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261.626Hz 古いポータブルラジオ

 ポテトチップスをかじりつつ、ビールを飲む。これが私の幸せだ。

 こんなことを思う女子大生って、どうなのだろうかと考えるのは負けだ。そう思いつつ、私は残ったビールを一気飲みした後、追加のビールを冷蔵庫から取ってきた。

「それじゃあ、ここから本格的にホラーナイトのスタートってことで、皆さんからもらったメールを紹介します。そうですね……まずは、常連のd¥さんからもらったメールを紹介します」

 さっきもそうだけど、純はコメントをくれる常連のメールを優先して読んでくれるようだ。そう思いつつ、私はキーボードを叩いた。


●: d¥の話キタ――(゜∀゜)――!!

●<マナミ>: d¥さんの話、何だか怖そうですね……

●: 本当に寝られなくなりそうなので、自分と添い寝してくれる方、永久に募集中です

●<d¥>: 緊張しますけど、聞いてくださると嬉しいです。


 常連の<d¥>は、常に謙虚な感じで、他のリスナーから慕われているが、自称女子大生という情報しかなく、ミステリアスな感じなので、私も惹かれている。

 そんな<d¥>がどんな話を送ったのか、私は楽しみだった。

「ラジオというと、今ではインターネットを利用したラジオが中心になっています。しかし、そうしたデジタル化が進む前、ラジオにまつわる怪談が多く語られていたことは、ご存知ですか? 例えば、定期的に放送されていたラジオで、CMに入る際に流れるBGMと音声――ジングルと呼ばれるものに、パーソナリティの不可解な笑い声が入っていた。あるホラー映画のCMで、ラジオCMにだけ、『殺す』という不可解な声が入っていた。これらは有名な話なので、知っている方も多いと思います」

 私はホラー好きなので、そんな話があるのは知っているし、実際の音声を聞いたこともある。

「こうしたことは、デジタル化が進むにつれ、なくなっていったと考える方も多いですが、そんなことはありません。インターネットを利用したラジオ、あるいは配信という形に移っただけで、今も不可解な現象自体は様々なところで発生しています。しかし、最近は個人が配信できるようになり、聞く人が分散したため、噂になりにくくなっているだけです。そのため、知らない人が多いだけで、実際は変な声が入ったり、ノイズが走ったり、そんな現象は以前よりも多く起こっています」

 それも既に知っている話というか、実際にそんな配信を見たことがある。それは、純が今やっているホラーナイトのようなものだったけど、そこではリスナーと通話を繋いで、リスナーに話をしてもらう形だった。ただ、配信が進むにつれ、通話を繋いだ時や切った時、「ガー」といったノイズが走ったかと思うと、変な声まで聞こえるようになり、配信者もリスナーも怖がっていた。というのも、それが怪現象だったとして、配信者だけでなく、リスナーも含めて、誰にどんな影響が出るか一切わからなかったからだ。しかも後日談として、配信者が軽傷だったものの交通事故にあったり、リスナーで体調を崩す人が出たりしたから、何か関係があるんじゃないかと私も思った。

 とはいえ、私には何もなく、今も元気に過ごしているし、実際のところはわからないままだ。ただ、単なる偶然とも思えないし、何かしらか関係しているんじゃないかとは今でも思っている。

「そんな話をしたところですが、今回の本題は古いポータブルラジオに関する話です」

 実体験と重ねて、そんなことあるなと共感していたのに、急に話が変わって、私は少しだけ戸惑った。

「これは私の実体験で、ある日、部屋を掃除していた際に古いポータブルラジオを見つけました。これは誰かにもらったのか、何かの景品だったのか、手に入れた経緯もよく覚えていませんでしたが、懐かしいと思いつつ、電源を入れてみました。しかし、ノイズ音が鳴るだけで、ダイヤルで周波数を合わせようと試みても、それは改善されませんでした。そのため、諦めかけた時、一瞬だけ人の声が聞こえたんです」

 このメールを送った<d¥>は、配信や動画投稿などをしていない、純粋なリスナーなので、声などはわからない。それなのに、何だか<d¥>が話していると錯覚しそうになりつつ、私は耳を傾けた。

「それで、ダイヤルを微調整したところ、はっきりと男性の声が聞こえてきました。それは素人が無線か何かを使って発信しているのか、本人も聞いている人がいるかどうかわからないまま、ただ適当に話をしているようでした。私は久しぶりに見つけたポータブルラジオから音声が聞こえたことに喜び、その男性の話を何となく聞き続けていました」


●: ドキドキ(;´Д`)

●: 昔のラジオって、トラックの無線を拾うことがあると聞きましたけど、今もそうなんですかね?

●: アマチュア無線って呼ばれるものは今もあるんじゃないかなー?


 そんなコメントがあったため、アマチュア無線というものを検索してみたけど、専門用語が多く、何が書かれているのか全然わからなかった。

「そうして聞いていると、不意に『この声、聞こえる?』と、問いかけるような言葉が聞こえました。私は何でそんなことを言ったのかと思いながら、『聞こえています』と冗談半分で答えました。すると、『聞いてくれて良かった』という言葉が返事をするように聞こえ、そのまま無音になりました」

 聞いていて、その時のことを想像すると、さすがに寒気がした。

「私は驚きつつ、何の音も聞こえなくなったので、またラジオのダイヤルを回しました。しかし、音は止まったままでした。そこでふと、私は気付いてしまったんです。ポータブルラジオの裏を見た時、電池ケースの蓋が目に入りました。しかし、その部分に電池が入っているような重さを感じなかったんです」


●: え?

●: いや、まさかね……


 既にコメントでも気付いた人がいるようだけど、私は結末を察した。

「蓋を開けると、そこに電池は入っていませんでした。当然、バッテリーのように充電できる機能もないため、私の聞いた声や、電源を入れた時に聞こえたノイズ音はいったい何だったのか。今もわからないままです。……以上です」


●<d¥>: 聞いてくださり、ありがとうございました

●<マナミ>: 怖いですって!

●: ((((;゜Д゜))))ガクブル

●: d¥さんも、話す純さんも本気出し過ぎで、離脱したいです……

●: 添い寝してくれる方、まだ募集中ですよ


 普通に寒くなってきて、私は先ほどつけたエアコンを切った。

「d¥さんは知らないのかもしれないけど、実は今でも古いラジオって使えるそうです。地デジに移行する時、何か聞こえなくなる音声があるとかそんな話を見かけつつ、私はラジオを聞かないから気にしなかったけど、普通に古いラジオが使えなくなるという話じゃなくて、地デジに移行した音声が聞こえなくなるとか、そんな話だったそうです。私も、だ……知り合いに聞いただけなので、詳しいことはわからないんですけど」

 私も、この辺りの話はちんぷんかんぷんだ。そのため、コメントに期待した。


●: 多分、アナログ放送時のテレビ音声を聞けたのが、地デジになって聞けなくなったとかじゃないかな?

●: 自分は運転中、普通に今でもラジオを聞いていますけど、何でなのかはわからないです


 しかし、コメントも私や純と同じ程度の知識しかないようで、期待するだけ無駄だった。

「とにかく、電池の入っていないラジオから声が聞こえる。しかも、声が聞こえるか質問されて、それに答えると返事がきたというのも怖いですね。メールを読んだ時から、私はゾクッとしたけど、皆さんはどうでしたか?」

 そんな純の質問に答えるように、私はキーボードを叩いた。


●: 普通に怖すぎ

●<マナミ>: 寒気がして、エアコン切っちゃいました

●: 誰か、自分を体で温めてくれる人いませんか?

●: (||゜Д゜)コワーイ

●<d¥>: 皆さん、感想ありがとうございます。


 ホラーナイトをやると聞いても、純が話すとなれば、そこまで怖くならないと思っていたけど、普通にゾクッとする話が二つ続いて、油断しなければ良かったと後悔した。

「そうですよね。でも、メールはたくさん来ていますからね。まだまだ続きますよ!」

 純がそう言ったため、私はまた怖い話が来るかもしれないと、少しずつ警戒することにした。

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