去らないの?
水辺を行く。小鳥は髪留めに、家は手許に。小雨の音が長く止み、歩み続けるなか、机を落とす足がここまで届く。黒髪のゆれぬなか、湖鳥が浜に着く。
朝だ。お父さんが湯気に立つ。おまんじゅうを切っている音がする。髪がはらり落ちた。父は笑うことを行い、手記に文字を書く。散歩はきり雨のなかを行く。私達のすそをふみ、眠鳥を写す。
雪が降り始める頃、父は窓を閉める。入らないように? と訊くとふふふと目を閉じる。雲間の様に、目を閉じる。
恋をしたのだ。父の手記には書いてあった。いつのものかはわからない。お父さんは黄色い紙を使う。ゆえに雪が降ると新雪の様で、私には春の恋なのだと思った。
口べにをつけ、長衣を袖に通す。時盤に私の顔がかくれ、耳にふで箱が載る。雪は夏だ。夏に降る。その後に冬が来る。帽子をかぶる。
ある方の小説を読みました。
現実とはこうで、非なるものが確かにあるのだと、こうあれるのだと。
こうあれるのだと。