そして皆引退した
どこ行っても魔物が跋扈しているこの世界は、そもそも創世神話時代から色々とやべぇとしか言いようのない伝承ばかりでこの世界に生まれ落ちた住人からすればそれがすっかりデフォルトではあるのだが。
だからといって慣れてるから対処できるというわけでもない。
世界はこういうもの、と受け入れつつもちょっと油断するとすぐ死ぬような物騒な世界である。
まず創世神話時代に神様がちょっと失敗して魔物を大量に解き放ってしまっただとかの話からしてどうかと思う。
最初は人間たちに対するちょっとした試練のつもりでダンジョンだとかを作ってそこに宝物とそれを守る番人として用意するだけのつもりだったらしい。
実際にダンジョンという不可思議極まりない謎施設がこの世界には各地に存在しているし、防犯上どう考えてもこんな場所にあるはずなかろうと言いたくなるような宝物が奥に用意されているので神話の内容そのものを全部嘘とも言い切れない。
ただ、ダンジョンに入らなければ平和であるはずだったこの世界は、神様のうっかりによってダンジョンに入らなくてもそこかしこに魔物が出没するとんでもデンジャラスワールドになってしまっただけで。
ダンジョンに行くだけなら、勇敢な戦士たちだけで問題なかったと思われる。
けれどもそこかしこに出没するとなれば、戦えない人間たちからすると一溜りもない。
下手に町や村の中に入り込まれた時点でロクな抵抗もできない人間たちにとっては絶望的。獲物として殺したり食べたりする魔物にとってはビュッフェ会場そのものである。
故に自警団だとか騎士団だとかは重要職だ。守りのない土地で生きていくのはハードモードである。
皆が皆戦えるだけの力を持っていればいいが、人間には得意不得意があって戦えるやつは戦えるけれど、戦えない奴は何をどう頑張っても強くなれない。自衛手段すら持てない者からすればとても世の中不公平。
神様のうっかりミスで世界の危険度がぐんぐん上昇したわけだけど、神様はそれをごっめーん☆ で済ませたりはしなかった。人間にも対抗手段を与えるべく、様々なスキルだとかを与えたのである。
とはいえ。
神様の力はとても大きく、また人間という存在はとても矮小。
神様がえいっ☆ で力を与えたとして、その能力が一人一人に適したものになるわけがなかった。力を与える相手が一人や二人程度なら神様もじっくり吟味してこれだ! という能力を与えられたかもしれないが、何千どころか何万、何億といったくらいにいれば一人一人に適した力を与えるとか、時間がいくらあっても足りるはずもない。大体人間すぐ死ぬし、気付くとまた産まれている。いくら凄い力を持ってる神様でもリアルタイムつきっきりで人間ちゃんのために時間を割けるわけでもないのだ。
故に、神様は人にスキルを与えてくれたとはいえ、それはなんていうかとても……大雑把なものであった。
だが文句を言えようはずもない。
神の御加護を失えば人間あっという間に魔物にやられて滅びの道一直線。
自分一人で生きていけるぜ、という力を持つ者は少数だが、大半は与えられた力を他の人たちと協力して使えばどうにか生き延びることができるようになったのだ。
スキルを与えられる以前よりは、生存率は確かに上がっている。
さて、魔物にある程度抵抗できる力を得た人間たちは、そうして平和を勝ち取るために防衛しているだけ……とはならなかった。折角ダンジョンにお宝があると知っているのだ。金銀財宝を手にすれば生活に困らないだろうし、何か凄い力を秘めたアイテムとかが出ればそれはそれで。
魔物を遠ざける力を持つ、だとか、そこそこの魔物であっても一瞬で葬る力を持つ武器、だとか。
まぁそんなのがあれば、危険を冒してゲットした甲斐があろうというもの。
ダンジョンは命を落とす危険が確かにあるけれど、同時に人々の生活を潤す一種の施設扱いとなっていた。
ダンジョンで見つけた便利アイテムだとかを高値で買い取りたい、なんていう相手も出てくるし、けれど中にはそういったアイテムをなるべく懐を痛める事なくゲットしたいという考えで犯罪に手を出したりするようなのも現れて、結局各地に冒険者ギルドが設立されてダンジョン関係のやりとりはここで! となったのもまぁ当然の流れだろう。
いかんせん神様が与えてくれた力がざっくりすぎて、個人でどうこうできるものでもないからそうなると集団行動でダンジョン攻略だとかをする事となる。
とはいえ、与えられた能力がざっくりしすぎて使いこなせていない者もまた多く存在していた。
というか、与えられた本人もマトモに把握できていないとかザラである。
どれくらいざっくりしすぎているのかというと。
例えば強さをある程度数値化しようとなったとして。
ステータスがハッキリわかれば冒険者たちも自分と実力の近い相手と組んだりできるのだが、個人のステータスを判明させる方法がほぼ無い。
パーティを組んだら全体の合計値みたいなのをざっくり理解できるスキルはあれど、個人のステータス詳細がわかるスキルとかはない。
複数名とパーティを組ませて、そこから誤差をあれこれ出して何となく個人の能力値はこれくらいか……? と推察する事はできるが、とても非効率的。
一人二人の数値を出すならともかく、数十人、数百人で済まない数でやれとなれば、ざっくりとはいえ数値割り出しができる能力持ちの人間だって軽率にブチ切れる。
一つのパーティのみの合計値がわかる、とかであればソロでやってく相手とかもわかるのではないかと思ったが、ソロ活動している相手のステータスはどうしたってぼやけてギルドで働くその手のスキルを持つ者にはさっぱりわからないままなのである。
二人で組んだ場合は何となくふわっと合計値が表示されたりもするのだけれど。
とはいえ、ソロ活動で行動できる冒険者というのはほぼいない。
いくら神様から魔物に対抗できる力を与えられたといっても、個の能力だけではとてもじゃないがやっていけないのだ。極まれに一人でやっていけそうな強力な力を持った者もいないわけではないが、そういう相手大体力に溺れて破滅するコース。もしくは自分が神になろうとか言い出して怪しげな宗教作って国が危険視して討伐コース。場合によっては神罰下ったみたいな死に方した話もある。
神様的には皆で協力して頑張ってね、とかそういうのがあるのかもしれない。
ステータスが集団での合計値しか表示されないのも多分そういうアレじゃないか……? と人間たちは思うようになっていた。
神の力大きすぎて人間が全部理解できるのは無理。この世界ではこういうもの、と納得しないととてもじゃないがやってられない。一応研究しないわけじゃないけれど、割と早い段階で人間たちの認識はこんな風になっていた。
集団にならないと大体のステータスがわからない、という不便はあるが、デメリットばかりではない。
パーティを組む事で冒険者たちが得られたメリットの最たるは何か、と言われれば魔力共有である。
総HPだとかは全体の生命値という認識しかないが、総MP値に関しては大きければ大きいほど良いとされている。
命を共有は無理でも魔力の共有をする事で、与えられたスキルを活かせる機会が増えた。
例えばとても強い魔法を与えられていても、自分の魔力量が足りず発動できない、なんていう人はやたらといる。自分に与えられたスキルが何か、というのを知る事はできる。けれど知ったからといって魔力量が足りないと使えないのである。
重傷に瀕した死者寸前の相手を癒せる力があっても本人の魔力が足りないとなれば、完全に宝の持ち腐れ。けれどそういう時にパーティ組んで仲間の魔力を使えるようになれば、その力は大いに役立つわけで。
そもそも魔法と一言で言っても何でもかんでも使えるわけでもない。色んな種類の魔法が使える者はとても少なく、大抵は使えても一つの魔法だとかである。
魔法を使えない者だって当たり前のように存在していた。
だが、魔力を持たない人間はいないらしく、魔法が使えなくとも何故だかやたらと魔力だけはたっぷり持ってる、なんて者もいる。
冒険者として活動している者たちは大体五名前後でパーティを組む。大勢で行動すればその分魔力量も増えるだろうけれど、しかしあまりに大勢になると宿の部屋が足りないだとか町に立ち寄られても食料だとかの物資が必要量手に入らないだとかのデメリットも大きく、というかそもそも武装集団が町や村にやってくるとなると中々に警戒対象になってしまうので国で定められたというのもある。
実際過去に冒険者メンバー装った強盗団とかいたのでそこら辺とても警戒対象。
ギルドでもパーティメンバー結成する時に一応事前説明されるし、あまり多く仲間を増やすとそれとなく警告されたりもする。
人数制限があるので、ダンジョン攻略は中々に大変である。
ごり押しできるだけの実力があればいいが、大半はそうでもない。
知恵を絞り、時に勇気を振り絞り、そうやってダンジョンの奥に眠る宝を目指すのである。
なのでまぁ、組んだはいいけどなんか違うな、と思う事も中には普通にあるわけで。
例えばその人の使える魔法目当てで組んだけど、思ったより使う機会がなかっただとか、もっと魔法を使いたいけど困ったことに魔力総量が足りず……なんて事だとか。
攻略しようと思うダンジョンによって特色があったりもするので、最初から最後までずっと同じメンバーで活動している、という冒険者は意外と少ない。
パーティに関してはメンバーの入れ替えとか冒険者ギルドで簡単な手続きは必要になるが、むしろよくある事なので手続き自体はそこまで面倒なものでもない。すぐに終わる。
あまり複雑な手続きだと、過去手続きを面倒がって抜けてもらいたい相手をダンジョンで死ぬように仕向けたりする奴が出たのだ。そこまで複雑ではなかったはずだが、今と比べると多少面倒だったのは否定しない。
ともあれ、パーティを抜けたり入ったりするのはよくある話であるのだが。
「ケイン、お前にはパーティを抜けてもらう」
冒険者ギルドと併設された酒場にて。
パーティのリーダーに言われ、ケインはあまりにも突然の事にきょとんとした顔で目をぱちぱちと瞬かせた。
「随分と突然だな」
「いいやそうでもないぞ。これは他の仲間と話し合って決めた事だ」
リーダーのディーンに言われてケインは他の仲間たちに視線を移動させるも、誰一人としてケインと視線を合わそうとはしなかった。あまりにも露骨に目を逸らされて、あー、と大体納得する。
とっくに仲間たちの中での話し合いは終わっていて、今更ケインがここで何を言っても聞き入れてはくれないやつだ。
ダンジョンに置き去りにされないだけマシかもしれないが、それにしたってあまりにも突然の事すぎてケインは心情的にちょっとどうかなと思い始める。
いや、確かに最近仲間たちの態度が冷たい感じがするな、とは思っていたのだ。
ケインの持つスキルは運搬スキルというもので、重たい荷物であっても特に重さを感じさせずに、丁寧に運ぶ事ができるとかいうものだ。
荷運びの仕事に就けばとても活躍できそう。
だがダンジョンの中に行くにもそれなりに役に立てなくはないのだ。戦闘では使えないが、ダンジョンで見つける道具の中には壊れやすい物も存在する。そういったアイテムを運ぶ時には役に立てるし、他の戦う仲間たちの荷物を運ぶ事で仲間たちが戦う事に集中できる。戦闘面での活躍はないが、それでも全く役立たずというわけではないはずなのだ。
だが仲間たちはそうは思わなくなっていったのかもしれない。
実際荷物を運ぶだけなら自分たちでもできると思うだろうし、壊れやすいアイテムが出現しない限りはそこまで気にする事もない。
一人で全部の荷物を持つとなると大変だが、各自で必要な物を持って移動するくらいなら問題ないと思う者は当然いるだろうし、そうなると荷物持ちがそこまで役に立つと思わなくなっても仕方がないのかもしれない。
けれども。
「本気で言ってるんだな」
「冗談でこんな所でわざわざ言うかよ」
「そうか」
「あぁ、これから向かう先のダンジョンは魔物も多いけどその分実入りも多いって話だからな。戦えない奴を連れていくのは厳しいんだ」
「成程。じゃあ次に自分の代わりに仲間に入れる相手も目星がついてるのかな」
「そりゃ勿論さ。広範囲に攻撃魔法を使える相手でね、丁度入ってたパーティから抜けたばかりで需要と供給が一致したのさ」
「へぇ」
「だからお前はお払い箱だ。悪いが今後また組むこともないと思う」
「そうかい」
気持ちはしっかり固まっているようだし、これはケインが今更何を言っても聞き入れてくれそうにない。
確かにケインは戦闘に関してはからっきしである。
だが、実のところ魔力は馬鹿みたいに所持していた。何という宝の持ち腐れ。
なのでパーティ効果で魔力共有した場合、他の者たちが魔法を湯水のように使えるようになっていたのだが。
恐らくそれを言ったところで今更彼らの意見が翻る事もなさそうだ。
というのも体力は鍛えればそれなりになるし、魔力だってそうだ。
最初のうちは自分が使える魔法すら自力で発動できなくとも、何度も魔法を使っていくうちに魔力の扱い方を覚え、少ない魔力で魔法が使えるようになる、なんて事もあるらしいし、更に本人の魔力量が増える事だってある。
個人のステータスを確認する方法がないせいで具体的にどれくらい増えただとかはわからないままだが……
ともあれ、魔力に関しては全く成長しないステータスというわけでもない。
それに今までケインの魔力を消費して多くの魔法を使ってきた仲間たちは、もしかしたら魔法に関するコツでも掴んで消費魔力量が抑えられるようになったりだとか、自分の魔力量が上がったのかもしれない。
だからこそここでケインを切っても問題ないと判断したのだろう。そうじゃなかったら一人くらいは渋ってくれたかもしれない。
「わかったよ。じゃあ手続きしてこないと」
「それならもう済ませた」
「……用意がいいね」
ギルドと併設されてるから、手続きをしようと思えば簡単にできるとはいえ、既に済ませたと言う事は話をする前にはもうケインは彼らのパーティから抜けているという事である。なんてやつだ、とケインは思った。
話が終わってからならともかく、話をする前から既にパーティから追い出されたという状況に流石にケインも思う所がないわけではない。
ダンジョンに置き去りにされないだけマシではあるが、それにしたってちょっとどうなんだ、と思ってしまう。
同時にこいつらこんな奴だったっけ……と人として見下げた奴だなとも思ってしまう。
まぁいいか、とも思った。
一応ここに至るまでの報酬だとかはきちんと分配されていたし、無一文で追い出されるというわけでもない。ただ、ディーンが言った今後もお前と組む事はない、という言葉から立つ鳥跡を濁しまくってんな……とは思ったけれど。
うっかり危険な目にでもあっちまえバーカ! と内心で思うくらいには、少し前まで仲間だった者たちへの感情が悪い方向に傾いたのは言うまでもない。
もう少しマシなお別れができていたら、頑張れよ! とこっちもエールを送っただろうに。
まぁ、こういう奴らだ、とわかっただけでも良かったかもしれない。今後の付き合いもないだろうし。
お前らちょっとそれは人としてどうかと思うぞ、と最後に言い捨ててやろうかとも思ったけれど、今のディーン達からすれば見捨てられたヤツの悪足掻きみたいなものだとしか受け取らないだろう。
それどころかそうまでしてここにしがみつきたいのか、なんて言われてもそれはそれでイラッとするので、そうかそうかじゃあ達者でなと全く心のこもってない言葉だけ伝えて、ケインはさっさと酒場を出たのである。
ケインが冒険者をやっていたのは、ダンジョンは危険もあれどそれなりに実入りが良かったからというのもある。何よりケインは幼い頃、ステータスだとかスキルだとか色々調べる時にちょっと引くほど魔力が多いと判明されたのもあったからだ。そんだけ魔力量あるくせに魔法使えないの? マジで? と何度も鑑定系スキルを持った人にあれこれ調べられたため、自分の持つ魔力量が人より多い事だけはわかっていた。具体的にどれくらい多いか、はわからなかったけれどそれを調べるために魔法が使える人と一時的にパーティ組んでそこそこ魔法使ったりしていたのを見る限り、とてもたっぷり、という評価をされた。鑑定系スキルを以てしても正確な個人のステータスがわからないというのはこういう時困るのだが、それでも初級レベルの魔法であれば何十発連打しても問題なかったし、中級レベルの魔法もそこそこ乱発できた。上級レベルの魔法を使える相手がその時いなかったので上級も連発できるかどうかはわからなかったが、魔法を使える者からすればお前一人いるだけでかなり魔法が使えると言われたので、そこは自分を売り込む時に役に立つだろうと思っての事だ。
魔法をあまり使わない己の実力のみで、みたいな脳筋パーティでは役立たずになるだろうけれど、攻撃魔法が使える相手と回復魔法が使える相手がいるならばケインの魔力は大分お役に立てる。
何よりあと何回かしか使えない、という状況で気を張って使いどころを間違えないように立ち回るより、気にせずバンバン魔法を使えるとなるのは大きい。
ディーンたちと組む前に組んでいた冒険者たちは他の大陸に行く用事ができたから、という事でケインとお別れする事になったけれど、もしまたこっちに戻って来て機会があったらよろしくな! ととても穏便なお別れをしていたくらいだ。
魔力タンクとして考えるならば、ケインは確かに戦えないけれどそれでも充分役に立つ存在である。
魔法が使える者で魔力がたっぷり、という存在は実のところ数が少ないので。
恐らくこれも神様とやらの采配なんだろうなぁ……とケインは漠然と考えた事がある。
手に手を取って協力し合え、というのがとてもありありと感じられる。
この世界を作った神にとってきっと大切だったのは原初の人間であり、子孫を含めたとしても精々三代くらいまでではないのだろうか、ともケインは考えていた。
原初の人間と呼ばれる最初の人間たちは確かに神によって作られた。けれど、その子供や孫は神が作ったわけではない。人間たちが交配して産んだに過ぎない――というととてもアレな言い方ではあるが、孫世代あたりまでは原初の人間もまだ生きていたわけで、神もそれなりに愛着を持っていたとは思うのだ。
けれど、原初の人間たちが寿命で死んだ後。子孫が増えたとしても、神からすればそれは勝手に繁殖していっただけの代物――という認識であった可能性はとてもある。
一応全く情がないわけじゃないけれど、しかし手塩にかけてあれこれ面倒を見てあげようとかそういうところまではいかない感じ。
故に、まぁちょっと世界情勢的に大変かもだけど、皆仲良く協力して頑張ってね、という感じになっているのではないかとも。
協力したって生きていけねぇよぉ! というくらいハードモードであったならまたちょっとは違ったかもしれないけれど、協力していけば一応生きてはいけるので。
個人のステータスを判別できない仕様も、魔法が使えない相手の方が何故か無駄に高い魔力を持ってたりする理由も、神様が色々とガバだから、なんて身も蓋も無い理由で納得できてしまうのだけれどそれでも体裁を整えるかのような言い訳をするなら、ここら辺が妥当なのではなかろうか。
いやまぁ、レトロゲームに細かい設定あったかって聞かれるととても微妙なので、ギリギリ自分が納得できる理由はこのあたり、というだけなのだが。
――困ったことに、ケインは前世の記憶があったし、この世界はケインの前世でとっても昔に発売されたゲームの一つである。
ちなみにゲームとこちらの世界との違いは、HP共有まではされていないとかいう部分くらいだろうか。
HPとMPは仲間たちの合計値で表示され、それらがゼロになると魔法が使えなくなったりパーティが全滅する仕様であった。
仲間の数は大体五人。イベント参加で入るNPCもいたけれど、プレイヤーが任意で参加させられるのは五名まで。
仲間になるキャラは沢山いたが、攻撃力が低いけれどHPの高いキャラだとか、ロクなスキル持ってないけど魔力が高いキャラだとか、まぁピーキーなのばっかりである。
この世界に攻略本は存在しないから個人ステータスとかわかりようがないけれど、しかし前世ではゲームの攻略本があったので一応ゲームにいたキャラのステータスはふわっと把握していない事もない。
とはいえ、何分大昔のゲームだ。
キャラのステータスを一人一人覚えてるわけもない。ただなんとなく、あいつは攻撃力がやたら高いキャラだったな、とか、あいつ一見すると役に立たなさそうで馬鹿みたいに魔力持ってたっけな、だとか、まぁそんな感じである。そしてこの世界ではゲームで仲間にならない相手も仲間にしようと思えばできるので、ステータスが未知の相手が沢山いるというだけの話だった。
ケインというキャラはゲームにいなかったけれど、血縁にゲームにいたキャラがいたので何となく察した。そいつは一見すると何の取り柄もなさそうで、普段は平和的に畑耕してるやつだ。誘われなければ冒険者として活動したりもしない。ついでに見た目から戦えそうでもないし、何か光るものを持ってるわけでもない。
才能を見抜けるようなイベントもないので、ゲーム屈指の魔力持ちであるなどと気付ける者は最初からそれを知ってる奴くらいではなかろうか。ケインはそう思っている。
あいつパーティに入れると魔法使い放題になるから魔法使いパーティにして先制攻撃すれば一方的な虐殺しちゃうゲームになるんだよな……と言われていたやつの血縁、それがケインである。
そいつと比べればちょっとは劣るかもしれないが、それでも魔力はバカ高い。なので魔法使いやヒーラーキャラからすれば一緒に行動しておいて損はないはずではあるのだが。
まぁ、解雇されちまったしな。
他の冒険者パーティに入れてもらうにしても、最近ちょっと人間関係に疲れてきた感も否めない。
しばらくはどこかでのんびり過ごすのも一つの選択かな、と思う事にして、ケインは適当にあちこちふらふらする事に決めたのである。
――そんな、これからどうしようかなぁ、と思っていたケインが次の仕事を見つけたのは案外早かった。
他の冒険者に仲間にならねぇか? と誘われたわけではない。
ただ、ちょっと景色の良い場所で心の洗濯でも……と思っていたら同じような理由で通りがかったお貴族様と関わる事になり、まぁちょっと色々おはなししてるうちにそこのお貴族様にだったらうちで働いてくれないか、と熱烈アプローチされたのである。
行きは徒歩だったのに帰りはお貴族様の乗る馬車に同乗である。そして連れていかれた先は勿論お貴族様の暮らすお屋敷。
イリーナお嬢様はなんでも結界魔法を持っているのだが、困ったことに一人ではその魔法が発動できるほど魔力を持っていない。結界魔法は一度発動すれば一月は維持できるらしいのだが、その分消費魔力量がとんでもないのだ。
魔物を寄せ付けない結界魔法。ゲームにはそんなのなかったけれど、まぁここは現実なのでそういうのがあってもケインはそういうものかで納得したし、何より他のゲームや漫画でそういうやつを知ってるので別に驚くこともなかった。
冒険者として活動しないけれどパーティを組む、というのをやっている人たちはそれなりにいる。
魔力を共有できるというのが理由である。けれども、イリーナお嬢様と今までパーティを組んでくれていた使用人たちの中の数名が結婚することになってお暇をください、となってしまったので。
魔力をいっぱい持ってる相手を早急に探すしかない状況になったのである。
魔物を寄せ付けない、とはいっても完全にというわけでもないらしく時たま魔物は襲ってくるが、それでも他の場所と比べれば安全なのは言うまでもないレベル。
けれど、結界魔法が維持できなくなれば危険度は他と変わらないくらいに戻ってしまう。いや、今まで安全に思えていた分体感的に危険度はとんでもなく跳ね上がったと思うかもしれない。
結界魔法維持のために、という理由で五人以上とパーティを組もうにも、手続きが厄介。冒険者として活動するならともかくそうじゃない所でやるとなると色々と面倒な条件がついたりするそうなのだ。
多分過去にそういうの悪用した奴がいたんだろうな……でケインは察した。
お仕事内容は基本的に魔力共有であって、それ以外の業務内容は割と緩め。ダンジョンに行くわけじゃないから危険度は低い。それでもそこらのお仕事よりお給金はお高め。
とくればケインに断る理由は特になかったので。
「ちょっと血縁一人誘っていいですか?」
あいつも引き込んだろ、くらいの軽いノリでお仕事を引き受けたのである。
なお血縁は畑耕せるなら場所は問わないタイプの魔力タンクなので、領地の片隅に畑作っていいなら二つ返事でやってくる。
ちなみに魔力消費に関してだが。
ゲームではパーティで共有し戦闘中に使えば減るし、魔力回復アイテムを使えば回復する。しばらくの間魔物との遭遇率を下げる、みたいな魔法もあったけれど、効果は使った時に魔力を消費しあとは一定の歩数移動したら効果が切れるタイプであった。
ところが現実では少し異なる。
勿論効果がすぐに出るタイプの魔法は使ったらその時点で減って、休めばある程度回復はする。
けれども長期的に効果を維持するタイプの魔法はとんでもなくがっつり魔力を消耗して、しかし一日休めば魔力が回復しきるというわけでもない。
大量消費するとその分回復にも時間がかかるのである。
なので、今までイリーナお嬢様と魔力共有していた使用人たちは月初めにほぼすべての魔力を使い果たして、月が終わる頃にようやく回復しきる、という感じだったらしいのだ。
ほーん、一晩ぐっすり寝れば大抵回復してる自分とは大違いだな、とケインは他人事であったが。
ケインも血縁も馬鹿みたいに魔力があるせいで、ちょっと使ったくらいじゃ消耗した範囲に入らないのである。
なのでイリーナお嬢様とパーティ組む契約して早速結界魔法を使っても、なんというか全然余裕ですらあった。えっ、魔力使った? まだ余裕ですけど? のツラである。
余裕がありすぎたので、他に回復魔法を使える執事もパーティに参加させた。別に危険はないけれど、それでもお仕事の途中でちょっとした怪我をする者も中にはいたので。
危険もなくそこそこのお給金を頂ける仕事。
とてもおいしい。
そんな感じでケインは血縁の畑仕事を手伝ったりお屋敷でお手伝いしたりと、割とまったり過ごしていた。
――さて、ケインと別れて別の相手を仲間に引き入れたディーンたちはというと。
ある意味でわかりやすく落ちぶれていた。
ディーン達のパーティメンバーはというと、まず魔法剣を使えるリーダーのディーン。
魔法は一つ二つくらいしか使えない、なんて者が大半であり、得意属性と苦手属性だって勿論あるし、行く先のダンジョンで出る魔物次第ではびっくりするくらい手も足も出ない事もあるのだが、魔法剣は直接魔法攻撃できずとも剣に様々な属性を付与できるので相手の苦手な属性を突く事に関してはかなり容易な方だ。
複数の敵を纏めて倒すのは難しいが各個撃破するならお手の物。
サブリーダーのリィズは魔法使いである。
とはいえ、彼女の攻撃魔法は一点突破型という感じで、威力は凄いが複数を纏めて相手にするには向いていない。まぁ、それでも上手くやれば複数の敵を倒せないわけではないのだが、敵が密集しているところじゃないと難しい。
やたらと頑丈な魔物であっても一撃で葬る事もできるくらいには火力が高いが、消費魔力量もそれなりなので自分の魔力だけでは二発撃つのが限界である。
弓使いのシャーリーのスキルは生成矢というものだ。
これはカテゴリ的には魔法剣に近いものがある。魔力で矢を複数生成できるし、微量ではあるが属性付与も可能。魔法剣程属性の付与はできないようだが、それでもじわじわと効果を発揮できるものであるし、矢を生成できるという事はつまりダンジョンの奥で矢が尽きるなんて事も魔力次第で回避可能。
消耗品でもある故に、それが尽きれば役立たずになりかねない弓使いだが、彼女のスキルはそれを補うものでもあった。
ヒーラーのウェンドは中級程度の回復魔法と解毒魔法を所持している。
魔力さえあれば回復薬をそう必要としないが、ウェンド本人の魔力量では回復魔法と解毒魔法をそれぞれ一度使えばそれ以上は使えない状態なので、魔力豊富な仲間がいない状態ではあまり活躍できそうにない。
とはいえ、魔力さえあれば大抵の怪我はあっという間に治せるので意外と重宝されている。
以前はここにケインがいたのだが、彼が追放されて代わりに誘われたジャネットはもう既にこのパーティから抜けてぇ~と思っていた。
ジャネットは広範囲に効果を及ぼす攻撃魔法の使い手である。
あまり防御力が高い魔物は一撃で屠れないが、雑魚を一度に殲滅するとなれば使い勝手のよい魔法。
そもそも弱くとも魔物は魔物。弱いと侮って結果数で押されて命を落とすなんて事も普通にあるので、大量に仕留める事ができるというのはそれはそれで強みではある。
一度で仕留められなくとも、他に仲間がいるのであればある程度弱ったやつから始末していけばいいわけだし。
とはいえ、広範囲に効果を及ぼす魔法というのはどうしたって魔力消費量がそれなりになってしまう。
ジャネットが以前パーティを組んでいたメンバーはそこそこ弱い魔物が沢山出るダンジョンで稼いでいたが各々が別の目的を見つけてしまって穏便に解散したばかりであった。
一応仲間の一人に一緒に来る? と誘われていたが、その仲間の目的地はジャネットにとってあまり気乗りしない場所だったので断った。
そうして、冒険者ギルドで仲間募集をしていたところ、ディーンに誘われたというわけだ。
ディーンが目を付けたダンジョンは魔物の数がそこそこ多く出没するところで、そういう場所ではジャネットのような広範囲に攻撃できる相手は重宝される。
仮にジャネットが一度に倒し切れなくとも、他の仲間たちが倒せばいいだけの話だ。
とはいえ。
ジャネットはなんだか嫌な予感がしていたのだ。
だから念の為、まずは初心者が行くようなダンジョンでちょっと連携とか確認したいと言った。新たに冒険者がパーティを組む時は割とよくやるので、別におかしな提案ではない。
ジャネットは前のパーティにいた時、使える魔法回数はそこまで多くなかったけれど、その分他の仲間たちがフォローに回れる奴ばかりだった。とはいえそれは、それなりに組んでお互いどう動けばいいかわかっていたというのもある。だからこそ魔法の使いどころさえ間違わなければいいだけの話でもあった。
ところがだ。
ディーンたちと一緒にまず小手調べとしてやって来た超絶初心者向けダンジョンで、何と驚くほど早い段階でピンチに陥ったのである。
魔物そのものはそこまで強いところじゃないから苦戦はしなかったが、結構こまめに出没するし、のんびり会話に花を咲かせながら移動するような余裕まではなかった。
そんな中、リィズがまず魔法をぶちかました。一点突破型の、どちらかといえば単体相手に使うような魔法である。近くにいた魔物が二体ほど巻き添えを食らったので三体まとめて倒せたけれど、ジャネットが魔法を使えば他の魔物も倒せただろう。
シャーリーが矢を作り出し、手際よく魔物たちを射って仕留め、ディーンは魔物の苦手属性を把握していたので魔法剣を発動させて倒していた。
特に誰も怪我をしなかったため、ウェンドが魔法を使う機会はなかった。彼は手にしたメイスで手近な魔物を殴り倒していた。
序盤はまぁ、好調な出だしだったと思う。
初心者向けの五階層くらいの小さなダンジョンの、三階層目で魔力が尽きた。
大量に魔物が出た時にジャネットが魔法を使ってほとんど倒していたし、後はもう最下層でボスを倒してしまえば脱出は簡単だ。
ボスを倒した後は転移門が出現し、一瞬でダンジョンの外へ戻る事ができるのだから。
だがしかし、初心者向けであろうとも、ボス戦で舐めプすれば流石に危険なのは言うまでもない。
三階層目で魔力が尽きたとなれば、四階層と五階層はひたすら地道に攻撃しなければならないし、下手に魔物の攻撃を食らって回復魔法の世話になるわけにもいかない。そもそも魔力が尽きたので回復魔法も使えないのだが。
ダンジョンの中は気付けばポコポコ魔物が発生する場所なので、引き返せば安全というものでもない。
ここに来るまでに遭遇した魔物を全て倒したとして、その上で引き返したとしても帰りは普通に魔物に遭遇するし、下手をすれば行き以上に魔物と戦わなければならないなんて事もある。
しかも最悪な事に、ディーン達は初心者向けダンジョンだし攻略するだけならそう苦戦しないだろうととても高をくくっていた。まぁ確かに今までの彼らの実力を考えれば、苦戦はしないはずだったのだ。
故に傷薬だとかのアイテムは最低限しか持ってこなかったし、シャーリーもスキルで矢を生成すればいいかとほとんど矢を用意していなかった。魔力が尽きた場合を考えて武器屋で購入する事すらしていなかったのである。
さて、ディーン達のパーティメンバーをもう一度改めて確認してみると。
ディーン 前衛。魔法剣が使えなければただの剣士。
リィズ 後衛。 魔法が使えなければ攻撃力ほぼゼロのお荷物。
シャーリー 後衛。 矢がなければ役立たず。
ウェンド 中衛。 魔力がなければあとはメイスで敵を殴るくらいしかできない。
ジャネット 後衛。 魔力がなければどうしようもない。
今更すぎるがメンバーがとても偏っている。
ウェンドはヒーラーではあるが、案外がっしりとした体格で多少武術の心得もあるのでいざとなったら前衛も務められるが、それでも彼はヒーラーなので最悪彼が使い物にならなくなると回復手段がなくなってしまう。張り切って前衛に出られても困るのだ。
まぁ、魔力がないなら前衛で頑張ってもらった方がいいわけだが。
ジャネットが入る前はそこにケインがいた。ケインは荷物の運搬スキル持ちのどちらかといえば非戦闘員と言ってもいい扱いだったが、それでも魔力が馬鹿みたいにあったので敵を纏めて倒す事はできなくても、他の仲間たちが何も考えず魔力の無駄遣いをしていても何も問題はなかったのだ。
魔法使いであるリィズやジャネットも一応敵に接近された時用にナイフだとかの武器は持っているけれど、しかしあくまで一時的にしのぐのがやっとな護身用。武器を手に立ち回って魔物を倒せるか、というととても微妙である。
この時点でジャネットはえっ、ここでもう魔力切れたの!? 話が違う! と思ったしこんな事なら事前に鑑定スキルでパーティメンバーの魔力総量だけでも確認しておくべきだった……と後悔もした。
ディーンが誘ってきた時に、うちそれなりに魔力量多いからいけると思うぜ、なんて自信たっぷりに言うものだから、ジャネットが加入する前に既にある程度確認した上での発言だと思ってしまったのだ。
ところが実際はどうだ。
初心者向けダンジョンの半分くらいで早々に尽きた魔力。
馬鹿みたいに魔力を無駄遣いした、とは思っていないが、それにしたって……というものである。
一体何を根拠に魔力量が多いなんてディーンは言ったのだろうか。
もしかして数字とかわからないタイプの方? えっ、それがリーダーやってて大丈夫なの? とジャネットは流石に言ったら仲間割れになりそうだったので思うだけであったけれど、ここに入ったのは間違いだったな、と早々に後悔していたのである。
個人のステータスを読み取れる鑑定スキル持ちがいないので、どうしたってパーティを組んでからの共有魔力量しかわからないのが難点ではあるけれど、それでも全体の魔力総量は数値化されて大体これくらい、とわかるようにはなっているのだ。
ただ、仮に魔力総量が100あったとして、パーティメンバーが五人いたとして必ずしも一人当たり魔力が20あるわけではない、というだけの話で。
ディーンとしてもこんなはずでは……と焦っていた。
まさかこんな早くに魔力が尽きるとは思わなかったのだ。
確かにケインがいた時は魔力に困る事はなかった。
けれど、魔力と言うのは使えばそれなりに伸びるものでもある。最初にパーティを組んだ時に比べて魔力総量が上がっていたのは、てっきりディーンやリィズ、ウェンドあたりの魔力が増えたからだと思っていたのだ。
これならケインが抜けても充分やっていける、そう思っていたからこそ彼を追い出して、そうして更にダンジョン攻略に有利になるだろうジャネットを誘ったというのに。
初心者向けダンジョンで最下層に行く前に魔力が尽きるなんて、これでは本来行くつもりだったダンジョンに行ったとして、下手すりゃ最初の階層で魔力が尽きてもおかしくない。ここと同じように魔物がそれなりに出てくるところで、ここと違って魔物は強いのだ。
そうなればその分スキルを使うのは間違いないだろうし、そうなればあっという間に魔力は尽きる。
引き返すくらいなら先に進んで最下層のボスを倒した方が帰りは一瞬。
だからこそ、ディーン達はどうにかこうにか下を目指してボスの所へ辿り着いて、やっとの思いでボスを倒したのである。
魔力がないので通常攻撃のみでの攻略だ。
初心者向けのはずなのに、そのせいで無駄に苦戦したのは言うまでもなかった。
――結局のところ、その初心者向けダンジョンでの小手調べを終えた時点でジャネットはパーティから抜ける事を宣言した。
ロクに魔法も使えないところにいてもジャネットは役に立てないので。
魔法を使えない魔法使いの役割なんて最悪囮か肉盾である。冗談ではない。
事前に連携とか仲間の立ち回りを確認したいと言って初心者向けのダンジョンに行っておいて正解だった。
もし気にせずそのまま普通に本来行く予定のダンジョンに行っていたら、早々に逃げ帰る事になっていた。怪我をしているかどうかはその時の状況次第だが、下手すりゃ大怪我、最悪帰れずダンジョン内で死亡である。
私ではこちらのパーティでお役に立てそうにないので、と早々にジャネットは去る事を決めた。恐らく、他の冒険者もそうしただろう。
わざわざ死ぬ可能性の高いところに身を置く必要がない。
単体相手ならほぼ一撃で倒せる威力の魔法を使えるリィズと、広範囲の雑魚を一瞬で仕留められるジャネットがいればまずダンジョンは苦労しないと思っていたが、しかし肝心の魔力がなければ戦力的な意味で宝の持ち腐れである。
まさか初心者向けダンジョンでこんな苦労する事になるとは……と思った四名は、改めて鑑定スキルを持っている相手の所へ行ってパーティ全体の魔力総量を確認する事にした。
ケインを追い出す前の数値と今の数値で少なくともケインがどれだけ魔力を持っていたかはわかる。
その結果、ケインはパーティの魔力総量の実に九割を担っていたという事が判明した。
残りの一割が、他四名の魔力量。
ケインを追い出した直後に確認するべきだっただろう事ではあるのだが、彼を追い出す前に確認した時にパーティ組んだ時との差を見て、増えた分はケインではなく自分たちの方の魔力が成長したのだと信じ込んでしまっていた。実際リィズやウェンドは何度も魔法を使う事で、コツとでも言おうか。そういった何かを掴んだ気がしていたのだ。成長を実感していた。
そしてそれはシャーリーもである。
矢を作り出すまでに最初の頃は少しばかり時間がかかっていたが、今はすぐに作り出せるまでになっていたのだ。そういった部分も、自分たちの魔力量が増えたのだとか成長したのだと思える要因だったのかもしれない。
これは余談ではあるが。
個人でのステータスを判別できなくともパーティ全体の魔力量だとかがわかるのであれば、まず二人でパーティを組んで、それから一度わかれて他の者と組みなおしたりだとかしていけばそのうち個人のステータスはなんとなくわかるのではないか、という考えに行きつくだろう。
確かに実際それを思いついて、そうやって個人でのステータスを判定させようとした者もいる。
いる、のだが……
ゲームの中ならともかく、現実でそれをやられると鑑定スキル持ちが一生休めないのでこの世界では禁止されている。一人二人を判別させるだけならともかく、そうなれば我も我もとばかりに他の冒険者たちとて自分の今の大体のステータスを、となるのは当然の流れだ。
例えば世界に冒険者が百人もいない、とかであればまだ終わりが見えている。
しかし冒険者以外でもステータスがわかるなら知りたい者は大勢いるし、この世界にいる冒険者が百名ぽっちのわけもない。
しかももしかしてレベル――という概念があるかはさておき――が上がったような気がして再度鑑定してほしい、何てことになれば、本気で一生終わりが見えない。
故に、現在そういった個人のステータスを鑑別しようという試みは原則禁止されている。
だからこそ、ディーン達も少し前までのパーティで魔力のほとんどをケインが担っていたなんて、知りようがなかったのである。
パーティを組んだ当初はまだそこまでではなかったはずなので。
魔法を使っていたリィズたちより、魔力を共有させていただけのケインの魔力成長量があまりにもえぐい。
体力だとかは鍛えたら鍛えた分だけ何となく成長を実感できるものではあるが、魔力はそうもいかない。
今まで二回使えば限界だった魔法が三回使えるようになった、だとかであればわかるだろうけれど、仲間と共にいた時にそういった個人での成長を実感する機会はあまりない。
そしてパーティを組んだ時点で魔力共有は自動でなされ、個人の魔力量をチェックしたいのであれば一度パーティを抜ける必要がある。そうしてまたパーティに入るなら手続きをしないといけないとなると、手続きがそう難しいものでなくとも面倒である事に変わりはない。
魔力総量を確認して、こんなに増えたなんてきっと自分たちが成長したんだ、と思っていただけに。
今回の事実はショックでもあった。
技の使い方が洗練されてこようとも、魔力量が足りなければ使いどころは限られる。ここぞというタイミングを見計らって使わなければならない。だが、そうなるとダンジョン攻略はかなり慎重にしなければならなくなるし、魔物との戦いも一戦終えるのに今まで以上に時間がかかるだろう。
下手をすれば最奥へ辿り着く事すら難しくなる。
今まで余裕でクリアしていたダンジョンですら現状ではクリアも難しい、となれば。
ディーン達は現状を早急に打破する必要が出てくるわけで。
魔法スキルを持っていなくとも魔力量が多い者、というのはそれなりにいる。
なのでジャネットが抜けた分をそういった魔力量の多い者を入れてどうにかしようと試みたものの。
「えっ? いやぁ、僕戦闘には向かないんで……」
「あー、ちょーっと今そういう予定はなくて」
「あ、ごめん他からスカウトされてるから」
魔力量がそこそこあると言われている相手に勧誘のため声をかけても、やんわりと断られるばかりである。
既に組んでるパーティがあるだとか、抜ける予定はないだとか、今パーティに入っていない相手からも断られ続け、新しい仲間として入ってくれそうな者が一向に現れない。
これについてはディーンたちの自業自得である。
冒険者ギルドと併設されていた酒場でのケインとの別れ話は、周囲にいた冒険者たちの耳にも聞こえていた。人の出入りはそれなりにあるのが当たり前の冒険者とはいえ、流石にアレはない……と周囲でディーンたちのやりとりが聞こえていた冒険者たちは思ったし、彼らがいなくなった後で酒を飲んでる者たちはそれをここぞとばかりにネタにした。
人の噂というものはあっという間に流れるものである。悪い噂ならなおの事。
戦闘で役に立たない相手を蔑ろにするような態度をしてもいい、と思っているとディーン達は周囲に思われたのである。実際ケインに対する態度を見た者たちからすれば、否定してやる義理もない。
あぁいうところに入ると苦労するんだよな……なんてひそひそされて、それなりに魔力所有量が高いけれどあまり戦闘向きではない冒険者たちはディーンたちとそっと距離を置く事を決めた。ただそれだけの話だ。
仮に今、ディーン達のパーティに入ったとして、最初は歓迎されるだろう。けれどももし前に追い出したケインと比べて魔力が少なかったなら、それと比べられて文句をぶちぶち言われるかもしれないし、そうでなくともそういった相手に自分の魔力を何のありがたみもなく当たり前のように使われるのは気持ち的にちょっと……となる。
別に常に感謝して崇め奉れとは言わないが、それでもやはりある程度の感謝の気持ちは持ってほしい。
お前の魔力があったから沢山技も使えて助かったぜ、とか言われればまだしも、戦えないんだから魔力くらいは提供しろ、という態度の相手と助け合えるかという話だ。そういった相手と魔力共有とかしたいとは思えないし。
そうしてやんわりやんわり断られ続け、一向に新しい仲間が入らない事で。
最初に見切りをつけたのはシャーリーだった。
このままではいつになってもダンジョンへ行けやしない。それなら自分はここで抜けてどこか他のパーティに入れてもらおうと思う。
そう言ってさくっと抜けた。
シャーリーがいなくなったことで、他の戦力になりそうな相手も見つけなければならなくなったディーンたちだが、すぐに新しい仲間が見つかる事はなかった。
魔力量の多い相手を探していた時にそこらの冒険者に声をかけたものの断られ続けていたのを、他の冒険者たちも見知っている。ある程度戦えて魔力もそれなりに持ってる者もいたけれど、どこかのパーティに入れてもらおうと思っている冒険者でもディーン達のところは避けていた。
なんというかギスギスした空気とでもいおうか。そういったものが感じ取れるのだ。
そんなところに身を置きたいか、と問われれば流石にちょっととなるのは言うまでもない。
一向に新しい仲間が見つからないまま更に数日が経過して、次に抜けたのはウェンドだった。
リーダーとサブリーダーだけが残ったものの、やはり仲間になってくれる相手は見つからない。何も知らない新米冒険者なら引っかかるかと思ったが、周囲の先輩冒険者たちにそれとなく事の次第を伝えられているからか、本当に誰一人として仲間に入る気配がないのである。
ここまでくれば冒険者としては致命的だろう。
一人で活動できるだけの実力があるでもない、仲間もいないとなれば冒険者としてやっていくのはほぼ無理だ。
一向に仲間が増える様子もなく、ディーンとリィズもこの頃にはすっかり心の余裕を失って喧嘩ばかりであったし、その結果お互い言い合う形でパーティは解散されてしまった。
冒険者としてやっていけなくとも、仕事というのは選ばなければそれなりにある。ただ、己の能力に見合ったものでなければ選ばず働いたとしても結果が出せないために、やはり相応に選ぶ必要は出てくるわけだ。
リィズの魔法は一点突破型であるが故に、魔物が多く出没するところでは密集していない限りほぼ各個撃破になってしまうが、纏めて倒そうだとか、強敵を一撃で仕留めようだとか、そういうのを考えなければ使い道はそれなりにあった。
冒険者としてどうにか他のパーティに入れてもらえないかと交渉していたリィズであったが、結局流れ流れて最終的に鉱山で手強い岩盤を壊す仕事に就く事になった。
屈強な鉱夫たちに囲まれて、もしかして貞操の危機に陥ったりするんじゃぁ……なんて不安を抱いていたが鉱夫たちのほとんどは妻子持ちであり、浮気などするわけないだろ、という紳士でありリィズに対して不埒な真似などしなかった。そういう意味ではとても安心安全な職場である。
だがしかし、リィズとしてはそれはそれで面白くないのである。
近くに若くて美人な女がいるのに手を出さない……ですって……!? という気分で一杯だった。
手を出されたらそれはそれで困るのだけれど、女として見られていないのも不満。そんななんともめんどくさいメンタルでもって日々仕事に励むのだった。
仕事仲間はほぼ既婚者なので、新たな出会いも期待できそうにない。知り合い経由で誰か紹介される可能性もあるけれど、だが今の時点でのリィズにはそんな話ちらっとも出てこないのであった。
ウェンドは最終的に魔物が多く出没する村の自警団になった。
彼自身はそこまで悪評があったわけではない。ただ、ディーン達のパーティにいてなおかつ若干の強面であったが故に、そしてそのがっしりとした体格は少々威圧感があったがために。
ふわっとしか噂を知らないパーティはウェンドに対して余計な誤解を生じさせていたのである。
確かにケインを追放する事に反対はしなかったが、率先して追い出すつもりもなかった。とはいえそんなの今更である。
事実と誤解が入り混じって他のパーティに入れてもらおうにも中々受け入れ先が見つからず、ともあれ食い扶持を稼がにゃならんと選り好みをしている場合ではないと判断した結果、村での自警団である。
冒険者だった時と比べると稼ぎは低いが仲間と組んでダンジョンに行けないのではどうにもならない。
現実を受け入れてはいるけれど、それでもくすぶった日々を過ごすのであった。
シャーリーは真っ先に抜けて要領よく他のパーティに入れてもらう事に成功したが、結局そこからも早々にうちではちょっと……とお断りされいくつかのパーティを転々とする事となる。
ケインがいた時、シャーリーには知らぬ間に悪癖とでもいうべきものが染みついてしまっていたのである。
即ち、生成矢に頼り切った戦い。
本来の弓使いは自分で矢を作ったり、はたまた武器屋で調達する。矢そのものは消耗品なので戦闘終了後に使えそうなやつは魔物の死体から引っこ抜いて再利用したり、外したやつを回収したりしないといけない。
そういう意味では手間がかかるのだけれど、生成矢で作った矢は魔力具現化によるものなので、外れたとしてもすぐに消えるし魔物に突き刺さったものも一定時間が経過すれば自動で消滅する。
長時間その場に残るような矢を作ればその分魔力消費も大きくなるが、基本は使ったら早めに消えるようにしてあったのだ。
だから戦闘が終わるたびにいちいち矢を回収する必要もないし、魔力さえあればいくらでも矢は補充し放題。
だがそれは、あくまでもケインという魔力タンクがいたからできた事だという事実をシャーリーはいつの間にか忘れてしまっていたのだ。
ダンジョンへ行くにしても矢の用意もロクにしない弓使い。
いざ戦闘になれば遠慮なく矢を生成する弓使い。
これに、シャーリーを仲間入りさせたパーティの者たちはいい顔をしなかった。
魔力は共有されて全体で使うものだ。
ある程度、パーティごとに特色がある、とでもいおうか。
回復魔法を使う事を見越して魔力は温存しておくだとか、使うにしてもリーダーの指示に従うだとか。
けれどもシャーリーはそんなのお構いなしとばかりに勝手に矢を生成して攻撃する。
そのせいで肝心な時に使いたい魔法が使えない、という事が何度かあればリーダーから注意もされる。
シャーリーも最初はその注意を聞き入れていたので立て続けに同じ過ちは繰り返さなかったが、そうなると矢は自分で用意しなければならなくなる。けれども今までそうしてこなかったのが普通であり当たり前であったシャーリーは自分で矢を作る事に不慣れであったし、はたまた武器屋で購入するにしても基本は自腹だ。
パーティ全体の軍資金から出してもらえればそれなりにいい矢を買えただろうけれど、自分の所持金からとなると……とシャーリーは惜しんだ。結果としてほぼ初心者が練習する時に使うような、量だけはそれなりにあるが威力としては大した事のない矢を購入し、そのままダンジョンへとなれば。
魔物への攻撃がロクに通らないなんて事は言うまでもなかった。
いくらシャーリーの弓の腕前がよくとも、魔物の耐久性を考えれば初心者が練習で使うような矢などほぼ刺さらないで弾かれる。
それに対してやはり仲間は苦言を呈した。
だったらスキルで作った矢で攻撃した方が確実なんだけど、とシャーリーも反論した。
結果として。
仲間の意思を無視して勝手に矢を生成しまくる挙句、自分の武器すらマトモに用意できない弓使いに早々に愛想が尽きるのは言うまでもなく。
シャーリーはパーティから離脱を求められ、そうやって何度か他のパーティに入り込んではいたものの。
結局生成矢に頼る事をして同じようなトラブルを何度か起こし、そうしていくうちに噂が広まりどこもシャーリーを引き入れる事はしなくなったのである。
確かにシャーリーは強いのだけれど、だからって勝手な事をさせるのをよしとしたままでは、いつか強敵と戦う事になった時、肝心な時に使いたい魔法が使えないなんて事もあり得る。それは最終的に自分たちの命を危険にさらす事になりかねない。
シャーリーが徐々に遠巻きにされるのは、そういう意味では当然の流れであったのだ。
そして誰からも仲間に入れてもらえなくなったシャーリーは結局故郷へ帰る事となった。
シャーリーの故郷は田舎で、シャーリーはそんな田舎が嫌いだった。自分はこんな所にいるべき人間ではないと思っていたし、いつか都会に出てぱあっと花を咲かせてみせようと思っていた。
もう二度と帰ってくるもんか、と思っていた故郷。
結局そこに帰るしかなくなったシャーリーの未来はお世辞にも明るいとは言えなかった。
ディーンもまた似たような理由で他の冒険者パーティから遠巻きにされるようになっていた。
こちらは魔法剣なので、そこまで無節操に矢を大量生成するだとかそういう事はしていないが、しかしディーンは他のパーティに入れてもらっておきながら、そこのリーダーより自分が統率した方が彼らを活かせると勝手に判断し、そうして仲間たちに指示を下すようになった。
リーダーからすれば「はぁ!?」である。
なんでお前が仕切っているんだ、となるのは当然だろう。
例えばどうしようもない状況に陥ってピンチで頭が回っていない時にディーンがこの場を切り抜けるためにあえて指示を出した、とかそういうのであればリーダーも受け入れただろう。
けれども別にディーンの指示など必要としていない状況下で、上手く現場を回している中でそんな事をされても……となるだけだ。
前のパーティではリーダーだったかもしれないが、今のディーンはここでは新入り。新参である。
それがいきなりリーダー面をすれば、まぁ言うまでもないが反感を買った。
人様のパーティ乗っ取りに来たんならお前はここに入れておけない、と早々にそこのリーダーはディーンとの関係を切る事にした。
他の仲間たちも同様だった。実力はあるのかもしれない。
けれども、信頼だとか信用だとか、そういったものがないのにいきなりリーダーのように振舞われて自分に従え、と言われたところで誰がついていくのかという話だ。
これがディーンのパーティに自分たちが入れてもらった、というのであれば勿論彼がリーダーであったわけだし、その場合なら指示に従う事も問題はなかっただろう。けれども実際は違うのである。
正直余計な混乱しか生まないし、そのせいでパーティ全体が危険な目に遭うかもしれないとなればディーンという不穏分子をいつまでも置いておくわけにもいかない。
リーダーからやってみろ、とか言われて指示を出したならともかくそうではないのだ。
そこのパーティからしても、新入りがいきなり偉そうに指示出して従えるかという話である。
そうする事が最適解である、というのならともかくそうではなかった。
そのために、ディーンはパーティから追放された。それだけの話だ。
結局他に組んでくれそうな仲間を見つけられないまま、彼もまたウェンドとは別の町で自警団に所属する事となる。
ディーンはぼんやりと物思いにふける。一体どこで間違えたのだろうかと。
ケインを追い出さずあのままダンジョンへ行けば、魔物の数の多さに苦労はしたかもしれないがそれでもどうにか切り抜けられたかもしれない。そうしてそのままであったなら。
今頃はきっとダンジョンで色んなお宝を発見して、もっと裕福な生活ができていたに違いないのだ。
だが実際はどうだ。
ダンジョンに行く事など到底できない現状。
同じ自警団とはパーティを組んだ扱いだが、勝手にダンジョンへ行く事などできるはずもない。
そもそも魔力共有ができているからといって、一人でダンジョンへ行っても攻略できそうなダンジョンはたかが知れている。
しかも途中でパーティから抜けるような手続きをされたら完全に詰みだ。自分の魔力量がこれっぽっちも成長していなかったというのは、ケインが抜けた後の仲間たちの魔力総量から何となく理解するしかなかった。
ディーンは自分の魔力だけで魔法剣を発動させるとなると、一度だけが限界である。
つまり、他の属性が弱点の魔物が出てきても切り替える事もできず、また一度しか使えないので最初に使った属性だけで乗り切らなければならない。
どう足掻いても無謀であった。
「あいつ、今頃何してっかな……」
自分が追い出したも同然なケインの事を思い返す。
確かにケインは戦闘向きではなかったけれど。
でも今思い返せばそこまで足を引っ張ってたわけじゃない。邪魔にならないように立ち回っていたし、彼の魔力によって自分たちは活躍できていた。
縁の下の力持ち。
まさしくそれだった。
そしてそんなケインをいつの間にやら軽んじて、そうして追い出した結果が今だ。
無駄に澄み渡る空を見上げて、もしいつか、偶然でも出会える事ができたなら。
その時は謝って……それから、もう一度仲間になってくれないか、なんて。
そう思ったところでケインが今どこで何をしているかなど知りようもない。
そんな都合の良い展開、きっとないだろうなとディーンは自嘲して、やりがいがあるとも思っていない警備の仕事に励むのである。
ちなみに。
ケインはここから二つ隣の町に住んでいるのだが、ディーンがそれを知る事は当面ないと言ってもいい。ディーンの仕事が行商人の護衛だとかであれば可能性はあったけれど、自警団であるならばここから出る事は仕事を辞める時くらいのものだ。
だからこそ、ディーンは知らない。
ケインが自分以上の魔力タンクと一緒に貴族のお嬢様のところでそれなりにいい暮らしをしていることを。
世間は案外狭い。
ケインを仲間から外さないでシャーリーを外してジャネットを入れてたら多分本来目的としてたダンジョン攻略もスムーズだったけど、ディーンはかわゆい女の子のシャーリーを選びました。戦えない野郎と戦える女の子なら女の子一択という思考回路。
ケインも戦えるなら少しは悩んでくれたかもしれない。
仮に事前に仲間と相談してどっちが抜けるかを話し合ったとしても、シャーリーは自分がそうなるとは思ってもいないタイプなので、どっちにしてもケインが出ていく可能性はどのルートでも高確率で存在している。
明らかに誰が悪いとかでもなく、ただ単に相性とかそういうのがじんわりと合わなかったのかもしれない。