。何か反論は?」
噎せている刹に雫は立ちあがりながら問う。
それと同時に傍に置いてあった鞄を手に取り、刹の返答を聞く耳を持たないのだろう、さっさと玄関に足を運んでいった。
「お、おい。雫、まて!先に春ちゃんにあいさつをするのはこの俺だ~!」
急いで朝食を食べ終え、着替えるために刹は慌ててて部屋に戻る。
「早くしろ、ウスノロ」
一言誹謗すると雫は靴を履き、玄関で立ち止まる。
刹はすぐさま着替えて、制服を着て、顔を洗い・・・etc、普通なら15分はかかるであろう事を見事5分で成し遂げた。
「やっぱり俺ってスゲ~♪」
と言いながら、玄関に向かう。
壁にもたれながら玄関で立っていた雫は刹を確認すると今日二度目のため息をついた。
「雫!春ちゃんは?」
「外。・・・もう6分は待ってるんじゃない?」
雫は憐憫な目で刹を見る。
刹はその目を気にしないのか、深呼吸して、ゆっくりと玄関扉を開けた。
「春ちゃん、おっはよ~!」
さも何事も無かった様な、落ち着いた雰囲気で刹は春に挨拶をする。
「おはよう、春。悪いな遅くなって。」
刹の後から出てきた雫が、鍵を閉めながら春に挨拶をする。
「おはよ♪ 二人とも。もしかして今日から学校だってこと忘れていた?」
春は笑顔で挨拶をする。その様子だと待たせた事に対して全く怒ってないようだった。
春の顔を見て刹が笑顔で答える。
「全然覚えてるよ~。この俺が忘れるわけないじゃん。な、雫?」
雫は、なぜ俺に聞く?と言いたそうな目で刹を見た。
「・・・まぁ、どっかの馬鹿は以外はな」
雫は静かにそう呟く。
それを聞いた刹は無意識に動揺した。
「あれ?刹、どうしたの?顔が引きつってるけど?」
雫の言葉が聞こえなかったのか、意味を理解していないのか、春は刹の顔に疑問を感じた。
「い、いや~、何でもないよ!うん、何でもない。それより春ちゃん早く行こうよ。遅刻しちゃうよ?」
苦笑いをしながら刹は春を促す。
「早く行くぞ」
途中でほくそ笑んでいた雫が数歩進んで言った。
「あっ、雫、ちょっと待ってよ~!」
春が雫を追いかけ、隣に並び、刹もまた後を追う。
「雫、後で覚えとけ~!」
そう雫に叫ぶと、刹は春の隣に並ぶ。
これがいつもの登校風景だった。
今日は幾分遅くなったためか、三人の足取りは何時もより速い。
「春ちゃん。いつもより速いし、大変だろ?鞄持つよ。」
「大丈夫だよ刹。ありがと♪」
「刹、調子のってると遅刻するぞ。」
会話も程々に三人は急いで学校に向かう。
案の定、遅刻ギリギリではなかったが、だいぶ遅い時間に登校した。
校門ではちらほら何人かの生徒が歩いている。
それを見て三人は、ここまで来れば大丈夫だろうと歩みを遅めた。
いつもより急いだためか雫は少し息を切らしていた。
「雫、大丈夫?」
いつもと変わらない顔で息が乱れている雫に、春は心配の声をかける。
「大丈夫、少し疲れただけだ・・・」
息を整え、雫はそう答える。
刹は雫が春に心配されてるのを見て少し嫉妬した。
そこで刹も雫の真似をして息を切らした。
「はぁはぁはぁ、もう死ぬ・・・」
刹にとっての迫真の演技である。
それを聞いた春は、
「あは♪刹は元気だから大丈夫^^」
と、当たり前のように答える。
「俺、元気じゃない・・・」
刹の演技は続く。
その刹を尻目に、雫が刹に気づかれぬよう春に耳打ちする。
春は雫の言った通りに言葉を発した。
「元気の無い刹なんて、らしくないよっ!元気な刹の方がいいな~」
春は笑顔で言う。
その言葉を聞いた途端に刹は元気になった。
息も切れてない。むしろ元気さアピールのためにその場でスクワットを始めた。
「ホントに元気になったね」
春が刹に聞こえないくらいの声で雫にささやいた。
「やっぱり雫は刹の事何でも知ってるんだ~♪。」
雫はその言葉に何も答えず、ただ歩き続けている。
「ほら、刹も元気なのは分かったから行くよ」
「は~い」
刹と春も、雫の後を追いかけて行った。
昇降口をくぐり、げた箱で靴を履き替えると三人はそれぞれの教室に向かって歩き出した。
1年生は3階に教室がある。
クラスわけは雫が1人で春と刹は同じクラスだった。
3人は先に雫が教室に着くと、挨拶も程々にそれぞれの教室に向かった。
刹と春が教室に入室すると、黒板に朝の連絡事項を書いている女子生徒が二人を見る。
その生徒は二人を・・・いや、春を見てにっこりする。
背は春より少し高めで腰まで届く髪の毛がすごくきれいな人。
名前を「雪」と言った。
「おはよう、春。」
ちょうど連絡事項を書き終えた雪が春に挨拶をする。
「あ!雪ちゃんおはよう!」
春も雪に気づいたらしく駆け寄ると、両手を広げ、いきなり飛びついた。
「わっ!いきなりどうしたの?」
雪は急に飛びついてきた春をを受け止め、驚きと嬉しさ半分で言う。
春は雪から顔を離すと、満面な笑顔で雪を見た。
「ん~ん、久しぶりで嬉しかっただけ^^」
春がうれしそうに言う。
2人は小学生からの親友であり、よく二人で遊んだりもしていた。
刹、雫とはまた違った友情があるのだろう。
「春~大げさ。夏休みでも会ったでしょ?まぁ、春らしいけど。」
仲の良い姉妹のように二人は話し続ける。
刹は2人のやり取りを見ながら
「俺も女の子だったら春ちゃんに飛びついてもらえたのになあ」
と、1人ぼやいていた。
しばらくするとチャイムが鳴り、それと同時に担任の先生が入ってくる。
「きりーつ!礼!着席!」
挨拶をすませるといつものごとく、恒例の先生の話が始まった。
刹はこの担任の先生が苦手だ。
今まで幾多の戦いをしてきただけに、この先生の恐ろしさは分かっている。
これまでの戦歴は5勝2敗1引き分け3試合放棄であった。
今日も戦いの予感(大半は自分のせいだが)がびんびんする。
刹は夏休み前からある兵器を作っていた。今日はそれを初めて使う日である。
何も知らないで話している先生を見て刹はほくそ笑む。
作戦の失敗は許されない。なので入念に最終チェックを始めた。
4時間全てを使ったチェックが終わると、ちょうど午前の授業も終わりだった。
先生が教室から出ていくと辺りは一気に騒がしくなる。みんな昼食なのでテンションが上がっているのだ。
授業よりも準備に疲れた刹は軽く伸びをし、昼食を春と一緒に食べようと思って春を探した。
しかし、春はすでに仲の良い生徒数人と楽しそうにご飯を食べていた。
それを見て刹は少しショックを受け
「俺と春ちゃんの幸せな時間が・・・」
そのままがっくしと肩を落としていた。
するとそんな刹を見て友達の朔が声を掛けてきた。
「刹、振られちゃったか?」
朔はからかうように言う。
「うるせ~よ」
刹が春の事を好きなのはクラス全員(春以外)が知っていることだった。
「まあ、どうせやで購買でも行こうぜ」
朔が刹を誘う。
刹は雫と違って弁当を持って来ない、というか、作れない。
「はぁ、男2人で購買かよ・・・行くか~」
刹は朔と共に、渋々歩き出した。
この学校は珍しく購買と学食の二つが設けられている。学食と購買は隣り合っており、購買で買った物を学食で食べる生徒も結構多い。
教室を出るのが遅かったせいか、購買は既にものすごい人でごった返していた。
2人は軽く体操をすると身構え、集中する。
「刹、死ぬなよ」
「お前もな」
それだけの言葉を交わすと人の波に突撃した。少しでも前に出ようと無理やり進む。
刹は突撃したはいいが、あまりの人の勢いにその場から動けなくなった。
朔はこの場に慣れているのだろう。人をかき分けてどんどん進んでいく。
その背中を見ていた刹は、突然良いことを閃いたかのように前に進むのを止める。
そして、刹はニヤッと笑うとその時を待った。
しばらくして「カツサンドゲット!」という朔の声が聞こえた。
そして、人ごみをかき分け朔は嬉しそうに戻ってくる。
「刹!刹!カツサンド手に入れたぜ!」
顔を真っ赤にしてすごく喜んでいる。しかし、刹はそんな朔の手からカツサンドをとった。
「ちょっ!なにすんだよ!」
怒ってカツサンドを取り返そうとする朔の手をよけて、代わりに足払いをした。
「えっ!ちょっとま・・・うわああぁぁぁーーー!!!!」
朔はあっという間に人波の呑みこまれていった。
朔の叫びが聞こえた気がしたが無視して人ごみから出た。
「カツサンドのために尊い犠牲を払ってしまった(涙」
刹は手を合わせ朔のご冥福を祈り購買を後にした。
ふと目を向けると学食に雫がいるのを発見する。
「おーい!しーずーくー!」
刹が叫ぶと周りの生徒と一緒に雫がこっちを見た。
学食にいる生徒たちに一斉に注目されるが、刹は全くそのことを気にしない。
散々視線を集めた刹が雫の前に立つ。
「雫!昼飯食ったか?」
雫が刹を睨む。その目は、近寄んなカス!と言っているようだった。
「何睨んでんだよ~。あっ!もしかして照れてるのか~?」
刹の言葉を聞いて雫は弁当の蓋を閉じ、席を立つ。
「・・・」
何も言わず、これ以上関わるまいと、刹を無視して雫はさっさと退出していく。
「あいつ、なんだよ。つれないな~」
雫が去った方向を見ながらつぶやいた。
「そういや何であいつ、教室で食べないんだ?ま、良いか。」
気を取り直して席に着くとカツサンドの袋を開けた。
「いただきま~す!」
早速食べようとしたとき、遠くから声が聞こえる。
「刹ーーー!!!俺のカツサンドを返せ~!」
購買の近くから朔がこっちを睨んでいる。
朔はもみくちゃにされたのか服もボロボロ、髪も乱れまくりだった。
なぜか、みんなが横に退いて一本道が出来上がる。
刹はとっさに身の危険を感じて駈け出した。
しかし、今日の刹はついてなかった。
今の騒ぎを聞いて誰かが呼んだのだろう。入口に担任が立っている。
「また、お前たちか!今日こそは許さんぞ!」
相手が刹ということもあり完全に担任は戦闘モードになっている。
刹と担任は事あるごとに戦っている。大体刹の罠に担任が引っかかり負けるのだが、時たま刹が先生に捕まり説教を浴びせられるようにくらう。
宿敵を前にして、刹は反射的に後ろに逃げようとした。しかし、後ろを向くと朔がものすごい形相で走ってきている。
前門の虎、後門の狼のような感じである。
しかし、そんな状況にも関わらず刹は冷静だった。恐ろしいスピードで悪知恵が働いている。
そして、ついに1つの作戦が出来上がった。この作戦を使えば絶対に助かる。
刹は突然朔に満面の笑顔を向けた。
「何笑ってるんだ!」
当然朔は余計に怒った。
しかし、刹がさも反省したかのようにカツサンドを差し出すとおとなしくなった。
「ごめんな、返すよ」
「最初からそうすれば・・・」
ぶつぶつ言いながらも朔はカツサンドを受け取ろうと手を伸ばした。
しかし、その手がカツサンドを掴む前に刹はカツサンドを後ろに投げた。
「俺のカツサンドーーー!!」
朔は飛んでいくカツサンドをとるために刹を飛び越えた。
しかし、後ろからは担任が走ってきている。
「おわっ!先生どいて!」
朔のそんな声もむなしく担任に思いっきり突っ込んだ。
さすがに担任も朔の体重は支えきれず後ろに倒れた。
「朔!いきなり飛び込んでくるとは何事だ!」
朔は立ちあがりながら怯むことなく言い返した。
「先生こそ、どいてくれたら良かったんですよ。しかも受け止められなかったし・・・もしかして筋肉なかったりするんじゃないですか!?」
その言葉を言った途端、あたりが一瞬凍りついた。
担任は完全に刹に対してより朔に対しての怒りの方が勝ったようだ。
「朔よ。お前は1回絞め上げなければ分からないようだな。」
担任は明らかに殺意を抱いていた。さすがの朔も身の危険を感じる。
「今から生徒指導室に来い!!」
「マジで勘弁だって!誰か助けてくれよ~!!」
そんな哀願も空しく皆が朔に同情と憐みの視線を送っていた。
朔は皆の視線に助からないことを悟るとおとなしくなり、担任に腕を掴まれ引っ張られていった。
刹は本日2回目の朔の冥福を祈った。さっきよりもかなり真剣に祈った。
皆も刹をまねて祈っていた。
担任が去るとまた学食は元の喧騒に戻った。
「まあ、今回も俺の勝ちだな!やっぱ俺ってサイコ~!!」
そんな独り言を言いながら投げたカツサンドを拾う。少し形は崩れてしまったが食べれるだろう。
刹は席に着くとすごい勢いでカツサンドを食べて、教室に帰っていった。
教室に着くと春が少し心配そうな顔で近寄ってきた。
「聞いたよ~。学食でまた暴れたんだってね。」
すでに学食での出来事は学年に広まっているようだ。まぁあれだけ騒いだら当然だろう。
「大丈夫?怪我はない?」
本気で心配している顔で刹を見る。
「」




